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父、間違われる

 それから更に数日後。初心者講習の日を迎え、ニックは朝から町の門の外へと出ていた。


『ふむ。ようやくこの世界の平均的な新人冒険者の実態が知れるな』


「何だそれは? 儂だってピカピカの新人であるぞ?」


『貴様が普通の新人など、どんな修羅の世界だ! っと、あれではないか?』


 オーゼンに指摘されてニックが顔を向けると、指定された集合場所には既に五人ほど冒険者と思わしき人影が集まっていた。


「おはよう諸君! 初心者講習の集まりはここで良かったか?」


「あ、はい! おはようございます教官! 今日は宜しくお願いします!」


「ん?」


 笑顔で手を上げ挨拶をしたニックに、フレイより年下と思われる少年が元気よく挨拶を返してくれる。それに合わせて周囲の者達もニックにぺこりと頭を下げるが、当のニックはやや困惑気味だ。


「あー、いや、すまん。儂は教官ではないぞ? お主達と同じ新人だ」


「えっ!? そう、なんですか?」


 ポリポリと頬を掻きながら答えたニックに、最初に挨拶してきた少年がキョトンとした表情をする。


「ボク達よりも随分年上に見えますけど……あ、ひょっとしてそう言う希少種族とか?」


「いやいや、儂は普通に基人族だ。歳は今年で四〇だな」


「うわ、俺の父ちゃんより年上かよ!」


「フン。そんな歳で新人なんて、まともな奴じゃないだろ」


 千差万別の反応に、ニックはただ笑顔で応える。実際ニックからすればこの場にいるのは全員自分の娘より年下の子供であり、彼らのどんな反応も微笑ましいとしか思えなかった。


 その後も少しずつ人が増えていくが、概ね誰もが最初はニックを教官と間違え、それをニックが正すという流れが続く。そうして少ししたところで、やっと本物の教官と思わしき壮年の男性がニック達の集団に向かって歩いてきた。


「おーし、集まってるかー? ひい、ふう、みい……よし、数は合ってるな。


 じゃあ、改めて自己紹介だ。俺は今回の初心者講習を担当する銀級冒険者のシドウだ。宜しくな」


「銀級……」


 シドウの自己紹介に対する反応もまた様々だ。ほとんどが先輩冒険者に対する憧れや敬意を示すものだったが、中には見下すような視線すらある。当然シドウはそれに気づいていたが、ただニヤリと笑うだけで済ませた。


 世間一般では銅は新人、鉄で一人前、銀で熟練、金で一流、そして白金ともなれば英雄などと呼ばれたりする冒険者だが、確かに銀級はそこそこの実力がある者が地道に努力を重ねることで十分に手が届く範囲だ。


 だが、それこそが難しいということをシドウは身をもって知っている。そしてその大変さは自分が味わってみなければ決してわからない類いのものだ。身も心も若く未熟な新人が「たかが銀級」と通過点のように考えるのは、シドウ自身にしてもかつて自分が通った道であり、それを過信にしないようにすることが今日の自分の役目だとシドウは理解していた。


「よーし、それじゃ移動するぞ。この人数で動いてりゃゴブリン程度が寄ってくるとは思えないが、万が一襲ってきた時は俺が始末するから手を出すな。


 じゃ、全員ついてこい!」


 シドウの言葉に従って、最終的に二〇人近くなった集団は道を外れ森の側へと歩いて行く。最初のうちこそ多少の緊張感もあったが、すぐに周囲と雑談を始めた集団は冒険者というよりも子供の遠足集団のようであった。


『これほどあっさり警戒心を無くすとは、何とも稚拙な集団だな』


(言ってやるな。数が集まれば気が大きくなるのはやむを得まい。ましてや初心者講習に参加するということは、ここにいるのは全員新人なのだからな)


 やや呆れた声を出すオーゼンに、ニックは小声でそう呟く。ちなみにニックも特に警戒はしていないが、これはゴブリンなど存在に気づいた時点でいとも容易く消し飛ばせるからであり、ゴブリン如きがニックに気づかれること無く不意打ちなど出来るはずがないからだ。


