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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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負け男、覚悟を語る

「ちょっと、本当に大丈夫なの?」


「ああ、問題ない……」


 冷え切った体を必死に布で擦りあげてくれるオサナに、マケカクは唇を震わせながら答える。自分の限界を理解しているということは、つまり本当にギリギリまで頑張れる……頑張ってしまうということでもある。


「まったく、なんでここまで無茶してるわけ? ニックさんの方は全然余裕みたいだし、ならもっと早くに負けを認めて海からあがっちゃっても同じだったでしょ?」


「そんなわけにいくかよ! どうしても……どうしても今日は勝ちたかったんだ」


「ハァ。ホントあんたって馬鹿よねぇ」


「そう言ってやるなよオサナ。男には負けられない勝負ってのがあるのさ」


 呆れたような声を出すオサナの隣に、マケカクの兄、カチカクが歩み寄ってくる。


「兄貴……」


「カチカクさん! もー、カチカクさんまでそんなこと言わないでくださいよ!」


 カチカクの言葉に、オサナが抗議の声をあげる。だがその表情は自分に向けるものとは違う気がして、マケカクの胸にざわめきが走る。


「なあ、オサナ」


「何よ?」


 故にマケカクは口にする。もう退かないと覚悟を決めるべく、その想いを言葉に変える。


「今日の祭り、俺が『町一番の海漢』になったら、お前に言いたいことがあるんだ」


「言いたいこと? そんなの今言えばいいじゃない」


「そういうわけにはいかねーんだよ。俺が勝ったら、その時こそ言うってずっと決めてたんだから!」


「へー。別にいいけど……でも、あんた『町一番の海漢』になれるの? 腕比べも我慢比べも負けたんでしょ? もう無理じゃない?」


「うぐっ!? い、いや! まだ最後の競技が残ってるし、それこそが本番だろ! だからそこで頑張れば、きっと……」


 オサナのまっとうな指摘に、マケカクは思わず言葉に詰まる。三つの競技のうち二つを同一人物が勝っているのだから、確かにその人……ニックが『町一番の海漢』に選ばれる可能性が今の段階では一番高い。


 だが逆転の目があることもまた事実。ここが漁師の町であるが故に、『町一番の海漢』に選ばれるのに最終競技の結果が最も強く影響するのは誰もが知るところだ。


「ま、別にいいわよ。話があるっていうならいつでも聞くわ。丁度私もマケカクに言いたいことがあったし」


「えっ!? な、何だよ!? 俺に何の話があるって言うんだよ!?」


 どことなく女を感じさせるその瞳に、マケカクの胸がドキッとはねる。だがそれは一瞬のことで、すぐにいつも通りに戻ったオサナが楽しげな顔でマケカクに言う。


「ふふーん、それはお祭りが終わってからのお楽しみよ! きっとビックリしちゃうから、覚悟しておきなさいよね!」


「お、おぅ。わかった」


「じゃ、精々頑張ってきなさい。お姉ちゃんとして応援してあげるから」


「誰がお姉ちゃんだよ!? でもまあ……ありがとな」


「もうすぐ最終競技の開始となります! 参加者の皆さんは浜辺の方へお集まりください!」


 照れ隠しにそっぽを向きながらも言うマケカクの言葉をかき消すように、浜辺の方から係員の呼ぶ声が聞こえてくる。


「じゃ、行ってくるぜ!」


「ん。応援してるから、ニックさんなんてぶっちぎってきちゃいなさい!」


「頑張れよマケカク!」


 兄と幼なじみの声援を受け、マケカクが浜辺へと走る。するとそこには既に他の参加者が集まってきており、そこにはマケカクにとってどうしても乗り越えなければならない筋肉の壁、ニックの姿もあった。


「お、来たなマケカク。体の調子はどうだ?」


「へっ! バッチリに決まってるだろ。そのためにちゃんと限界見極めて海からあがったんだしな!」


「そうか。それは何よりだ!」


 笑顔を浮かべるニックからは、ついさっきまで冷たい海に浸り続けていたことなど微塵も感じられない。なお次も海に入る競技だと説明されていたため、ニックの股間には今も黄金の獅子頭が燦然と輝いている。


