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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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父、はしゃぐ

「これは現実、か……?」


「……………………」


「凄いですニック様! 頑張って!」


 目の前で繰り広げられる激闘に、ジョバンノ王の口から思わずそんな言葉が漏れる。隣に座る王妃は呆けたように無言であり、唯一キレーナ王女だけは楽しそうに小さな拳を握りしめてニックに向かって声援を送っていた。


 その声が聞こえたわけではないだろうが、戦闘中だというのにニックが騎士団に背を向け、王族のいる方へと笑顔と共に手を振った。その余裕綽々な様子にキレーナは更なる歓声をあげ、相手をする騎士団の者達は激高する。





「チッ、ふざけやがって! 重装隊! もっと密度を詰めて三方向から囲んで盾で押し潰せ! 動きが止まったら魔法隊で砲撃!」


「それじゃ味方まで巻き添えになるぞ!?」


「犠牲を惜しんで勝てる相手か! 重装隊の鎧が耐えられるギリギリの威力で打ち込めばいい。相手は鎧どころか布の服なんだぞ!?」


 騎士団の指揮を執っているのは、最初にニックに話しかけたあの騎士であった。必死に指示を飛ばし何とか状況を打開しようと努力しているが、その成果は芳しくない。理由は当然、今も広場の中央で暴れる筋肉親父の存在だ。


「ワハハ! どうしたどうした、その程度か? ほれ、次を行くぞ?」


「ぐぉぉぉぉっ!?」


 笑いながらニックが拳を振るうと、全身の三分の二が隠れるほどの巨大な大盾を構えた完全武装の騎士があっさりと宙を舞う。騎乗突撃すら防ぎきる重装隊の密集陣形を素手で突破するという冗談のような光景に騎士達の間でざわめきが走るが、その闘志が衰えることはない。


「まだだ! 殴ってすぐは体勢が崩れる! 両方から盾で挟み込んで、その間に魔力付与した剣で斬りつけろ!」


「任せろ!」


 指揮官の声に応えて、周囲の騎士達が素早く動く。戦闘開始当初こそ模擬剣を使っていたが、今は全員が腰から抜いた真剣を手にしている。使われる魔法も実践を想定した殺傷力のあるもので、どちらも本来は使うはずではなかったものだ。


 だが、今それらの使用に躊躇いを見せる者はいない。常軌を逸したとしか表現しようのないニックの強さはとても訓練気分で対抗できるものではなく、またニック自身が「手加減無用! 全力でかかってこい!」と言ったことで、なし崩し的に使用が認められたからだ。


 もっとも、騎士団の攻撃に自重がなくなったからといって、ニックが弱くなったわけではない。左右から挟み込んできた鋼鉄の壁とでも言うべき重装兵達を腕の力だけではねのけると、飛びかかってきた騎士の剣を左手の手刀でへし折り、そのまま右の拳を腹部に打ち込む。


「ぐふっ!?」


 金属の鎧に拳の形のへこみを作られた騎士は、口からうめき声を漏らしてそのまま動かなくなった。


『おい貴様、本当に手加減しているのであろうな!? さっきから大分動きに迷いが無くなってきているぞ!?』


「問題無い! 練度はまあまあ、装備は十分。ならばこの程度で死にはせん!」


『絶対だな? 本当に気をつけるのだぞ!?』


「さあ次はどうする? 見事この儂を打ち倒してみせよ!」


 オーゼンの注意を軽く聞き流し、ニックが更なる挑発をする。だが意外にも指揮官は冷静に隊列を組み直すことを選び、ニックはそれを黙って見過ごす。


「認めよう。アイツは強い。だがその強さこそが奴の弱点、驕りこそがつけいる隙だ。今もこうして我らが隊列を組み直すのを黙って見ているのがその証拠! ならばこれは勝てる勝負だ! 絶対に諦めるな!」


