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父、謎が謎を呼ぶ

『さて、では何から話すか……そうだな、前回曖昧だったこの塔の動力について話すか』


「動力? ああ、そう言えば魔力ではないと言っておったな」


『うむ。どうやらこの塔はエルフ達の感情……正確には「自尊心」を動力としているらしい』


「それは……らしいと言えばらしいが」


 オーゼンのその言葉に、ニックは何とも言えない表情になる。確かにエルフは自分達を高く持ち上げている者がほとんどだが、それが世界樹の動力になるほどだと言われればそんな顔をするしかない。


「というか、それはあれか? この塔の仕組みを考えれば、世界中の精霊はエルフの自尊心から生まれているということか?」


『精霊全てがここから生まれるかどうかがわからんから断言はできんが、少なくともここで生まれる精霊はそうであろうな』


「そうなのか……儂には精霊の声や姿はわからんが、何と言うか……賑やかそうだな」


 頬を撫でる気持ちのいい風すらも「フフーン! どうだい? ボクって最高に涼やかだろう?」とドヤ顔で吹き抜けていく様を思い浮かべて、ニックは思わず半笑いになる。それはニックが自分が魔法の素養に恵まれていないことを初めて感謝した瞬間であった。


『我にも精霊など見えぬから実情はわからん。が、重要な情報はそこではない。どうもこの「感情を魔力に変換する」というのは、後付けの機能らしいのだ』


「後付け? つまり、誰かがこの塔を改造したということか?」


『そうだ』


 ニックの問いに答えながらも、オーゼンはその術式を発見した時のことを思い出す。元々は普通に日常生活で漏れ出す魔力を収集していたはずの機能に、何者かがとんでもない魔改造を加えている痕跡があったのだ。


「そんなことできるものなのか?」


『普通はできん。少なくとも我には一〇〇年かけてもできるとは思えんし、我の知るどんな知者も偉人も同様であろう。


 だが実際に成されているのだから、できる者にはできるのだろうな』


 完全かつ精密に組み上げられた、世界樹Yggdrasill Towerの魔法回路。そんなものをいじり回すなど、ゼロから魔法式を組み上げるよりもよほど難易度が高い。


 だが、塔が完成した後にやってきたと思われるその技術者は、それを見事にやってのけた。その手腕は驚愕すら飛び越えてちょっと気持ちが悪いと思うくらいの能力であり、これを成した者は間違いなく世界最高の天才だと断言できる。


「しかし、何故そんなことを? まさか趣味というわけでもあるまい?」


『組み込まれた魔法式のなかに、その技術者と思われる者の言葉が残っておった。それによると当時の魔力を吸い取る方式では効率が悪く、またエルフ達にも過度な負担がかかっていたらしい。


 これは我の推測なのだが、そうすることで半強制的にエルフ達を周囲に留まらせることが目的だったのではないかと思う』


「ふーむ。つまりそこまでしてこの塔を動かす必要があったということか……何故だ?」


『それに関しては我もわからぬ。大分探しはしたが、結局この塔の建設目的までは内部情報に残っていなかったのだ。


 ただあれほどの防衛戦力を備えさせた上で厳重に秘匿もしているのだから、この塔の安定稼働に何か重要な意味があるのだとは思うが……自爆してしまったあちらの遺跡ならその手の情報が残っていた可能性が高いのが悔やまれるな』


「むぅ……で、わかったのはそれだけか?」


『まさか! 他にもあるぞ。あちらの遺跡にもちらりと情報があったが、やはりここ以外にもこの塔のような大規模施設があることが判明した。場所は大陸の北……以前に貴様と訪れた獣人達の町、マンナーカーンだ』


「マンナーカーン!? あれほど人が住んでいるところに、誰にも知られずこんな巨大な塔が立っていると?」


『そうではない。情報によると地上ではなく地下深くに大本となる施設があり、そこから世界中の大地に魔力を供給しているようだな』


「地面に魔力……それは何か意味があるのか?」


『ここと同規模の施設を作ってやっているのだから、無論意味はあるのだろうが……』


 何らかの目的を持って魔法を使うならばともかく、単に大地に魔力を流し込んだとしても何も起こらない。逆に魔力がなくなると土中の生物が死んでしまったり植物が大地から魔力を取り込めなくなるため育成障害が起きたりするが、それを補給する目的にしては世界中というのはあまりにも規模が広すぎて無駄に過ぎる。