「あー、二人とも!」


「うむ、マチョリカか」


「なんだよ、またこっちに来たのか?」


 そんな二人を……正確にはニックの巨体と股間のアレを目印に、マチョリカが手を振りながら近づいてくる。


「なによー、本当は綺麗なお姉さんに迫られて嬉しいくせに。うりうり」


「そんなことねーよ! それより……あれだ。アレはすませてきたのか?」


「うわっ、最悪! あたしみたいな淑女(レディ)に向かってそんなこと言うとか、絶対あり得ないんだけど!? マケカク君、女の子にモテなそう……」


「そ、そんなことねーよ!?」


 ジト目のマチョリカに、マケカクが明らかに動揺する。実際兄のカチカクは色んな女性にモテていたが、マケカクはそのおまけのような扱いだったため女性にモテた経験はない。


「バレバレだよー? あれ、ひょっとしてマケカク君、その年まで恋人とかいたことない?」


「うるせーな! そう言うマチョリカはどうなんだよ!」


「あたし? あたしは……」


「漢たるものぉぉぉぉぉぉぉぉ、稼げなければならないぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


 と、そこで会場中にアナリスの声が響き渡る。


「興味があるなら、あたしに勝ったら教えてあげる! おねーさんとの約束ね」


 パチリとウィンクをして、マチョリカが会話を打ち切る。色々言いたいことのあるマケカクだったが、とは言え一人だけ騒ぐわけにもいかないので無言になって解説席の方へと顔を向けた。


「家族を養うなら稼ぎがあって当然! 金も稼がず飲んだくれてるだけのろくでなしに『漢』を名乗る資格無し! ということで、ただいまより第三競技『漢の稼ぎ比べ』を開始しまーす!」


「はい。『漢の稼ぎ比べ』ですが、こちらは海で魚などを捕獲してもらい、それで稼いだ金額を競ってもらおうというものですね。ただし小舟などの乗り物の使用は禁止となりますので、あくまでも泳いで行ける範囲での勝負となります。


 また武器や魔法の使用は自由ですが、他の参加者に怪我を負わせたり、海に甚大な影響の出るような力の使用は禁止ですのでご注意ください。あと当然、他の参加者から奪うのも厳禁です。普通に衛兵に捕縛されちゃいますからね」


「この町で普段から仕事をしている漁師の人が俄然有利な勝負ではありますが、そもそもこの町の漁師のために始めたお祭りなので、異論は一切受け付けません! 多少の不利は気合いで跳ね返せ! 稼げる漢は無条件でモテるのだ! 私も年収が金貨の旦那様が欲しいです!」


「アナリスさん、割と本気ですよねそれ」


『最後は稼ぎか……何とも世知辛いな』


「はは。だが地域の祭りとなればその地の生活に密着したものが多い。むしろわかりやすくていいではないか」


 腰から聞こえた相棒の言葉に、ニックはこっそりとそう答える。稼げればいいというものではない反面、稼ぎが無いのは絶対的に悪い。どんなに容姿が整っていようが仕事もしないろくでなしと結ばれたいと思う輩はいないのだ。


「ねーねーマケカク、どの辺に高い魚がいるのかとか教えてよー!」


「っ!? お、教えるわけねーだろ! 自分で探せ!」


「ぶー! いいよ、ならマケカクの後を勝手に着いていくから」


「へっ! ついてこられるもんならついてきてみろってんだ!」


 そんなニックの隣では、二人の男女がじゃれあっている。しなだれかかってきたマチョリカの思いのほか柔らかい体の感触に一瞬戸惑うマケカクだったが、すぐにその腕を振りほどき宣言する。他の二つは思わぬ伏兵(筋肉親父)にやられたが、この競技だけはマケカクには絶対の自信があった。


『さて、貴様はどうするのだ? 一応言っておくが、海を殴って広範囲の海水ごと魚を吹き飛ばして取り尽くすなどというのは無しだぞ?』


「そんな事するわけなかろう! いくら儂でも人を巻き込まず魚だけ吹き飛ばすなどという器用な真似はできんぞ?」


『吹き飛ばすことそのものは可能なのか……本当に気をつけるのだぞ?』


「わかっておる。きちんと作戦を考えているしな」


『ほぅ。それは期待させてもらおう』


 若干の皮肉交じりのオーゼンの言葉に、ニックはニヤリと笑って答える。


「制限時間は二時間! それでは『漢の稼ぎ比べ』、始めぇぇ!」


 叫ぶようなアナリスの宣言と共に、遂に海の漢祭り、最後の競技が開始された。

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