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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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魔女、懐かしむ ~証明と説明~

「ぬぅ、確かにこれを見ると対象の場所とは違うようだが……」


 ムーナの示した新たな可能性。だがそれを鵜呑みにするほどニックは愚かではなく、それを理解できないほどムーナもまた無能ではない。そのまま矢継ぎ早に自らの無実の証拠を提示していく。


「そもそも『最近住み着いた』って時点で私ではあり得ないわぁ。近隣の町って、キンジョーでしょぉ? 私月に何度か食料の買い出しに行ってるわよぉ?」


「そうなのか!?」


 驚くニックに、ムーナは軽く苦笑しながら答える。


「そりゃそうよぉ。いくら森に居を構えているからって、こんなところで自給自足なんてしてないわぁ。気づけば一〇年もここに住んでいるし、顔を隠しているわけでもないものぉ。町の人に聞けば私がここに住んでることなんてすぐにわかるわぁ」


「だが、ならば何故人払いの結界など張っておるのだ?」


 人を寄せ付けない結界を張っているというなら、つまりここに誰かが来られると困るということだ。にも関わらず自分がここに住んでいることを多くの者が知っているというのは、ニックからするとどうにも納得できなかった。


 もっとも、その質問も当然ムーナのなかでは想定済みだ。全く言いよどむこと無くその言葉は続けられる。


「理由は二つ。ひとつは最近の私の研究対象が、この近くにある古代遺跡だからよぉ。あそこを無闇に荒らされるのは嫌なの。かといって私のものってわけじゃないから立ち入り禁止とかにもできないしぃ」


「……いや、それは事実上の独占ではないのか?」


「フッ。法に触れること無く実力で他者を排除できるなら、そのくらいの恩恵は当然でしょぉ?」


「まあ、うむ。理屈はわかるが」


 所詮この世は弱肉強食であり、目の前にお宝が落ちていたなら先に拾った方が手に入れることができるのは道理だ。極論してしまえば国の定めた法律だとて軍事力という圧倒的な力を楯に自分たちに都合のいいように作られているのだから、それを否定するのは難しい。


「で、もう一つは勧誘がうるさいからよぉ」


「勧誘?」


 またも飛び出した意外な言葉に、今度もニックは首を傾げる。だがそんなニックに対し、ムーナは再び胸の谷間から一枚の金属製の板を取り出して見せる。


「ギルドカード? しかもこれは、白金級か!?」


 そこに記された冒険者としての階級に、ニックは今度こそ心からの驚きの声をあげる。白金級と言えば冒険者の頂点であり、その人数は両手の指より少し多い程度しかいない。まさか目の前の妖艶な女性がそんな人物だとは、ニックにしても全くの予想外であった。


「古代遺跡の調査とかに便利だから持ってるけど、これのせいで色んな所から勧誘があって面倒くさいのよぉ。町でばったり会ったときにちょっと声をかけられるくらいならまだしも、自宅まで押し寄せられたらたまったものじゃないわぁ」


 うんざりした表情で言うムーナに、ニックは内心同意する。実際(フレイ)が勇者であることで権力者からの声かけはいくらでもあったし、その中には理不尽な要求も決して少なくはなかった。


 ましてや目の前にいるムーナは女性で、おそらくはここに一人暮らし。白金級冒険者がまともに戦って後れを取るとは思えないが、世の中には手を出すと後々が面倒な輩というのは往々にしている。古代遺跡の調査研究というなら家には貴重品も眠っているだろうし、人払いの結界くらいはむしろ当然と思えてしまった。


「なるほど、お主の言い分はわかった。筋も通っているようだし、信じてもよいと思うのだが……どうしても一つだけ疑問が残る」


「なぁにぃ?」


「何故儂はこの地図ではなく、最初の誤った地図を渡されたのだ?」


 ムーナがここに住んでいることが秘密でも何でも無いのなら、最初からきちんとした地図を渡してくれればニックがここに辿り着くことはなかった。であれば何故そうしなかったのかが、ニックにはどうしてもわからなかった。


 だが、そんなニックにムーナは呆れたような視線を向ける。


「あのねぇ? 普通の人はこの結界があることに気づかないの。だからあの地図で問題ないのよぉ? むしろ何で貴方が結界をものともせずにここに辿り着いたかの方が興味があるんだけどぉ?」


