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父、壁に当たる

「よしよし、実にいい調子だな」


「ぬぅ…………」


「ハァ…………」


 上機嫌で穴を掘り続けるバンと、それを羨ましそうに見つめるニックと、そんな二人を生暖かい視線で見守るモンディ。そんな一行が赤子が這うほどの速度で進んでいくこと、おおよそ三〇〇メートル。不意にバンの手に固い感触と共に衝撃が走り、その場で一歩後ずさってしまった。


「おっと、遂に何かにぶつかったかな?」


 魔法道具を停止したバンが、目の前の土壁を手で払う。するとその向こうから先程までいた遺跡と同じ材質の石壁がすぐに姿を現した。


「やっぱりだ。掘り進んだ時間からして反対側の壁ってことはないだろうから、予想通り壁内の中央には何かあったということか」


「そうみたいね。で、どうするの? この壁も壊すの?」


 後ろからバンの頭越しに壁を見たモンディが、そのままバンに問い掛ける。だがバンは大きく首を横に振ると、壁に手を当て体を横に向ける。


「いや、それは最後の手段だよ。とりあえず私はこのまま壁沿いの土を掘っていくから、君たちは今回も壁に隠し扉の類いが無いかを調べてみてくれるかい?」


「ん? 壁を破らねばここに来られなかったのだから、こちらもやはり入り口の類いは無いのではないか?」


「それは早計だよニック君。確かにさっきの場所からはここに通じる通路は無いようだったけど、ひょっとしたら外から上、もしくは下に迂回できるような通路があって、そっちからここに繋がっている可能性だってあるだろう? 全体が完全に露出している遺跡ならともかく、ここまで完全に土で埋まってしまっている遺跡となれば未知の通路があったかもと常に想定しておくべきなんだ」


「なるほど、見えるところが全てではないということか。確かにそうだな」


 専門家であるバンの指摘に、ニックは深く納得する。その後はバンの指示通りバンが壁の周囲の土を掘っていき、その後を着いていくようにニックとモンディは新たに露出した壁をつぶさに調べていくことにする。


 掘削速度の問題からその作業もまた三日ほどかかったが、どうにか内側にある何かの外周を綺麗に掘り抜き、調べ尽くした結果……判明したのは、やはりこちらにも入り口の類いは存在しないということだった。


「ぬぅ、これだけ時間と手間をかけて、何もないことがわかっただけか……」


「ははは、遺跡の調査というのはそういうものだよ。それにこれでも相当に早い方だよ? あの穴掘り用魔法道具のおかげでね」


「そうね。最初はどうかと思ったけど、実際あれがなかったら普通に何ヶ月もかかる調査だったでしょうし……バンったら、いい買い物したじゃない」


「だろう? 私の備えは常に万全だってことさ!」


 モンディに普通に褒められ、バンが得意げに胸を反らす。だが次の瞬間にはその表情が渋いものへと変わる。


「しかし、こうなるとやはりこの壁も壊さないと駄目か……本当なら上や下も全部掘ってみたいところだけど、流石にそれは今の装備では無理だしね」


 アツメル・アースによる穴の補強は、あくまでも補助的なものだ。人一人が通れる程度の穴だからこそ十分な強度が保てているだけで、もっと広い空間を掘るとなれば当然これでは支えきれないし、ましてや下側を掘ったりすれば上に乗っている遺跡の重さに耐えきれず崩落するのは目に見えている。


「ならばまた儂が壁を壊すか?」


「そうだね。ただその前に、先に調査棒で壁の向こうを少し調べておこう。中に何があるのかわからないから、少しでも情報を得ておきたい。


 ということで、これからこの壁に小さな穴を開けるから、二人は少し離れていてくれ。有毒な水や空気が吹き出してくる可能性もあるからね」


「わかった」


「気をつけてね、バン」


 その言葉に従い、ニックとモンディがバンから少し離れる。それを確認したバンも口の部分に防毒の魔法が付与された布をきつく巻き付けてから、地質調査棒を壁に押し当てゆっくりとハンドルを回していく。すると螺旋を描く先端が少しずつ壁の中にめり込んでいくが……


