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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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610/800

父、見て回る

「ふっふっふ、見よオーゼン、大勝利だぞ!」


『まったく、貴様という奴は……』


 ホクホク顔でおおよそ倍に増えた白いチップをジャラジャラと皮袋に流し入れるニックに対し、オーゼンがほとほと呆れかえったような声を出す。なおそんなニックの背を見送る『的当て』の係員は、やっと開放された喜びに打ち震えながら大きく手を振っている。


『貴様はあれだ。もうちょっと大人げというのを身につけるべきではないか?』


「何を言うか! 遊びというのは真剣だからこそ面白いのだぞ。それにあの的当てはなかなかにえげつない仕様だったしな」


 ニックの遊んだ『的当て』は、三メートル先にある的を投げ矢で狙うというものだ。一回につき白チップ一枚で、外円に当てればそのまま一枚、内円であれば三枚、そして見事中央に当てると五枚の賞金が手に入るようになっている。


 ただし、投げ矢にはその全てが微妙に重心の位置が違うという細工がなされており、単純に数を投げれば慣れて当てられるというものではない。そういう意味ではこれを真に狙って当てられるのはかなりの投擲技術の持ち主か、あるいはニックのように全てを無視してまっすぐ飛ばす力の持ち主だけだろう。


「まあ、参加費用や得られる報酬を考えても、本格的な賭博というよりは息抜きの遊戯に近いものだったのだろう。そういう意味では次こそ本番だぞ?」


『お、遂に中央に行くのか』


 気持ちよく勝ったことで上機嫌に言うニックに、オーゼンもまた気持ちを切り替え興味深そうな声を出す。広大な賭博場の中央付近こそ本格的な賭博の行われている場所であるからだ。


「ふふふ、まずは何処から行くか……お、あれは?」


 最初にニックが辿り着いた場所では、緑色の布の敷かれた大きなテーブルの上に細かく区切られた白い枠線が描かれ、円錐の上に丸が乗った色とりどりの駒が並ぶという見たことのない遊びが催されていた。


「これは一体どういう遊戯なのだ?」


「お、アンタ『跳び駒』は初めて……って、おお!?」


 テーブルを囲む人混みに不思議そうな表情で顔を突っ込んだニックに対し、近くにいた客が声をかけ……そして驚く。


「何だアンタ、この前町の入り口であった奴じゃねぇか!」


「おお、お主は! 何とも奇遇だな!」


「本当になぁ。へへっ、これも縁だ。今度も俺がこいつのことを教えてやるぜ」


「おう、頼む」


 思わぬ再会に笑顔で肩を叩き合うと、その男は今回もニックにこの遊戯のことを教えてくれた。それによるとこれは五人の参加者がそれぞれの駒を使い、サイコロを振って出た目の数だけ進んで誰が一番先にゴールまで辿り着くかを競うというものらしい。


「流石にそれは単純過ぎないか? 運が全てではないか」


「へへへ、そこはほれ、駒が止まる場所のいくつかには指示が書いてあって、それに従わなきゃいけないってのもあるんだが、一番でかいのは追加でチップを払うことで、もう一回サイコロを振れたりマスに書かれた妨害を無効化できたりするってのがあるんだよ」


「……それだとチップを積めば確実に勝てるのでは?」


「ああ、そうだ。でも考えてみろよ。これは賭博で、目的は勝つことじゃなくて儲けることなんだぜ?」


「ああ、そういうことか!」


 ニヤリと笑って言う男に、ニックは大きく納得の頷きを返す。優勝すれば当然掛け金に応じた賞金が出るが、追加のチップを払った分は丸々損になってしまう。つまり「どれだけ損失を抑えて勝つか」がこの遊戯の本質なのだろう。


「ちなみに、誰かが中央を通り過ぎるまでは観客も誰が勝つかに賭けられるから、大きな勝負に出たくないならそっちもありだな」


「それでこの人だかりか。確かになかなか盛り上がりそうだ」


 説明を終えた男がテーブルに顔を向け直したところで、ニックは改めて周囲を見回してみる。すると確かに実際に遊んでいる者とその周囲を囲む者達との間で声援とも罵倒とも取れる言葉がやりとりされていた。


