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父、勘違いされる

「ほほぅ、ここがパーリーピーポーか!」


 それなりに長い旅路の果てに、ニックは遂にイッケメーン王国の王都たるパーリーピーポーに辿り着いた。門をくぐって町中を見渡せば、王都に相応しい活気溢れる景色が眼前に広がっている。


『流石の人だかりだな。だが……ふむ? 随分と若い男女が多いな』


「む?」


 オーゼンの指摘に改めて周囲を見てみると、確かに町中を闊歩する人々のうち、一〇代二〇代と思われる若者の比率が異常に高い。華やかな町並みに合ってはいるが、他の町では考えられないことでもある。


「言われてみればそうだな。何か理由が……」


「おーじさん!」


 と、そんなニックに不意に一人の女性が声をかけてきた。赤い髪を肩口辺りで切りそろえた一〇代と思わしきその女性が、屈託の無い笑顔をニックの顔にグイッと近づけてくる。


「ぬおっ、何だ!?」


「ねーねー、おじさん! おじさんってすっごい装備だけど、ひょっとしてお金持ちの冒険者? だったら私と遊ばなーい?」


「いや、すまんが儂は今町に着いたばかりでな。まずは腰を落ち着けるところを探したいのだ」


「そっか、ざんねーん! じゃ、また今度ねー!」


 特に食い下がるわけでもなく、その女性は軽く手を振りながらその場を歩き去って行く。その後ろ姿を見送ったニックは、微妙な気持ちで軽く首を傾げていた。


『何だ今のは?』


「さあなぁ。見たところ客引きという感じでもなかったし……」


 話した内容だけであれば、客引きの娼婦のそれだ。だが昼日中に大通りで客引きをするとは流石に思えないし、何より声をかけてきた女性には娼婦特有の空気がなかった。そうなると言葉通りに「遊び相手」を求めていたのかも知れないが、ニックにはその感覚がよくわからない。


 その後も数度声をかけられつつも、その全てを断りニックは適当な宿に辿り着く。そうして店主の男性にその話をすると、男性は苦笑いを浮かべてニックに答えを教えてくれた。


「ははは、お客さん東区から町に入ったんだね? 町の東はそういう『気軽な出会い』を求める人達が集まるんだよ。基本的には若い子が多いけど、そういう子を目当てにする年配の人もいるから、お金を持ってそうな格好をしていれば声をかけられるだろうねぇ。あそこは王子様とかも来るらしいし」


「ぬぅ、そういうことだったのか」


 そう説明を聞けば、ニックは渋い顔で納得する。所謂「火遊び」を好む貴族や豪商などは別に珍しくもなんともないため、自分もその類いと思われたのは些か心外ではあったが、楽しみを奪わないためにあえて町の情報を積極的に仕入れなかったツケだと思えば割り切るしかない。


「ちなみにだけど、もっと大人との落ち着いた出会いを求めるなら西区、お金で解決できる関係を求めるなら北区だね。普通の冒険者だって言うなら南区なら他の町とさほど変わらないと思うよ」


「おお、そんな棲み分けが……む? この町は娯楽の他に芸術にも力を入れていると聞いたのだが、その手の施設は何処に在るのだろうか?」


「ああ、そういうのはお城のある中央区だね。ほら、芸術品って基本的に高いだろう? 流石にそういうのを下町にはおけないみたいだからね。もうすぐやる競売もそっちだよ」


「競売?」


 予想しなかった言葉を聞いて、ニックが思わず問い返す。すると店主はやや不思議そうな顔をしながらも説明を続けてくれた。


「あれ、知らないのかい? 確か一週間後くらいから、この町で大規模な競売が行われるんだよ。出品される品物はそれこそ芸術品から魔法道具まで色々で、これを目当てに色んな国から人が集まってきてるんだ。


