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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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父、二度目の勝負をする

「そ、それで!? その勝負はどうなったのですかな?」


 思わず身を乗り出して問うガドーに、ニックが笑いながら答える。


「当然儂の勝ちだ。でなければこの城に勇者がいない理由が無いではないか」


「ま、まあ確かに。なるほど、そんなことが……」


 言われてみれば当然の結論に、ガドーが難しい顔をする。今の話を聞くだけならば当時の国の対応は随分と悪辣に思える。だが自分もまた王女の護衛隊長という地位につき様々なものを見聞きした経験から、国家運営が決して綺麗事で成り立つようなものではないのはガドーにもわかっているからだ。


 自分が考えることは他人も思いついて当然。他国の傀儡にするくらいならいち早く自国に取り込み、守り育てる代わりに相応の利益を勝手に得る……ニックが強者だからこそ無事に生き延び独立を維持できたが、それはあくまで結果論でしかない。


「そうか。だからニック殿はかたくなに身分を隠しておられたのですな。にも関わらず姫様を助けてくださるとは。一体どれほどの感謝を捧げれば良いのか……」


「いや、それは本当に騒がれるのが面倒だっただけなのだが……」


「はは。そういうことにしておきましょう」


「……まあ、お主がそれでいいならいいが」


 訳知り顔で頷くガドーに、ニックは少しだけばつが悪そうに答える。かつて拳で片をつけた時点でこの国に思うことなどもう無かったし、本当に騒がれたくない……というか、騒ぎを起こした結果娘に迷惑をかけたくなかっただけなのだが、これ以上強弁するのも面倒くさそうだったのでニックはそのまま流すことにした。


「ところでニック殿。こうして思わぬ再会が叶った今、ひとつお願いがあるのですが……」


「ん? なんだ?」


「自分と手合わせをしていただけませんか?」


 リダッツのその言葉に、ニックの眉がピクリと動く。


「ほぅ? あの時の雪辱戦というわけか?」


「ええ。どうでしょう? 受けていただけますか?」


「無論だ」


 ニッコリ笑って言うリダッツに、ニックもまた笑顔で頷く。そのままリダッツに先導され訓練場の端に移動すると、立てかけてあった模擬剣を手にリダッツが問う。


「ニック殿、武器は何を?」


「いらんよ。儂の武器はあの頃と同じだ。そしてリダッツ殿。お主の武器もあの時と同じ・・・・・・でいいぞ?」


「……やはりニック殿には敵いませんな」


 不敵に笑うニックに、リダッツは模擬剣をその場に戻すと、腰から愛剣を抜き放つ。日の光に照らされ白銀に輝くその刃は伝説の名剣でこそないが、王宮付きの鍛冶屋が打った渾身の一本だった。


「リダッツ殿!? 真剣は流石に――」


「ガドー殿! いいのだ。儂の武器は産まれた時から共に在るこの両の拳。ならばリダッツ殿が使う武器もまた手慣れたものでなければ釣り合いがとれまい?」


「今回だけは見逃してください、ガドー殿。もし万が一のことがあった時には、自分が全ての責任を負いますので」


「むぅぅ……」


 当事者同士が了解しているため、ガドーはそれ以上何も言えない。実際にリダッツがニックを死傷させてしまえば責任など取りようがないと思いはしても、ニックのでたらめな強さを知っていればこそ確かに模擬剣では勝負にならず、真剣ですら効果があるのか疑わしいとも感じていたからだ。


「おい、隊長が何か始めたぞ?」

「さっきのゆう……あー、えっと、オッサン? 何やってるんだ?」

「隊長の剣、練習用の奴じゃ無くないか? え、あれヤバくね?」


 そうしている間にも、二人の間で高まる気配を感じ取ってか周囲の兵士達が少しずつ集まってくる。このまま時間をかければどんどん収拾が付かなくなると悟ったガドーは、苦虫をかみつぶしたような顔でため息をついた。


「ハァ……わかりました。では私がこの勝負の見届け人となりましょう」


「感謝する、ガドー殿。ではニック殿……」


「うむ!」


 リダッツが抜き身の剣を正眼に構える。それに対してニックは左手を前に、右手を腰だめに引いた左半身の構えだ。


「……当時、自分はうぬぼれていました。同期には敵無し、先達を見ても十指に入る剣の使い手ともてはやされ、城という狭い世界のなかでだけのし上がることを考えて……こうして思い返せば、やはり若かったのでしょうなぁ。


