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父、情報を得る

 そうしてメッタとの会合を終えた、丁度一週間後。目立たないためやパクリットの財布事情などから宿屋待機を続けていたニック達のところに、待望のメッタの使いがやってきた。


「ん? 今回はコスッカライではないのだな」


「あー、アイツは今一番下っ端からやり直してます。立ち回りの上手い奴なんで、そのうちまたそこそこ出世すると思いますけどね」


 やってきた見知らぬ男の言葉に、ニックは微妙な苦笑いを浮かべる。そのまま男に先導されて先日と同じ部屋に入ると、そこでは優雅に煙管を吹かせるメッタがニック達を悠々と待っていた。


「ああ、来たね。それじゃ早速説明を始めるから、さっさと座りな」


「ああ、わかった」


「宜しくお願いするですぅ」


 メッタに断り、ニックとパクリットが先日と同じ場所に腰掛ける。それを確認したメッタは、ふぅと空中に煙を一筋引いてから口を開いた。


「んじゃ、まずはお嬢ちゃんの里に入った泥棒のことからだねぇ。アタシの調べでは、カッサラーウっていう泥棒一家だ。旦那と奥さん、それに小さい子供が二人いただろう? おそらくは一〇歳くらいの男の子と、それより少し幼い女の子だったはずだ」


「そ、そうですぅ! 一家で行商をやってるって話で、子供連れだったからすっかり信用しちゃったんですぅ!」


 メッタの言葉に、パクリットが身を乗り出して答える。その態度に確信を深めたのか、メッタは満足げに頷いてから言葉を続けた。


「そうかい。ならカッサラーウでほぼ決まりだね。証拠らしい証拠があるわけじゃないけど、あいつらがその時期に獣人領域まで出向いて仕事をしたって話があったからね。


 あ、ちなみにだけどあいつらは本物の家族じゃないよ? カッサラーウが仕事に応じて必要な家族役の奴を見繕ってるのさ。今回は警戒心を最大限に低下させるために、自分以外はほぼ無力な家族を仕立てたんだろうねぇ」


「うぇ!? あれ家族じゃなかったんですか!? うぅ、全然見抜けなかったです……」


「まあ、そりゃアイツだってプロだからね。そこは仕方ないさ」


 落ち込むパクリットに軽い慰めを入れ、メッタが煙管に口をつける。甘い香りがする雲を空中に描き出すと、そのまま言葉を続けていく。


「で、カッサラーウに依頼した相手だけど、マールゴット王で間違いない。こっちも確実な証拠ではないけれど、カッサラーウの奴は金の流れがわかりやすいからね。以前にも何度か仕事を依頼されてるみたいだから、これもほぼ確定だ」


「王か……他から横やりが入らないという意味ではやりやすい。ある意味では幸運と言えるだろう」


 メッタの言葉に、ニックが頷いてみせる。半端に偉い貴族などが相手だと、それより上位の相手……それこそ国王などから変な横やりを入れられる可能性があった。


 だが最初から相手が一番上であれば、あとは一対一で交渉するだけとなる。特別に交渉ごとに長けているというわけでもないニックからすれば、そちらの方がやりやすいのは間違いない。


「そうなのかい? 本当にアンタ、何者なんだろうねぇ……っと、それはいいとして、お嬢ちゃん。最後に一つだけ確認させとくれ」


「? 何でしょう?」


「お嬢ちゃんの探してる兎人族(ラビリビ)の秘宝……それって一体何なんだい?」


「それは……」


 メッタの問いに、パクリットの耳がピクリと震える。キュッと口を結んで考え込むその姿に、しかしメッタは言葉を止めたりしない。


「一つ気になる情報があるんだけど、それを確かめるには秘宝とやらがどういうものなのかって情報が必要なのさ。まあアタシが損するわけじゃないからいいたくないって言うなら構わないけどね」


「うぅ、ニックさん……」


 すがるような声を出すパクリットに、しかしニックは目を合わせない。ここで顔を見てしまえば、それは自分からの圧力になってしまうと考えたからだ。


 だから、ニックは顔を背けたまま、そっとパクリットの肩に手を置く。何も言わず何も聞かず、だがどんな答えを出しても自分は味方だと伝えるために。


 その温もりを感じながら、パクリットは考える。考えて考えて……固く結んだ口をゆっくりとほどくと、その結論を口にした。


「……わかりました。お教えします」


「いいんだね?」


 メッタの確認に、パクリットが頷く。メッタの視線がニックの方に移動すると、ニックもまた頷いてみせた。


「なら聞こうかねぇ。ふふ、人の秘密を聞くってのはいくつになっても楽しいもんだ」


「うぅぅぅぅ……い、いいです。決めたんですから、教えちゃいます。私達兎人族(ラビリビ)の秘宝は、『赤い月』という名前の真っ赤な石です。このくらいの大きさで、その効果は……兎人族(わたしたち)以外にとっては莫大な魔力を蓄積した石、というだけのものです」


