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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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49/800

父、捕まる

 真っ白に燃え尽きたオーゼンと引き換えにニックが王都にたどり着いたのは、その日の夜のことであった。閉まるギリギリに町の門に滑り込み、流石にその日は適当な木賃宿を取って、翌朝。


「ふーむ。ここが王都か……」


『……………………』


「なあオーゼンよ。そろそろ機嫌を直したらどうだ? 昨夜もあんなに磨いてやったではないか」


『五月蠅いぞ馬鹿者。すり減るかと思ったわ!』


 城への道すがら、ニックとオーゼンは軽口を叩き合いながらゆっくりと町並みを見回していた。なお昨晩は拗ねたオーゼンが一言も発しなくなったため、ニックの手によりオーゼンの体はピカピカに磨き上げられている。


「む? 布で擦るだけですり減るのか? それ程柔らかい金属なのであれば、きちんと収納場所を考えねばならんが」


『そんなわけ無かろう! だがアレだ。貴様の手で擦られると何となくすり減る気がするのだ。何もかも貴様が悪い。反省せよ』


「なんと理不尽な……」


『理不尽なのは貴様の存在そのものだ! まあいい。それにしてもこれが王都とは……何というか、少し想像と違うな。もっと活気があるかと思っていたが』


「ふむ、そうだな。儂もそう思っていたのだが、どうやら想像以上にこの辺は平和らしいな」


 王都サイッショは、王都という言葉とは裏腹に落ち着いた雰囲気を醸し出していた。人が少ないとか寂れているというわけではないのだが、町を行き交う人々が何となくゆったりと余裕を持った動きをしている。


『平和か……あの王女の言動からだともっとゴタゴタしている印象だったが』


「上の方で問題があっても、人民の暮らしに影響が出ないように取り計らうくらいのことはしているのであろう。この辺は周囲の魔物も弱いものが多いし、であればこの気風も納得できるというものだ」


『ほぅ? 何だ、貴様この辺に詳しいのか?』


「詳しいという程では無い。娘と旅をするために少しばかり色々調べたりしたことがあるだけだ。ここに来たのは初めてだしな」


 情勢が安定し、周囲の魔物も弱いコモーノ王国はまだ力の弱い勇者が最初に立ち寄るには最適な国だ。歴代の勇者はこの周辺で最低限の力をつけ、ある程度まで行くと王との謁見を経て他国へと旅立っている。


 だが、今代の勇者であるフレイは違う。ニックが一緒に旅立ったことでチマチマと雑魚を倒して経験を稼ぐ必要が無く、更にとある因縁・・によりコモーノ王国は素通りしてしまったのだ。その後もいくつもの「普通なら立ち寄る場所」をニックの圧倒的な強さを以てスルーしているため、フレイは勇者としては極めて珍しいことに人間の間での知名度が低い。


 もっとも、そんな事を繰り返しているからニックは勇者パーティから追放されてしまったわけだが……


「賑やかというなら、商業都市などはとんでもない賑わいだったな。町を歩くだけで商人達の大声がそこかしこから飛んできて……っと、着いたな」


 王都と言うだけあってアリキタリの町の何倍もの広さがあるが、城までの道は町の至る所から直線で石畳が整備されており、とても歩きやすい。散歩程度の時間でたどり着いた城門にて、ニックは門番の兵士に声をかけた。