「……ん?」


 五〇センチほど入ったところで、ハンドルを回す手応えが変わる。どうにも空回りするような感触に調査棒を引き抜いて穴の中をランタンで照らして覗き込んでみると、穿った穴の奥深くにかすかに金属の輝きのようなものが見える。


「これは……!?」


「どうしたのだバン殿?」


「ああ、どうやらこの壁の奥は、何らかの金属で補強されているみたいなんだ」


「金属壁!? 嘘でしょ!?」


 バンの言葉に、モンディが驚きの声をあげる。金属で建物の壁を作るというのは技術的な意味では可能だが、それが実行されることは現代においてすらない。作る手間もかかる費用もとんでもないことになる割には、そこまでの効果が無いからだ。


 当然だろう。石と金属の違いと言えば当然ながらその堅牢性だが、分厚い石壁を貫く程の攻撃を薄い金属板一枚で防げるはずもないし、逆に石壁と同じ厚さの金属壁など作るのも運ぶのも莫大な手間がかかって現実的ではない。


 おまけに窓やら暖炉やらがあれば壁だけ総金属で作ったところであまり意味はなく、余人が立ち入らず換気や採光を考えない宝物庫のような場所を作る時ならギリギリ考慮に値する……くらいなのが、金属壁という奴なのである。


「とりあえず、他の場所も調べてみよう。ひょっとしたらこの向こうだけが特別な部屋で、他の場所は普通に石壁のみということもあるだろうからね」


「そうね。やってみましょう」


 今回もまた慎重に検証を重ねようとするバンの言葉にモンディが追従し、壁の周囲を回りながら幾つもの場所に穴を穿っていく。だが何処を調べても同じ深さで調査棒が空回りし、その結果出した結論は「石壁の内側は全て金属壁に覆われている」というものとなった。


「一辺三〇〇メートル四方の壁全部に金属を使ってるなんて……」


「常識では考えづらいけど、そうするだけの何かがこの向こうにあるってことなんだろうね……


 ねえニック君。悪いんだけど、表面の石壁だけを削り落とすことってできるかい? はっきりと露出させて、壁に使われている金属を調べてみたいんだ」


「うむ、できるぞ」


 バンの頼みに軽い調子で頷き、ニックが石壁に指を突き刺しまるで焼き菓子のようにボロボロと砕いて剥がしていく。その様子はそれだけで驚愕に値するものだったが、バン達の視線は崩れた石壁の奥に露出した金属の壁に釘付けだ。


「これ、は…………ははは、まさかそんな…………」


「嘘でしょ!? まさかこれって……!?」


 乾いた笑い声をあげるバンに、モンディが叫ぶような勢いで問い掛ける。露出した黒く輝く金属は、バンが愛用している短槍と同じ材質にしか見えない。


魔鋼(アダマンティア)……」


「あり得ない! まさかこの内側の遺跡の外周全部に、魔鋼(アダマンティア)の壁が張り巡らされているって言うの!?」


 魔鋼(アダマンティア)、それは世界で最も硬い金属であり、産出される量は世界中でもごく僅かで、加工にも極めて高い技術が必要になる。それがこれほど莫大な量使われている遺跡など、世界中の何処を探しても存在しない。


「何なの!? 何千年も前にこんな物が作れるなら……いえ、現代だってこれだけのものが用意できるなら、世界に名だたる超大国になってるはずよ!?


 ねえバン、この遺跡って何なの!? 本当にヒャッコイナ文明から逃げ出した人達が作ったものなの!?」


「ははは……そのはずなんだけど。自分の立てた仮説がこれほどまでに信じられなくなったのは、私としても生まれて初めてだよ」


「ふーむ。歴史のことはよくわからんが、その答えは……」


「ああ、この向こうにあるんだろうね」


 バンの言葉に、三人の視線が冷たい金属壁の向こうに向かう。それを受け止める「世界最硬の壁」は、ランタンの光を反射し静かに怪しく輝いていた。

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