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エルフ王、本気を出す

「くそっ、なんて衝撃だ……!?」


 吹き寄せる暴虐の炎風から必死に己の身を守ったイキリタス。やっと衝撃が収まり顔を上げたイキリタスの目に最初に飛び込んだのは、大地にうずくまる友の姿だった。


「ニック!? おいニック! 大丈夫――」


「プフゥ。酷い目に遭ったわい」


 思わず駆け寄ったイキリタスの目の前で、ニックが平然と立ち上がる。そのままパンパンと腹の辺りを叩くと、ニッと笑ってイキリタスの方を振り返った。


「おお、イキリタス! お主も無事だったようだな」


「あ、ああ。ボクは平気だけど……君こそ平気なのか? 思いっきりうずくまってたけど」


「うん? ああ、少しでも衝撃を和らげられないかと思って爆発するマグマッチョに覆い被さってみたのだ。お主が無事であるなら、どうやら上手くいったようだな」


「は……ハッ! 当たり前だろ! 偉大なるエルフであるこのボクが、あの程度でどうにかなるはずないじゃないか! まあ君の健気な功績も勿論否定しないがね。実にいい働きだったぞニック!」


「ハッハッハ。それはよかった」


 一瞬浮かべた喜びの表情をすぐに覆い隠して言うイキリタスに、ニックは軽く笑って答える。だがその瞬間、周囲の森から無数の爆音と炎があがった。ニックとイキリタスが慌てて近くの音の元へ走ると、そこには大火傷を負ったエルフの戦士が倒れ込んでいる。


「何があった!?」


「へ、陛下……それが、交戦していた魔物が突然『兄貴に続けぇ!』と叫んで自爆しまして……おそらく他の場所でも……」


「なっ!? と言うことは、他の場所でも……!?」


「イキリタス、これは不味いぞ?」


 ニックに指摘されるまでもなく、イキリタスは正確に現状を把握している。突然の自爆により戦士は傷つき倒れ、しかもその周囲には今までより更に激しく炎が燃え広がっているのだ。これが全ての場所で同時に起こっているとなれば……


「ニック、戦士達を回収して先に城に戻れるか?」


「む? それはできるが、お主この状況をどうするつもりだ?」


「それは君が心配することじゃないさ。それにこの程度の状況が至高のエルフであるこのボクにどうにか出来ないとでも?」


 ニックの顔をまっすぐに見つめ、イキリタスが言う。ほんの数秒無言で見つめ合うと、ニックは信頼を込めた顔でひとつ大きく頷いた。


「わかった。戦士達のことは儂に任せるがいい。で、お主はどうするのだ?」


 その問いに、エルフの王は不適に笑う。


「決まってるだろ? この森を守るのさ!」





「ふぅ。行ったか……」


 イキリタスの目の前に、既にニックの姿はない。足下の荷物と共に風のようにかき消えたかの筋肉親父は、きっと如才なく勇敢に戦った戦士達を救出してくれていることだろう。


 見えなくとも確信がある。任せた、任された。ならば迷いも憂いも無い。あの男は約束を破らない。イキリタスにあるのは信頼すら超えた疑いようのない事実だけだ。


「さて、それじゃこの炎をなんとかしないとね。それにしても派手にやってくれたもんだ」


 見渡す限り炎の海。エルフにとって大事な森が、真っ赤な波に飲まれている。


 周囲は灼熱。ニックほどの肉体強度があればどうということもないのだろうが、生憎イキリタスの体はエルフの常識を越えるものではなかった。結界を張って守っていなければ、息をすることも目を開けることもできないだろう。


「だが、今なら問題ない。この状況なら、全力を出せる」


 攻めてきた四天王は既に亡く、同胞の戦士も捕まっていた娘も安全が確保されている。ならばこの場で力を発揮することに何の障害もなく、イキリタスは静かに精神を集中させる。


「目覚めろ、世界樹ユグトラシルッター! このボクに力を貸せ!」


『Elemental Life Fragmentより要請を確認。Yggdrasill Towerの機能を限定解放します。Command?』


「ボクの勇姿を皆の前に示し、集めた魔力を我が元に!」


『要請確認。Yggdrasill Tower 緊急収集モードを起動します』


 瞬間、通常は結界により見えないようになっている世界樹の姿が露わになった。地平の彼方からでも見えるような天をつく大樹に光の窓が現れ、そこに映し出されるのはイキリタスの姿。


『おいおい、今年も全国民人気投票ぶっちぎりの一位だって? こうならない為に殿堂入りにしたっていうのに、参加しなくても投票されちゃうなんて……参ったな』


『全ての女性の瞳にはボクの姿が映っているんだろうけど、ボクの瞳に映せるのは目の前のたった一人だけ……それで君は、一体何処の女神様なんだい?』


『かー、辛いわー! 実質二時間しか寝てないから辛いわー! まあそれでもこの程度の仕事余裕で片付けるんだけどね!』


「おお! あれは陛下の勇姿!」

「凄い! なんてかっこいいんだ!」

「素敵! 抱いて!」


 空に大写しになるエルフの王のいい具合にイキった姿に、国中のエルフ達が興奮し声を上げる。その感情は『イイ念』となって世界樹へと送られ、世界樹の葉が少しずつ輝きを宿していく。