「すまぬ。この手紙で登城するようにと書かれていたのだが、どなたかに取り次ぎを頼めるだろうか?」


「手紙ですか? 拝見します……わかりました。では少々こちらでお待ちください」


 ニックから渡された手紙に目を通し、門番の一人が奥へと消えていく。そのまましばらく待っていると、武装した数人の兵士がニックの方へと歩いてきた。


「おい、大人しくこっちに来い!」


「ん? ああ、わかった」


 その口調にトゲのようなものを感じつつも、ニックは指示に従い何故か詰め所の奥へと通される。そしてたどり着いた先は……何故か牢屋であった。


『おい貴様、これはどういうことだ?』


「儂にもサッパリわからん……おいそこの! 何故に儂は牢に入れられたのだ?」


「五月蠅い! すぐに取り調べの準備が出来るから、それまで黙っていろ!」


 ニックの言葉に、牢番は取り付く島も無いように怒鳴りつける。


「ふーむ。これはしばらく様子を見るしかないか」


『ほぅ。貴様であれば今すぐに牢を破って出ていくかとも思ったが……』


「出ていくだけなら簡単だが、それでは何もわからずお尋ね者になるだけだからなぁ。せめて捕らえられた理由くらいは知りたい」


『まあそうだな。どうせ貴様を害することのできる者などおらんのだから、ここは待つのが得策か』


「そういうことだ」


「おいお前! さっきから何を一人でブツブツ言ってやがる! 自分の立場がわかってるのか!?」


 捕らえられているというのに余裕の態度を崩さないニックに、牢番がイライラした口調で怒鳴りつける。だがニックは肩をすくめるだけであり、そんな態度がまた牢番を苛つかせたが、その八つ当たりのような怒りが炸裂する前に、他の兵士とは装備の違う中年の男が通路に姿を現した。


「取り調べの準備ができた。そいつを連れてこい」


「ハッ! さっさと出ろ!」


「そう急かすな。すぐに行く」


 牢の扉が開けられ、中からニックがのっそりと体を出す。そのまま完全武装した兵士に前後を挟まれながら歩き、やがて狭い石造りの部屋に簡素な木製の机と椅子だけという如何にもな部屋にたどり着いた。


「座れ」


 責任者と思われる男に促され、ニックは小さな椅子に座る。ギシリと嫌な音がしたが、幸いにして椅子は壊れなかった。


「で、自分が何故ここにいるかわかるか?」


「わかるわけ無かろう。儂は来いと言われたから城に来ただけで、いきなり拘束される理由など無い」


「なるほど。あくまでしらを切るつもりか……ならこの手紙はどうした? 何故お前がこれを持っている?」


「? 意味がわからん。儂宛ての手紙を儂が持っていることに何の問題があるというのだ?」


 本気で訳がわからなくて首をかしげるニックに、ニックと同年代であろう目の前の男はダンと拳を机に叩きつける。


「ふざけるな! そんな言い訳が通ると本気で思っているのか!」


「いや、待て。本当にわからんのだ。何故儂は拘束されたのだ?」


「はぁぁ……わかった。なら貴様がどれだけ間抜けことをしたか、きちんと説明してやろう。まずこの手紙が出されたのは、今から二週間と少し前だ。その配送先はアリキタリの町の冒険者ギルド……ここまではわかるか?」


「うむ。問題無い」


「なら続けるぞ? 王都サイッショからアリキタリの町まで、片道おおよそ二週間から三週間だ。そしてこの手紙はアリキタリの町の冒険者ギルドを経て受け取り主に渡るようにされている。つまり今現在この手紙はアリキタリの町にあるはずなのだ」


「あるはずと言われても、そこで儂が受け取ったのだが……」


「そんなわけあるか! いいか? アリキタリからここまで二週間だぞ? やっと向こうに届いたくらいなのに、何故貴様がそれを持っている? 貴様が本物の受け取り主であれば、どんなに早くてもサイッショまで来るのは二週間後であろうが!


 なのに貴様は今ここにいる! つまり配達中の手紙を盗むなり奪うなりして途中からここに戻ってきたということだ! どうだ、違うか!?」


「お、おぅ? いや、それは……」


『なるほど。そう来たか……いや、考えてみれば当たり前だな』


 一人納得するオーゼンとは別に、ニックの額に嫌な汗が浮かぶ。


「あー、それはあれだ。儂はちょっとばかり走るのが速くてな。アリキタリからここまで一日でたどり着いたというか……」


「そんな速さでこんな距離を走れる人間がいるか! つくならもっとマシな嘘をつけ!」


「嘘では無いのだが……何なら走って見せるか?」


「お前は俺達を馬鹿にしているのか!? 何で犯罪者が走って逃げるのを見届けると思ったのだ! さあ、さっさと吐け! 何が目的だ! どうやってこの手紙を手に入れたのだ!?」


 凄い剣幕でダンダンと机を叩きまくる男に、ニックは心底困り果てる。


『これに懲りたら次からはきちんと馬車を使うのだな。人はあんな速さで走ってはいかんのだ。うむ!』


 ここぞとばかりに意趣返しをするオーゼンの言葉を聞きながら、ニックはどうしたものかと途方に暮れた。

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