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父、門前払いされる

「あー、おじさんの参加は無理ですね」


「なっ!?」


 メーショウと一緒だったこともあり、何の問題も無く町へと入ったニック。荷物を置いてくるというメーショウと別れて一人冒険者ギルドへと向かい、早速「魔竜王の墓」の調査依頼に申し込もうとしたニックを待っていたのは、厳しい現実であった。


「何故だ!? まだ定員には余裕があるという話だったが?」


「それはまあそうなんですけど、ほら、ここを見てください。この依頼は銀級以上の冒険者限定なんです。おじさん銅級ですよね?」


「ぐぅぅ……そ、そうか…………」


 受付の男性の言葉に、ニックはグッと拳を握りしめる。勢いこんで依頼書を持ってきてしまったが、確かにそこには募集要項として遺跡や罠に詳しい人物を優遇する旨と共に「ただし銀級冒険者以上に限る」との一文が記載されていた。


「な、何とか………………いや、言うまい。邪魔をしたな」


「はい、どうも。では次の人ー」


 喉まで出かかった言葉を飲み込んで、ニックはしょんぼりと肩を落としながら受付を離れた。その哀愁漂う背中はいつもよりかなり小さく見える。


『そんなに簡単に諦めてしまってよかったのか? 憧れだったのだろう?』


「それはそうだが、かといってどうすることもできんからな」


 ここが少し前まで滞在していたエルフの国であったなら、イキリタスの一存でどうにでもなっただろう。あるいはジュバンの名、勇者の父という立場を持ち出せばゴリ押しできる可能性が高い。


 だが緊急事態ならともかく、己のために権力を笠に着るような行為をニックがするはずもない。妻や娘に顔向けできない恥ずかしい男になることに比べれば、少年の頃の憧れを諦めることの方がずっとましであった。


 ……まあだからといってガッカリしないわけではないが。


「お、アンちゃん! どうだ? 登録は終わったか?」


「おお、メーショウ殿……」


 そのままふらふらと冒険者ギルドから出たところで、荷物を置いて戻ってきたメーショウがニックを見かけて声をかけてきた。だが明らかに意気消沈しているニックの様子にメーショウはギュッと眉根を寄せる。


「何だそのしょぼくれた顔はよぉ? 何かあったのか?」


「いや、実はな――」





「どういうことだオイ!」


「ちょっ、落ち着いてください!」


 ニックからの説明を聞くや否や、メーショウはニックの側を飛び出し順番待ちの列を押しのけてギルドの受付カウンターへと怒鳴り込んでいった。いきなり横入りされた冒険者達は当然いい顔をしないが、怒りに燃える老ドワーフの迫力に押され何も言えずに一歩下がってしまう。


「待ってくれメーショウ殿。これはやむを得ぬのだ。決してギルドが悪いわけでは――」


「そんなこたぁ俺の知ったこっちゃねぇ! オイお前、何でこのアンちゃんが魔竜王の墓の調査依頼を受けられねぇんだよ!?」


「ですから、それは参加条件が銀級以上となってまして、でもそちらの方は銅級ですので……」


「だから何でそんな縛りがあるんだよ! 遺跡に潜るのなんて冒険者の勝手だろ? テメェのことはテメェで責任とりゃあ……ん? ならアンちゃんが勝手に遺跡に入ればいいのか?」


「いやいや、本気でやめてくださいよ!? 調査が終わった後なら別ですけど、今の段階でそんなことされたら調査も何もなくなっちゃいますからね!?」


 思いつきで発せられたメーショウの言葉に、受付の男……ちなみに彼は基人族だ……がこれ以上無いほどに焦って答える。


 通常の遺跡ならまだしも歴史的に意味のある場所かもとなれば、無条件に冒険者を受け入れて中を荒らされてはわかるものもわからなくなってしまう。だからこそ今は半ば強引な冒険者ギルドによる封鎖が行われており、それ故の調査依頼なのだ。


「今回の銀級以上という制限にはちゃんと理由があるんです。まずは純粋な実力ですね。遺跡内部にはまだまだ罠が沢山残ってますし、魔物も生息しています。実力の無い人を連れていってその人が死ぬだけならまだしも、周囲を巻き込んで危険に晒されるのは絶対に避けなければなりません。


