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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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父、謝罪する

「お主は確か……何だ、カモッセだったか?」


「カマッセだよ! アリキタリの町の冒険者ギルドで、期待の銀級冒険者のカマッセさんだ!」


「おお、そう言えばそんな名であったな!」


 足下で叫ぶように言う男に、ニックは得心がいったと大きく頷いてみせる。実際ニックとカマッセはカマッセが一方的に声をかけた程度の間柄なので、まともな人間なら絶対着ないであろうトゲトゲの鎧以外の印象はニックには残っていなかった。


「いや、そんなことよりアンタだよ。入り口は閉まってるはずなのに――」


「あー、まあそう言う話は後だ。先にやるべき事をやってしまわねばな」


「やる? やるって何を……?」


「この状況だぞ? 決まっているではないか!」


 おののくカマッセから目を離し、目の前の魔導兵を見てニックがニヤリと笑う。


「此奴をぶん殴るのだ!」


『王選のメダリオン所有者の接触を確認。全力戦闘機動フルスペックモードへ移行します』


「ぬっ!? 離れておれ!」


 無機質な声を発した魔導兵が、ニックが掴んでいた大剣を猛烈な勢いで振り上げる。剣を掴んだままのニックはもろともに宙に持ち上げられたが、眼下のカマッセにそう叫んでから大剣の腹に拳をぶち込み……だがそれは中空に浮かび上がった光る壁によって遮られる。


「何だこれは? うおっ!」


 妙な手応えに一瞬気を取られた隙に、ニックの体ごと叩きつけんと大剣が恐ろしい速さで振り下ろされる。だがニックは途中で手を離すことで自ら空へと跳ね飛ばされ、そのまま華麗に宙返りを決めて少し離れた場所に降り立った。


「何だ今の妙な手応えは? 殴った衝撃を手に全く感じなかったぞ?」


『聞くのだニックよ。具体的にどうとは言えぬが、アレは貴様にとって極めて相性の悪い能力だ。あれとまともに対峙するのは――』


 オーゼンの言葉が終わるより前に、ニックに向かって今度は横凪の軌道で大剣が振るわれる。が、ニックはそれを左腕で受け止めると、まるで金属の籠手でするように皮膚の上で大剣を滑らせ弾いた。当然腕にはかすり傷ひとつついていない。


 そうして生まれた隙を見逃すこと無く魔導兵へと駆け寄ると、右の膝に向かって腰の入った拳を一撃。一瞬目も眩むほどの閃光が辺りを埋め尽くすが、次の瞬間には光が消え、それと同時に魔導兵の右足が吹っ飛んだ。


「うむ! 少し強めに殴れば十分いけるな。で、オーゼン、相性がどうのと言っていたが、何の話だ?」


『……いや、何でもない。我のことは気にせず適当に戦うがよい』


「そうか? まあ確かに話をするなら敵を倒してからで十分だしな」


 言ってニックは戦いを続ける。だが普通に殴って倒せる以上もはや魔導兵はニックの敵ではなかった。高い再生能力も一撃で腕や足を吹っ飛ばされるのではどうしようもなく、ほどなくしてニックが魔導兵の胸にあった核を貫くと、あっさりとその活動を停止し光の粒子へと還っていった。


「よし、これでとりあえずは安全だな。おーい、お前達! 大丈夫か?」


「ニックさん! はい、俺達全員大丈夫です!」


 魔導兵が消え去るのを見届け、ニックは壁際に避難していたソーマ達の方へと歩いて行った。そこにはいつもの五人の他に、さっき逃がしたトゲトゲ鎧の男ことカマッセの姿もある。


「ニックさんって、相変わらずわけわかんない強さよね。どうやったらあんなに強くなれるのかしら?」


「やっぱり凄い訓練をしてるとかなのかな?」


「どうなんだろうな? 聞けば教えてくれそうだけど、聞いても絶対参考にならねー気がするぜ」


「助けてくれてありがとうございました、ニックさん! でも、ニックさんは何でここに?」


 端の方で三人固まって話しているベアル、カリン、ホムを余所に、ソーマが丁寧に頭を下げてニックに問うた。それに対してニックは一気に苦い表情になる。


「うむ。それなのだがな……すまぬ。どうやら儂がお主達を巻き込んでしまったようなのだ」


「ニックさんが? えっと、話が見えないんですが」


「ああ、今から説明する。実はな……」


 その場にどっかりと腰を下ろすと、ニックはこれまでの経緯を説明し始めた。流石にオーゼンのことは明かせないため、自分が知らぬ間にこの遺跡の転移陣を目覚めさせてしまったこと、それにソーマ達を巻き込んでしまったらしいこと、そして彼らが帰らないことを不審に思って探しに来たことなどをありのままに告げていく。


