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父、憧れを語る

「何処に、何処にあったのだ!? というか本当に魔竜王の墓なのか!?」


 興奮して声を荒げるニックを、メーショウは笑いながら手で制する。


「気持ちはわかるが落ち着けよアンちゃん。絶対とまでは言えねぇが、ほぼ確定らしいぜ? 見てきた奴の言葉によると遺跡の奥に馬鹿でかい竜の骨があって、その頭には剣が刺さっていたらしい」


「剣! それはやはり……?」


「おうよ。かの有名な伝説の魔剣、グラム! ……じゃねぇかって話だ」


「おおおぉぉ!!!」


『おい貴様、さっきから何の話だ? 魔竜王? 伝説の魔剣? 我にも詳しく説明するのだ!』


 盛り上がる二人を前に、オーゼンがたまらず声をかける。だがニックは軽く鞄を叩くにとどめ、そのままメーショウとの会話を続けた。


「見たい、見たいぞ! それは儂が行っても大丈夫なものなのか!?」


「あー、どうだろうな? とりあえず町の冒険者ギルドでは調査のための人員を募集してるみたいだぜ?」


「そうか! 是非とも参加せねば……では儂は行く! 邪魔したな!」


「待て待て待て! そんなに急がなくたって遺跡は逃げやしねぇよ! てか町の場所をちゃんとわかってんのか?」


「うっ……」


 今にも飛び出しそうなニックだったが、メーショウの言葉に足が止まる。


「た、高く飛べば上空からわかるのではないかと思うが……」


「? よくわかんねぇが、とにかくそこまで急いだって俺が戻るまでは出発しねぇぞ」


「む? と言うことはメーショウ殿もその調査団に参加するのか?」


「ああ、そうだぜ。刺さってる剣が本物の魔剣グラムかどうか鑑定しなきゃだからな。がっちり骨に食い込んでて抜けねぇって話しだし、それに俺としても魔竜王の墓なんて言われちゃいても立ってもいられねぇ! せっかく冒険者の護衛付きで遺跡に入れるなら、この機会を逃す手はねぇからな」


「なんと、そうであったか! 確かに魔竜王の墓と言われたらなぁ」


「ああ、ありゃ男の浪漫だぜ! つーわけだからアンちゃんは俺と一緒に町まで来いや。せっかくだから礼もしたいしな」


「わかった。そういうことなら同行させて貰おう」


「おっし決まりだ! おいお前等、いつまで休んでやがる! そろそろ出発の準備をしやがれ!」


「へい! 親方!」


 勇ましいメーショウの言葉に、ぐでっと地面に座り込んでいたドワーフ達が勢いよく立ち上がって作業を開始する。石窯の蓋が開け放たれるとどういうわけか中の空気は既に冷たくなっており、まるで黒曜石のような艶を持つ不思議な木炭が次々と運び出されては何処からか引っ張ってきた馬車に山積みされていく。


「この量を馬車で運ぶのか? 何なら儂が魔法の鞄ストレージバッグで運んでもいいが?」


「カッ! そりゃいらねぇ気遣いだよ。この木炭は俺とこいつらの仕事の成果だ。こういうのをちゃんと世間の目に晒して評価してもらわねぇと、人ってのはどうしても腐ってきちまうんだ。こんなに頑張ったのに誰にも認めてもらえねぇってな。


 だからこれは馬車で運ぶ。町の奴らに『俺等はこんな凄ぇモンを作ったんだ!』って自慢しながらな。それが職人の粋って奴よ」


「そういうものか。これは野暮なことを言ってしまったな。謝罪しよう、すまない」


「気にすんなって! おーしお前等、積み終わったら行くぜ! 今日はえらく強いアンちゃんが一緒だ。魔物も野盗も心配する必要はねぇぞ!」


「親方、そんなの心配したことないじゃないですか」


「そうっすよ。俺達を襲う馬鹿なんてこの界隈にはいねーすよ」


 力こぶを見せつけて自慢するドワーフ達に、眉をつり上げたメーショウの怒鳴り声が飛ぶ。


「馬鹿野郎! 今日運んでるのはいつもの量産品じゃねぇんだぞ! その木炭ひとつで金貨がジャカジャカ飛んでいくんだ! 気を緩めるんじゃねぇ!」


「へ、ヘイ!」


 怒られた若いドワーフが首をすくめ、それを他のドワーフ達が背中を叩いて笑いながら励ます。そんな威勢のいいやりとりをしながらメーショウとその弟子のドワーフ達が何台もの馬車に次々と木炭を積んでいく様子を眺めつつ、ニックはそっと集団から少しだけ距離をとった。


