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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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魔王、会議をする

「えー、それでは、魔王軍幹部会議を始めるでヤバス」


「わー、ぱちぱちぱちー……だるぅ」


 ヤバスチャンの宣言に、ギャルフリアだけがやる気の無い拍手を送る。他は無言だ。当たり前だが会議を始める前に普通は拍手などしない。


「では魔王様、どうぞでヤバス」


「うむ。今回はまずエルフの国侵攻作戦の反省からだが……マグマッチョ」


「いやー参ったぜ! まさかあんな強い奴がいるとはなぁ!」


 魔王に呼ばれて返事をしたのは、手のひらサイズに縮小したマグマッチョだ。物理体すら構築できずふよふよと浮いていた人魂が、言葉と共にかろうじて上半身のみ人型を取り戻す。


「まずはその、あれだ。お前は大丈夫なのか? 派手に自爆したと聞いたんだが?」


「おう、大丈夫だぜ! そもそも俺様は獄炎の火山から生まれた精霊だからな。大本になる火山が綺麗さっぱり消し飛ばされたりすれば別だろうが、そうじゃなければ力を使い果たしてもすぐに復活できるぜ!


 と言っても消費した力が戻るわけじゃねぇから、向こう何百年かはまともに戦えやしねぇだろうけどな」


「そうか。じゃあ改めて確認なんだが、お前を倒したのは勇者やエルフ王ではないんだな?」


「ああ、そうだぜ。見惚れるほどの筋肉を纏った親父だった」


「ふーむ。どう見るボルボーン?」


 魔王に視線を向けられ、ボルボーンの頭の骨がカクッと揺れる。


「可能性として一番高いのは、ワガホネを殴り飛ばした筋肉親父でアールな」


「でもー、そいつって勇者パーティの奴だったんでしょー? 何で大陸の反対側にいるわけー?」


「そうでヤバス。魔王様の立案により今回はボルボーンの軍勢が大陸北部の獣人領域に勇者を足止め、その間にエルフの国を制圧して世界樹を奪うという二面作戦を展開していたはずでヤバス。仮に途中で気づいたとしても、こんな短時間で大陸を縦断できるわけないでヤバス」


「それはワガホネにもわからないのでアール。何か転移系の魔導具を持っているか、遺跡の転移陣を利用したか……」


「意外と勇者ちゃんにパーティを追い出されたんだったりしてー」


 髪の毛をくるくると指でいじりながら言うギャルフリアに、小さくなったマグマッチョが呆れたような声で答える。


「そりゃねぇだろ。俺様とガチで戦って勝てるほどの戦力だぜ? パーティから追い出す理由が無ぇ」


「えー? いっくら強くても、ウザかったり臭かったりしたら追い出さない? 今代の勇者ちゃんって女の子なんでしょー?」


「そんな馬鹿な理由で戦力を追い出すのはギャルフリアくらいでヤバス」


「なにそれー! 何かムカツクんですけどー?」


 キッと睨むギャルフリアに、ヤバスチャンはフイッと顔を逸らす。そんな様子に軽くため息をつきながら魔王は言葉を続けた。


「まあ、うん。色々な考えはあるんだろうが、余としても追い出されたというのは考えづらいな。であれば何らかの目的があってあの場にいたんだろうが……やはり世界樹か?」


 そもそも今回の作戦の発端は、魔神への魔力奉納の手応えが一向に戻らないことが原因だ。それを補うための大量の魔力源として世界樹を欲したからこその作戦であり、逆に言えばエルフの国にそれ以外のめぼしい物はもう存在しない。かつてはあったが、それは以前に勇者が訪れたときに回収されてしまっている。


「世界樹か……精霊の俺様だからある程度わかるんだが、あんなもの人間がどうにかできるものなのか? エルフ共だって持て余して普段は隠してるんだろ? 結局俺様も実物は一度も見られなかったしな」


「活用法が無いわけではないのでアールが、現代の人間に扱える代物ではないのでアール。ワガホネが接収したとしても、現状では魔力タンクくらいにしか使えないのでアール」


「えー? あれって手に入れたら魔法使いホーダイみたいな奴じゃないのー?」


「そこまで単純ではないのでアール……」


「あー、何その顔! 頭カラッポのくせに馬鹿にしてー!」


「コーツコツコツ! 目に見えるものだけが全てではないということでアール」


「ムカツクー!」


 カクカクと頭蓋骨を揺らすボルボーンに、ギャルフリアが指先から水弾を飛ばす。だがボルボーンの体に当たる寸前に魔法は消し飛び、辺りには水しぶきの一滴すら飛び散ることは無い。


