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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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父、挑まれる

「カッカッ! 勘違いするなよ? 俺は別に責めてるわけじゃねーんだ。町を魔物に襲わせようってんならそりゃ重犯罪者だが、襲われてるから逃げてきたってだけなら別に罪人でも何でもねーからな」


 自ら高めた緊張を自らの手で打ち砕くが如く、そう言ってキョードーが笑う。実際その辺の定義はかなり曖昧で、極論してしまえば対応した町なり何なりの責任者の胸先三寸というところが大きい。


 そして今回の場合で言えば、キレーナ達は「町の外で大量のワイバーンに襲われていた」だけであり、しかもそれはニックの手によって殲滅されているため、これによってキレーナ達が罪に問われることはまず無い。


 無論幾度も同じ事を繰り返せば何らかの処罰が下るだろうが、キレーナが王女であることを差し引いてもその判断は余程のことがなければ変わらないだろう。


「まあハズレを引かされたここにいる奴らにしてみりゃ面白くは無いだろうが、それでも半夜の歩哨で銀貨三枚だ。実質戦いすらしないでこの報酬ならそう文句も――」


「ああ、それならば儂の方で補償の宛てがあるぞ?」


「ほ、本当ですか!?」


 ニックの言葉に、いつの間にかやってきていたこれと言って特徴の無い男が背後から声を上げる。


「ん? お主は確か……」


「あ、ああ! これは失礼。私はこの町の冒険者ギルドのギルドマスターで、ヘイボンという者です。それで、今回の事態に対する補償の宛てがあると言いましたけど、それは一体……?」


 今回の一件は町の周囲に現れた魔物に対する自発的な防御活動であり、国や領主からの補助金は出ない。だからといって被害が出るまで静観してから動員をかけるのでは遅すぎるため、その辺の見極めもギルドマスターの実力の一つではあるのだが……ヘイボンは期を見誤って被害を出すほど無能ではなくとも、全ての流れを読み切れるほど優秀でもなかった。


「ここからまっすぐ東に行ったところの道沿いに、儂の倒したワイバーンの死体が山積みにして放置してあるのだ。魔石こそ取り出したがそれ以外は手つかず故、それを回収すれば結構な額になるのではないか?」


「それは……確かに。ちなみに数はどのくらいで?」


「三八匹だ」


「三八匹!? 事実上無傷でそれだけのワイバーンの素材が回収できれば、今回の持ち出しを補填して有り余る……み、皆さん! 聞いて下さい!」


 ニックの言葉を受けて、ヘイボンが周囲にいた冒険者達を呼び集める。そうしてワイバーンの話をすると、暇を持て余していた冒険者達が一気に活気づいた。


「うおおー! 急げ野郎共!」

「ヒャッハー! 俺達が一番乗りだぜ!」

「おい、寝てる奴をたたき起こして荷車の確保だ! 急げ!」


「宜しくお願いします! さあ忙しくなって来たぞ……って、貴方は行かないんですか? 元は貴方の獲物なわけですし、多少ならば色をつけて買い取りますよ?」


「ん? ああ、儂はいい。元々運ぶ手段がないからと捨て置いたものだからな。お主達で有効活用してくれ」


「そうですか! いやー、一時はどうなるかと思いましたけど、これで何とかなりそうです。では私もやることがありますので、失礼しますね」


 ぺこりと頭を下げてヘイボンが去り、この場に残ったのはキレーナ王女一行とニック、それにシドウとキョードーだけとなった。ちなみにカマッセは「俺の時代が来たぜー!」と叫びながらいの一番に走り去っていったが、荷車を持たずに行った彼がどうやってワイバーンの素材を持って帰ってくるつもりなのかは謎である。


