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獣王、プニッとする

今日の更新にて365話……つまり連載開始から丸一年となりました! ここまで続けてこられたのは、ひとえに読んでくださる読者の皆さんのおかげです。まだもうしばらく続くお父さんワールドを、これからもまったり応援していただけると嬉しいです。

「コツコツコツ。一番奥で怯えて縮こまっていた割には、小さな体で大きな口を叩くものでアール。ならばその力見せてみるでアール! 骨将軍(ジェネラルボーン)!」


カラカラカラカラッ!


 ボルボーンの指示に従い、骨将軍がけたたましい音を立てながら手にしたサーベルを打ち下ろす。だがカールは小さく素早い体で全ての斬撃を回避すると、右手の肉球を骨将軍の脛骨に添える。


「砕けろ!」


「コツッ!?」


 瞬間、カールの肉球が触れた部分が爆発するように吹き飛び、骨将軍がその巨体で地に倒れる。


「まさか骨将軍の骨をこれほど簡単に砕くとは!?」


「まだまだ、こんなものではないぞ!」


 体勢を崩した骨将軍に、カールの肉球がプニプニと押し当てられる。その度その部分が弾け飛び、あっという間に骨将軍はただの骨の山へと変貌していった。


「すげぇ、何だあれ!?」


「そうか。お前等は獣王陛下の戦いを見るのは初めてか……」


 その戦いぶりにあんぐりと口を開けて見つめていたワッカ達に、とりあえず動ける程度には傷の癒えたコサーンが歩み寄って言葉をかける。


「お師匠様、あれは!? ボクにはただ触れてるようにしか見えないんですけど」


「獣王様、おいらより力持ちー?」


「ははは、そうではないぞ。あれこそが獣王陛下のお力だ。肉球を超高速で振動させることで、ただ触れただけで相手を粉砕する必殺の掌底……あの頃と変わっておらんな」


 懐かしさに目を細めつつ、コサーンはそう弟子達に語る。かつて修行の旅の間においてはノケモノ人に「破壊王シヴァ」と恐れられ、当時の獣王から贈られた二つ名は『崩球』のシッポカール。


 その暴れっぷりから一度はコサーンが叩きのめし、その数年後には逆に叩きのめされることになった相手。それが今、あの頃と変わらぬ力で自分達を守ってくれている姿に、コサーンの胸はただ静かに熱く燃える。


「フゥ……ひょっとして勘違いしているのではないか? 骨男よ」


「コツ?」


 崩れ去った骨将軍の体が光の粒子となって空中に消えていくなか、カールはまっすぐにボルボーンを見て言う。


「確かに余の体は小さい。記録に残っている限り、歴代獣王で五指に入る小ささだ。それに見た目もいい。つやつやの毛並み、ふわふわのお腹、モフモフの尻尾……どれをとっても最高だろう。


 だが……」


 ニヤリと笑って、カールは手招きするように手首を動かす。


「余は獣王だぞ? 獣王が弱いわけないではないか!」


「……コツコツコツ。確かにワガホネの計算よりも幾分か強いようでアールな」


 余裕を見せるカールの言葉に、ボルボーンの声色は変わらない。骨の顔に表情などあるわけもないので、その内心はカール達にはわからないが……それでも獣王として数限りない人々と触れ合ってきた経験から、カールはボルボーンが決して強がっているわけではないことを感じ取っていた。


「ならばワガホネの予想を覆した褒美として、こちらもとっておきを見せてやるでアール!」


 そう言うなり、ボルボーンは左腕を肩から外してその骨を放り投げる。即座に反応したカールだったが、背後にコサーン達がいることを思い出して踏みとどまる。そしてその一瞬の隙にボルボーンの呪文は完成した。


「『骨将軍(ジェネラルボーン)単軍召還(レギオンレイド)』!」


「チッ、またコイツか!」


 現れた一二体の骨将軍に、カールは軽く舌打ちをしてから躍りかかる。他の者であれば圧倒的な脅威であったであろう骨将軍も、本気を出したカールの小さな体には攻撃が命中せず、逆にカールの掌底はいとも容易く骨将軍を打ち砕く。


 だが、カールの小さな肉球はどうしても攻撃範囲が狭い。これほど大きな敵……しかも痛みで怯んだり急所を破壊することで即死したりしない相手を倒しきるのは相応に時間がかかる。


