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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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59/800

父、呼び出される

「儂に会いたい? 大臣の娘がか?」


 ここ最近の日課となった訓練場での軽い運動……一般兵士にとっては地獄の特訓……を終え、部屋で軽く汗を流したニックにハニトラがそう話を持ちかけた。


「はい。ニック様の武勇伝を是非ともお聞かせ願いたいと……」


「武勇伝なぁ……」


『ここに来て遂に直接接触しに来たか。先日貴様が勇者の父だとバレたのが影響したか? あれには我も驚いたが』


 考え込むニックに、オーゼンが追従する。リダッツの配慮があったとはいえ、人の口に戸は立てられぬのは有史以前からの常識だ。


 ちなみに、最初にバレたその日の夜はオーゼンから一晩中質問攻めにされ、翌朝はニックにしては珍しくやや寝不足であった。


 すかさずハニトラが膝枕を提供したが、柔らかな太ももに頭を預けたニックはあっという間に眠ったうえに、五分ほどで目覚めるともうスッキリした顔で訓練場に出かけてしまったため、やはり何事も起きはしなかったのだが。


「それで、その……どうでしょうか?」


「ふーむ。まあいいだろう。で、儂はどうすればいいのだ?」


「あ、ありがとうございます! 時間になりましたら私がお連れしますので、夕食後は普通に部屋にいていただければ……」


 伺うようだったハニトラの顔が、ニックの返答にパッと輝く。


「わかった。まあそもそも訓練場以外に勝手に出歩くわけにはいかんのだから、言われずとも部屋にはいるがな」


「フフ、そうですね。では、私は夕食の準備をして参ります」


 それを受けて軽口を交えながら返したニックの言葉に、ハニトラは一礼してから部屋を後にした。昨日までならここでわざとらしく転んで尻を丸出しにしてみたり、よろけながら華麗に服を脱ぎ散らかして半裸でベッドに倒れ込むという見事な職人技を披露していたハニトラが何もしなかったことにニックは若干の疑問を感じたが、そもそも普通はそんなことをしないという事実に思い至ったので気にしないことにする。


『ほぅ? わざわざ敵の招待を受けるのか?』


「まだ敵とは決まっておるまい。それにどうせ今回断れば、次はより断りづらい状況で呼び出されるだけだ。前も言ったが完全に逃げ切る前提でないのなら、こういうのは最初に応じておくのが一番楽なのだ」


『ふむ、一理あるが……それでもせめてガドーやリダッツには伝えておいた方がよいのではないか? 相手が権力者となれば、貴様得意の「殴って済ます」が通じない公算も高かろう?』


「そうだな。幸いにして夜までは時間がある。ガドー殿に言えばキレーナ王女にも伝わるであろうし、そうすることにしよう」


 オーゼンの言葉に頷きつつ、ニックはいなくなったハニトラの代わりに部屋の外を歩いていた適当なメイドに声をかけ、ガドーを呼んでもらった。程なくして部屋にやってきたガドーに、ニックは今の話を伝える。


「今夜ですか!? 随分と急な……申し訳ありませんニック殿。流石にこれほど急となると我らとしても情報を集めることすら難しく……」


「構わんよ。できるだけ波風が立たぬように立ち回るつもりではあるが、それでも一応貴殿の耳に入れておいた方がいいだろうと思ってな」


 まずは驚き、次いで渋顔になるガドーにニックは落ち着いて答える。その様子にガドーもまた落ち着きを取り戻し、スッと小さく頭を下げた。


「感謝致しますニック殿。勿論このことは間違いなく姫様にお伝え致しますので、多少の問題であれば事後でも対処できるかと。


 ただ、流石に暴力に訴えるのは……」


「そんな事は…………絶対無いとは言わんが、まあ大丈夫であろう」


 僅かに思案してからそう答えたニックに、ガドーが思わずすがりつく。


「本当にお願いしますぞ!? マックローニ大臣はこの国の重鎮です。いくら姫様でも正面から責められては庇いきれませぬし、ニック殿がジュバン卿のご威光を振りかざすとしても、流石に城内では分が悪いかと……」


「わかっておる。あくまでも可能性の話だけだ。最悪でも城の破壊だけで何とかすると約束しよう」


「いや、城を破壊された時点でもうどうしようもないのですが……そ、それでも我らは皆ニック殿に助けていただいた身。できる限りニック殿の助けになるよう動きます。ただ、最悪の場合姫様だけは……」


