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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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新人達、パーティを組む

「カマッセ……?」


 名乗られた名前に覚えが無く、シュルクはその場で首をかしげる。


「何だよオイ、こんな場所にいるから何者かと思ったが、この俺を知らねーとかお前等さては新人だな? まあここはこの俺、カマッセさんに……うぉぉ!?」


 格好よく決めようとしていたカマッセの体勢が、ゴーレムに押し込まれてやにわに崩れる。ゴーレムの腕力はカマッセが思うより大分強かった。


「ちょっ、マジか!? おいお前等、すぐに走って逃げろ!」


「えっ? あ、はい……?」


「馬鹿! いい加減正気に戻りやがれシュルク!」


「ベアル!? 誰が馬鹿――」


「いいから走れ!」


 ベアルはシュルクの腰を掴み、押し込むような形で無理矢理にソーマ達の辺りまで戻る。そこでやっと状況を理解したシュルクが体勢を立て直すと、全員一目散に来た道を走って引き返した。


 そうして全力疾走にて迷宮内に点在する少し広めの小部屋にたどり着くと、力尽きたとばかりに全員がその場で座り込んで互いの姿を確認する。


「はぁ、はぁ……みんないるか?」


「俺は大丈夫……カリンにホム、シュルクもいるな」


「私は平気よ」


「ボクも……はぁ……大丈夫……」


「ぜはぁ、ぜはぁ…………」


「はは、やっぱりシュルクはもうちょっと体力をつけた方がいいかもね……」


 ソーマの言葉に、シュルクは軽く恨みがましい視線を向けるも何も言わない。基礎体力の大事さは、今この瞬間シュルク本人こそが最も痛感していたからだ。


「それで? あのトゲトゲのにーちゃんは誰だったんだ?」


「カマッセさんって言ってたけど……知ってる?」


 カリンの言葉に、全員が眉根を寄せたり首をかしげたりする。実際鉄級くらいなら先輩として接することはあるが、銀級まで上になると新人ではなかなか絡むことはない。特にカマッセは一部の冒険者の間でのみ有名なタイプだったため、ソーマ達が知らないのは無理もないことであった。


「てか、今更だけど俺達だけ逃げてきちゃって良かったのか?」


「俺達じゃ手も足も出ない魔物だったし、銀級の人の指示なら問題無いと思うけど……」


「だ、だよね。あそこにボク達がいても足手まといにしかならなかったよ、きっと」


「くっ……」


 ホムの「足手まとい」という言葉に、シュルクが悔しそうに顔を歪める。それを見たカリンがシュルクの肩をポンと叩いて声をかけた。


「ほら、そんな顔しないの! 仕方ないじゃない。私達が駆け出しの銅級冒険者なのはどうしようもないんだから」


「それは……でも、あの筋肉親父だって……」


「いや、あの人を比較に出すのはやめようぜ? 絶対そういう対象じゃねーって」


 ベアルの言葉に、シュルク以外の全員が苦笑いを浮かべる。もしもこの場にニックがいたなら……と想像すると、笑いながらあのゴーレムを軽く殴り飛ばす姿しか思い浮かばなかったからだ。


「おう、お前等ここにいたのか」


 と、そこに声がかかる。全員が顔を向けると、角の向こうからカマッセが笑いながらソーマ達の方へ歩み寄ってきた。


「あ! えっと……カマッセさん!」


「おうよ、期待の銀級冒険者、カマッセさんだぜ!」


「助けてくれてありがとうございました!」


 上機嫌で名乗るカマッセに、ソーマが丁寧にお礼を言う。それに合わせて他の者も……当然シュルクもお礼を言った。


「それでトゲのにーちゃん、あのゴーレムは?」


「ん? あ、ああ! そりゃあこのカマッセさんが華麗に撃退してやったぜ! とは言え完全に倒すのは無理だったから、しばらくはあっちには戻らない方がいいな」


「凄い! 流石銀級冒険者ですね!」


「まーな! ハハハハハ!」


 ホムに褒められ、カマッセは上機嫌に笑う。もっとも、実際にはカマッセはゴーレムを撃退できたわけではない。単にあのゴーレムは一定時間同じ場所に留まる対象を排除することを目的としていたため逃げた相手を追わないだけなのだが、その事実を知るものはここにはいない。