「ふふっ。いい鼓舞だ。ちゃんと戦況も見えておる。まあ相手の実力を見極める目はまだまだのようだが……それとも周囲に気を遣ってわざとそうしているのか? どちらにせよなかなかの逸材だ」


 必死に檄を飛ばす指揮官の騎士に、ニックは思わず賞賛の声をあげる。その言葉が相手の耳に届くことはないだろうが、その想いを込めた拳は必ず相手の体に届く。


「さあ、残りはもう半分だ。どうするお主達!」


「五月蠅い、まだ半分だ! 我らの真の力、しかとその身に刻むがいい!」


 構えるニックに、吠える騎士。両雄はまたも激突し、そして騎士が宙を舞う――





「な、な、な……」


「お、お父様!? これは一体……!?」


 そんなニックの大暴れを見て、マックローニ親子はその顔面を蒼白に変えていた。


(何だ、何だこれは!? 何なのだこの強さは!? あの報告は本当に嘘偽りの無い真実だったというのか!?)


 驚愕に腹をタプタプ震わせながら、ハラガの目が大きく見開かれる。彼の中にある常識では、五〇ものワイバーンを相手にたった一人で勝つことなど不可能だった。


 実際には金級上位や白金級冒険者ならワイバーンの群れの討伐は可能なのだが、勇者が最初に立ち寄るのに最適な国と言われるくらい平穏なコモーノ王国には、そのような上位の冒険者は立ち寄らない。ハラガがそれを知らない……あるいは知っていても「手柄を誇張しているだけだ」と考えるのも無理からぬことだった。


 だが、現実は目の前にある。やたらご機嫌な筋肉親父が自慢の騎士達を次々と殴り飛ばし、気づけば戦況は勇者の父だという男に傾きつつある。


 いや、実際には最初から勝負はついていたのだ。五〇人もの騎士が総掛かりになって圧倒できなかった時点で勝負の結果など見えていた。


(マズい。マズいぞ。これではワシの計画が……)


 ハラガの当初の計画は、自分が命じて接待させたメイドを抱いたニックに対し、更なるアメ……要は女や金銭を与えることで自分に対してある程度忠誠を誓うように仕向けるつもりだった。


 だが、娘がニックに相手にされなかったことに猛烈に腹を立て、延々とその愚痴を聞かされた結果、まずは騎士団を使ってニックを痛めつけ、あわやというところで自分が止めに入ることで恩に着せ、意のままに操るという方向に修正した。だというのに……


「ガッハッハ! もっとだ! もっと熱くなるのだ!」


「いい加減に倒れろ、この化け物がぁ!」


 広場に響くニックの高笑い。痛めつけられるどころか一方的に騎士達を屠る姿は、勇者というよりは破壊神といった感じだ。


(こんなもの、ワシの手でどうにかできる相手ではない! せめて最初の方針通り友好的に接していれば取り入る隙もあったであろうが、事ここに至っては……どうする、どうすればいい?)


 あまりの動揺にハラガの腹が高速で揺れ、長年ため込んできた脂肪が次々と燃焼されていく。そしてそれは隣にいたココロも同じだ。


(私、こんな相手をひっぱたいてしまったのですか!? え、これどうなるんですの!?)


 震える顔にヒビが入り、厚塗りした化粧が剥がれていく。その下から出てくるのは、若干肌荒れした地味目な顔。一九歳という若さもあって特にどうということもない平凡な顔立ちだが、そこかしこに田舎風な様相が見て取れるのは隠せない。


「お父様……」


「ココロ……」


 そんな父娘が、顔を見合わせ通じ合う。


「祈るのだココロよ。今は祈るしかあるまい……」


「祈る、ですか。一体何を祈ればいいのですか?」


「それは勿論……」


 胸の前で両手を組み、生まれて初めて真摯に神に祈る二人の眼前では、また一人自力ではゆっくり歩くことしかできないような重装の騎士が宙を舞った。

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