『世界のひとつやふたつ、ボクにかかれば簡単に救ってみせるさ。何せボクはエルフの王だからね。君たちとは出来が違うのさ』


『無理して立ち上がらなくてもいいんだぜ? ボクに負けるのは夜が明け朝日が昇ることと同じくらい当然のことだ。決して恥じゃないさ』


『どうよこの可愛らしさ! ボクの娘マジエルフ!』


「うぉぉー! 陛下ー!」

「やっちゃってください陛下!」

「姫様可愛い!」


『Elemental Life FragmentよりEmotional Energyの発生を確認。当該個体への転送を開始』


 輝く感情エネルギー(イイ念)を蓄えた世界樹から、一筋光が伸びる。それはイキリタスの頭上に輝く王冠の宝石へと到達すると、イキリタスの体内にとてつもない量の魔力が満ちあふれていく。


「きたきたきたきた! よし、これならいける! さあ、我が呼び声に応えろ精霊! ボクはエルフ王イキリタス! その力を我が手に!」


(ナニアイツ、チョーシノッテネ?)

(デモイキオイアル。ナンカタノシソウ)

(ナライッチョハデニアバレルカ!)


 イキリタスの呼びかけに、風の精霊が集っていく。渦巻く風は最初こそ炎の勢いを増させたが、とどまることなく強まり続ける竜巻は広大な森を全て覆い尽くし、そんな炎すら全て吸い上げて上空へと昇っていく。


「渦巻け逆巻け、我らは頂点! 目指せ飛び出せ有頂天! 全部まとめて消し飛ばせ! 顕現せよ、『万事はかなき泡沫の夢エフメ・ラル・オル・ドラム』!」


 イキリタスが両手を掲げると、深紅の竜巻は一気に勢いを増して空の彼方へと打ち上がっていった。それは空を超え星の海までたどり着くと、まるで溶けるように全てがほどけて消えていく。


『「見よ! 我らエルフの完全勝利だ!」』


わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!


 最後にリアルタイムで映し出されたイキリタスの勇姿と勝利宣言に、国中のエルフが歓喜の声をあげた。偉大なる王の姿に誰も彼もが口々に讃える。


「王よ! 王よ! 偉大なるエルフの王よ!」

「エルフ万歳! イキリタス王万歳!」

「見たか魔族共! 我らエルフがちょっと本気を出せばこうなるのは自明だったのだ!」


「ふっ、また勝ってしまった……たまには敗北を知りたいものだな」


 スッと髪をかき上げ微笑むイキリタスの姿が映り、エルフ達の盛り上がりが最高潮に達する。そこで世界樹が再び空に溶けるようにその姿を消したが、王のかっこよさの前にはそんなもの些細な問題だ。


『使用限界に達しました。Yggdrasill Tower通常モードに移行します』


「……………………っ」


 そうして国民が盛り上がるなか、自分の姿が見えなくなったことを確認したイキリタスの体がふらりとよろける。全ての力を使い果たし倒れ込もうとしたまさにその時。


「よぅ、イキリタス。終わったか?」


「ニックか……チッ、相変わらず嫌なところに現れやがるぜ」


 倒れ込むイキリタスの背を、いつの間にか戻ってきたニックが支えていた。戦士達はどうなったかなどとは聞かない。友がここにいるのなら、イキリタスにとってそれは確認する意味の無いことだ。


「はっは。まあいいではないか。ではイキリタス王よ、最後に儂にお主を城まで運ぶ大役を任せていただけるかな?」


「好きにしろ。ああ、でもひとつだけ注文がある」


「ん? 何だ?」


 今にも落ちそうなまぶたを懸命に開き、イキリタスはすぐ側にいるニックの姿を見て言う。


「服を着ろ。流石に全裸は無いだろ」


「ぬっ!? し、仕方なかろう! さっきの戦いで全て燃え尽きてしまったのだ! 一応股間だけは隠しているぞ?」


「そう言う問題じゃないだろ! これだから基人族は……まあいい。少しだけ休ませてもらうから、精々ボクに恩を着せるがいいさ……いや、その前に服もちゃんと着ろよ?」


 そう言って苦笑すると、イキリタスの体から力が抜けた。穏やかな寝息を立て始めた友の体を、ニックはそっと背に担ぐ。


「今はゆっくり休むがいい。友よ」


 小さくそう呟くと、ニックはあえてゆっくりと城へと戻っていくのだった。

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こんなお話しよく思いつかれますよね! とーっても面白いです!  イキリタス王万歳!
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