 だが、あの日自分の目は覚めました。娘を守る……それだけのために人はあれほど強くなれるのだと。ならば自分もまたそうしようと、この一〇年ひたすら剣を振るってきました。出世のためではなく、この国のため、この国に住まう人々のために」


 遠き日々に思いを馳せるように、リダッツがそっと目を閉じて唄うように言う。その一言一言に込められた想いが、リダッツの中に確かな力を湧き上がらせる。


「そうして今、自分はこの国の騎士として、王国最強の肩書きを持って人々を守っております。だからこそ、今度こそ! 自分の……俺の剣がお前を倒す! 娘を思うお前の拳と、国を思う俺の剣。どちらが強いか……


 コモーノ王国軍第一隊隊長、スグニ・リダッツ! 推して参る!」


「勇者の父、ニック・ジュバン! 受けて立つ!」


「いざ、尋常に……」


「勝負!」


 かけ声と共に、体が動く。先に奔るのは銀閃。あの日と同じ、だがあの日よりも数段鋭く研ぎ澄まされたリダッツの切り下ろし。無手であり巨漢のニックに対しては横凪の方が防御も回避もしづらい攻撃ではあったが、リダッツはただ一撃、己の鍛え上げた剣の疾さと鋭さに賭けた。


 対してニックは愚直に前進するのみ。ただ真っ直ぐに踏み込み、先に振り下ろされた剣より速くその拳がリダッツの顔面に迫る。


 ほんの一瞬。瞬きほどの攻勢。その勝負を制したのは――


「……俺の負けだ」


 リダッツの口から、敗北を認める言葉が漏れた。ニックの拳がリダッツの顔スレスレにあるのに対し、リダッツの剣はニックの肩にある。拳を振るうその動作で振り下ろされる剣より速く体の位置を微妙にずらしたのだ。


「嘘だろ? 隊長が負けた!?」

「勇者の父って、要はただの人だろ? 何だあの動き……」

「オッサンつえー!」


「ほら、お前等騒ぐな! あとまた勇者云々って言った奴がいるな? そんなに地獄の特訓がお望みなら……」


 リダッツの言葉に、集まっていた兵士達が蜘蛛の子を散らすように元の場所へと戻っていく。それを見届けニックに向き直ると、リダッツは大きく息を吐いた。


「ふぅ……未だ届かず、か。自分の国を思う気持ちもまだまだということだろうか?」


「馬鹿を言うな。お主は十分に強くなったが、儂の方が更に強くなっていただけのことだ。強いて言うなら、大切なものを大切に思う気持ちに優劣をつけたことが、今回のお主の敗因というところだな」


「っ……はは。本当にニック殿には敵いません。ありがとうございました」


 顔に手を当て、うつむきながらリダッツが言う。そんなリダッツの肩に手を置き、ニックが空を見上げて声をかける。


「なーに、儂もお主もまだまだこれからだ。約束、覚えているのだろう?」


「勿論です。自分が勝ったらニック殿の娘さんを……」


「儂が勝ったらお主の守りたいものを守る。それだけの力があってなお守れぬものがあるというのなら、この儂が殴り飛ばしてやる! だからお主は思う存分力を磨き続けるがよい。次の勝負を楽しみにしておるぞ?」


「わかりました。次は必ず一矢報いてみせますぞ!」


「楽しみにしておこう!」


 顔を見合わせ笑い合う中年騎士と筋肉親父。勝負の結果も約束も変わらず、さりとて互いの決意は新たに。


「さて、では体もいい具合に温まったことであるし、リダッツ殿の言う『地獄の特訓』とやらを儂も体験してみようかと思うのだが、どうだ?」


「おお! それは勿論大歓迎です! 喜べお前等! お客様のご要望により、全員これから特訓だ!」


『えーっ!?』


 兵士達からのブーイングを笑顔と筋肉で受け止め、ニックは日が暮れるまでいい汗を流し続けるのだった。

スグニ・リダッツ


コモーノ王国最強の騎士。通常ルートにおいて勇者の出立に付き添い、雑魚を相手に無双するチュートリアル系強キャラ。装備の変更はできない。割とすぐにたどり着く国境付近でパーティから離脱してしまうため、彼がいる間にある程度勇者に経験値を稼がせるとその後が楽だぞ!

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