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軽トラぶっ壊すぞ

「そんな膨れるなよちび。」

「うるせー。三十路。」

「っな!俺はまだ二十代前半だ!」

「顔は三十路。」

 佐々木は汚れた窓に向って深くため息をついた。

 このぼろい軽トラは佐々木の通う高校の最寄り駅である「桜坂駅」で喫茶店を営む佐々木の兄、ユウスケのものである。佐々木ユウスケの吸う、たばこのにおいが染みついていてまさにおっさんが乗ってるトラックという感じだが佐々木妹はこの空間が嫌いではなかった。

 だが、今日は別である。いつもは気にならない、ガムのごみも今日は腹立たしくて仕方がなかった。なんで置いとくんだよ。捨てとけよ。佐々木の心中は大変穏やかでない。

「おい、ちび。なんでそんな怒ってんだよ。俺はお前を拾って家まで運んでやってんだよ。感謝される覚えはあっても、怒られる覚えはないんだけど。」

「るっせ…。」

「口わりぃー…。」

「あんた、見た目はそんなんなのに小心者だよな。」

「そんなって。」

 佐々木は、窓から視線を外し、携帯の電源を入れた。田島からメッセージが来ている。「大丈夫かー?休めよ。」って、可愛いかよ。

 町宮と過ごした時はあんなに軽かったら腹も、今は鉛を含んでいるように重たい。車はありがたいけど、タイミング考えろよ兄…。

 佐々木は田島に返信をし、スマホをカバンにしまった。その時に見慣れないものがカバンに入っていることに気が付く。取り出してみると、町宮のノートだった。

「なぁ、なんで怒ってんだよ。」

 佐々木は慌ててノートをカバンにしまい、ユウスケの顔を見た。

「もしかしてお前、あの少年のこと好きだったとかか?」

 ユウスケはからかうようにおどけて言った。だが、今の佐々木に心の余裕なんてない。大きく舌打ちをして足を組んだ。

「は?!まじか…。」

 車の中に重い沈黙が流れている。先程までおどけるくらいには元気だったユウスケも暗い顔をしていた。

「…そいつ、どんな奴なんだ?」

「は?」

「どんな奴なんだ?」

「や、優しくて、かっこよくて、目が離せない…奴。」

 佐々木の顔は茹でだこになっている。熱い頬を手で覆い、佐々木は顔を伏せた。

「…さないぞ。」

「え?」

「お兄ちゃんは、許さないぞ!」

「は…。え?」

 ユウスケはそれ以上しゃべることなく、家に着くまで黙々と運転をしていた。家についてもなお、ユウスケは口を開かない。夕食時も、リビングでテレビを見るときも、声を発さず、それ以外の時間は自分の部屋にこもっていた。

 さすがの佐々木も不審に思い、バラエティ番組を見ながら声を上げて笑う母に相談してみた。

「ねぇ、ママ。兄ちゃんの様子変じゃない?」

「あっはっはは!」

「ママってば!」

「え?ああ。二十過ぎた三十路顔の心配なんて私はしてられないよ。」

「ママ…。確かに三十路顔だよね。二十代前半なのにね。」

「あんたなんかユウちゃんになんか言った?あいつシスコンだからな。」

「え、あー。あれかな…。」

「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

「ママってば!」

「もういいよユウちゃんのことは。ほっときなって。いい歳した大人なんだから。それよりユンちゃん、この女優知ってる?」

「いや、知らない。っていうかユンとユウって紛らわしいね。」

 さすが母である。ワイルドだ。

 佐々木もユウスケのことは気にならなくなったが、母の言葉で一つ引っかかったものがある。

「兄ちゃんってシスコンなんだ…。」


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