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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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40/800

新人達、迷い込む

「おい、オーゼン」


『いや、そんなはずがない。しかし可能性としては……』


「オーゼン!」


『うぉっ!? な、何だ貴様! 突然大きな声を出しおってからに』


「アレを見よ」


『アレ? アレとは……何だと!?』


 ニックに言われて、オーゼンはやっと目の前にある魔法陣に目を向けると思わず叫び声をあげた。


「あれは儂がお主のいた場所に跳ばされた魔法陣……転移陣だったか? それと同じに見えるのだが、どうだ?」


『うむ、間違いない。あれは「百練の迷宮」への転移陣だ』


 オーゼンの言葉に、ニックの表情が苦いものに変わる。


「巣穴の中に人が歩いた痕跡は多数あったが、だと言うのに争った形跡が無い。となれば可能性が最も高いのは……」


『この転移陣に踏み込んだのであろうな。いや、巻き込まれたと言うべきか。だが何故だ? 基本的に転移陣は我を所有する者が陣の直上にいかなければ起動することは……あっ!?』


「何だオーゼン。何か気づいたことがあるのか?」


 問うニックに、オーゼンは数秒の沈黙の後言葉を続ける。


『なあニックよ。この巣穴、なかなかに大きかったと思わんか? あるいは深かったと言うべきか』


「む? そうだな。予想よりは大分大きな巣だった。おそらく元はフォレストアントか何かが掘ったのであろうが……それがどうかしたか?」


『森の切り立った斜面に掘られた巣穴。そしてその最奥と呼べる場所に存在する転移陣。ではその直上には何がある?』


「何? 何と言われれば、天井……いや、そうか」


 オーゼンの言わんとしたことに気づき、ニックは思わずその場で足を踏みならした。


「森を歩く間、気づかぬうちにこの転移陣の直上を歩いていたということか。なんたる迂闊……っ!」


『いや、流石にこれは貴様の不注意ではあるまい。我とて転移陣が活性化しておらねば場所はわからなかったであろうし、そもそも横と縦では同じ距離でも意味合いがまるで違う』


 横一〇〇メートルなら目と鼻の先だが、縦一〇〇メートルとなれば遙か高空だ。ましてや地面の下に空洞があり、そこに迷宮の入り口があるなど神でもなければ気づくことは無理だろう。


「だが、ということはソーマ達は……」


 自分の身に降りかかった「試練」を思い出し、ニックはひときわ辛そうに顔をゆがめる。あれと同じ状況に立たされてはソーマ達の生存は絶望的だ。


『悲観するのは早いぞ。確かに百練の迷宮には単純に力を試すようなものも多いが、それと同じくらい知識や知恵を試すものもある。ここがその手の試練であれば生存している可能性は十分にある』


「本当か!? よし、ならばすぐに行くぞ!」


『待て待て待て! わかっておるのか? 前にも言ったがこの「百練の迷宮」は入れば最後、試練を乗り越えぬ限り出ることは叶わん。なればこそ最低限水や食料を万全に――』


「そんな暇があるか! 待っていろ子供達! トウッ!」


 オーゼンの制止を振り切り、ニックは一瞬の躊躇いも無く輝く転移陣へと足を踏み入れた。





「ベアル、そっち!」


「任せろ!」


 ソーマの脇をすり抜けた小さなゴーレムに対し、ベアルのハンドアックスがその脳天を直撃する。既に刃は欠け切れ味は皆無だが、質量武器としての威力は衰えていない。ガキンという音を立てて斧の直撃をもらったゴーレムはその場で倒れ伏し、すぐに光の粒子となってその場から消えてしまった。


「ふーっ、とりあえずお疲れ」


「おう、お疲れさん。おーいお前等、大丈夫か?」


「私は平気! ホムとシュルクは?」


「フンッ、このくらいで僕がどうにかなるわけないだろ?」


「ぼ、ボクも平気です。誰か回復魔法が必要な人は……?」


「あー、いねーいねー。温存しとけ」


「わかりました」


 幼なじみパーティメンバー全員の無事を確認し、前衛で戦っていたソーマとベアルがその場に座り込む。今までの流れから一度撃退すれば三〇分ほどは襲われることが無いとわかっていたからだ。


「ハァー。今更だけど、何だよここ?」


「それもう何回も話し合ったじゃない。で、結論は……」


「わかんない、だよなぁ。どうすっかな……」


 言葉を交わすベアルとカリンだけでなく、その場にいる全員の顔には疲れの色が濃い。


「もう一回整理しよう。俺達はゴブリンの巣穴の掃討の依頼を受けた。で、作戦通り巣穴を火で燻して出てきたゴブリンは全部倒したし、巣に戻ってくるゴブリンも確認して倒した。それで最後に巣穴の中を探索したけど……」


「突然足下が光ったと思ったら見たことのねー場所にいて、それから三日、ずーっとこの迷路・・を彷徨ってる、と……」


 もし彼らが銀級くらいまで経験を積んだ冒険者であれば、乗った人物を転移させる罠が存在することや、この場所の作りが世界中で希に発掘される古代遺跡と呼ばれる場所に酷似していることを知っていた可能性は高い。