『彼奴等から離れたということは、我に説明する気があるのだな? よし教えろ! 早く我にも教えるのだ!』


「はっは、そうあせるな。ちゃんと説明してやるとも。そもそも魔竜王とは、三代目の勇者が討伐した幻の竜のことだ」


『幻? どういう意味だ?』


「どうもこうも、言葉のままだ。魔竜王の姿は誰も見たことがない。ただ一人討伐者である三代目勇者のみがその存在を確認した竜。故に幻の竜なのだ」


『何だそれは? そんなもの実在したかどうかすらわからんではないか』


 初めてこの話を聞くときに誰もが……自分も感じがその疑問を問うオーゼンに、ニックは懐かしさで微笑みながらも言葉を続ける。


「お主の言うことももっともだ。ならばこそその存在を信じる理由が二つある。ひとつは討伐者が勇者であること。有名になって人々の希望を束ねるという勇者の裏事情を知った今となっては多少微妙だが、そもそも三代目の勇者はその時点でかなり有名であった。各地で暴れる魔王軍を蹴散らし、いくつもの国の窮地を救った後の話だからな。


 そんな人物が今更いもしない竜を倒したと嘘をつく理由があるか? これがひとつめの理由だが、まあこれだけだと確かに弱い。肝心なのはもうひとつの理由だ」


『ふむ?』


「魔竜王を討伐した証拠として、勇者が一枚の鱗を持ってきたのだ。それは虹色の輝きを放つ竜鱗であり、それを材料にエルフとドワーフの共同作業によって作られた魔法導具は持つ物に無限の魔力を提供した。


 まあ本当に無限ではないのだろうが、それでも三代目勇者はその竜鱗の守りを首からさげてとんでもない大魔法を連発していたらしいから、相当な効果はあったのだろうな。その物的証拠を持って『魔竜王は存在した』とされている。そんなとんでもない素材など世界中の何処にも在りはしなかったからな」


『莫大な魔力を生み出す、あるいは蓄えておける鱗か。確かにそんなものが実在したのであれば納得だが……いや、そうか。故に秘匿か』


 ひとりで納得したオーゼンに、ニックもまた頷いて見せる。


「そうだ。そんな強大な力を持つ素材、みだりに世に出せば戦乱が起こる。特に万が一魔族の手に渡れば大変なことになるからな。


 故に勇者は魔竜王を討伐した場所を秘匿し、持ち出したのもその鱗一枚のみ。とは言え人の欲をずっと抑えることなどできるはずもなく、あまたの歴史家や冒険者が探した場所……それが『魔竜王の墓』というわけだ」


『それが数百年の時を経て今見つかり、なればこその貴様の興奮具合ということか』


「その通りだ。儂とて子供の頃には英雄譚に憧れたりしたからな。まさか話に聞くだけだった場所に自分が行ける日が来るとはなぁ」


『貴様の娘は勇者で、かなりの期間行動を共にしたのだろう? であればその手の場所にはいくらでも行ったのではないか?』


 感動に浸るニックに、オーゼンがふと浮かんだ疑問を投げかける。するとニックは微妙に眉根を寄せて天を仰ぐ。


「それはまあそうなのだが、そういう肝心な場所はやはり勇者しか入れんのだ。儂は勇者フレイの父ではあっても勇者ではない。背後から見送るだけで肝心なところは見られない、というのも多くてなぁ」


『ああ、それは確かに余計にモヤモヤしそうだな』


「であろう? 故に今回は楽しみなのだ! 子供の頃に夢見た場所は、一体どんな場所であろうか? ああ、今から待ちきれん!」


「おーいアンちゃん! 積み終わったからそろそろ行くぜ!」


「おお、そうか! 今すぐ行くぞ!」


 メーショウからの呼び声に、ニックはまるで子供のように足を弾ませながら馬車の方へと走っていった。

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