『……そう言えば、さっき話したこの塔を改造した技術者が、妙なことを書き残していたな』


「妙なこと?」


『うむ。感情を動力源とすることで塔の出力は四〇〇倍ほどになったようなのだが、それでもなお「足りない」と書かれていたのだ』


「足りない? ……っと、いや待て。四〇〇倍!?」


 桁外れなその数字に、ニックが素っ頓狂な声を出して驚く。その気持ちはよくわかるため、オーゼンはもう一度言葉を重ねた。


『我も見間違いかと何度も確認したが、確かに四〇〇倍だったぞ』


「こんなでかい建物の性能を、四〇〇倍も引き上げたのか……でたらめだな」


『フッ、まるで貴様のようだな……だがそれほどの事ができる者が、それだけのことをしても「足りない」何かがあったらしい』


「気になるな……」


 答えに辿り着けない情報ばかりが増えていくもどかしさに、ニックは顎に手を当て考え込む。


「ということは、次の目的地はマンナーカーンか? カール陛下に頼めば地面に穴くらいなら掘らせてくれるとは思うが……」


『いや、駄目だ。忘れたか? この塔に入ることができたのは、運良く警備ゴーレムの制御核を手に入れることができたからだ。エルフ王が駄目だったのであれば獣王もまたその施設には入れぬのだろうし、そうなると入り口を見つけることができたとしても内部には入れぬ。


 貴様ならば無理矢理こじ開けることはできるだろうが、世界中に魔力脈を張り巡らせているような施設に問題が生じたらどうなるかなど考えたくもない』


 魔力の流れが止まるだけならばおそらく何の問題もない。だがもし魔力の流れが逆転して世界中の大地から魔力が失われたりすれば、比喩ではなく世界が滅ぶことすら考えられる。


 いくら知りたいことがあるからといって、そんな危険を背負うつもりはオーゼンには無いし、またニックに背負わせるつもりもなかった。


「では、手詰まりということか?」


『フフフ、そうでもないぞ』


 やや落胆した声を出すニックに対し、オーゼンが不敵な笑い声をあげる。


『どうやらここと獣人の国の他に、もう一つ別の施設があるらしいのだ』


「ほぅ? その流れだと基人族の王都にでもありそうだが……いや、そうとも限らんか」


 エルフや獣人の国は、記録が残っていないほどに遙か昔からずっと存在している。ならばこそその王都に古代の重要施設が存在する……実際には重要施設があったからこそそこに町ができ、栄えて国となったのだろうが……のは納得がいく。


 だが基人族には幾つもの国が存在し、それぞれが数百年から精々一〇〇〇年程度で興ったり滅んだりを繰り返しているため、遙か古代からずっと続いている国というのは存在しない。


 であれば当時の重要施設があった場所が何処かの国の王都になっているという偶然(・・)は可能性としては存在していても、決して絶対ではないのだ。


『基人族の領域というのは合っているな。だが場所としては今まで我が訪れたことのない場所だ。故にどうなっているのかは行ってみなければわからん。施設の情報もここには記されていなかったからな』


「ん? そうなのか?」


『ああ。これも塔を改造した技術者が残した覚え書きのようなものなのだが、そこにある何かの力もこの者が手を加えているらしい。一体どれほどの才能に恵まれたのか』


「なるほどなぁ。そういうことなら、大まかな場所くらいはわかると思ってよいのだな?」


『そうだ。何を探すとも言えぬのが心苦しいところだが、とりあえずは近くまで行ってみるのは無駄ではなかろう。どうしても見つからないのであればマンナーカーンまで行くことになるわけだが、それならばどのみち基人族の領域は通るのだしな』


「ま、そうだな。ではイキリタスに顔を見せたら、早速出発することにするか」


『うむ!』


 言ってニックはオーゼンを腰の鞄にしまい込むと、久しぶりに感じるその重さを楽しみながら自動昇降機(エレベーター)の上に乗る。するとオーゼンもまた家に帰ったような心持ちを味わいながら装置を動かし、二人は世界樹を後にする。


 影も形も見えなくなった世界樹を背に、ニック達は新たな旅路に向けてその足を動かすのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >これを成した者は間違いなく世界最高の天才だと断言できる 嫌な予感がするのう・・・ どっかにそんな感じのこと自称する人がいましたよねぇ >地脈 獣王陛下のアレですよねぇ・・・ >もう1か…
[一言] ふむ今出てる情報だと深海か聖女のところか?
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