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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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152/800

父、約束を重ねる

「お前達、今帰ったぞ!」


「おお! 偉大なる王の凱旋だ!」


「イキリタス王万歳!」


 城に帰ったニックとイキリタスを出迎えたのは、居並ぶ衛兵や文官からの賞賛の嵐であった。なお、ニックは普通に服を着ている。魔法の鞄ストレージバッグから着替え用の平服を取り出して着替えたのだ。


 すぐに着替えなかったのはその一分一秒を惜しんで傷ついたエルフの戦士を搬送することを優先したからであって、最後の一人であるイキリタスを助けてしまえば着替えるのは必然であった。常識として。


「「パパ!」」


「ツーン! デーレ!」


 父の姿に駆け寄ってきたのは、見目麗しい双子姫。満面の笑みでしゃがみ込み両手を広げたイキリタスに、二人の小さな体が思い切り飛びついてきた。


「ハハハ。ただいまツーン。デーレもよくぞ無事で……」


「うん! ニックが助けてくれたの! かっこよかったんだよ! 悪い奴をあっという間に倒しちゃったの!」


「そうかそうか。まあ確かにあいつは基人族にしてはなかなかの男だからな」


「それでね! アタシのことを裸でギューッてしたのよ!」


「そうかそうか……ん?」


 喜びに緩んでいたイキリタスの表情が固まる。だがそんなことは一切気にせずデーレはそのまま嬉しそうに語り続ける。


「アタシを抱っこして走るのも凄く速かったの! だからニックにはチューのご褒美をあげる約束をしたのよ!」


「そうかそうか……おうニック、表出ろや。ちょっと話しようぜ?」


「まあ待てイキリタス。少し冷静に話をしようではないか」


「アァン? そりゃボクの娘は世界最高に可愛いけど、年端もいかないデーレに裸で抱きついて、しかも、ちゅっ、チューだと!? お前はあれか? 敵か? 魔王軍よりよっぽどたちの悪い敵なのか!?」


 娘達をその場に残し、血走った目でイキリタスがニックに詰め寄る。その迫力はニックをして一歩引かせるほどであり、その拳は硬く握りしめられている。


「ちょっとパパ! あんまりニックをいじめちゃ駄目よ! その人はワタシのだんなさまになる人なんだから!」


「な、何!?」


 そして追加投入される更なる爆弾発言。この世の終わりのような顔で振り返るイキリタスに、ツーンはモジモジしながら顔を赤らめてみせる。


「ど、どういうことだツーン!? 旦那様!? ニックが!? このガサツで乱暴で適当でやたら裸になる筋肉親父が、旦那様!?!?!?」


「ぬぅ、そこまで言うか?」


『間違ってはおらんのが辛いところだな』


 思わずそんな言葉を漏らすニックとオーゼン。だがそんな二人とは関係なしにツーンはイキリタスに言い返す。


「そうよ! 約束したの。デーレを助けてくれたらワタシがお嫁さんになってあげるって! だからニックは頑張ってデーレを助けてくれたんだから!」


「むー、お姉ちゃんズルい! ニックはアタシのなの! アタシがチューを予約したの!」


「何よデーレ! ワタシが先に約束したのよ! エルフの約束は絶対なの!」


「アタシだって約束したの! エルフの約束は絶対なの!」


 二人の姉妹が可愛く言い合いを始めるなか、血の涙を流すイキリタスがすさまじい形相でニックの方を振り返る。


「まさかこんなところに真の敵がいたとはな。ボクも侮られたものだ……せめて友として、この手でお前を地獄に送ってやろう」


「だから落ち着かんかイキリタス! 儂も娘を持つ父としてお主の気持ちはわからんでもないが、ここはきちんと二人の話を聞いて――」


「決まったわ!」

「決まったなの!」


 と、そこで双子姫の声があがる。パッとイキリタスがそちらを振り向いたが、双子姫は無情にもイキリタスの足下を通り過ぎ、そのままニックのところへやってきた。


「む? どうしたのだ?」


「あのね、二人で話して決めたの。ワタシがニックのお嫁さんになるのは決まってるでしょ? でもデーレもニックと一緒がいいって言うの」


「だから、半分こすることにしたの!」


「半分?」


「そうよ! ニックの右半分はワタシの!」


「ニックの左半分はアタシのなの!」


 言ってニックの両足にツーンとデーレがギュッと抱きついてくる。そのまま二人は鼻がくっつきそうなくらい顔を寄せ合いにへっと笑うと、そのまま頬をくっつけてニックの方を向く。