 ムーナがズイッと身を乗り出し、大きな胸がぷるんと揺れる。男であれば無条件で吸い付けられそうな光景だが、当のニックはそれを一顧だにせず困り顔だ。


「いや、本当に普通に歩いてきただけだぞ? 娘を危険に晒さぬように、意識に直接干渉するような魔法への抵抗は鍛えに鍛えているからな」


「鍛えてるって……はぁ、もういいわぁ」


 ムンと力こぶを作って見せるニックに、ムーナは諦めたようにそう呟く。実際には何か強力な対抗魔法道具を身につけているのだろうと推測しつつも、冒険者が会ったばかりの他人に手の内を晒すはずもない。


 乗り出していた体を戻し、椅子に座り直したムーナが改めて言葉を続ける。


「で? これで私が件の魔女じゃないって証明には十分だと思うけどぉ?」


「そうだな。ではまず、正式に謝罪させてもらおう。すまなかった、ムーナ殿」


 たとえ実害が無かったとしても、疑われて気分がいいわけがない。ならばこその軽い意趣返しのつもりだったムーナの言葉に、ニックはまっすぐにムーナを見て深々と頭を下げた。そのあまりにも潔い態度に、むしろムーナが戸惑いを覚えてしまう。


「いいわよ、別にぃ! そんなに素直に謝られたら、皮肉の一つも言えないわぁ」


「はは。儂のことはどう言ってくれても構わんが、できれば娘にはあまり辛辣な物言いはしないでくれるとありがたい」


「馬鹿にするんじゃないわよぉ! あんな子供にまで嫌みを言うわけないでしょぉ!?」


「そうか。ムーナ殿は何というか……お人好しだな!」


「アンタにだけは言われたくないわぁ!」


 笑顔で言うニックに、ムーナは思わずツッコミを入れる。色々と行き違いはあったが、問答無用で魔女……即ち自分……を殺すだけの力を持っているニックが、こうしてきちんと話を聞いて判断しようと考えてくれただけでも十分にお人好しだ。


 強者は驕る。これだけの力の持ち主であれば、調査などという面倒な手順を経ずにただ殲滅だけしていればずっと楽に金を稼げるのだから。


「何だか凄く疲れたわぁ。悪いけど、私もそろそろ休ませてもらうわねぇ」


「む、そうか。では儂も適当にその辺の床で休ませてもらうとしよう」


「あー……ごめんなさぁい。別に嫌がらせとかじゃなくて、本当に貴方を寝かせられるようなベッドの空きはないのよぉ」


 心底申し訳なさそうに言うムーナに、しかしニックは笑顔で返す。


「いや、本当に気にせんでくれ。雨の中外に天幕を張って寝ることに比べれば建物の中というだけで遙かに快適だからな。それに寝具ならば、ほれ」


 言ってニックは、隣の椅子の上に置いていた肩掛け鞄から分厚い毛皮を取り出す。明らかに入るはずのない大きさの鞄から取り出された見るからに上質なその毛皮は、何処かの王の寝室に敷かれていてもおかしくない逸品だ。


「儂はこれにくるまって寝るからな。流石にぬかるんだ泥の上とかでは厳しいが、固い床の上ならこれで十分だ」


「…………何かもう、どうでもよくなってきたわぁ」


 一般の冒険者が手に入るはずもない魔法の鞄(ストレージバッグ)を所持し、売れば家の数軒は買えそうな上等の毛皮を寝具にすると言い放つニックに、ムーナのなかでかろうじて形を保っていた常識がガラガラと音を立てて崩れていく。同時に感じる強い疲労感に、ムーナはそっと席から立ち上がった。


「じゃあ、寝るわねぇ」


「うむ。おやすみ、ムーナ殿」


「おやすみなさぁい……」


 毛皮にくるまり、巨体をごろんと床に横たえたニックを尻目に、ムーナは一人ゆっくりと寝室へと戻っていく。そっと覗いた隣の部屋でフレイが静かに寝息を立てていることを確認すると、ムーナもまた自身の体をベッドに横たえた。


「……寝よう」


 疲れていたのは心か体か両方か。小さな呟きと共に目を閉じたムーナは、すぐに深い眠りの底へと落ちていった。

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