「さて、それじゃ俺もワイバーンの回収に行きますけど、キョードーさんはどうします?」


「アン? 俺はいい。そもそも俺は現役じゃねーから、別にギルドに従う必要もねーしな」


「……キョードーさん、アンタまた悪い癖が出てないかい?」


「おっと、何の話かな?」


「ったく……ま、ほどほどにな。じゃあなオッサン! また明日……いや、もう今日か? とにかくまた後でな!」


「うむ。夜道は暗い。気をつけるのだぞ」


 そうしてシドウが抜け、残りは馬車の一行とキョードーにニックのみ。そしてキョードーの視線はニックにのみ注がれている。


「ふぅ。やっとアンちゃんと二人になれたな」


「いや、まだ馬車の者達がいるのだが……お主には関係ないか。で、望みはやはり儂と拳を交えることか?」


 並の者ならすくんで動けなくなりそうなキョードーの視線を真っ正面から受け止め、ニックは余裕の笑みを浮かべて顔の前で拳を握ってみせる。


「俺が交えるのは拳じゃねーけどな。ギルドのやりとりから目立つのが嫌なんじゃないかと思ったんだが、どうやら当たりか?」


「別に目立ちたくないわけではなく、単に見世物のようにされるのが好かなかっただけだがな。そもそもあんなところで戦ったとして、そんなものでお主は満足したのか?」


「カッカッカ! 違いねぇ! だがここなら! 今なら思いっきり戦えるぜ? どうだアンちゃん。俺の挑戦受けてくれるんだよな?」


「フッ。是非も無い。挑んでくるというのなら、この拳で殴り飛ばすだけだ」


「カッ! いいぜいいぜ! 最高だアンタ!」


 左半身の構えを取るニックに、キョードーは哄笑を挙げて腰の剣……刀と呼ばれる反りの入った武器を抜き放つ。


「ガドー!? どうしてニック様達は戦いを? すぐに止めなくては――」


「いえ、問題ありませんひ……お嬢様。あれはまあ、一種の試合のようなものですから」


「そうそう。僕には理解できないけど、強い奴と戦うのが大好きって奴、結構いるしね」


「ですが……」


「大丈夫ですよ姫様。そもそもニックさんが負ける姿が思い浮かびますか?」


「……わかりました。ではこの勝負、私が見届けます」


 馬車の小窓から必死に外を覗いていたキレーナが、そう言って馬車から外に出てくる。その姿とマモリアがうっかり呼んだ「姫様」という単語にキョードーはほんの僅かに反応したが、すぐにそんなことはどうでもいいとニックに意識の全てを集中させていく。


「いいねいいね! この年で挑戦者! しかも観客は全部アンちゃんの勝利を信じて疑わないとは……こんなの何年ぶりだ? まだ現役だった頃ですらこんな状況ありえなかった。ゾクゾクするぜ」


「ハッハ。存分に楽しむが良い。お主の全力、このニック・ジュ……あー、あれだ。ただの村人のニックが受け止めてやろう!」


 若干焦って訂正したニックの名乗りに、キョードーはもはや何の反応も示さない。ただ己の斬るべき相手を見据え、その脳内に通すべき刃の軌跡のみを異常な密度で想像する。


「我が一太刀は一刀八斬。閃く刃は偽にして真。描く軌跡は奇跡を起こし、ことわりすらもねじ伏せる!」


 カッとキョードーの目が見開かれ、正眼に構えられた刀がこの世界から消える。


「奥義 『夢幻八奔刃』!」


 瞬間、ニックの周囲に八方向からの斬撃が生じた。本物はひとつ、偽物は七つ。だが極限まで高められた『斬る』という概念が、世界すらも偽り全ての斬撃を本物へと昇華させる。


 人の手が二本しか無い以上八方から襲い来る斬撃を全て防ぐことは叶わず、刹那の瞬間に放たれる斬撃を回避することなど不可能。必中にして必殺の八撃に対し、それを受けるニックは……


「温いな」


 振り下ろされる前・・・・・・・・の刃をそっと指先で摘まみ、静かにそう漏らした。

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