 後は信用の問題ですね。調査が目的である以上、発見した物を価値がありそうだからとこっそり懐に入れられたりしたら困りますし、逆に金銭的な価値がなさそうだからと遺物を雑に扱われるのも問題です。そういう不埒なことをしないという信頼と実績の証明がギルドにおける銀級という称号なわけですね」


「チッ、そうか……まあわからなくはねぇが……」


 メーショウは典型的なドワーフであり職人気質の男だが、だからこそ信頼の重要性をきっちりと理解している。ついカッとなって怒鳴り込んで来てはみたが、受付の男の説明に頭が冷えてくればその言い分の正しさには同意せざるを得ない。


「じゃあ、どうしても駄目か? 俺が信用するって言ってもか?」


「メーショウさんのことは知ってますけど、流石にそれは……一応ギルドとしての決定なので、自分の一存では無理です」


「くっ……悪ぃなアンちゃん。力になれなくてよ」


 くるりとニックに振り返り申し訳なさそうに頭を下げるメーショウに、ニックは穏やかな笑みを返す。


「いいのだメーショウ殿。その気持ちだけで十分に嬉しい。確かに儂もメーショウ殿と一緒にいけないのは残念だが、ここで規則を破ってしまっては筋が通らぬ。


 なあに、一生入れないというわけではないのだ。いずれ遺跡が開放されたらその時にまた来ることにするわい」


「アンちゃん……」


「お話は終わりましたか? じゃあメーショウさん、ついでなんでもう一度確認しておきたいんですけど、本当に護衛の冒険者は必要ありませんか?」


「アァン? この俺に護衛なんて……!?」


 受付の言葉に面倒くさそうに振り向いたメーショウだったが、ふと頭に浮かんだ思いつきにバッとニックの方を振り返る。


「お、おお! いや、気が変わったぜ! 俺はあくまで鍛冶屋であって冒険者じゃねぇ。危ない場所に行くなら護衛は必要だよな!」


「へ? え、ええ。そうですね。じゃ、じゃあちょっと待ってもらえます? 今候補者の名簿リストを――」


 今まで何度言っても「俺にそんなものはいらねぇ!」と切って捨てるだけだったメーショウの心変わりに、受付の男が慌てて机から紙の束を取り出そうとした。だがそんな男の行動をメーショウはごつい手のひらをかざして止める。


「いや、その必要はねぇ。俺が信頼する冒険者に直接依頼したいんだが、問題はあるか?」


「いえ、ありません。ただその場合はメーショウさんからの依頼になりますので、依頼料とかはメーショウさん持ちになっちゃいますけど」


「構やしねぇよ! 自分の命を預けるんだ。信頼できる相手に頼むのもその金をテメェで払うのも当然だろ?」


「そうですか。わかりました。では一度その方をこちらに連れてきていただいても?」


「いいぜ。てかちょうど今来てる」


「え? 何処に……?」


 首を傾げる受付の男をそのままに、メーショウは背後に立っているニックの背中をバシンと叩く。


「コイツだ! このアンちゃんが俺が指名する冒険者だ」


「ええっ!?」


「メーショウ殿!?」


 メーショウの言葉に、驚きの言葉が同時にあがる。片方は受付の男であり、もう片方は当然ニックからだ。


「本当によいのか? まだ知り合ったばかりの儂に護衛など依頼して?」


「カッカッ! いいんだよ。信頼ってのは確かに時間が育てるもんだが、それとは別にパッと芽生えることもある。今日の仕事、あの馬車に積んでたのは文字通り金貨の山だ。魔法の鞄ストレージバッグがありゃひとつかふたつくらいならこっそりくすねられても普通は・・・気づかねぇ。


 だがアンちゃんはそれをしなかった。一緒に仕事をして汗を流して、だが報酬を要求するでも盗むでもなく気持ちよくここまで来てくれたんだ。これを信じねぇで誰を信じろってんだ! 俺の目は節穴じゃねぇぜ?」


「メーショウ殿……」


 ニヤリと笑うメーショウに、ニックの胸に熱いものがこみ上げてくる。


「どうだアンちゃん。俺の依頼受けてくれるか?」


「勿論だ! 儂の力の及ぶ限り、精一杯努力すると誓おう!」


 差し出されたメーショウの手に自らも手を伸ばし、二人はがっちりと握手を交わした。

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