 そんないい装備をしてて遊ぶのが目的じゃないなら、てっきりそっちだと思ったんだけど……」


「いや、初めて聞いた。だがそれは何とも楽しそうだ……儂でも見たり参加したりはできるのだろうか?」


「うーん、どうだろう? 競売を取り仕切ってるのは商業ギルドだから、そっちの人に話を聞いてみないとわからないねぇ」


「それもそうか。いや、実にいい情報だった。ありがとう」


「なんのなんの。それじゃごゆっくり」


 ニックが感謝の言葉を述べると、店主の男は笑顔でそう答えて店の奥へと消えていく。その後はあてがわれた部屋へと入って一息つくと、徐に腰の鞄から相棒が声をかけてきた。


『相変わらず何事もなしでは進めぬ男だな、貴様は』


「むぅ、仕方ないではないか! しかし競売か……これは是非とも参加したいな」


『確かに楽しそうな催しではあるな。それに中央区か……例のネーブル美術館とやらもそこにあるのだろうな』


「だな。どちらにせよ中央区へ行くのは確定として……どうする? とりあえずもっと町を回ってみるか?」


『ふむ。せっかくこれほど大きな町に来たのに、全て無視して中央だけを見るというのも勿体ないな。貴様がいいのならば我としては見てみたいところだが……』


「よし、ならば明日からは色々と町を回ってみるか。だが……ふむ」


 そこで一旦言葉を切ると、ニックは改めて我が身を見直す。メーショウに鍛えられた鎧にしろ腰に下げた魔剣にしろ、確かに店主の言う通りあからさまに高級品だ。


「東区に行く場合は、この装備は外していくべきだろうか?」


『それは何とも言えんな。冴えない中年男と下に見られては面倒な輩に絡まれる可能性もあるし、逆もまた然りだ。ならば変に偽るよりもありのままの貴様でよいのではないか? 実際金は持っているのだしな』


「まあ、うむ。それもそうか」


 地味な服を纏ったところで結局町に出れば金は使うのだし、であればみすぼらしい男が大金を持っていると思われるよりも、強い冒険者がそれに見合う金を持っていると思われる方が問題は少ない気がする。


「では、明日からはそうすることにして、さしあたって今日は商業ギルドとやらに顔を出して競売のことを聞いてくるか」


『うむ』


 そうと決まれば早速とばかりに宿を出たニックは、その足で商業ギルドへと出向く。流石に王城があるだけあって中央区に入る道には更なる門があったが、ギルドカードを提示したところごく普通に通れたため、犯罪者でもなければ通行自体に制限はかからないようだ。


 そうして何事も無く辿り着いた商業ギルドの受付で、座っていた女性がニックににこやかに対応してくれる。


「いらっしゃいませ。当ギルドにどのようなご用件でしょうか?」


「うむ。実は一週間後? に行われる競売に参加したいのだが、どうすればいいかと思ってな」


「競売への参加希望ですね。出品ですか? それとも買い付けへの参加でしょうか?」


「出品! そうか、儂が品物を出すこともできるのか……」


 新たな事実に気づいたことで、ニックがその場で考え込む。魔法の鞄(ストレージバッグ)の中にそれなりの枚数の金貨は入っているが、競売となると資金は大量にあった方がいい。特に使う予定がなかったとしても、備えておくのは戦士のたしなみだ。


「そういうことなら両方で頼みたい。品物はここで出せばいいのか?」


「そうですね。きちんとした査定は奥でやると思いますが、まずは確認させていただければと」


 当たり前の話だが、競売の出品枠にも限りがあるため、最低限求められる価値というのもはある。受付の女性は特別な目利きではないが、それでもあからさまに価値のないものを弾くくらいはできる。


 そんな女性の前にニックが徐に魔法の鞄(ストレージバッグ)から取りだしたのは……人の子供ほどの大きさのある、黄金に輝く巨大な牙。


まずは(・・・)これだな。グローリードラゴンの牙だ。他には……」


 言うが早いか、女性の目の前に価値のよくわからない、だが間違いなく馬鹿高いであろう物が次々と出現していく。


「ま、ますたー! だれか、ぎるどますたーを呼んできてー!」


 その圧倒的な光景に、受付の女性は泣きそうな顔でそう叫ぶのが精一杯だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 開幕超高額商品(と思われる)と分かる品を出されたら…仕方ないよね! それに目利きの出来るものからしたらニックと言う存在は全てが極まってると分かってしまうのだろうなぁw
[良い点] 世界中から目利きが集まるなら、価値の分かる人もいるかも…! ただ、問題が起こらず出品出来るのだろうか
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