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娘、夢を見る ~とある兄妹の記憶 その二~

「おととい来な、坊や」


「あぐっ!?」


 やっとの事で辿り着いた真新しい刹那派の拠点。だが意気揚々と闘士として登録しようとした少年は、最初の試験にてあっさりと落とされた。


「何だよ! 刹那を楽しむって言うなら、俺だって参加してもいいだろうが!」


 まるで子猫のように襟首を捕まれて会場の外に放り出された少年は、やたらと露出度の高い下着のような魔導兵装(マグスギア)のみを身につけている女性に猛烈に抗議の声をあげる。


 だがそれに対する女性の答えは、肩をすくめて薄く笑うことだ。


「あのねぇ。戦いそのものを楽しむにしても、最低限の実力って奴が必要なのよ。アンタみたいなお子様を一方的になぶったって面白くもなんともないでしょうが。見てる方だってそんなの盛り上がらないしね。


 弱っちいのが必死に抵抗して無残に死ぬのを見るのが好きなんて奴らが集まってる危ない場所でなら登録できるだろうけど、その場合アンタなんて真っ先に()になって終わりよ? それでも行きたいって言うなら場所を教えるけど?」


「うっ、それは困る。超天才の俺が死んだりしたら、妹との約束が果たせなくなるからな」


「なら諦めな。そもそも第一世代の魔導兵装(マグスギア)なんて使ってるようじゃ話にならないよ」


 少年が手にはめている魔導兵装(マグスギア)を見て、女性が呆れた声を出す。世界崩壊後も魔導兵装(マグスギア)は着々と進化を続けており、最初期の手袋や靴のような体のごく一部に装着する部分鎧装(ピンポイント)型はもはや身につけている者などいない骨董品だ。


 現在は第三世代……胴体に身につけるメインフレームに魔導核と魔道炉をセットし、その出力が許すバランスで二の腕、あるいは膝下くらいまでの外装を身につけ、更に手持ちの武装でカスタムするのが主流となっており、小さな部分鎧に全ての機能が詰め込まれていた第一世代とではそもそも出力の桁が違う。


「まあ確かに、第一世代にしちゃ出力が高かった気がするけど……それでも一.五世代ってところだね。使い手が優秀なら第二世代とならいい勝負ができただろうけど、今となっちゃ相当な達人でもなきゃそれで戦うなんて無理だし……あと、純粋にアンタは弱すぎる。どう考えても戦いには向いてないよ」


「仕方ないだろ! 俺は頭脳派なんだよ!」


「なら尚更闘士はやめときな。適当な技術屋にでも頭下げて下働きすりゃ、食ってくくらいにはなるだろ」


 言い捨てるようにそういうと、女性はヒラヒラと手を振ってから少年に背を向けて後ろ手に会場への扉を閉める。彼女の言い分はもっともであり、十分に少年を慮ったものではあったが……


「…………それじゃ間に合わないんだよ」


 少年は拳を握りしめてそう呟く。


(そんなまっとうな生き方じゃ、妹の治療が間に合わない……どうする? いっそ防壁をクラックして闘技城に潜り込むか? でも確かに選考で落とされるようじゃ無駄死にだろうしなぁ……ん?)


 どうしようかと思案しながら何気なく周囲を見回していた少年だったが、ふと視界の端に無造作に積み上げられた金属片を見つける。そこに近づきそれが何であるかを確認すると……少年の顔がこれ以上無いほどの笑みに満ちる。


「おい、ねーちゃん!」


「あぁ? 何だい坊や。まだ何か――」


「あれ! あれいらないのか!?」


「あれ?」


 追い返したはずの少年が扉を開き、大声で叫びながら何かを指さしている。それに対し女性は面倒そうな顔をしながらも建物の外へと出ると、少年が言う「あれ」の正体を確認する。


「ああ、アレかい。別にいらないよ。ある程度溜まったら再生機(リサイクラー)に突っ込もうと思ってた奴だしね」


 そこにあるのは破損した魔導兵装(マグスギア)のなれの果て。故障では無く破損のため修理もできず、元の資源に戻すために集められていたごみの山だ。


 魔導兵装(マグスギア)に使われているような金属は現在では新たに精製することはできないので本来ならばこれも十分な貴重品なのだが、闘士達にとっては魔導兵装(マグスギア)は適度に壊れる消耗品であり、技術屋連中が安く買いたたいていることもあってその真の価値を知ることはない。


