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父、魔法都市に着く

 旅の途中で立ち寄った町で戦争終結の報を聞いてから、更にしばし。夏の日差しがギラギラと照りつける中、ニック達は遂に旅の目的地であった魔法都市マジス・ゴイジャンへと辿り着いていた。入町手続きをすませ妙に高い町壁を抜けると、そこに見える景色にニックは思わず驚きの声をあげてしまう。


「おお? 何だあれは?」


「はは。おじさん、この町は初めてかい?」


 と、そんなニックに門番の男が話しかけてきた。如何にも人が良さそうな好青年に対し、ニックもまた笑顔でそちらに歩み寄っていく。


「ああ。見ての通り今この町に着いたところなのだが、あれは一体何なのだ?」


「ふふふ、あれこそマジス・ゴイジャンが誇る『三賢の塔』さ! おじさんは見た感じ冒険者みたいだし、詳しい内容は冒険者ギルドに行けば教えてくれるよ。大体何処の町でも同じだろうけど、冒険者ギルドはここをまっすぐ行った先だ」


「そうか。ありがとう」


「これも仕事だからな。ゆっくりこのマジス・ゴイジャンを楽しんでいってくれ!」


 終始笑顔だった門番の若者に手を振って別れると、ニックは言われたとおり大通りを進んでいく。活気溢れる通りの脇には露天なども立ち並んでいたが、飲食物の他にも何だかわからない枯れた草やらグネグネした金属製の棒のようなものが売られていたりして、ニックの好奇心がそこはかとなくくすぐられる。


「これはなかなか見応えがありそうだな。随分大きな町のようだし、一回りするだけでもかなり楽しめそうだ」


『うむ。我としてもこの世界の魔法技術に触れるのは楽しみだ。だがやはり一番は……』


「ふふふ。あの塔だろうな」


 何処か浮き立つようなオーゼンの声が向かう先も、当然町の中央にそびえ立つ三本の塔に集約している。気持ち早足になったニックが冒険者ギルドまで辿り着くと、早速受付の順番待ちの列に並んだ。


「次の方、どうぞ」


「邪魔するぞ。今日この町に来たばかりの鉄級冒険者で、ニックだ」


「ニック様ですね……はい、ギルドカードは確認致しました。それで本日はどのようなご用件でしょうか?」


「うむ。町の中央に立つ三本の塔のことについて知りたいのだ。門の所にいた親切な若者が、ここで聞けばいいと教えてくれたのでな」


「畏まりました。では『三賢の塔』について簡単な説明をさせていただきます。あの三本の塔はこの町の創設者である三賢者が持てる魔法技術の粋を集めて作り上げたと言われる建物で、西側の塔が新人魔法使いの育成に使われる『未来の塔』、東側の塔がありとあらゆる知識を集めた書物を保管する『英知の塔』、そして中央にあるのが完全攻略した者に奇跡を授けると言われる『試練の塔』です。


 なお、中央の塔に関しては冒険者ギルドが『ダンジョン』であると認定しております」


「ダンジョン!? こんな町中にか!? それは……大丈夫なのか?」


 塔を見たときよりもずっと大きな驚きの声をあげるニックに、しかし受付嬢はニッコリと笑って答える。


「はい。ここのダンジョンは世界でも類を見ない『制作者が判明している』ダンジョンですので、管理方法などもほぼ完全な形で残されております。魔物が外に出てくるようなことはありませんので、ご安心ください。


 更に詳しい説明は『未来の塔』と『英知の塔』は塔の入り口内部に、『試練の塔』は入り口手前に専用の受付がありますので、ご入り用であればそちらにお問い合わせいただければと思います」


「うむ、わかった。ありがとう」


「お役に立てて光栄です」


 一礼する受付嬢に礼を言ってニックがその場を離れると、腰の鞄からオーゼンが語りかけてくる。


『おい貴様よ。以前にもちらっと聞いたことがある気がするが、ダンジョンというのは一体なんなのだ?』


「ん? ああ、ダンジョンというのは……何であろうな。生きている遺跡とでも言えばいいか……」


『生きている? それは稼働状態にあるという意味か?』


「おそらくはそれで間違っていないはずだ。明らかに人為的に作られた建造物で、内部に存在する全てが自然に……いや、不自然に復活するのだ。どれだけ狩っても魔物を狩り尽くすことはできず、全て解除したはずの罠が復活し、宝箱すら中身が戻る。その理屈は未だ以て全くわからんということだが……それがこんなところにあるとはな」


『ふーむ? 内容からするとアトラガルドの魔導構造体生成装置(ストラクチャー)を利用している可能性が高そうだな。以前にあの歴史学者達と潜った墳墓のように、元々は娯楽用に作られた施設が何らかの形で誤作動しているのではないだろうか?


