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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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父、食い下がる

「キリダスの町への行き方ですか?」


「うむ。門番辺りに聞いてもよかったのだが、こっちの方がより詳しくわかるかと思ってな」


「ふふっ、いいですよ。じゃ、ご希望通り詳しくお教えしますね」


 ニックの言葉に、冒険者ギルドの受付嬢がクスクスと笑ってから道順を説明してくれる。それを聞いたニックは礼を言ってギルドを後にすると、教えられた町の西門へと出向き……乗合馬車の停留所を通り過ぎて町を出ると、そのまま街道を外れていく。


『おい貴様よ、何処へ行くつもりだ?』


「何処って、そんなの決まっているであろう?」


『貴様がキリダスへ向かうのはわかる。貴様の力なら魔物などどうにでもなるし、石を運ぶくらい簡単であろうからな。だがそれならば何故乗合馬車に乗らんのだ?』


「? 馬車になど乗ったら片道で一ヶ月もかかるのだぞ?」


『……………………まあ、うむ。わかってはいたがな』


 イワホリ達に「三日で帰る」と言っていた時点で、オーゼンの中に嫌な予感はあった。魔法の鞄(ストレージバッグ)の中に件の石材が入っているのではという一縷の望みもあったが、町への道順を聞いた時点でその希望も捨て去っていた。


『また、跳ぶのか…………』


「ははは、今回ばかりは我慢せよ。帰りは『鍵』を使えばいいから片道だけであるし、モディールのようないい娘が悲しい顔で結婚していくなど無粋ではないか」


『まあ、な』


 自分の相棒たる男が、あの流れであの娘を見捨てるはずがない。あり得ないことではあるが、あの場で平然とモディールを無視して自分の石像を彫られることのみに没頭するというのであれば、むしろオーゼンは苦言を呈していたことだろう。


『…………ハァ。わかった。我も覚悟を決めよう』


「おお、流石はオーゼンだ! では、行くぞ!」


『えっ!? いや、少しくらいは覚悟を決める時間が……あっ』


 人気の無い小さな森へと入ったニックが、その場で大きく跳び上がる。あっという間にその身が雲を突き抜けると、今度は南に向かって水平に跳んでいく。この高度と速度では小さな村のような場所を探すのは難しいが、石材の輸出を産業としているキリダスの町には大きな街道が通っており、かつ石切場という明らかに目立つ目印があるのであればニックが見逃すような要因はない。


「お、あそこか?」


 オーゼンに対する一応の配慮の結果、ニックがそれらしき場所を見つけたのは日暮れ間近であった。防壁としては美しすぎる白い壁が深い赤に沈む様はなかなかに幻想的であり、ニックの顔に知らず感嘆の笑みがこぼれる。


「よっ……と。これは少し急いだ方がよさそうだな」


 その後は町から少し離れた所に着地すると、門が閉まるギリギリで町の中へと滑り込み、次いで宿を探す。幸か不幸か石切場が作業を停止しているおかげで宿の部屋には十分な空きがあり、徹夜だったこともあってその日の晩はぐっすりと眠る。そうして次の日の朝になると、ニックは軽い朝食をとってからまっすぐに冒険者ギルドへと出向いていった。


「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ!」


「うむ、邪魔するぞ」


 大体何処も同じ作りであるギルドの内部を軽く見回してから、まずは依頼の張られている掲示板に近づいていく。が、予想に反してそこに石切場の魔物に関する依頼書は存在せず、ニックは改めて開いている受付へと足を向けた。


「すまぬ、ちょっと聞きたいのだが、石切場に大量の魔物が発生したと聞いたのだが、それに関する依頼はないのだろうか?」


「あー、はい。そちらは通常の依頼になっていないんです」


「むぅ? 詳しく聞いても?」


「勿論です。今から三ヶ月くらい前になりますが、石切場の奥がギガントピーダーの巣穴に繋がってしまい、奥から一〇〇を越えるギガントピーダーが湧き出してきました。


 石切場を管理する職人ギルドの依頼ですぐに冒険者が集められ討伐に向かったのですが、敵の数が多すぎてどうしようもなく、現在は石切場を封鎖したうえで周囲に見張りを置くことで何とか現状を維持しております」


「現状維持? 何か対策は講じていないのか?」


「勿論どうにかしようとしてはいるのですが、なかなか難しいんです。敵の規模を考えると銀級冒険者が三パーティくらいは欲しいんですけど、当然ながら皆さんそれぞれに都合がありますから、その調整に難航しておりまして……」


