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父、順番を譲る

気づけば100万uvを突破しておりました!(笑) これこそまさに読者の皆様にこの作品を読んで、楽しんでいただけた証かと思います。今後も頑張っていきますので、引き続き応援よろしくお願い致します。

「ふぅ……すまなかったな取り乱して。で、王の就任報告でないなら、ニックは何をしに来たのだ? 何か余に話があるということだったが」


「ああ、はい。ですが儂の話はちょっと長くなるというか手がかかるという感じなので、出来ればコサーンの方の話を先に聞いていただけませんかな?」


「ん? 客人であるニックがいいなら構わないぞ。ではちょっと待て……よし、いいぞコサーン」


 小走りに玉座の方へと戻ったカールが座り直すと、改めてコサーンに声をかける。するとこれまで平伏しながら待っていたコサーンがまっすぐに獣王を見つめ、まずはお決まりの挨拶を口にした。


「お久しぶりでございます獣王陛下。本日は私のためにお時間をとっていただき、まずは深く感謝致します」


「気にするなコサーン。お前は我が国が誇る百獣戦騎の一人であり、長く国のために働いてくれている重鎮だ。その言葉を余が聞くのに何の躊躇いがある? お前達の力があってこそ、余は獣王として十全の統治が出来るのだ」


「寛大なお言葉、ありがとうございます。そのようなお言葉をいただいた後にこのような事を言うのは甚だ心苦しいのですが……」


 そこまで言って、コサーンは一旦言葉を切る。ここから先の一言は、コサーンにしても極めて重い言葉だからだ。


「……百獣戦騎を引退させていただきたいのです」


 永遠の如き一瞬の間。瞬きするほどの時間で自分が今まで歩んできた何十年もの時を振り返ったコサーンの万感を込めたその発言に、それまで和やかだった謁見の間に静寂が満ち……それを破ったのは、他ならぬ獣王カールであった。


「……そうか。長年よく仕えてくれた。お前の働きに心から感謝するぞ、コサーン」


「ありがとうございます、陛下」


 カールの言葉に、コサーンは深々と頭を下げる。その知らぬ者が見ればあっさりとしたやりとりに口を挟むような浅慮な者はこの場にはいない。元々高齢であるコサーンの引退はある程度予想されていたことであり、人生の大半を国のために捧げてくれた英雄が下した決断に口を挟むようなことは、矜持を知るものであればできるはずがない。


「しかし、そうなるといよいよ百獣戦騎の穴埋めも大変になってくるな。これで空きは……一四だったか?」


「はい、陛下」


 カールの言葉に、補佐官の男が頷く。先の魔王軍の侵攻によって生じた被害は決して小さくはなく、そのなかでも死亡、あるいは負傷による引退による百獣戦騎の穴埋めは最優先の事項だった。


「そのことですが、陛下。本日は陛下にお目通ししたい者を連れてきております」


「ん? それはその三人のことか?」


「はい。しばらく前から私が面倒を見ている弟子達でございます」


「ほぅ、いいぞ。名乗ってみよ」


「ありがとうございます。ほら、お前達!」


「ひゃいっ!?」


 コサーンに言われて、ワッカが思わず変な声をあげてしまう。そんな自分に獣王の視線が向いていることを自覚すると、緊張のあまりガチガチに体を固めながらもワッカは何とか己の喉から声を絞り出した。


「お、俺、じゃない! 自分はワッカといいます! よ、宜しくお願い致します!」


「おいらはゲーノです。その、宜しくです」


「お初にお目にかかります、獣王陛下。私はイタリーと申します。以後宜しくお見知りおきいただければ幸いです」


 見るからに落ち着きのないワッカと、若干オドオドした調子のゲーノ、そして唯一きっちりと答えたイタリー……無論内心は一杯一杯だ……の三人の挨拶に、獣王カールは何とも微妙な表情を見せる。


