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父、調査する

前回のあらすじ


ニックのローブを売ってホクホクのチュニーン。こっそり隠し持っていたもう一着を着て森を歩いていたら、その持ち主の集団と遭遇。好奇心からついて行くも本物の生け贄の儀式の残酷さに耐えきれず、そのまま黒ローブ教団に捕まってしまうのだった。

「ふぅ。今日も空振りであったか」


 子供達から黒ローブを買い取って数日。今日も町の周辺の森を調査したニックだったが、相変わらず何も見つけることはできずに一旦冒険者ギルドへと戻ってきた。


『貴様自身も言っていたことだが、地道にいくしかあるまい。調査結果とてそんなにすぐには出ぬであろうしな』


「だなぁ」


 子供達から買い取った黒ローブのうち一着は、その日のうちにギルドマスターに渡してある。とは言えそれですぐに何かがわかるというわけでもないので、ニックは地道な調査活動を続けており、その合間……大体昼頃には冒険者ギルドに戻ってギルドマスターのココダケと情報の共有をすることにしていた。夕方でないのはその時間は依頼を終えた一般冒険者で非常に混むからだ。


「さて、では今日も報告して、あとは少し早めの昼飯でも――」


「あっ、いた!」


 冒険者ギルドに入ってきたニックに、不意に声がかけられた。声のした方に顔を向けると、そこには見覚えのある子供の姿がある。


「お主は確か……クロレッキシだったか? どうしたのだ?」


「大変なんだよおじさん! チュニーンが! チュニーンがいなくなっちゃったんだ!」


「何だと!?」


 必死に訴えかけてくるクロレッキシに、ニックの顔が瞬時に引き締まる。すぐに腰を落として目線を合わせると、動揺しているクロレッキシの肩をガッシリと掴んで正面からその目を見つめた。


「どういうことだ? 詳しく説明しろ」


「う、うん。僕昨日は家の手伝いでチュニーン君とは別行動だったんだけど、今日遊びに行ったらチュニーン君が昨日から帰ってきてないって……朝から大人の人も探してくれてるけど、でも全然見つからなくて。


 だから僕も思いつくところを探したんだけどやっぱり見つからなくて、どうしていいかわからなくて、そしたらおじさんのこと思い出して、だから、だから……」


「そうか。よくぞ思い出してくれたな」


 必死に訴えかけてくるクロレッキシに、ニックは優しく微笑む。


「任せておけ。儂が必ず見つけ出してやる!」


「ホント!? あ、でも僕、報酬が――」


「そんなものは……」


「これっ!」


 断ろうとしたニックに、クロレッキシが懐から何かを取り出した。それは刃物と呼ぶのもおこがましい、黒く歪なくず鉄の棒。


「僕が初めて打ったナイフ! 価値がないのはわかってるけど、でもこれが僕の一番の宝物なんだ! いつか僕が本当に鍛冶屋になれたら、その時はこれを最高の剣と引き換えるから! だから今はこれで……」


「ほほぅ。それは楽しみな報酬だ! いいだろう、その依頼引き受けた!」


 受け取ったそれを大事に鞄にしまうと、ニックは立ち上がりクロレッキシに背を向ける。切なる子供の願いを背負ったニックの足は、あっという間に町の外までその巨体を運ぶ。


『何とも因果な話だな。爆発に誘拐、少し前の出来事を小規模化した事件にまたも巡り会うとは』


「確かにそうだな。前回は国で今回は冒険者ギルドの依頼。攫われたのも王族と庶民の子供では、普通なら腐るところかも知れんが……」


 皮肉げな笑みを浮かべるニック。だがその目はあの時と何ら変わることのない強い光を宿している。


「規模など関係ない。身分や立場など誰かを想う心の前では何の意味もない。儂がすべきことはただ一つ。過程が同じならば、結果もまた同じにするだけのことよ! オーゼン!」