 親指と人差し指で丸を作ってみせたパクリットの言葉に、メッタはなんとも言えない拍子抜けな顔をしてみせる。


「え、それだけかい? それだと単に強い魔物の魔石と変わらない気がするんだけど?」


「私達以外にとっては、まさにその通りのはずです。私達にとってはもっと特別な意味がありますけど、それは流石に秘密ですぅ。


 で、どうですか? これでメッタさんの欲しい情報は足りましたか?」


「何とも半端な結果だねぇ……まあでも、確認には十分だし、アタシが掴んだ情報が正しかったってこともわかった」


「一体何を知ったのだ?」


 横からのニックの問いに、メッタがニヤリと笑って答える。


「まあ待ちなよ。話は少し変わるけど、最近ザッコス帝国が高純度の魔石を買いあさってるって話は知ってるかい?」


「いや、知らんが……ということは!?」


「そうさ。マールゴット王は、その『赤い月』とやらをザッコス帝国に売るつもりなんだよ」


「そんな!? ここまできて他の国に渡ったりしたら、私は……っ!」


「ふむ。その取引の詳しい日時や、予想される金額などはわかるか?」


 衝撃を受けるパクリットをそのままに、ニックは冷静にメッタに問う。


「正確なところは無理だね。一、二ヶ月の間に取引があって、金額は……そうだね。おおよそ金貨二〇〇〇枚くらいかね」


「二〇〇〇枚!? そんなのでっかい城が建つですよ!?」


「なかなかの金額だな……その商談、まとまると思うか?」


「割と悪くないとアタシは思う。平時ならまともに取り合ってももらえないだろうけど、さっきも言ったとおり今帝国は凄い勢いで魔石を集めてるんだよ。でも高純度の魔石なんて魔族領域の奥にでも踏み込まなきゃそうそう手に入るものでもない。


 そこにきてのコレだからね。ひょっとしたら兎人族(ラビリビ)の秘宝だということすら隠して売るのかも知れない。帝国側がどう出るのかは未知数だけど、魔石と同じように使えるんだったら多少高くても買う可能性は十分にあるだろうさ」


「そうか。ならばこちらも急がねばならんな」


「急ぐって、ニックさんどうするつもりですか!? 金貨二〇〇〇枚なんて、里の全財産を集めたってとても足りないですよ!?」


「その辺は儂に任せておくがいい。いい具合に交渉してみせよう」


「いい具合にって……」


 親指を立てて笑って見せるニックに、パクリットは言葉に詰まる。無理だという常識が頭の中で木霊するが、それを自分の為に頑張ってくれている相手にぶつけるのは流石に躊躇われる。


「あぅあぅあぅ、でも、だって……えぇぇぇぇ……」


「プッ、クックッ、アッハッハッハッハ! 今のアタシの話を聞いて、出てきた答えが『いい具合に交渉してみせる』!? アンタ本当に面白いねぇ。アンタが路頭に迷ってるんなら、今すぐにでもウチに歓迎したいところだよ」


「はは、それは光栄……と言うべきか? 悪いが自分の生き方は自分で決めることにしておるのだ。そのためにこそ力を磨いたのだからな」


 グッと力こぶを作って見せるニックに、メッタはただ楽しげに笑う。そんな二人のやりとりに、パクリットもまた大きなため息をついてから微笑んだ。


「あぁ、もう私だけ悩んでるのが馬鹿みたいですぅ! こうなったらニックさんにお任せしますから、いい具合にやっちゃってください! 私もできることなら何でもお手伝いするですぅ!」


「うむ、頼むぞパクリットよ。それでメッタよ。そういうことならもう少し知りたい情報があるのだが」


「ん? いいよ。何が聞きたい?」


「さしあたっては――」


 上機嫌なメッタに、ニックがいくつか質問を重ねていく。そうしてニックは勝利に必要な武器(・・)を着実に揃えていき……明けて翌日。


「たのもう!」


 ゴーダッツ城の城門前には、やたら豪華な海賊風の衣装に身を包む筋肉親父の姿があった。

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