「なら貰ってもいいか!?」


「あーん? 一応一山いくらで売れるんだけど……まあはした金だしね。アンタが持てる程度だったら好きに持っていきな」


「……言質はとったぜ?」


 女性のその言葉に、少年はもの凄く悪い顔で笑う。少年の手に装着された魔導兵装(マグスギア)は、戦闘用ではなく運搬用。少しでも快適に妹を運べるようにと改造されたその力を遺憾なく発揮することで、少年は自分の体重の倍以上のお宝(ガラクタ)を入手することに成功した。


 そうして仮拠点……ただの路地……に帰還すると、山のような荷物を満面の笑みで運ぶ少年に、妹は思いきり呆れ顔をする。


「お兄ちゃん、またそんなにゴミを拾ってきたの?」


「ゴミじゃねぇ! 浪漫だ!」


「……あたしにはわかんないよ。それでばとるぱれす? の登録はどうだったの?」


「ああ、それか? 失敗した!」


「そっか……」


 もはや目の前のガラクタに意識の半分以上を持って行かれている兄が適当に答えたその言葉に、妹は暗い安堵を覚える。


 自分の為に頑張っている兄。その失敗を喜ぶなんて酷いと思う反面、これで兄が危ない目に遭わないと思えば心の底からホッとしてしまう。


 もっともそんな自己嫌悪に満ちた思いも、兄の次の言葉ですぐに吹き飛んでしまう。


「だから、コレを使って最強の魔導兵装(マグスギア)を作る! そうすりゃ闘技城(バトルパレス)なんて楽勝だ!」


「……………………」


 兄の姿に、妹たる少女は言葉もない。というか、こうなったらもう何を言っても兄が自分の声を聞くことなど無いとわかりきっているのだ。例外があるとすれば自分が突然体調を崩したときだが、流石にそれを願うほど少女は悪辣ではない。


「ぐふふふふ、コレとコレを組み合わせて……おお、コレも使える! おいおい、ここの奴らはこの程度すら直せないって言って捨てるのか? 全くこれだから最近の若い奴は……」


「……お兄ちゃん、一二歳だよね?」


「おおっと、こんなところにお宝発見!? 三割近く無事なところが残ってるとか! これなら専用の魔導具を使わなくてもアレが実現できるか? ふひひひひ……」


「ねえ、お兄ちゃん――」


「いける! いけるぞぉ! これならあのねーちゃんをボッコボコにできる! あのでかいおっぱいをこいつでポロリさせてやるぜぇ!」


「……お兄ちゃん、嫌い」


「なにゆえにっ!?」


 全く何の心当たりもないのに突然妹から「嫌い」と言われて、少年が思いきり振り返る。その視線の先にあるのは、プーッと頬を膨らませ見るからにご立腹な妹の姿だ。


「お兄ちゃん、おっぱいのおっきい女の人が好きなの?」


「何だよ突然。まあ……うん、人並みには好きだと思うけど……」


「……なら、あたしもおっぱいおっきい方がよかった?」


「は? 意味がわからん。なんで***の胸の話になるんだ?」


「だって、おっきい方が好きなんでしょ?」


「その二つが繋がる理由がわからないんだが……とりあえずあれだ。おっぱいでもちっぱいでも、俺は***の事が大好きだぞ!」


「……………………」


 兄から向けられるまっすぐな好意に、少女は少しだけ恥ずかしくなる。勿論互いに相手に向けているのは家族としての愛情のみだが、それでも面と向かって大好きと言われればちょっとだけ照れくさい。


「……あのね、あたしも――」


「だから気にするな! まだ一〇歳なんだし、そのうち大きくなるって! 現に体重だって増えてるだろ! ズンズン重くなれば、おっぱいだってお尻だってもっとこう、ボーンと――」


「……お兄ちゃん、嫌い」


「褒めてるのに!?」


 今日も平常運転の兄に、少女は少しだけ頬を赤く染めつついつも通りに顔を背けるのだった。

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