「あー、ほら、また脱線してるから。その謎の親父に関しては今後も継続調査するってことで、次は皆の報告も聞こう。まずはヤバスチャン」


「はいでヤバス。現在我らは通常の魔力とは異なる力の研究を進めているでヤバス。それと並行していくつかの人間国家に間者を紛れさせて情報も集めさせているでヤバスが、そちらでちょっと気になることを耳にしたでヤバス」


「お、なんだ? 何処かの町で筋肉祭でもやるのか?」


「……そんな珍奇な祭りは行われないでヤバスが、どうも『帝国』が不審な動きをしているようでヤバス。それと……」


 言って、ヤバスチャンはチラリと視線をギャルフリア、そしてボルボーンの方へと向ける。


「どうやら鼠……いえ、蛙が一匹潜り込んでいるようでヤバス。我が一族の者にも接触してきた奇妙な男も一枚噛んでいるようでヤバスが、どうするべきか判断を仰ぎたいでヤバス」


「蛙? ねえボルボーン、どういうこと?」


「コツコツコツ。確かに調査に出した蛙人族フロギストの男が戻ってきていないでアールが、その後のことに関してはワガホネは関係ないのでアール」


「ボルボーン!」


「やめよギャルフリア。落ち着け」


 思わず立ち上がったギャルフリアを魔王が手で制する。不満げな顔をしながらもギャルフリアは座り直し、小さく「あの馬鹿、なにやってるのよ……」と呟いたが、それに気づく者は一人もいない。


「それに関しても保留だな。動向を見て我らに被害を与えそうならその時は改めて報告してくれ。次にボルボーン。獣人領域と勇者の様子はどうだ?」


「魔王様の指示で遅延戦闘のための部隊は展開中でアールが、流石にそろそろ厳しいでアール。ワガホネの魔力も無限では無いでアールからな」


「そうか。それも世界樹が確保できればどうにかなったが、失敗したものは仕方あるまい。これ以上戦線を維持しても消耗が大きくなるだけだ。折を見て一度撤退してくれ」


「了解したのでアール」


「面目ねぇ。俺様が負けちまったばっかりに……くそっ、さっさと力を取り戻してまた筋肉を鍛えねぇと」


 悔しげに語るマグマッチョだが、それを責める者はいない。個の戦闘力としては最強を誇るマグマッチョが正面から戦って負けたのでは、他の誰が対峙しても結果は同じだとわかっているからだ。


「では最後にギャルフリア。食料生産はどうだ?」


「んー? 貝も昆布もいい感じだよー。ボルボーンがいなくなったから農作物はちょい落ちたけど、その分は魚介で補ってる感じー」


「うむうむ、順調そうだな。やはり食は基本だ。腹一杯食えねば力など出ないからな」


 実家が農家であった魔王は、食糧需給の調整にこそ最も力を入れていた。これは歴代魔王では初めてのことであり、最初は軟弱だ弱腰だと公然と口にしていたような種族でも、実際に美味いものが定期的に供給されるという現実にすぐに口を閉ざすことになった。魔族だろうと空腹は辛く、満腹は幸福なのだ。


「よし、ではとりあえずここまでの総括といこう。今回の作戦の失敗は確かに痛かったが、決して取り返しがつかないというものではない。それに今代の勇者は妙にちぐはぐというか、侵攻速度が安定しないしな。この分ならば予想より大分長い準備期間を取れるはずだ。


 ということなので、各自焦ること無く自らの役割を全うして欲しい。ただしマグマッチョに関しては軍団の再編成と副官の任命を急いでくれ。いざという時動けないのでは困るからな」


「副官? 俺様が四天王のままでいいってことか?」


「ああ、そうだ。これからも余に力を貸してくれ」


 そう言って、魔王は軽く頭を下げる。するとマグマッチョは感極まったようにその小さな体を震わせた。


「そうかそうか。へへっ、そうか……いいぜ、こんなナリになっちまった俺様にまだ任せてくれるって言うなら、全力で魔王様の役に立つことを誓うぜ!」


 そんなマグマッチョの態度に、魔王はホッと胸をなで下ろす。実際マグマッチョの軍勢はマグマッチョの在り方に共感し惚れ込んだという存在が多いため、他の人物を新たな四天王に任命などしても上手く回らない可能性の方が高い。


(ふむ。マグマッチョの戦力を失ったのは痛いが、これでこちらの指示を聞いてくれるようになるならむしろアリか?)


 小さな体から気炎を上げて張り切るマグマッチョを見つめながら、そんなことを考える魔王。そしていつの間にかそんな「魔王らしい」考え方のできるようになった自分に驚く。


「フフッ、余も成長しているということか……」


「魔王様? 何かヤバス?」


「いや、何でも無い。さあ会議を続けるぞ。それでは今後の指針だが――」


 魔王の言葉に四天王が耳を傾ける。そうして会議は日が暮れるまで続くのだった。

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