 その時間こそがボルボーンが欲したもの。ボルボーンは残った右手で自身の肋骨の一本を外すと、それを手に呪文を唱え始める。


「ナーブル、イービル、イジメイル。ヒードス、ワールス、アリエナス! 我が呼び声に耳を傾け、我が魔力にて産声をあげよ! 『狂いし暴虐の骨(タイラントボーン)巨身召還(ギガントレイド)』!」


 ボルボーンの放り投げた骨が、中空で真っ赤に輝き高速で回転する。そしてそれが収まった時……城が崩れる轟音と共に、絶望は降臨した。





「な、何だ!?」


 城の外にて混乱している町人達を守りつつ骨兵士を駆逐していた百獣戦騎が一人『断爪』のスパットは、自分をして転びそうになるほどの突然の地揺れに驚きその場で振り返る。すると――


「何……だ、ありゃ……?」


 城の半分が跡形も無く崩れ去り、そこに立っていたのは血のように深く暗い赤を湛えた骨の巨人。二足歩行でありながらその骨格は自分達ともノケモノ人とも微妙に異なる身長五〇メートルを超えるであろう異形の化け物が、まるで悪夢のようにゆったりとその場に佇んでいた。


「逃げろーっ! 今すぐここから離れるのだーっ!」


 呆気にとられたスパットの耳に飛び込んできたのは、敬愛する獣王の声。その必死の叫びに我に返ったスパットは、その言葉とは裏腹に赤の巨人の元へと走る。


「陛下ーっ!」


「お前は『断爪』か? 何故来た……いや、それならそれでいい。余の背後にコサーンとその弟子達がいる。今すぐその者達を連れてこの場から離れてくれ!」


「そんなっ! 私も陛下と一緒に……」


「頼む!」


 食い下がるスパットに、獣王は「頼む」と言った。命令ではなく、願い……その違いを正しく受け取ったスパットは、全ての憂いを振り切って獣王の背後にいたコサーン達の側へと駆け寄る。


「スパットか……」


「コサーン先輩! これは一体……?」


「説明だろうと謝罪だろうと、お前が望むなら何でもする。だから今は俺とコイツ等を連れてここから脱出してくれ。陛下の……弟子達の決死の思いを、俺は無駄にするわけにはいかんのだ!」


 絞り出すような声でそういうコサーンのすぐ側には、気を失っている三人の若い戦士の姿がある。コサーンも含め全員怪我はしていない様子なのに装備がボロボロなのは、おそらく激戦をくぐり抜けたのち回復薬を使ったからだろうとスパットは予想する。


「……わかりました」


 だからこそ、スパットは迷わない。戦士として獣王と肩を並べて戦う名誉をかなぐり捨て、王と友の願いを聞き命を救うと決断し、スパットはすぐに背中にゲーノを担ぎ、左腕でワッカとイタリーを、右腕でコサーンを抱え込んで立ち上がる。自身も巨体の熊人族(ベアルデン)であるとはいえ支える重量はとんでもない重さだが、この程度を運べないようでは百獣戦騎に選ばれることなどない。


「陛下、ご武運を!」


「うむ! そちらは任せ……いかんっ!」


 その場を走り去っていくスパットを見送るカールだったが、目の前の骨巨人に動きを感じてすぐに体を向け直す。すると骨巨人のつるっとした卵のような頭に空いた縦長の口から、まるで幽鬼の悲鳴のような音が響く。


「Foooooooo!!!」


 それはおそらく、呼吸音。大気に満ちる魔力を吸い込み己の内にため込んだ骨巨人の虚ろな口腔が青白い光に満たされていき、その輝きが加速度的に強くなっていく。


「撃たせるかぁっ!!!」


 獣王カールのあまりに強い踏み込みに、半壊していた城の床がガラガラと音を立てて崩れていく。だがそれと引き換えにカールは茶色い流星となって赤い骨巨人の顎の下まで辿り着き、渾身の掌底が炸裂する。


「Foooooooo!!!」


 骨巨人の頭の角度が、僅かにあがる。かろうじて発射角をずらせたことで町ではなく大気を焼き尽くした魔力の閃光は遙か彼方の空へと吸い込まれていき、後に残るのは今まで嗅いだことのない……それこそ「空気が焦げた匂い」としか表現できない何か。


「コーツコツコツ! 町を守る素晴らしい一撃だったでアール! が……それが一体いつまで続くでアール?」


「このっ……!」


 赤い骨巨人の肩の辺りには、余裕綽々の様子で浮かぶボルボーンの姿。その忌々しい笑い声を耳にし、カールは怒りに満ちた目をボルボーンに向けた。



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