「気にするな。儂を切り捨てて構わん」


 一瞬の迷いも無く笑顔でそれを言ってのけるニックに、ガドーは今度こそ本当に大きく頭を下げた。


「…………ありがとうございます。ニック殿」


「まあ余程のことをされぬ限りそこまでいくことな無いであろうから、心配せずとも大丈夫だ。そもそも今回の呼び出しは件の大臣本人ではなく娘ということだしな。案外本当に儂の話を聞きたいだけかも知れぬぞ?」


「はは。そうだといいのですが……」


 力なく笑ったガドーが、最後にもう一度礼をしてから部屋を出ていく。この時間にニックが部屋から出るわけにはいかないためリダッツへの言伝もガドーに一任し、今ニックができることはただ待つことだけだ。


『あのようなことを言ってしまって良かったのか?』


「ん? 王女のことか? 当然であろう」


 ガドーが去ったことで再び会話を始めたオーゼンに、ニックは小さく笑いながら言う。


「何がどうなろうと、儂はこの城を……ひいてはコモーノ王国を出るという選択肢が常にある。それを阻むことなど出来ぬであろうと自負すればこそ、極論大臣とやらの企みなどどうでもいいのだ。


 だが王女は違う。いずれ結婚して国外にでも出ない限りずっとこの城で生活し続けるのだから、ここでの立場を失うわけにはいかぬのは自明。ならば年端もいかぬ娘の助けを頼るより、スッパリ切り捨てられた方がむしろ儂も動きやすいわ」


『フフッ。なんたる傲慢! だがそれを貫ける力を貴様が持っているからこそ、その判断が最善となるか! 本当に貴様は滅茶苦茶で大雑把で……そして面白い奴よ』


「何だ、今頃気づいたのか? 儂の凄さは散々体験させてやったであろう?」


『ぬかせ愚か者が。だがまあ、貴様といると退屈せん。それだけは認めてやろう』


「はっはっは。素直じゃないのぅ。ならばまた思い切り走って――」


『やめろ。それはやめろ。本当にやめるのだ』


「お、おぅ。そうか。わかった」


 それまでの楽しげな口調から一転して真面目に否定され、ニックは割と本気で「今後ある程度以上速く走るのはやめよう」と心に決めた。


 その後は微妙にむずがるオーゼンをキュッキュッと磨き上げ、ハニトラが運んできた夕食に舌鼓を打ち、そうして待つこと数時間……


「ニック様。起きていらっしゃいますか?」


「……む? ああ、呼ばれるとわかっていたのだから、一応起きていたが……」


 時は既に深夜。部屋の灯りを落とされベッドで軽くウトウトしていたニックだったが、囁くようなハニトラの声にその巨体を起き上がらせる。


「……起きていらっしゃいましたか。いえ、失礼しました。ではココロ様……マックローニ大臣のお嬢様のところへお連れしますので、私の後を着いてきてください」


「? わかった」


 ハニトラの声になんとなく否定的なものを感じたが、それでもニックは無言で後に続く。この時ハニトラが「もし寝ていてくれればそれを言い訳にお連れしなくてもすんだのですが」と思っていたことなどニックには知る由も無い。


 部屋を出て廊下を歩く二人。壁には等間隔に照明が設置され、ハニトラもまた手にランタンをもってはいるが、それでも夜の城を包み込む闇を取り払うには不十分で、ニックは暗く寒々しい通路を静かに歩き進んでいく。


「……随分人通りが無いな。巡回の兵はいないのか?」


「それは城の警備に関わる話なので、私にはお答えしかねます」


「ああ、それはそうだな。すまぬ、忘れてくれ」


 城の警備の巡回路となれば、国防に関わる重要事項だ。一介のメイドが知るような情報ではなく、仮に知っていても易々と口に出来る情報でもない。もっともハニトラにはこれが大臣の差し金であることはわかっていたが、伝えてどうなることでもないのでニックには黙っていた。


 そうして無人の通路を幾度も幾度も曲がり、歩き、やがてハニトラが足を止めたのは、精緻な装飾の施された扉の前だった。


「こちらになります。では、私はこれで……」


「む? そうか。ご苦労だったな」


 下がり行くハニトラに一声かけると、ニックは改めて扉をノックする。中から聞こえてきた若い女性の声に、ニックは努めて静かに、丁寧に扉を開ける。


「失礼します。儂……ではない、私をお呼びと聞きしたのですが?」


「ウフフ。普通にお話されても大丈夫ですよ?」


 大きく開け放たれた窓から差し込む月明かりに照らされ、その女性が微笑む。


「初めまして。私はココロ・マックローニ。この国の大臣であるハラガ・マックローニの娘になります」


 ドレスの端を掴み、ココロはニックに向かって優雅に挨拶をした。

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