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父、謎の集団に出会う

本日をもって、「小説家になろう」投稿開始から二周年となりました! 三年目も変わらず頑張っていきますので、これからも応援よろしくお願い致します。

「まだ食ってんのか……あとで金払えよ? 銀貨一枚な」


「むぐっ!? それはちょっと高……じゃなくて、い、いいですよそのくらいー! 今の私はお金持ちですからねー! はぐはぐはぐはぐ」


 メーショウの言葉にひるみつつも虚勢を張ってみせるヒストリア。いくらニックに大金をもらったからといって、今回の調査で支払われる日当と同額を請求されてはとても心穏やかではいられない。


 だが嘘をつかないドワーフがぼったくり価格を提示するはずもなく、またエルフとしての矜持がヒストリアにそれを受け入れさせた。内心では涙しつつ、どうせ金を払うならと更なる勢いで干し肉を囓っていく。


「それでヒストリア殿。心当たりとは何なのだ?」


「あー、はい。私がこの町に来る途中の話なんですけど、東の方の森で変な格好をした集団を見かけたんですー」


「変な格好?」


「そうですー。まだ残暑も厳しかったのに真っ黒なローブを頭から被っていて、とっても怪しかったですー」


「それはまた随分とあからさまだな」


 砂漠のような日差しの強い場所ならともかく、ジメジメした森の中で頭からローブを被るような輩はまずいない。そんなことをするのは人気の無い森の中でなお顔を隠さなければならないような人物だけだ。


「ん? そんな怪しい奴らを見かけたのに、ネーちゃんは何もしなかったのか?」


「野蛮なドワーフと一緒にしないでくださいー! ちょっとした護身くらいならともかく、変な集団に一人で飛び込むのはただの馬鹿なのですー。


 それに、ちゃんと冒険者ギルドに報告はしましたよー? だからニックさんに依頼がいったんじゃないんですかー?」


「ふむ、そういうことか」


 ヒストリアの言葉にニックは内心納得する。


「何だよアンちゃん。何がそういうことなんだ?」


「いや、儂に依頼が来た経緯がな。おそらくは複数人から同じような報告があがっているが、かといって具体的に何か被害が出たということもないからこそ儂のような者に依頼がまわってきたのだろう。


 もし具体的に町に被害が出ているとかなら、とっくに衛兵が派遣されているだろうからな」


「ああ、そりゃそうか。まあどっちにしろ魔竜王をぶっ倒したアンちゃんなら、そんな奴らどうとでもなるだろ。俺の鍛えた武具もあるしな」


「ですねー。ニックさんがその辺のチンピラにやられるとは思えませんー」


「ははは。まあそういうことだ。では早速東の森とやらを覗いてくることにしよう。邪魔したな」


「おう、気をつけてな」


「縁があったら、またですー」


 二人からの見送りを受けて、ニックは店を出て門の方へと歩き出す。その時に一応門番にも話を聞いてみたが、どうやら怪しい集団の目撃情報はいくつかの場所に分散しているということがわかった。門番のドワーフに礼を言うと、ニックはそのまま町を出る。


『目撃情報の場所がばらけているのか。まあ一カ所に絞れているなら最初からそこを調べろと言われるだろうしな』


「だな。最終的には全部まわるとして、最初はとりあえずヒストリア殿の言っていた東の森へ行ってみるとしよう。何か痕跡くらいは残っているかも知れんしな」


 そんなことを話しつつ、ニックの巨体は町から少し離れた森へと分け入っていく。注意深く周囲の気配を探るが、しかしなかなか収穫はない。


『どうにも成果があがらんな』


「そう簡単に見つかるようであれば、そもそも儂になど依頼せんだろうしな。昔パーティを組んだことのあるあの男なら、この手の捜し物は得意だったのだが……」


 ニックの脳裏に、かつて勇者パーティの一員として共に活動していたことのある男の姿が浮かび上がる。極端な猫背の小男だったが手先の器用さと目端の利き具合が尋常ではなく、どんな罠も痕跡もたちどころに見抜く傑物だった。


『薬草すら見分けられぬ貴様にそんな期待などするものか。人には向き不向きというものがあるからな』


「ぐぬ、まあ反論できぬが……む?」


 不意にニックの足が止まる。まだかなり距離があるが、複数の人の気配を捉えたからだ。


『何か見つけたか?』


「うむ。人の気配……二人だな。だがこれは……」


『何か問題か?』


「いや、まあ行ってみればわかるであろう」


 気楽な感じの物言いとは裏腹に、一瞬にしてニックの気配が消える。そのまま森を駆け抜ければ、程なくして件の気配の元へとたどり着いた。


(あれだな)