 これが今すぐに対処しなければ町が滅ぶ、というような状況であれば冒険者ギルドとしても強権を発して彼らを集めたことだろう。だが幸いにしてギガントピーダー達は巣穴の周囲から移動はしなかったため、曲がりなりにも封じ込めは成功してしまっている。それが却って彼らを強制招集できない理由となってしまっているのだ。


「そうか。まあ銀級ともなればそれぞれ都合もあるだろうしなぁ。しかしそうなると……ふむ」


 受付嬢の説明を聞き、ニックはしばし考え込む。当初の予定ではサッと魔物を倒してから石切職人と交渉すればいいかと思っていたが、見張りがいるとなるとそうもいかない。見張りの目にとまることなく石切場に入り込むのは容易だが、流石に戦闘音までは誤魔化せないからだ。


「一応確認なのだが、勝手に中に入って魔物と戦うのは……」


「申し訳ありませんが、許可無く石切場に立ち入るのは禁止させていただいております」


「だろうなぁ」


 頭を下げる受付嬢に、ニックは苦笑いを浮かべるしかない。


 下手に魔物を刺激してしまった結果、町の方に魔物が攻めてきてしまえば目も当てられない大惨事となる。無論ニックには確実に敵を全滅させる自信があったが、だからといって決まりを破って無関係な町の住人に不安を与えるようなことをするつもりはなかった。


「ならばギルドマスター殿にお会いすることは可能か できれば直接交渉したいのだか?」


「マスターとの面会ですか? それですと……最短でも二週間後の昼となりますが」


「ぐぬぬぬぬ……」


 許可が無いと駄目だというのなら、許可をもらえばいい。ギルドマスターに実力を見せれば問題なく依頼を受けられるだろうと思っていたニックだったが、受付嬢の無情な回答によりその目論見は一瞬にして崩れ去ってしまう。


『まったく、貴様は自分を基準に物事を考えるからこういうことになるのだ! いいか? 普通の人間は移動に時間がかかるものなのだ!』


 未だに昨日のことをちょっとだけ根に持っているオーゼンの指摘に、ニックは唸ることしかできない。サッと行って魔物を殴れば終わりだと思っていたが、状況は思いのほかこじれているらしい。


「な、ならばギルドマスター殿のいる場所に儂が出向いて直接交渉するのはどうであろうか? ほんのちょっと時間がもらえれば――」


「おや? キミは……?」


「ん?」


 何とか食い下がろうとするニックに、不意に背後から声がかけられる。何処か聞き覚えのあるその声に一体誰かと振り返って見れば、腰にはレイピアを佩き、まるで吟遊詩人のような赤い帽子の下で柔らかな金髪を靡かせた男が立っている。


「ああ、やっぱりそうだ! ハッハッハ、まさかこんなところで再会するとはね! 随分と奇遇じゃあないか、海賊船長殿?」


 ニックの顔を見てニヤリと笑いながら言う男の言葉に、受付嬢がピクリと反応する。その視線がこっそりと落ちて指名手配されている犯罪者の特徴を記した覚え書きとニックを見比べたりしていたが、当のニックはそんなことは一切気にせず目の前の男に親しげに声をかけた。


「おお、お主か! 悪いが海賊船長はあの時限りだ。あれはあくまで祭りの余興だからな」


「そうかい? 実に美しく似合っていたと思うけど……まあそれはいいとして、一体どうしたんだい? 随分と困っているようだったけど」


「ああ、うむ。実はな……」


 促され、ニックはこれまでの経緯を男に語る。すると男は腹を抱えて笑い出し、それからすぐに受付嬢の方へと歩み寄っていった。


「アッハッハ! キミが実力を疑われるとは、これは傑作だ……なあキミ、彼にその依頼を受けさせてやってくれないかい? もし彼が一匹でも魔物を討ち漏らすことがあれば、このボクが責任を持って始末すると約束しよう」


「えっと、貴方は……?」


「おや、この国の人なのにボクを知らないのかい? それは流石に不勉強……いや、最近は御前にお付き合いして世界を巡っていたから、それも仕方ないのかな?


 なら改めて自己紹介しよう。ボクはイッケメーン王国が誇る金級冒険者、一輝十閃(シャイニング・テン)のナルシスさ!」


 突如として現れた金級冒険者。その名乗りに冒険者ギルドの内部は騒然とした声が溢れかえった。

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[一言] この出会いと別れがあるから本当に素晴らしく大好き
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