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父、次の目標を決める

「むーん……」


 泡を食ってドワーフの国から飛び出してきたニック。そのままふらふらと旅を続けながら新たに手にした魔剣『流星宿りし精魔の剣インスターグラム』の試し切りをしていたのだが、適当な魔物を三〇体ほど切り倒したところで不満げなうなり声をあげた。


『どうしたのだ?』


「いや、これだけ魔物を切っても全然魔力が溜まらんのだと思ってな」


 ニックの手の中にある魔剣の刀身に刻まれた七つの星の溝。だが今光っているのはそのうちひとつだけであり、それもすぐに光を失ってしまう。


『魔竜王のあの爆発的な魔力すら受け入れきるというのだから、許容量が大きいのだろう。武器の性質上魔力を溜めておくこともできんようだし、大気に満ちる魔力とて無限というわけではない。


 であれば雑魚とどれだけ戦ってもそのくらいが限界なのではないか?』


「やはりそうか。ぬぅ、一度くらいは最高まで高まった一撃を放ってみたいものなのだがなぁ」


 ニックの脳裏に浮かぶのは、魔竜王を切り裂いたあの一撃。あれほどの斬撃を自在に放てればさぞ格好いいだろうという思いはあれど、なかなか上手い具合にはいかない。


『一応我を発条としてこの剣に魔力を注ぎまくれば再現できないこともないとは思うが……』


「いや、流石にそれはなぁ」


 オーゼンの提案に、ニックは思わず眉をひそめる。そもそもこの剣を使いたいのは格好いいからであり、戦闘中に必死に発条を巻いて力を溜める姿はどうひいき目に見ても格好いいとは思いづらい。


 これが攻撃に耐えて力を溜めることに意味があり、それによって格上の敵を倒せるとかなら話は別だが、ニックの場合そんなことをせずとも普通に殴った方が強いのだから尚更だ。


「うーん。やはり一度魔族領域の奥まで戻るか? あの辺の魔物であれば魔竜王ほどではなくても十分に強いものがいるからな」


『貴様がそうしたいと言うのであればとめぬが、いいのか?』


「ん? いいとはどういう意味だ?」


『さっきから見ていたが、貴様の剣の扱いは我でもわかるほどに素人丸出しだ。だというのにそんな強力な魔物を貴様は切れるのか?』


「うぐっ!? それは…………」


 その言葉に、ニックは思わず声を詰まらせる。魔剣は素晴らしい剣ではあるが、その材質上剣の耐久力はそれほど高くない。吸収した魔力が刀身を覆う刃を形成するため、それで切れる相手であれば劣化や刃こぼれの心配もないが、逆に言えばそれで補えない場合、鋭いが柔らかい(ニック基準)刀身できちんと切らなければ簡単に破損する可能性がある。


 つまり、魔竜王のように絶大な魔力を持つ相手やゴブリンやグレイウルフのような銅級冒険者でも倒せるような雑魚なら付与される魔力刃の力押しで切り裂けるが、半端に強い相手だときちんと剣の腕がなければあっさりと折れてしまうのだ。


「むぅぅぅぅ……」


 秋の風が吹いてきた草原の直中で、ニックは悩む。たとえ金級冒険者であろうとも尻込みする魔物が相手であっても、武器を使わなければ・・・・・・ニックならば余裕で勝てる。だが今の目的は魔剣を格好良く使いこなすことであり、そのために必要なものは……………………


「よし、剣を習おう!」


 考えに考え抜いた結果、ニックが出した結論はそれであった。できないならばできるようになればいいだけであり、地味な努力、地道な訓練はニックの最も得意とするところであった。


