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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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64/800

父、相対する

感想欄でもっともなご指摘をいただき、以後の展開に大幅な修正を加えてコンパクトにまとめました。一区切りまでが今話を含めて4話で、その後閑話などを挟んで計8話、71話をもってコモーノ王城編の完結となります。


大分長くなってしまいましたが、もうしばらくお付き合いいただければと思います。

「ほほぅ。こんな場所があったのか」


 前後を武装した兵士に挟まれ、戦いの舞台となる場所にたどり着いたニックが周囲を見回し呟く。そこはかつて別の町で見た闘技場のような作りで、広場の周囲には小規模とはいえ観覧席のようなものがあり、前方中央にはひときわ豪華な席もある。


「ここは御前試合とかをするような場所ッスね。普段は騎士の方々が訓練したりしてるんで、俺達はこっちには来ないッスけど」


 そんなニックに振り返り、前方を歩いていた兵士が気さくに声をかける。城内において半ば詐欺師のように扱われつつあるニックに親しげに対応するのは、彼がリダッツ率いる王国軍第一隊の隊員であり、ここしばらくニックと共に地獄の訓練に勤しんできたからだ。


 そしてそれは後ろを歩く兵士も同じで、彼もまた不満そうな表情を隠すことなく口を尖らせる。


「みんな酷いよなぁ。姫様の恩人である旦那のことを、みんな犯罪者みたいに言いやがって。おまけにこんな仕打ちを……」


「まったくッス。騎士五〇人とたった一人で戦えとか、無茶もいいところッス。こんなのただの見せしめじゃないッスか!」


「ははは。心配してくれるのは有り難いが、気にするな。お前達のようにわかってくれる者がいるだけでも十分に心強い」


 自分を慮ってくれる兵士二人に対し、ニックは笑いながら返す。


「旦那……俺達は旦那の強さを知ってはいるけど、でももしヤバくなったら、絶対にこっちに逃げてきてくださいよ? そうしたら俺や隊長が絶対何とかしますから」


「そうッスよ。いざって時は任せて欲しいッス! 地獄の訓練を耐え抜いた成果を見せてやるッスから!」


「おお、それは頼もしいな! だがまあ、お主達の出番はあるまい。この儂が騎士達を全員下して大臣殿の期待に応える様を特等席で眺めていてくれ」


「……旦那なら本当にそうできそうなのがちょっと怖いな」


「ッス」


 広場の中央に来たところで、呆れ半分心配半分の兵士二人がニックから離れていく。そのまましばし待つと、先ほどニックが入ってきた場所から今度は兵士達より上等な装備に身を包んだ集団……騎士達が続々と広場に入ってくるのが見えた。


『どうやら敵のお出ましのようだな。なかなか立派な見てくれだが、さて実力の方はどうかな?』


「さあなぁ。とはいえあの大臣があれだけ自信満々にぶつけてくるのだ。流石に見かけ倒しの素人集団ということはあるまい」


 鞄の中から聞こえてきた声に、ニックはそっと応える。今のニックは城に来た当時の服を着ており、その腰にはいつもの鞄も身につけている。適当な難癖をつけて鞄の中身を調べられた時だけは「王の尊厳」を発動して乗り切ったため、オーゼンの存在は城の者達にはバレていない。


『一応聞くが、勝てると思うか?』


「何を言っておるのだオーゼン? 負ける要素が何処にある? あの騎士達が全員白金級の冒険者ほどの力を持っているなら多少は苦戦するかも知れんが、流石にそれはあるまい」


『白金……最上位の冒険者か。どのくらい強いのだ?』


「そうだな……かつて拳を交えたことのある大盾使いの冒険者は、儂の拳を受け止めたぞ?」


『あり得ぬ! そいつは本当に人間か!?』


「……その驚き方が今ひとつ腑に落ちぬのは、儂の気のせいであろうか」


 絶叫するオーゼンに、ニックは思わず憮然とした表情になる。ちなみにニックの拳を受けたその冒険者は、素手の一撃に自慢の大盾をへこまされた上に十数メートル背後に押し出されるという事実に対し、己の未熟を嘆いて銅級からやり直そうとした逸話が残っている。