「二人一緒にニックをお婿さんにしてあげるわ!」


「ご褒美大奮発なの!」


「はっはっは。それはまた豪儀だな。いや、王族であれば割とあるのか?」


『王が複数の伴侶を娶るのは珍しくも無いが、複数の王族が同一の平民に嫁ぐなど前代未聞であろう。というか、貴様どうするつもりなのだ?』


 ニックの疑問にオーゼンが答えつつも問うが、ニックはただ鞄をそっと撫でるのみ。そうしてニックが二人に返答をしようとしたところで――


「死ねっ!」


「うおっ!?」


 突如振り抜かれた必殺の拳が、ニックの頬をかすめて通る。慌ててそちらに目を向ければ、そこには羅刹の如き表情を浮かべたイキリタスの姿があった。


「二人? 二人一緒!? このボクの可愛い可愛い娘を、二人一緒に娶るだと!? ふっざけんなこの変態糞ロリ筋肉親父がぁ!!!」


「儂が言ったわけではないぞ!?」


「かんけーねーよボケ! ボクの娘に手を出す奴は、風に巻かれて死ぬんだよぉ! さあ世界樹ユグドラシルッターよ、今こそボクに力を――」


「ちょっ、陛下!? それは駄目です! おいお前達、陛下をお止めしろ!」


「は、はっ! 失礼します陛下!」


「くそっ、離せ! 離せよ! 今こそボクの正義の鉄槌が! はーなーせーよー!」


 ジタバタと暴れるイキリタスが、衛兵達の手によって押さえつけられる。その様子を一見してから文官のエルフが額の汗を拭きながらニックに話しかけてきた。


「あー、あれだ。なんというか……偉大なる我らエルフは、その愛もまた深いのだ。貴殿には相応の謝礼を払うので、できればその……」


「はっは。皆まで言わずともよい。なあツーンにデーレよ」


「何?」


「何なの?」


 言葉を濁す文官に笑って答えると、ニックはその場に腰を落とし、二人の姫と目線を合わせて話しかける。


「お主達のその気持ちを、儂は子供の戯言だなどと切って捨てたりはせぬ。妹を思うツーンの覚悟も、恐怖を乗り越えたデーレの勇気も、どちらも賞賛されるべき素晴らしいものであった。


 だがそれでも、お主たちはやはり子供なのだ。特にエルフの人生は長い。これからもっと沢山の経験を積み、今は名すらつかぬ感情を育て、やがて大人になっていくことだろう。そうすれば今抱いている感情に恋や愛ではない別の名前がつくかも知れぬ」


「そんなことないわ!」「なの!」


 そっくりの顔で唇をとがらせる二人に対し、ニックはその大きな掌をそっと頭に乗せて撫でる。


「そうかも知れぬ。だがそうではないかも知れぬ。故にこそその答えを待つのだ。義務感から生じた勘違いや、大人に対する淡い憧れであったならそれもよし。その時はお互い笑って思い出話にすればいい。


 だがもし、お主たち二人が大人になってもその気持ちが変わらず、それを『恋』と呼ぶのなら……その時は二人の気持ちに正面から向き合うことを約束しよう。だから今は焦るな。ゆっくり大人になっていけ。楽しい思い出を沢山積み重ねてな」


「むぅー。何か誤魔化された感じ……」


「オトナはずるいの……」


「そんな顔をするな。これもまた約束だ。二人が心から幸せになれるよう、儂はいつでもこの拳を振るおう。それでは足りんか?」


 二人の頭から手を離し、太い小指を立てて見せるニック。そんなニックに不満げな顔で見つめ合っていた二人の姫が、おずおずと小指を絡めてくる。


「もうこれ以上は誤魔化されないわよ?」


「オトナのやり方は通じないの!」


「ハハハ。どの約束も決して破らぬよ。なにせ――」


『エルフの約束は絶対!』「なの!」


 三つの声が重なって、三つの笑顔がこぼれ落ちる。その光景に周囲の者達も思わず微笑みを浮かべ……


「ゴロズゥ! 筋肉死すべし慈悲はなぁい!」


 ただ一人イキリタスのみが口から泡を吹く勢いで暴れ続けていた。

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