 流石に魔物を無限に生み出すような機能は存在しないはずだが、それに関しては外部から強制転移で集めるなどの手段も考えられるしな』


「なるほどなぁ。ならばいずれ世界中のダンジョンを巡ってみるのもいいかも知れんな。とは言え、今はこの町だ。どうする? いきなり塔に行ってみるか?」


『そうだな。一日二日で調べきれるようなものだとは思えんから、塔に通いつつ空き時間で町を回るのがいいのではないか? どうせ日々の食事やちょっとした買い出しで歩き回ることになるのだろうしな』


「よし、ならばそうしよう!」


 話しながら冒険者ギルドを出ると、ニックはそのまま町を歩いて行く。買い食いをしたり宿を物色したりしつつ塔の元へと辿り着けば、そこには祭りかと見まごうばかりの大量の人が行き交っている。


「これは賑やかだな。王都でもここまで人はおらんぞ?」


『最初はどの塔にするのだ?』


「悩みどころだな。中央の塔は最後にするとしても、西か東か……」


『貴様が魔法使いの育成所を見ても意味はないのではないか?』


「そうか? これほどの場所にある施設であれば、ひょっとして儂が魔法を使えるようになる訓練などもあるかも知れんぞ?」


『……まあ、うむ。絶対にないとは言わんが』


 鞄から聞こえてくるオーゼンの声には、何処か同情のようなものが混じっている。ニックに魔法の才能がないことなどこの旅の間だけでも嫌と言うほど思い知っているからだ。


「それに、お主とて若者にどのようなことを教えているかは気になるであろう? ちょいと顔を出してこの町における魔術師の雰囲気を掴んでおくのは悪い考えではあるまい」


『それはそうだな。ではまずは西の塔に行くか』


 二人の意見がまとまり、ニックは西の塔へと向かう。そうして中に入ればそこには人が溢れており、その中でもひときわ人気のありそうなところにニックは近づいていく。


「あー、すまぬ。随分と賑わっているようだが、ここは一体何をしておるのだ?」


「あ、はい。ここはこの『未来の塔』の一番の目玉である、小ダンジョンによる魔法訓練を行う場所です」


「小ダンジョン!? この先にダンジョンがあるのか?」


 本日三度目の驚きの声をあげるニックに、係の女性は少し得意げな顔をして答える。


「はい。といっても、お隣の『試練の塔』とは違ってこちらは魔物もいないですし、内部構造もほぼ固定で必要なときは即座に脱出する方法もあります。『やる気のある者を育てることこそ、未来へと繋がる最良の道である』という理念を掲げてこの塔をお作りになった三賢者の一人、ハリー・キッター様の最高傑作と謳われるものなんですよ!」


「実に素晴らしい言葉だ。そういうことなら是非とも儂も体験してみたいところだが、それは可能なのだろうか?」


「勿論です。やる気のある方を追い返したら、ハリー・キッター様に顔向けできませんからね。あっ、でも……」


「ん? どうかしたのか?」


 突然表情を曇らせた係の女性に、ニックは眉をひそめて問う。


「いえ、この小ダンジョンは月に一度自動的に内容が切り替わる仕組みなんですけど、今は初めて魔法を習うような子供向けのものになっておりまして……」


「ふむん? 儂は別にそれでも構わんが?」


 そもそも魔法の素養が無いニックからすると、逆に高度な訓練内容だと全くついていけない可能性が高い。であればむしろ子供向けというのは望むところであった。


「そうですか? お客様が宜しいのであれば、こちらとしても問題はありません。では詳細を説明させていただきますね」


 ニックの言葉に気をよくした係の女性が、そういって利用料やら細かい注意事項などを説明していく。それを一通り聞き終え、料金を払ったニックがいよいよ小ダンジョンの入り口に立つと、係の女性がニッコリと笑って手を振る。


「では、『ハリー・キッターと賢者の卵』! どうぞごゆっくりお楽しみください!」

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― 新着の感想 ―
[一言] また素晴らしいネーミングか! どんなダンジョンか楽しみです 次回も楽しみにしております
[良い点] ハリー・キッターと賢者の卵は草生えた [気になる点] 元ネタ的に3棟以外にも3、4はありそう
[一言] ケルベロス寝かしつけたり魔法チェスしたりしそうなダンジョンですねぇ…
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