「てめー、何日和(ひよ)ってるんだよ! そこはチップを追加してサイコロ振れよ!」


「うるせー! これ以上使ったら勝っても損しちまうじゃねーか!」


「馬鹿、だからって優勝しなかったら丸損なんだぞ!? ならちょっとくらい損したって勝ちにいけよ!」


「だったらテメーが追加分払えよ!」


『何とも喧しい者達だ。まあこれでこそ賭場らしいと言えるかも知れんが』


「だなぁ。楽しそうだが次が始まるまで時間がかかりそうだな。ならば他も見てみるか」


 興味は惹かれるものの、焦って参加する理由もない。一旦そこから離れたニックは、別の遊戯を催している別のテーブルへと足を向ける。


「こっちは……お、これは戦人札か?」


『戦人札?』


「うむ。農民や騎士、商人などの絵が描かれた札を使った対戦型の遊戯だな。見てみろ」


 そう言ってニックが視線で指し示す先では、ちょうど賭場の従業員と思われる者が伏せられていた札を開示し、それを受けた参加者達が頭を抱えたり叫んだりしている光景が広がっている。


「あーっ!? 何でここで『商人』なんだよ! くっそ、持ってけ!」


「ふふふ、安全策をとっておいて正解でしたね」


「こっちは大勝ちだぜ! なら『騎士』を二枚と……後は『農民』を補充しとくかな」


『あれは?』


「うむ。あの黒服が見せた札が『商人』であっただろう? それに対して『騎士』の札を出してしまったものは、武力で商人を脅したとして手持ちから『商人』の札が失われたのだ。真ん中の者は『農民』だったので普通の取引をしたとして別の一枚と等価交換、最後の者は『貴族』の札を出したので、徴収によって任意の三枚を回収した感じだな。


 ああやって手札を競わせ、先に相手の手札を尽きさせれば勝ちという遊びだ。まあ本来なら一対一の勝負を一対多でやっているようであるから、他にも細かい決め事の違いはあるかも知れんが」


『ほぅ、これは面白そうだな』


「うむ。運と駆け引きの要素がほどよく噛み合っているからな。酒場などでもよくやっている者がいるくらいには人気だ。とはいえこれも一勝負にそこそこの時間がかかるから……おっ、あっちのあれならばすぐだぞ」


『ん? どれだ?』


 言いながらニックが更に別のテーブルへと歩いて行くと、そこでもまた賭けに興じている者達がいる。ただし一喜一憂の仕方はこちらの方が大きいようだ。


「こっちでやっているのは『揃え札』だな。使っているのはさっきの戦人札と同じ札だが、こちらはそれに描かれている絵や数字を揃えるのを目的とした遊びだ。駆け引きの度合いはグッと低くなるが、代わりに一勝負がすぐ終わるのが特徴だな」


『そうか。しかしこうして改めて見てみると、この世界にも色々と娯楽はあるのだな』


 ニックの解説を聞きながら、オーゼンはしみじみとそう呟く。無論アトラガルドの頃と比べれば規模も種類も雲泥の差ではあるが、それでもこの地には娯楽に熱意を注ぐという生活の余裕が見て取れる。


『貴様と出会った当初、魔王などというものが存在して人類を脅かしていると聞かされた時には、もっと世界は困窮しているのだと思い込んだものだった。


 まあその後の旅路でそんなことはないのだとわかってはいたが、それでもこうして遊びに熱中している者達がいるのを見ると、世界は我の想像を遙かに超えて平和なのだろうと実感できる』


「平和、か……それを断言するのは難しいが、相応の数の人間がそれなりに余裕のある生活を送れているのは事実だな」


 オーゼンの言葉に、ニックは複雑な表情を浮かべて静かに答える。


 確かに世界の情勢は概ね安定している。大規模な魔族の侵攻はここしばらく起こっていないし、世界に戦乱を呼び起こすはずだったザッコス帝国の侵攻も極めて初期に抑えられたため、平和と称することに大きな違和感があるわけではない。


 が、それとは別に世界には今も明日の食い扶持すら確保できない者や、戦闘に巻き込まれ命を落とす者が大勢いるのも事実だ。


 ではそれを知っていながら今を楽しむことは不謹慎であるか? その問いに対し、ニックは否と答えるだろう。


 弱き者、困っている者を助けることは善だが、それらを助けないことは悪ではない。全ての者を助けなければならない、そのためにあらゆる犠牲を許容しなければならないなどとしてしまえば、それこそ世界は苦痛に飲まれてしまうのだから。


「……フッ、世界平和などこんなところで語ることでもあるまい。それよりもこれならばすぐに順番が回ってくるだろうから、まずはここから一勝負といってみるか!」


『む。札遊びに貴様の非常識な筋肉が影響するとも思えんが、程ほどにするのだぞ?』


「わかったわかった。おーい、次は儂も混ぜてくれ!」


 たしなめるオーゼンの言葉に苦笑しつつ、ニックは大きく手を振って勝負の輪の中へと入り込んでいった。

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