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父、叫ばれる

 光の奔流は、おおよそ一分ほど続いた。これは瞬間出力だけではなく、持続的に一定以上の魔力を放出し続けられるかどうかを調べるためだ。強大な魔力を安定して扱えねば王の資質があるとは言えない。


(そろそろ試練も終わる。そうすれば我は再びあの台座に戻されるであろう。そして国が無くなった以上、今後我の元へやってくるのは試練への挑戦者ではなく死の確定した迷い人のみか……なんたることだ)


 意気消沈するメダリオン。が、光が収まり今正に台座に戻るのではと思っていたその時、それを拾うたくましい手の感触があった。


「ふぅ。驚いた」


『なっ!? 貴様、何故!? 何故生きている!?』


「何故と言われてもなぁ。確かに眩しくて思わずお主を取り落としてしまったが、それだけだぞ? ヴァンパイアでもあるまいし、光に当たっただけで死ぬわけがなかろう?」


『ま、眩しかっただけ!? 本当に、本当に何の痛痒も感じなかったのか!?』


 驚き戸惑うメダリオンに、ニックは腕組みをして先ほどの事をよく思い出す。


「むぅ……言われてみれば、ほんのちょっと熱かったような……?」


『ちょ、ちょっと……ちょっと熱かった……』


「お、魔法陣……いや、転移陣だったか? が出たぞ」


 茫然自失となるメダリオンを余所に、ニックは部屋の奥に出現した光り輝く魔法陣に言葉を弾ませる。


「あれに乗れば元の場所に戻れるのだな?」


『あ、ああ。戻れる……はずだ』


「そうか。では世話になったな!」


 そう言って、ニックはメダリオンをそっと床に置いた。


『ま、待て! 何故我を床に置くのだ!?』


「む? 元の台座に戻した方が良かったか? しかし扉が消えておるからなぁ。壁を壊すか?」


『壊すな! ではなく、何故我を持って行かぬのだ?』


「何故と言われても……儂は別に王になどなりたくないからな。いや、そもそもとっくに滅んだ国の王になれるのかどうかもわからぬが」


『それは……』


 そう言われて、メダリオンは言葉に詰まる。


『確かに、我にはもう存在意義は無いのかも知れぬ。だが……だが我は知りたいのだ。何故偉大なるアトラガルドが滅んだのか? その後の世界はどうなっているのか? 我を生んだあの者達が、一体どうなったのか……


 だから頼む。我を――っ!?』


 メダリオンに皆まで言わせることなく、ニックはそれを拾い上げる。


『良いのか?』


「無論だ。勝手に持ち出したらマズいかと思って置いていこうとしたが、お主が外に出たいというならば是非も無い。旅は道連れと言うしな」


『……恩に着る』


「ハッハッハ! 世界広しと言えども魔法道具に恩を着せたのは儂くらいだろうな」


『おい、待て。感謝はするが、我を魔法道具などと一緒にするな! 我は魔導具! 一般市民が日常で使うような照明や調理器具と同じ扱いをするでない!』


「それは違うものなのか? どちらも大して変わらんと思うが……」


『違うに決まっているであろう! それとも貴様、世界最高の名剣で肉を切って料理するとでも言うのか?』


「……儂の娘はそんな事をしていた気がするが、誰も気にしていなかったぞ?」


 ニックの脳裏に、野営の際にフレイが肉や野菜を聖剣で刻んでいた光景が思い浮かぶ。ロンやムーナもその光景を見ていたが、誰も何も言ってはいなかった。


 もっとも、実際は二人とも内心でドン引きしていただけなのだが、それはニックには知る由も無いことである。


『何という……ヒトの情緒はそこまで衰退していたか。やはり偉大なる王が導かねば、民などあっという間に堕落してしまうのだな』


「そうか? 変なこだわりを持つより有用に使い回す方が賢いと思うが……」


『そんな訳あるまい! よーしわかった! やはり今の時代にも偉大な王は必要なのだ! 我が外に出てこの目で新たな王を選定しよう! それこそがこの時代に我が目覚めた理由に違いない!』


