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娘、発見する

「馬鹿な!? 自分が何を言っているのかわかっているのか!?」


 チョデッカイの巨体に見合う大声が部屋中に響き渡る。その衝撃でムーナとロンが顔をしかめるなか、しかしフレイはチョデッカイを見つめたまま微動だにしない。


「わかっています。それでも行きたいんです」


「ふぅ……理由を聞こう、小さき者よ」


 大きく息を吐いたチョデッカイが、頭を抱えながら椅子に座り直す。その深い苦悩の理由は、当然ながら「海」だ。


 海……それは世界の果て。巨大な単一の陸地であるこの世界の周囲は全て海に囲まれており、世界は文字通りそこで終わっている。


 勿論、実際に終わっているかどうかは誰にもわからない。だがどれほど沖に船を進めてもその先には何も無く、それでいて陸地に戻ろうとすると進んだ距離よりもずっと早く辿り着いてしまう。


 それは海底にしても同じで、ある程度より沖に行くと急速に底が深くなり、たとえ魚人であってもその底に辿り着くことはできない。


 技術も魔術も、海に生きる種族ですら超えられない壁。この世界における海は、文字通り「世界の果て」であった。


「アタシも海が『禁忌』であることは知っています。どれほど進んでも何もない、それでも進めば戻れなくなる……だからもうずっと昔から海への探索は『禁忌』とされ、どの国も精々ちょっと沖合で漁をするくらいで、海の向こうを調べるための船団を作ったりはしなくなったって。


 でも、魔導船は違います。海ではなく空を行く船なら、普通の船とは違う結果が出るかも知れません」


「ふむ。その言い分はわかるが……だが小さき者よ、お前はさっきこう言ったな? 『自分は海の底に行きたい』と。


 何故だ? 海を探索したいというなら、そのまま今の魔導船で飛んでいけばよかろう? なのに何故『海の底』なのだ!?」


 チョデッカイの問いに、フレイは小さく、だがはっきりと答える。


「天空城、ウイテル……」


「何?」


「実はここに来る前に、天空城ウイテルに行ったんです。そしてそこで……アタシ達は見つけたんです」





 それは全くの偶然だった。目的の宝が既に必要の無い宝玉だったと知り、フレイ達は肩を落として帰路を進んでいた。それでも戦いの経験は無駄では無いと何とか自分を慰めながらの行軍だったが……そんなとき、フレイはふと来るときには無かった小さな部屋を見つけたのだ。


「あれ? こんな所に扉なんてあったっけ?」


「……言われてみれば、ここは確かに壁だったはず」


「これは怪しいわねぇ」


 そんなことを話しながら三人が入ったのは、本来決して勇者が辿り着かないはずの部屋。宝玉の部屋まで辿り着きながら宝玉を取らずに戻ることでしか開かない、天空城ウイテルに残された唯一の未探索領域。


「何? これ……?」


 果たしてそこにあったのは、フレイにすれば「何だかわからないもの」だった。壁面に浮かぶ古代文字らしきものや、青白い光る線で描かれた何か。図形なのか記号なのか、はたまたこれも文字なのか? フレイの知識ではそれが何であるかを判別することすらできない。


「何とも面妖な……この部屋そのものが高度な魔法道具のようですが、拙僧にはさっぱりわかりませんな。ムーナ殿なら何かわかりませんか?」


「ちょっと無理ねぇ。私はあくまで魔術師であって、魔法道具の技師じゃないものぉ。でも、そうねぇ。魔術的な繋がりとか魔力の流れとかからすると……ここかしらぁ?」


 光る壁面の一点をムーナが指でつつく……が、何も起こらない。


「……何よ、何も起こらないじゃない」


「そんなこと言われても困るわぁ! ならこことか……ここはぁ?」


 その後もいくつかの場所をムーナがつつくも、光る壁には何の変化も生じない。


「なによこれぇ! もう駄目! お手上げよぉ!」


「ムーナ殿にもわからないとなると、これはどうしようもありませんな」


「あーあ。凄い大発見かと思ったけど、とりあえず諦めるしかないかぁ」


 すっかりむくれてしまったムーナに、ロンとフレイは顔を見合わせ苦笑する。あからさまに何かありそうな場所ではあるが、こうなれば専門家でも連れてこなければどうしようもない。