『準備はいいぞ』


「『王能百式 王の羅針』!」


 腰の鞄が光を放ち、一瞬の後にはニックの手に透き通った羅針球が現れる。ニックがチュニーンの姿を思い浮かべれば、すぐに中央の赤い羅針が森の方を指し示した。


「征くぞ!」


 ニックの足が音も無く森を駆ける。既に臨戦態勢に入っているニックであれば、高速移動しながら周囲の気配を探るなど造作も無い。


『にしても、何故あのエルフの子供は攫われたのだ? 貴様がローブを買い取ってしまったのだから、わざわざ攫う理由などなさそうだが……』


「あるいは拾った時点で目をつけられていたのかもな。だがそれならローブをギルドに持ち帰るまでの儂が襲われなかったことが不自然だが……まあ考えても仕方あるまい。この前のように全く別の集団がたまたま攫ったとか、あるいは魔物に襲われて怪我をして動けぬなどということもあるだろうしな」


『ふむ、そうだな……む? そろそろのはずだが……?』


 オーゼンの言葉にニックが走る速度を緩めると、羅針の指し示す先がどんどんと下になっていく。だが周囲には何の建造物も見当たらない。


「これは……地下か? しかし周囲に洞窟のようなものも見当たらなかったのだが……」


『入り口が離れているか、あるいは隠蔽されているのだろう。我が魔力を探知する故、この近辺を少しゆっくり歩いてみてくれ』


「わかった。頼むぞオーゼン」


 羅針が丁度真下を指したところを中心に、ニックは螺旋を描くように少しずつ半径を広げながら歩いて行く。そうしてしばらく歩いたところで、森の中に生じた大きな段差、切り立った岩壁の出来ていたところでオーゼンが反応を示した。


『ここだな。ここに魔力反応がある』


「ふーむ。儂が見た限りではただの岩壁だが。とすると厄介だな」


『ん? 貴様であればこんなもの簡単に破壊できるであろう?』


「それはそうだが、用心深い相手がこれだけ見事に隠蔽している入り口だぞ? そんなものを破壊してこじ開けたら、一発で侵入がばれるではないか」


『それはそうだな』


 単なる木こり小屋に侵入するのと、巧妙に隠された拠点に入り込むのとでは訳が違う。チュニーンの扱いがどうなってるのかわからない以上、ここで力押しは如何にニックとて選べない。


「オーゼン、お主が開けることはできるか?」


『やってみよう。我をその岩壁に押しつけるのだ』


 オーゼンの指示を受け、ニックは一度「王の羅針」を解除してメダリオンに戻ったオーゼンを入り口があると思わしき場所に押しつける。そのまま五分ほどが経過して――


『……すまぬ。無理とは言わぬが大分時間がかかるな。魔導兵装マグスギアのような理路整然とした魔法回路ならどうとでもなるのだが、ここのは何というか、有機的にうねうねした感じなのだ』


「そうか」


 オーゼンが感じた違いは、理術魔法と精霊魔法の違いだ。アトラガルド、ひいては現代の基人族が使う理術魔法と違い、精霊魔法は精霊という術者以外の存在を解する能力のため、同じ「魔法」と呼んではいてもその成り立ちや力の発現の仕方は全く違う。


 それでも不可能と言わないのはオーゼンの矜持だが、かといって容易く模倣できるわけではない。


(誰かが出入りするのを待つ? それこそ手遅れ・・・になるまで人の出入りが無い可能性が高い。ならば破壊するか? 十中八九探知されるであろうし、それで人質が無事にすむとは思えぬ。となれば……)


「オーゼン。もう一度羅針に戻れ。『王能百式 王の羅針』!」


『何かいい方法を思いついたのか?』


 光に包まれ羅針球に戻ったオーゼンの問いに、ニックはニヤリと笑みを浮かべる。


「ああ、思いついたぞ。入り口を壊しては駄目だというなら、入り口以外から入ればいいのだ」


『……ああ、実に貴様らしい結論だな。だが何処を破壊しても察知はされるのではないか?』


「だろうな。故にこそ儂がとるべき順路はただひとつ。目標までの最短を突っ切ればいいのだ!」


 己のやるべきことを見据え、ニックは羅針球を手に再び森を歩き始めた。

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