『黒いローブの二人組。事前の情報通りだな』


 昼なお薄暗い鬱蒼とした森の中で、真っ黒なローブを頭から被る二人組。その姿をきっちりと視認してから、ニックはそっと側に寄り二人の会話に耳をそばだてた。





「クックック。これを見よ!」


「おお、これは!?」


 細身長身の人物が懐から取り出したのは、歪な球形の黒い塊。それを見た低身長ながらガッシリした体つきのもう一人が驚きの声をあげる。


「そうだ。これこそ我の力の結晶! 暗き闇より引きずり出した暗黒の欠片よ。これが完成するまでに一体どれだけの犠牲を払ったか……考えるのも恐ろしい」


「ゲハゲハゲハ! だが必要経費って奴だろう? オレサマだって秘宝を持ち出すのに大分痛い目に遭ったんだ。汚れ仕事くらいは引き受けてもらわねぇとな!」


「チッ、好き放題言いおってからに。だがまあいい。後始末は完璧にすませてある。これで事件が明るみに出ることもないだろう」


「ならあとは実行するだけか? ゲハゲハゲハ、腕が鳴るぜぇ!」


「クックッ、期待しているぞ同志よ。これでついに我らにも闇の神器が――」


「そこまでだ!」


 不意に、静かな森に大きな声が響く。二人が驚いて声の方向に顔を向けると、そこには身長二メートルを超える巨躯の戦士が堂々とした立ち姿を見せつけていた。


「えっ!? 誰!?」


「何者だ!?」


「儂はニック。冒険者ギルドから依頼を受けて怪しげな輩を捜索しているところだったのだが、どうやら貴様等がそうらしいな」


『おい貴様、いきなり何をしているのだ!?』


 オーゼンからの驚きの声を無視して、ニックはを構える。未だに驚き戸惑っている低身長の者をよそに、素早く状況を判断した長身の者はその姿にニィッと不敵な笑みを浮かべた。


「クックック、ギルドの犬が嗅ぎつけてきたか。だが相手が悪いのではないか? 光に満ちるエルフでありながら深遠なる闇の祝福を受けたこの我に、貴様のような者がたった一人で立ち向かうだと?」


「あ、ああ! ゲハゲハゲハ、その通りだ。光届かぬ地獄の坑道の奥で生まれたこのオレサマが、お前なんか一撃でぺちゃんこにしてやるぜ!」


「ほほぅ、大した自信だな。ならば臆せずかかってくるがいい!」


 ヒュンヒュンと剣を振り回すニックに、長身の人物が挑発的に笑う。


「言ったな! ならばまずはこれを食らえ! そこのけおののけ真っ黒け! 見えず聞こえずどっちらけ! 我らの敵を覆い尽くせ! 権限せよ、『真なる黒き深淵の影トゥルーブラックダークネスシャドウ』!」


「ぬっ!?」


 長身の人物が詠唱を追えると、ニックの顔を真っ黒な闇が覆う。視覚と聴覚を同時に奪われれ、剣を振り回すニックの手が止まる。


「ゲハゲハゲハ! 次はこれだ! 起きるは土塊つちくれ終わるは日暮れ、掴んで離さず『泥堕落没地でいだらぼっち』!」


 更にダメ押しとばかりに、地面から映えた土の腕がニックの太い足首を掴む。まとわりついた泥の腕はあっという間に固まりニックの移動を阻害する。


「クックック、どうだ! これぞ闇エルフたる我と黒ドワーフたる同志の合わせ技! 見えず聞こえず動けずの無明の闇のなかで、絶望と後悔を抱いて死ぬがいい!」


 哄笑と共に、長身の人物の手から黒く粘つくモノが投げつけられる。だがそれがニックの巨体に命中する瞬間。


「はぁっ!」


「何だと!?」


 ニックの振るう剣が、その汚らわしい塊を切り払う。


「馬鹿な!? 何故そんなことができる!?」


「わからんか? たとえ目を耳を塞がれようとも、我が正義の剣は悪を決して逃がさぬのだ! これで終わりだ! 我が聖剣の一撃を受けるがいい!」


 ズボッという音を立てて、ニックが固まった泥から足を引き抜く。そのまま一気に踏み込んで顔を覆った闇を振り払うと、手にした剣を大上段に振りかぶった!


「食らえ! 必殺……あー、『肉断神剣ニックブレイド』!」


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


「ゲハァァァァァァァ!!!」


 ニックの剣が二度舞い踊り、二人組の体を撫でていく。そのまま二人が仰向けに倒れていくが、長身の人物は苦しげに胸を押さえながらも最後の言葉を口にする。


「こ、これで勝ったと思うなよ。我ら闇エルフは永遠にして不滅。いつかきっと蘇って貴様を……」


「その時は何度でも相手をしよう。なぜなら……正義の心は不滅だからだ!」


「ぐぅぅ……ぐふっ!」


 がっくりと崩れ落ちる長身の人物。ニックはその体を見下ろしながら……


「ふっ、正義は勝つ!」


 手にした聖剣『いい感じの棒エクスカリボー』をザクッと地面に突き立てるのだった。

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[良い点] 何この茶番劇w え?劇団の人たちですか? ニックがお金で雇ったのかな 金には困ってないみたいだしな
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