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父、仲良くなる

『……何だこの茶番は?』


「さあ、これで十分満足であろう。立つのだ子供達よ!」


 オーゼンが呆れて物も言えないなか、ニックの声に倒れていた二人がむくりと体を起こす。同時に頭を覆っていたフードを外せば、そこから現れたのはエルフとドワーフの子供の顔だ。


「クックック、我、復活せり!」


「あー面白かった! で、チュニーン君、この人誰?」


「え? 知らないけど」


「え!? あれ!? 僕てっきりチュニーン君の知り合いが遊びに乗ってくれたんだと思ったんだけど!?」


「いや、全然知らない人。じゃなくて、クックック。我が闇の魅力は見知らぬ他人すら引きつけてやまないのだ」


「えぇぇ……えっと、どちらさまですか?」


 不敵に笑い続ける友人の言葉に、ドワーフの子供がやや不審そうな顔でニックに問う。


「ああ、そんな顔をするな。最初に名乗った通り、儂はニック。冒険者ギルドの依頼を受けて、この辺にいるという怪しげな輩を調査しておるのだ。これは本当だぞ?」


「はぁ……」


「クックック、いいじゃないか同志クロレッキシ。すげーいい装備してるし、多分本当だと思うぜ?」


「あ、確かによく見たら凄い! うわー、何この鎧。柔らかい銅で鎧を作るはずないから、赤鋼? それとも別の……あの、触ってもいいですか?」


「ん? 構わんぞ」


「やった!」


 ニックに了承を得て、まだ髭の生えていないドワーフの子供クロレッキシが喜び勇んでニックの鎧をペタペタと触ってくる。それをそのままにニックはエルフの子供であるチュニーンの方に話しかける。


「で、お主たちはいつもここで遊んでいるのか?」


「クックック。その通りだ。特に今日は長年の努力が実った記念すべき日だからな」


「そうなのか?」


「はい! やっと泥鉄が欲しかった大きさになったんです!」


「泥鉄? というと、お主が手にしていたあの黒い塊か?」


 ニックがチュニーンに顔を向けると、チュニーンは得意げに笑いながら懐から再びあの黒い歪な球を取り出す。


「その通りだ。これは極小の暗黒物質に闇の精霊魔法をかけることで、腐れた大地から呪いの力を――」


「えっと、凄くちっちゃな鉄に精霊魔法をかけて泥の中を転がすと、そこに混じってる鉄が少しずつくっついていくんです」


 チュニーンの言葉をクロレッキシが補完する。


「ほほぅ、そうか。だがそんなものどうするのだ?」


「それは勿論――」


「勿論、僕が鍛えるんです!」


「……おいクロレッキシ、ここは俺が――」


「僕の家農家なんで鍛冶道具なんて無いですけど、でもドワーフならやっぱり鍛冶には憧れるじゃないですか! だから納屋からこっそり金槌を持ち出してて、あとは河原で炉を組んだら僕がこれを鍛えるんです!」


「そ、そうだ! それで我らは闇の神器を手に入れるのだ!」


「おお、それは楽しそうだな」


「クックック、そうだぞ。我はとても楽しみなのだ!」


「ゲハゲハゲハ……げほっ、げほっ……うぅ、この笑い方喉が辛い……ゲハゲハ! オレサマも猛烈に楽しみだぜぇ!」


「はっはっは。そうかそうか。まあ怪我をしないように、ほどほどにな」


 子供の頃は誰でもこういうものに憧れるものだ。ニックもまた英雄になりきって木の棒を振り回したりしていた時期があったし、ましてや彼らはエルフとドワーフ。明らかに質の悪い鉄を素人以前の子供が鍛えるとしても、できあがるのが唯一無二の宝であることは想像に難くない。


「ではもうひとつ聞いてもよいか? そのローブはどうしたのだ?」


 ほんのわずか、よほど注意していなければ気づかれないほどではあるが、その質問と共にニックの目がスッと細くなる。明らかに上等な生地の揃いのローブ、しかも体型に合っていないとなれば、これの持ち主こそがニックが探している集団の可能性が極めて高い。