「ま、それはそれとしてだ。お前等何でこんな場所にいるんだ? 見たところ銅級だろ?」


「それは……俺達にも良くわからなくて。気づいたらここにいたって言うか……」


「詳しく話してみろ」


「はい。俺達はギルドでゴブリンの巣穴の――」


 真面目な顔になったカマッセの問いに、ソーマはこれまでの経緯を説明していく。ゴブリンの巣穴の掃討依頼を受けたこと。それ自体は上手くいったけれど、最後に巣穴の奥から突然この場所に跳ばされたこと。それから三日間ずっと迷っていること……


「なるほど。つまりあの巣穴がお前達の仕事の跡だったってことか」


「心当たりがあるんですか!? 俺達、ここからどうやって帰ったらいいかもわからなくて……っ!」


「待て待て! 落ち着け! じゃあ俺がここに来た経緯も話してやろう」


 興奮するソーマをなだめ、今度はカマッセがここに至る経緯を説明する。


「まず、俺は別口の依頼で森を探索してたんだが、そこで処理されてないゴブリンの死体が大量に積まれた場所を見つけた。で、何だこりゃと思って念のため側にあった穴のなかを調べたんだが……その一番奥の床に、生きている転移系の魔法陣を見つけた」


「魔法陣ですか?」


「そうだ。銅級のお前達じゃ知らなくても当然だが、何か床に丸くて光る模様が浮かんでたら大体魔法陣だと思えばいい。で、魔法陣の中央に羽根っぽい絵が描いてあったら十中八九転移系だ。つってもお前達は見つけても入るなよ? 何処に跳ばされるにしてもまず間違いなく死ぬからな」


「うっ……」


 真剣な表情で顔を近づけて言うカマッセに、ソーマが若干身を引く。カマッセの口が臭かったことはほんの僅かしか関係ない。


「じゃ、じゃあボク達はその魔法陣? を知らずに踏んじゃったってことですか?」


「そうだな。まああんなわかりやすいもんを見落とすわけねーから、おそらくずっと休眠状態にあった魔法陣の上にお前達がいて、突然活性化したってところか? その理由までは流石の俺でもわかんねーが……」


「あれ? じゃあ何でトゲのにーちゃんはここに来たんだ? 危ないってわかってたんだろ?」


「バッカ、何言ってやがる!? 転移系の魔法陣ってのは古代遺跡でしか見つかってねーんだぞ! それがこんな所にあるなんて聞いたこともねー、つまりコイツは未発見の遺跡ってことだ。


 わかるか? 未発見、誰の手もつけられてない古代遺跡だぞ!? 一生遊んで暮らせるどころか国をまるごと買えるほどのお宝だってあるかも知れねーんだ。そんなの跳び込むに決まってるじゃねーか!」


「え? それじゃ助けとかは……?」


「あー、来ないんじゃねーか?」


 何気なく言ったカマッセの言葉に、ソーマ達はガックリと肩を落とす。


「そんな……せめてギルドに報告してくれれば……」


「そんなことしたら即行で軍隊が出張ってきて遺跡を独占されちまうぜ。一番美味しいところを持って行くのは第一発見者の権利だろ!」


「俺達は宝なんて欲しくない! ただ生きてここから出られさえすれば……」


「それはお前達の都合だろ? 俺の都合は関係ない」


 あっさりとそう言い切られてしまえば、ソーマ達はそれ以上何も言えなかった。そんなソーマ達の姿に、カマッセはひとつ大きなため息をつく。


「ハァァー。新人だろうと冒険者は自己責任だし、さっき助けただけでも大サービスだったんだが……聞けお前達! 今この俺、期待の銀級冒険者のカマッセさんはパーティメンバーを募集している!」


「カマッセさん? 突然何を……」


「募集人員は荷物持ち。定員は五人だ! 報酬は銀貨一枚、契約期間はこの迷宮を出るまで! どうだ、受けるか?」


「それって……っ!?」


 目に希望の光を浮かべたソーマ達に、カマッセは渾身のドヤ顔で応える。


「俺はいつだって期待される男だ! なら新人の期待にも応えなきゃだろ? 何せ俺はアリキタリの町でもっとも期待される銀級冒険者、カマッセさんだからな!」


 恥ずかしげもなく言ってのけるカマッセに、ソーマ達は顔を見合わせ「宜しくお願いします!」と声を揃えて答える。


 こうして脱出不可能の迷宮のなかに、ほんの僅かな希望を宿した新しいパーティが誕生した。

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