「ざーんねん! でも絶対また来るからね……っ!?」


 やむなく部屋を出るその時、最後にフレイが最初にムーナがつついた場所を指でつつくと、その瞬間部屋の壁に映っていた謎の模様がせわしなく変化を始めた。


「うわっ!? ちょっ、何!?」


「ちょっとフレイぃ!? 貴方何したのよぉ!?」


「何って、ムーナが触ったところをアタシも触っただけ……あっ!?」


「なるほど、魔導船と同じく勇者でなければ起動しない仕掛け!」


 ロンの言葉に、三人は顔を見合わせる。その後はムーナの指示に従ってフレイがいくつかの場所を触り、そうして最終的に壁面に映し出されたのは、巨大な地図だった。


「これって、世界地図?」


「だとすれば、この光ってるところがウイテルの場所ですかな。となると、他に光っている場所は……」


「何かあるんでしょうねぇ」


 地図に映し出された、いくつもの光点。とはいえその多くは半分光を失って「点」だけになっており、しっかりと光っている場所はここを含めて幾つもない。


「とりあえずこれは全部記録しておくべきよね。ねえロン、地図持ってる?」


「持ってはいますが、世界地図などというものはありませんぞ?」


「そりゃそうか。なら適当な紙にざっと書き写すとか……」


「その必要は無いわぁ」


 フレイがロンに言った提案を、腕組みをしたムーナが否定する。


「ムーナ殿、必要ないとは?」


「今頭の中で照合してみたけどぉ、これ全部歴代勇者が回った場所よぉ? ほら、こことか覚えがあるでしょぉ?」


「そこは確か……あっ、封印の扉があったところ!」


「とするとこっちは聖剣が安置されていた場所ですかな? 他には……ああ、言われてみればここはエルフの王国ですな。ではこの光点は世界樹でしょう」


 ひとつ心当たりが浮かべば、次々と光点の場所が思いつく。結果として地上にあった光点の全ては既に行ったことのある場所か、あるいはこれから行こうとしている場所だった。


「うわー、大発見だと思ったのに!」


「確かにフレイが最初の勇者だったら、大発見だったでしょうねぇ」


「ですな。歴代勇者が既に見つけた場所ばかりとは。とは言えこれはこれで有用でしょう。もっと大雑把な場所しかわからなかった目的地もありますしな」


「そうねぇ。一応役には立ったって事かしらぁ?」


「うぅ、宝玉といい地図といい、アタシがここに来た意味って……ん?」


 がっくりとうなだれたフレイは、その視線の端にもうひとつ光る点があることに気づいた。


「ねえ、ここにも光点があるんだけど?」


「む? ですが大地から外れておりますぞ?」


「そうねぇ。ってことは、海にも何かあるのかしらぁ?」


「でも、この位置に建造物があるなら流石に発見されてないのは不自然じゃない? 今はともかく昔は海って散々調べたんでしょ?」


「そうよぉ。世界の果てを超えようと、色んな国が大船団を送り出したらしいわぁ。もっとも何かを発見できた国はひとつもなかったって話だけどぉ」


「だったら島があるとか、そういうのはなさそうね。となると……」


 何の気なしに、フレイがその光点に触れる。すると地図が回転し、まるで世界を横からみたような絵に変わった。当然光点の位置も変わり、それが指し示していたのは遙かに深い海の底。


「これって……!?」


「海底!? 海の底に何かあると言うことですか!」


「それなら見つかってなくて当然ねぇ。こんな場所に辿り着けるのは、船と一緒に沈んだ人くらいでしょうしぃ」


 フレイの首筋に、ビリビリと痺れるような感覚が走る。ここに行きたい、行かなければならない。フレイの中に眠る何かが、それを強く求めている。


「行くわ、絶対。どうすればいいのかわからないけど、アタシは絶対ここに行く。だからもう少し待ってて。きっと見つけてあげるから」


 まるで約束するように、フレイは再び光点に触れた。するとそこに青白い文字のようなものが、己の存在を誇示するかのように浮かび上がる。


 そこにはかつてアトラガルドに使われた文字で、こう書かれていた。


『緊急時情報保全施設 海底基地シズンドル』

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