「これ? 森で拾ったんだ。割れた木箱の中にこれが入ってて……盗んだわけじゃないぜ?」


「はは、そんなことは言わんよ。だがそうだな。であればその木箱が落ちていた場所というのを教えて欲しいのだが、どうだ?」


 自分の肩を両手で掴みながら警戒して見せるチュニーンにニックは苦笑いを浮かべながら頼むと、少し態度を和らげながらチュニーンが答える。


「いいけど、もう何も無いぜ? 俺達も後でまた行ってみたけど、割れた木箱の破片とかまで綺麗さっぱり何もなくなってたからな」


「ふむん? いや、それでも構わんから頼む」


「うーん。どうするクロレッキシ?」


「いいんじゃない? 早く炉は作りたいけど、どうしても急ぐってわけじゃないし」


「だな。クックック、では着いてくるがよい光の戦士よ!」


「はは。お供させていただこう、闇エルフの反英雄よ」


「おお、その呼び方格好いいな! よし、行くぞー!」


「いいなぁ、僕も何か格好いい名前が欲しいなぁ」


 子供達と会話しながら、ニックは森の中を歩いて行く。子供の足故に遅いかと思えば、そこはエルフとドワーフだけあって下手な大人よりその歩みはずっと速い。そのまま三〇分ほど歩いて目的地へとたどり着いたが、事前の説明通りそこには何の痕跡も残されていなかった。


「なるほど、確かに何も無いな」


「言った通りだろ? でも、嘘なんかついてないぜ!」


「もう一度言うが、そんなことは疑っておらんさ。ただ儂としては是非ともそれが欲しかったのだが……よし、お主たちそのローブを儂に売る気はないか?」


「売るぅ?」


「一着につき銅貨一〇枚でどうだ?」


「売った!」


 財布から銅貨を取り出して見せたニックに、チュニーンが一瞬のためらいも無く同意する。そのままいそいそとローブを脱ぎだし、ニックに押しつけてきた。


「はやっ!? 早いよチュニーン君!?」


「ばっかクロレッキシ、銅貨一〇枚だぞ!? それだけあれば欲しかった物が大分買えるじゃん!」


「それはそうだけど、チュニーン君、このローブ格好いいってあんなに言ってたのに……」


「クックック、同志クロレッキシよ。確かにこのローブは凄く格好いいけど、でもローブでアレは買えないんだぞ? 余った分でおやつも買えるしな!」


「それは確かに。僕も着火剤が買えればこれ以上ユシの実を集めなくて済むし……あの、僕のも?」


「勿論。儂の体はでかいからな。二着分くらいは無ければ仕立て直すにしても布が足りんのだ」


「じゃ、じゃあお願いします!」


 そう言うとクロレッキシもまたローブを脱ぎ、ニックはそれを笑顔で受け取るとその手に銅貨を一〇枚渡す。


「クックック、闇の権化たる我への貢ぎ物、確かに受け取ったぞ!」


「ゲハゲハゲハ! 感謝するぜおっちゃん!」


「はは。あまり無駄遣いはするなよ? それと儂はしばらくは毎日冒険者ギルドに顔を出すから、何かあったら来るがいい」


「クックック、覚えておこう。ではさらばだ光の戦士、ニックよ!」


「またです、おじさん!」


「気をつけてな。転ぶなよ?」


 元気に手を振りながら走り去っていく子供達を見送ると、ニックはふぅと小さく息を吐く。そこで沈黙を保っていたオーゼンがようやくその口を開いた。


『子供というのはいつの時代も賑やかでたくましいものだな』


「よいではないかオーゼン。これもこの国が平和な証拠だ」


『それに異論は一切無いが、何故突然あのような茶番を始めたのだ?』


「うん? ああ、儂自身の子供の頃のことを思い出したのもあるし、村の子供達と遊んでやったこともあるからな。ああするのが一番手っ取り早く仲良くなれると思ったのだ。実際いい話が聞けたであろう?」


『ふむ、まあ確かに。ではローブを買い取ったのも……』


「うむ。これ・・ではな」


 言ってニックは改めて地面に視線を落とす。だがそこには何の痕跡も無い……あまりにも何もなさ過ぎる・・・・・


「子供達の話では、木箱の蓋が割れていたということだった。だが小さな木片まで本当に拾い集めたとなれば、そこまでして証拠を消したかったということだ。そんな危険な物を子供達に持たせてはおけんし、調べれば何かわかる可能性もあるからな」


 ニックの素人目でわかるほどに仕立てのよいローブは、軽く見積もっても銀貨の値がつく品だ。子供が身につけるには目立ちすぎるし、もし落とした者達が回収しようとやってきたなら、どのような手に訴えられるかわかったものではない。


『まったく、本当に貴様は厄介ごとを呼び込む男だな……』


「ははは……」


 もはや聞き慣れたオーゼンの言葉に、ニックは今回も苦笑をして返すのだった。

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[一言] 劇団員じゃなくて子供たちだった
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