「ふーむ。コサーンの弟子というわりには、今一つ落ち着きがないな? 最後の者はうまく取り繕っているようだが、獣王である余の目は誤魔化せないぞ?」


「うっ……」


 軽くとはいえ獣王に睨まれ、イタリーの体がびくりと震える。そんな獣王に取りなしたのは、今回も補佐官の男だ。


「はは、陛下。若い者であればこのくらいは普通です。みな陛下のご威光に触れて緊張しているのですよ」


「そうか? まあ確かに余は強くて格好いいからな!」


「……ええ、陛下は大変に威厳に溢れておられると思います」


「ウメェコット? 何故今言いよどんだのだ?」


「はて、何のことでしょう?」


 獣王カールの言葉に、獣王補佐官たるウメェコットはツイッと視線を外しながら答える。


「ならば何故余から目をそらすのだ!? 一体何を考えているのだウメェコット!」


「陛下が何をおっしゃっているのか、私メェには何のことだかまったくわかりメェせんね。メェェェェ」


「そんな普段絶対しないような喋り方をしても余は誤魔化されんぞ! まったく、お前達は余を何だと思っているのだ!」


 怒りに燃えたカールの手が、バシバシと玉座の肘掛けを叩く。するとその衝撃でカールの被っていた王冠が若干ずれ落ち、慌ててそれを被り直す姿がなんとも言えず愛らしい。


「陛下は国民全てに愛される素晴らしい獣王でございます」


「むぅ、そ、そうか? まあ確かに余は歴代でもなかなかに人気のある獣王らしいからな!」


「はい。陛下はとても愛らしくてございます」


「……ウメェコット?」


「……陛下はとても愛されてございますメェ」


「まったくお前等は! 本当にまったく!」


 結局最後まで目を合わせなかったウメェコットの態度に、カールは不満げに鼻を鳴らす。そのやりとりを初めて見るワッカ達は思わず呆気にとられたが、コサーンや臣下達にとっては割とある日常だ。カールが本気で憤っているわけではないことをきちんと感じ取っているニックもまた、その姿を微笑ましく見つめている。


「一度お前達には獣王たる余に払うべき敬意というものをしっかりと話してやらねばならんな、まったくもう……さて、ワッカ、ゲーノ、イタリーだったか?」


「「「は、はい!」」」


 カールに名を呼ばれ、ワッカ達が揃って返事をする。若干声がうわずってはいるが、それでも場の空気のおかげか当初に比べれば緊張は大分抜けてきている。


「お前達の名はしっかりと覚えておこう。が、コサーンの弟子だからといって特別扱いをしたりするつもりは無い。まあ特別扱いで百獣戦騎になどなってもあっという間についていけなくなるだろうがな。


 とにかく、若いお前達の活躍を余は期待している。これからも精進せよ。いつかお前達が余の側に立ってくれる日を楽しみにしているぞ」


「「「ありがとうございます、陛下!」」」


 先ほどまでとは打って変わり、獣王らしい威厳と貫禄を持って言うカールの言葉に、ワッカ達は嬉しそうに答えた。今まで遠くから見かけるくらいしかできなかった獣王本人に声をかけられるどころか名を覚えられるなど、ワッカ達からすればそれこそ夢のような体験だった。


「ふむ、これでコサーンの用事は片付いたな。ではニック、改めてお前の話を聞こう!」


「はい陛下。実は先日、旅先にてこのようなものを入手しまして……」


 言って、ニックは豪華な服の下に下げていた魔法の鞄(ストレージバッグ)から獣王の紋章の描かれた武具を取り出して見せる。するとすぐに側にいた侍従の者がそれを手に取り、危険が無いかを軽く調べてから獣王の下へと運んでいった。


「何だこれは? ボロボロの武具……? いや、この紋章は!? おいニック! 一体これを何処で手に入れたのだ!?」


 カールの座る玉座の背後には、深紅の布地に金糸で同じ模様の描かれた旗がかかっている。獣王の紋章に今代獣王であるカールが気づかないはずがなく、その緊迫した声色は場の空気を一変させる。


「無論、お話致します。事の発端は私が海辺の町に行ったことからで――」


 ならばこそ、ニックは丁寧にこの武具を手に入れるに至った経緯を説明していく。海賊役を引き受けて海へと出て魔物に襲われ、たまたま同船した金級冒険者と協力して強大な魔物を倒し、その腹の中から件の防具が出てきたことを説明し終えると、身を乗り出すようにして話を聞いていたカールがフゥと息を吐いて、その背を明らかに体に不釣り合いな大きな玉座に預けた。

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