「よーし止まれ!」


 そんな集団がシドウの指示によって足を止める。たどり着いたのは登録初日にニックが散々苦労させられた薬草の群生地であり、それに気づいて周囲にいる何人かは露骨に嫌そうな顔をする。勿論ニックもその一人だ。


「ハッハー! 随分わかりやすい奴らがいるみたいだが、ご明察! ここで足を止めたのは、もう一回薬草の確認をするためだ。お前とお前、こっちに来い! あ、あとオッサンもな」


「儂もか!?」


 シドウに呼ばれ、ニックは驚きの声をあげる。


「ああ。オッサンの事は色々話に聞いちゃいるが、そんな顔をされたらな。年長者としてここはいいところを見せてくれよ」


「ぬぅ、仕方あるまい」


 そう言われてしまえばまさか嫌だと拒否することも出来ない。呼ばれた何人かと一緒にニックもまた集団の最前列に歩み出る。なおシドウは三〇代中盤であり、ニックをオッサンと呼ぶことに疑問を感じる者はいなかった。


「さて、この薬草……トゲアリトゲナシトゲトゲ草だが、今前に出てきた奴らみたいに見分けるのに苦労した奴もいれば、簡単に見分けられる奴もいる。その違いは何かわかるか?」


「えっと、観察力が低い、とか?」


 一人の新人の言葉に、シドウは大きく頷いてみせる。


「そうだな。確かにそれもひとつだ。ここにいて見分けるのに苦労しなかった奴の大半は、ガキの頃から小遣い稼ぎで薬草を集めてたんじゃねーか? 冒険者は畑を継げない農家の次男とかが目指す筆頭職業だしな。ずっと扱ってりゃ微細な違いも見分けられて当然だ。


 だが、他にも要因はある。わかる奴はいるか?」


「簡単だ。魔力の含有量を見分ける」


 続いたシドウの質問に、さっき挑戦的な、あるいは見下すような視線を向けていたローブ姿の少年が口を開いた。シドウは再びニヤリと笑うと、続く言葉を促す。


「ほう。続けろ」


「薬草が薬草たり得るのは、他の植物に比べて魔力の含有量が多く、それによって薬効が魔法的に強化されているからだ。トゲトゲ草の場合トゲナシトゲトゲ草になった段階で一度魔力が抜けるけど、周囲の魔力が濃い環境だと無くした力を取り戻そうと魔力を取り込み内部にため込もうとする。その際に余剰分を退化したはずの棘として蓄積するから薬草になるんだ。


 つまり、草が内包する魔力の差を見極められれば違いは一目瞭然なんだよ」


「正解だ。対象の魔力の過多を感じ取るのは冒険者の必須技能だ。魔力の多い魔物は大抵強いし、更に感覚を磨けば魔法的な罠の感知なんかにも使える。魔法として発動できる程の魔力を持っていなかったとしても、魔力の感知技術は絶対に磨いた方がいいぞ。


 ということで、まずは五人くらいずつに分かれて前に呼んだ奴らに通常の見分け方を教えつつ、魔力感知も意識してやってみろ。ああ、魔力感知が出来る奴も通常の見分け方も出来るようにしておけよ? 魔力感知にだけ頼るようになると、それが使えなくなった時に困るからな。


 つーことで、始め!」


 シドウがパンと手を打ち鳴らし、新人冒険者達がそれまでの雑談で気のあったであろう小集団に別れていく。ニックの側にやってきたのは、最初に挨拶をしてくれたあの少年達だ。


「宜しくお願いしますニックさん。新人同士頑張りましょう!」


「しょうがねーなぁ。オッチャンは俺が鍛えてやるぜ!」


「あの、宜しくお願いします……」


「フン、何で僕がこんなこと……」


「ほらほら、口より先に手を動かさなきゃ駄目よ? ニックさんもしっかりね!」


「うむ。よろしく頼むぞ皆!」


 笑顔で挨拶を……一人を除いて……交わし合い、こうしてニックの初心者講習が始まった。

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