「ということで、儂のせいでお主達をいらぬ危険に巻き込んでしまったのだ。本当にすまなかった」


「いえ、そんな! 頭を上げてくださいニックさん!」


 座りながらも深々と頭を下げて見せたニックに、ソーマが慌てて声を上げる。


「そうっすよ。確かに巻き込まれたって言えばそうなんだろうけど、話を聞いた限りじゃどうしようもなかったっぽいし」


「流石に本人の知らない所で起動した罠? にまで責任とれとは言えないわよね。それにこうしてわざわざ助けに来てくれたわけだし」


 そんなソーマにベアルとカリンが追従し、ホムもまた深く頷いている。ただシュルクのみはムスッとした表情のまま軽くうつむいている。


「シュルク? どうした、何か儂に言いたいことがあるのか?」


「あー、違うわ。コイツのはオッサンとは関係ねーよ。なあシュルク?」


 ニックとシュルクの会話に割って入ったカマッセが、シュルクの前に立つ。それでもシュルクが顔を上げないことで、カマッセはシュルクの胸ぐらを掴んで無理矢理顔を引き起こした。


「おい、いつまでふてくされてやがる。自分が何したかわかってんのか?」


「僕は……」


『おい貴様、あれはとめなくていいのか?』


(うーむ。こうなった事情がわからぬ。ならばしばし様子を見た方がいいだろう)


 カマッセの一回りほども年下であろう新人に対する暴行にオーゼンが声をあげるが、ニックはそれを静観することを選ぶ。銀級冒険者の肩書きは伊達ではない。であればそうまでしなければならない何かがあったのではないかと考えたからだ。


「いいか? 確かにあのデカブツには俺の攻撃が効かなかった。だから最終的にはお前に魔法を撃つように指示したかも知れねぇ。だがそれはもっと他の可能性を全部試して、それが駄目だった場合に安全を確保してからだ。


 なのにお前は俺の指示を無視して勝手に魔法を撃ちやがった。自分が何したか、そのせいでどうなったかちゃんとわかってんのか!?」


「……………………」


 カマッセの言葉に、シュルクは何も答えない。ただ無言で歯を食いしばり、涙がこぼれそうになるのを必死に耐えている。


「シュルク……」


 ずっと水生成の魔法ばかりでなかなか戦闘に参加できず、自分が役立たずに感じていたこと。カマッセの剣が効かなかったことで遂に自分の魔法が役立つのだと先走ってしまったこと。そういうシュルクの思いを長い付き合いから理解できていただけに、ソーマ達もかける言葉が思いつかない。


「はぁぁ……まあいい。だがこれだけは覚えとけ。次はねーぞ?」


「……フン。次なんてあるわけないじゃないか。こんな失敗をした僕と、カマッセさんがまた組んでくれるとは思えなっ!?」


 シュルクが言い終わるより早く、カマッセの拳がシュルクの頭を殴り飛ばした。その場で倒れ唖然とするシュルクに、カマッセは冷ややかな視線を向ける。


「全然わかってねーじゃねーか。いいか? 俺がお前と組まないのは当然だ。臨機応変と自分勝手をはき違える馬鹿となんか組んだら、命がいくつあっても足りねーからな。


 だが意味が違う。次がねーってのは俺じゃなくシュルク、お前のことだ」


「ぐっ……僕の何の次が無いって言うんだよ!?」


「決まってんだろ。命だよ」


「っ……!?」


 カマッセの言葉に、シュルクは思わず息を詰まらせる。この数日は今までとは比較にならない程「死」を身近に感じ続けていただけに、その重さは絶大だ。


「あんなこと繰り返してたら、自分の命は勿論仲間の命だってヤバい。初心者講習で習わなかったか? 人ってのは簡単に死ぬ。そして死んだ奴が生き返ったりはしない。最初から次なんてもんはねーんだ。それをしっかり覚えとけ!」


「ぐっ……うぅぅ……………………」


「何だ? 何か言いたいことがあるのか? 今なら期待の銀級冒険者であるカマッセさんが聞いてやるぜ?」


「ごべん、なざい……」


 こらえていたものが噴き出したように、シュルクが滂沱の涙を流しながら謝罪の言葉を口にする。


「ごべんなざい……僕が……僕がわるがっだでず……僕が……うぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 静かになった最終試練の間に、シュルクの泣き声だけが大きく響き渡った。

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