「まあ好きにすれば良い。では、出るぞ?」


『フッフッフ。今この瞬間が、我の新たな使命の始まりである!』


 やたらテンションの高まったメダリオンを手に、ニックは光り輝く転送陣へと足を踏み入れる。すると来た時と同じくほんの一瞬視界が暗転し、気づいたときにはヴァイパーの巣穴の中へと戻っていた。


「おお、どうやら無事に戻ってこられたようだな」


「その声、ニックおじちゃん!?」


 穴の中からした声に、巣穴の前で座り込んでいたミミルが慌てて中を覗き込んだ。そこにいきなり消えたニックの姿を確認して、その顔に驚きと喜びが満ちる。


「おお、ミミル! 大丈夫だったか?」


「おじちゃん! 一体何処に……ヒッ!?」


「む? 何だ?」


 ニックに向かって飛びつかんばかりに走ってきたミミルだったが、ニックの一歩手前でその動きを止める……どころか、その場からゆっくり後ずさり始めた。


「へ……」


「へ?」


「変態だー!」


「ぬぅ!?」


 力一杯叫ぶミミルに、ニックが思わず身をのけぞらせる。


「変態です! 丸出しです! 何でおじちゃんは裸になってるんですか!?」


「裸?」


 言われてニックは自分の体を見る。すると確かにいつの間にやら素っ裸になっていた。だがニックには服を脱いだ記憶などない。


「何故儂は裸になっているのだ?」


「知りません! 私が知るわけないじゃないですか!」


『おそらくだが、試練の時にチリも残さず焼き尽くされたのではないか? 歴代の挑戦者は試練を受けるのを前提の服を着ていた故そんなことはなかったが、貴様の服は明らかにみすぼらしかったからな』


「ふむ、そういうことか」


「何一人でブツブツ言ってるんですか! せめて前を隠してください!」


「す、すまぬ!」


 ミミルの抗議に、ニックは慌てて股間を両手で覆い隠した。何とも情けない姿だが、幼いとはいえ少女の前で丸出しにするのに比べれば遙かにマシだ。


「ん? 一人?」


『我の言葉は貴様にしか聞こえておらぬぞ? この時代に我の存在をおおっぴらにするのは良く無さそうだったからな。


 それはそれとして、さっさと我をその汚らわしいもの・・から離せ、この痴れ者が!』


「す、すまぬ?」


 メダリオンに怒られ、ニックは咄嗟に股間から手を離す。メダリオンを手に持っている以上、その手で股間を隠せばそれ・・にメダリオンが触れるのは必然だ。


「ちょっ、何また見せてるんですか! 隠して下さい!」


『我をそれにくっつけるな!』


「あー、もう! 何だと言うのだ!」


 困り果てたニックが声をあげると、不意に手の中のメダリオンが強い光を放ち始めた。


『な、何だと!? まさかこんな場面でか!?』


「おい、急に光り始めたが、これはどういうことだ!?」


『我には王の試練に臨む者に、力を与えて補佐する能力がある。試練をひとつ乗り越える毎にひとつ、その者が真に望む力が与えられるのだが……何故この状況で?』


「おお、それはいいことを聞いたぞ! よし、ならば今すぐ儂に力をよこせ!」


『待て、嫌な予感が……ぬぉぉ、使命故に逆らえぬ! ぐぅぅ……い、意思を描いて言霊を呼べ、されば望む力が……や、やめるのだ……唱えよ、「王能百式 王の尊厳」!』


「言えばいいのか!? 『王能百式 王の尊厳』!」


「キャーッ!?」


 ニックが言霊を唱えると、ニックの全身を光が包む。そうしてその光が収まったところで……


「へ……」


「へ?」


「変態だーっ!!!」


 ニックの股間を隠すように生じた金色の獅子頭に、ミミルは再び力一杯叫んだ。

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