 だが彼らは冒険者になりたての銅級冒険者であり、その実力では触れることのない罠や遺跡の知識など持ち合わせてはいなかった。


「一番最悪なのは、敵がゴーレムばっかりってことよ! 私の弓じゃ全然攻撃が通らないじゃない!」


「まあまあカリンちゃん。押さえて押さえて。でもボク達で倒せるくらいの敵ってことは、すっごく弱いよね? こんな立派な遺跡なのに、何だか不釣り合いなような……」


「あれは僕達を倒しに来てるんじゃない。この迷宮の探索を邪魔しに来てるんだ! あの邪魔さえなければ、こんな所すぐに突破してやるのに……っ!」


 不安そうなホムの隣で、シュルクが悔しそうに言う。実際その予想は当たっており、この迷宮は王としての忍耐力や判断力などを試す目的のものだった。それ故に障害はあくまでも邪魔する程度のものでしかなく、それ故にその迷宮は――広大だった。


「……ボク達、外に出られるのかなぁ」


「弱気は良くないよホム。俺達なら大丈夫さ」


「ソーマ君……でも、もう保存食も無いよ……?」


「それは……」


 力なくその場にしゃがみ込んだホムの言葉に、ソーマは二の句が継げない。元々二日で帰る予定だったうえに、資金的にもそれ程余裕があるわけではないソーマ達の予備食料は、昨夜の分で尽きてしまっていた。


「せめて食える魔物が襲ってきてくれりゃーなー。水だけはシュルクのおかげで何とかなってるけど」


「そうだぞ。僕に感謝しろよ!」


「ああ、マジ助かってるぜ。ありがとなシュルク」


「あ、ああ。うん。どういたしまして……」


 普通にベアルに礼を言われて、シュルクが決まり悪そうに答える。もしシュルクが水生成の魔法を使えなければ、全員とっくに動けなくなっていただろう。


 だがそれ故にシュルクの魔力はホムの回復魔法より貴重になり、結果として戦えるのがソーマとベアルだけになってしまっていることが二人の心身に重い疲労を背負わせることになっている。


「さあ、いつまでもこうしていても仕方ない。食料が無くなったなら……もう進むしかないよ」


「だな。こんなところで座ったまま干からびるのはゴメンだぜ」


「ちょっ、不吉なこと言わないでよベアル! 大丈夫……大丈夫よ……うっ、うううっ……」


「カリンちゃん……」


 ずっと押さえ込んでいた不安が堰を切ったかのように、不意にカリンが泣き出してしまう。困った顔をしたベアルが謝ろうとして……その目つきが瞬時に鋭くなった。


「カリン、今すぐ泣き止め」


「ベアル君!? それはあんまり――」


「違う! 何か来てる!」


 緊張したベアルの声に、全員が咄嗟に戦闘態勢を取る。泣いていたカリンもグイッと涙を拭い去ると、嗚咽を無理矢理押さえ込んで弓の代わりに短剣を手にした。


「さっき倒してからまだそんなに立ってないよね? 今回は早くない?」


「違う。いつものゴーレムじゃない。足音がずっと重くてでかい」


「それって……っ!?」


「くるぞっ!」


 通路の角から姿を現したのは、やはりゴーレム。だが今までの自分達より背の低い奴ではなく、今度のものは大人ほどの身長がある。手にした武器も短剣ではなく戦槌ウォーハンマー……明らかに戦闘用だ。


「シュルク!」


「っ!? わかった! 紅きもの、熱きもの、貫き 輝き 焼き尽くせ! 『バーニングランス』!」


 その見た目に、ソーマは迷わず切り札を切った。貴重な水を生み出す魔力を惜しげも無く注いだシュルクの一撃がゴーレムの顔面に炸裂し――


「うそっ、無傷って!?」


「はは、まるでニックさんみたいだね……」


 まるでひるむ様子の無いゴーレムに、魔法を放ったシュルクは唖然とし、カリンは驚き、ホムは現実逃避のような笑い声をあげる。


「ボーッとするな、逃げるんだ!」


「ほら、さっさと走れ!」


 勝てないと悟りソーマがホムを、ベアルがカリンを抱えて猛然と背後に走り出す。だが最後尾にいたシュルクだけはその場で動かず、二人が追い越したことで一人ゴーレムの前に取り残される形となる。


「何やってんだシュルク! 走れ!」


「はは……ははは……僕の、僕の魔法が効かないわけが……」


「くそっ! おい、カリン降りろ!」


 ベアルが抱えていたカリンを乱暴に放り投げ、踵を返してシュルクの方に走る。だがそれよりもゴーレムが武器を振り下ろす方が早い。


「シュルクーーーーー!」


「ヒィィィィ!?」


ガキィィィィィィン!


 やっと正気に戻ったシュルクの眼前で、甲高い金属音が鳴る。そこに立ち塞がったのは見覚えのある長身の戦士。


「大丈夫か?」


「あ、貴方は……」


 腰を抜かしたシュルクに問われ、その冒険者は満面の笑みを浮かべて答えた。


「俺はカマッセ! 期待の銀級冒険者、カマッセさんだぜ!」

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