 なお、その際当然ギルドの職員に説得されて何とか踏みとどまり、その原因となったニックが娘にしこたま怒られたことは言うまでもない。


「貴様か? 姫様をたぶらかし不当な報奨をせしめようとした不届き者は」


 そんなニックの前に、目の前で整然と隊列を組み始めた騎士達の中から一人の男が歩み寄り声をかけてきた。


「む? お主は?」


「貴様のような不貞の輩に名乗る名など無い!」


「そうか。で、儂に何の用だ?」


「用など無い。ただこれから我らに正義の鉄槌を下される愚か者の顔を、一度しっかり見ておこうと思っただけだ」


「なるほどなぁ……フッ」


「貴様、何がおかしい!?」


 小さく笑ったニックを見て、騎士の男がいきり立って声を荒げる。


「ああ、すまんすまん。だがまあ、随分と青いと思ってな。あの大臣の差し金故に色々と危惧していたが、これなら気持ちよく戦えそうだ」


「何だそれは? 大臣閣下と我々の間に下衆の勘ぐりを巡らせるくらいなら、精々己の身を案じておくがいい!」


「ハッハッハ! そうだな。ではそうさせてもらおう」


「……チッ」


 舌打ちを残し、忌々しげな顔をする騎士が隊列の方へと戻っていく。肩を怒らせるその後ろ姿が、だからこそニックには気持ちよく感じる。


『どうやら大臣と騎士団の直接の繋がりはないようだな』


「全員がそうとは言わぬが、少なくともあの男はそうであろう。あの様子では腹芸も出来ぬであろうし……ふっふっふ」


『なんだ、随分と楽しそうだが?』


「なに、ああいう若者を見るとな、ついつい可愛がってやりたくなるのだ。ここはひとつ世界の広さというのをみっちりと教え込んでやろうではないか!」


『おい貴様、やり過ぎるなよ? 勝利は絶対条件であろうが、かといって騎士達を死傷させるのは問題だぞ?』


「そんなことせんわ! 多少の怪我くらいはするかも知れんが、きちんと手加減するに決まっているであろう!」


『どうだか。我には貴様が何だか楽しくなってきて派手に暴れる姿が目に浮かぶようなのだが……』


「ぐぬっ!? りゅ、留意しておこう……」


『本当にか? 気をつけろよ?』


「よ、よーし! ここはひとつ気合いを入れ直して、戦いを楽しもうではないか!」


 疑い深げなオーゼンの言葉をわざとらしく聞き流し、ニックがパチパチと自らの頬を打って気合いを入れる。その楽しげな表情はとてもこれから一対五〇という絶望的な戦いに挑む人間のそれではなく、無論ニック本人にもそんなつもりは毛頭無い。


『準備が整ったようですので、これよりニック氏とコモーノ王国騎士団による模擬戦闘を開始致します』


 と、そこで広場中に男の声が響く。この戦いの審判を務める人物が、風系統の拡音魔法で声を大きくしているのだ。気づいてニックが見渡せば、観客席とおぼしき場所にはそれなりの数の貴族達が席を連ね、一番大きな中央の席にはジョバンノ王と思わしき姿もある。


「お、陛下の隣にいるのはキレーナ王女か? となるとあのご婦人は王妃様であろうか? 何というか……お似合いのお二人だな」


 ジョバンノ王の隣には、特別美人というわけでもないがかといって見劣りするわけでもない相応に高齢の女性が座っている。どことなくキレーナに面影がある辺り、まず間違いなく血の繋がった親子であろうとニックは思った。


『なお、今回の模擬戦闘はジョバンノ陛下の他、ブナンナ王妃様、キレーナ第二王女殿下、それにマックローニ大臣が観戦されております。双方共に陛下達にご覧頂くに相応しい、正々堂々とした戦いを心がけるように』


『この人数差で正々堂々と来たか! いっそ笑えるぞ?』


「よいではないかオーゼン。一対一の勝ち抜き戦より余程面倒がない。さあ、大臣閣下の度肝を抜いてやろう!」


 ニックの笑みが凶悪さを増し、その体から迫力が滲み出る。その様相に騎士達の間に僅かに動揺が走るが、それが広がるよりも先に審判の男の声が広場中に響き渡った。


『それでは、模擬戦闘、開始!』

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[良い点] いい時はホント面白い。 [気になる点] 途中の会話が面倒くさくせっかく話が盛り上がってるのに盛り下がる。 [一言] いい時悪い時の差が激しく感じます俺はですけど
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