『何というか、貴様は本当に唐突だな。しかし剣の技術など、一朝一夕で身につく物ではないのではないか?』


「無論そうであろうな。だがなオーゼン、儂は思うのだ。自分で言うのもなんだが、儂はそれなりに強いであろう?」


『それなり……まあ、うむ。貴様が強いことに異論はないが、それがどうしたのだ?』


「つまりだ。基礎的な体裁きなどに関しては既に身についていると言っても過言ではないのだから、剣を扱う技術だけならそれなりの早さで身につくのではないか?」


『む、それは……どうなのだ? すまぬが我にもちょっと予想がつかんな』


 ニックの言葉に、オーゼンは頭をひねる。確かに既に高い能力を身につけた戦士であれば普段使わない武器であろうとある程度使いこなせるイメージがあるが、それが果たしてどの程度なのかと言われると具体的にはわからない。


 特にニックの場合、斧や槌のような力任せに振り回せばいいだけの武器ならば十全に使いこなせそうだが、それが剣にも通用するのかと言われるとそれこそ全く予想がつかなかった。


「駄目なら駄目でも仕方ないが、やってみる分には無駄ではあるまい? このまま雑魚狩り専用にしてしまうのはあまりに勿体ないしな」


『ふむ。それに関しては同意する。ではどうするのだ? 剣を習うとなると、アリキタリにまで戻るのか?』


 剣術指南と聞いてオーゼンが思い出したのは、アリキタリの町のキョードーだ。だがそれに対してニックは笑いながらゆっくりと首を横に振る。


「ははは。確かにキョードー殿なら喜んで教えてくれそうだが、本気で剣術を修めたいというわけではないからな。まずは近くの冒険者ギルドでその手の仕事をしている者がいないか聞いてみるのがよかろう。初心者向けの指導であればやっている場所は結構あるからな」


『そうなのか。確かに冒険者の使う武器は剣が多いようだしな』


 ニックの言葉にオーゼンも納得を返す。これまでいくつもの町をまわり無数の冒険者を見てきたが、彼らが扱う武器は剣が圧倒的に多かった。であればそれを教えることのできる者もまた多いのは道理であろう。


「では行くか。ここから近いのは……ヨクアールか? 精人領域と接する町の一つで、そこそこ大きな町だったはずだ」


『む、人間の領域に戻るのか』


「そうだが、それがどうかしたか?」


『我はいいのだが、メーショウやヒストリアに一声かけずともよかったのか?』


「ああ、それか。確かに一言くらいは挨拶をしたかったが、所詮儂は根無し草の冒険者だからな。ふらりと消えることなど珍しくもないし、そもそも二度と会わないと決めたわけでもない。『王の鍵束』があればそれこそ何処からでも戻れるのだしな」


『くっくっ、そうか』


「何だ、何を笑う?」


『いや、それほどあの全裸の者達の救世主になるのが嫌なのかと思ってな』


 からかうような口調のオーゼンに、ニックは一瞬憮然とした表情を浮かべるも、すぐにイタズラを思いついた子供のようにニヤリと笑う。


「お主がそれを望むというのなら、戻ってもいいぞ? ただしその時お主は儂の股間で燦然と輝いているであろうがな」


『さあ、出発するぞ。目指すはヨクアールの町だ』


「おう!」


 あっさり意見を翻したオーゼンに、苦笑しながらニックが歩き出す。目指す先は久しぶりに戻る基人族の町。


『次の町では、一体どんな風に貴様が祭り上げられるのであろうな?』


「何を言うか! 儂はいつでも地味に静かに、目立たぬように過ごしているぞ!?」


『そうだな。王族の問題を解決したり伝説の魔物を狩ったり、料理大会で優勝してみたり四天王とやらを倒したりした程度だな。


 うむうむ、実に地味だ。町の入り口に像が建ったり勇者ですら仕留め損なった魔物を倒したり救世主と崇められたりすることなど、誰にでもよくあることだからな』


「ぐぅぅ、オーゼンよ、お主本当に言うようになったな……」


『フッ。我も成長しているということだ』


 皮肉気に笑う相棒の声に、ニックはポスンと鞄を叩いて答える。高く澄んだ秋の空は、新たな旅路の始まりを祝福するかのように晴れ渡っていた。

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