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具合が悪いって

 さて、田島がああ言ってくれたことだし佐々木は早く帰ろうと校門へ足を急がせた。今日は佐々木の兄が早く帰ると言ってたので、迎えに来てもらおうと思い、佐々木はスマホを取り出そうとした。

「あ、ない…。教室かー。」

 重い腹を抱えて、佐々木は教室へ戻る。いつもの東階段がやけに長く感じてしまった。

 ようやく三階にたどり着き、肌寒い空気の廊下を進む。教室の扉に手をかけ佐々木は勢いよく開けた。

 そこには驚いた顔の町宮が、佐々木を見つめ座っていた。

「町宮君。」

「佐々木さん。」

 ノートを広げている町宮は手に持っていたであろうシャーペンを落としていた。佐々木はそれを拾い町宮の座る席の前の椅子に座った。

「町宮君何してるの?」

「佐々木さんこそ、今日具合悪そうだったから早く帰ったもんだと思ってたよ。」

 佐々木は町宮の言葉に心をときめかせた。本日二回目である。

「スマホ、教室に忘れちゃって。」

「ああ、そうなんだ。」

「そのノートは?何書いてるの?」

 佐々木はノートをのぞき込もうとした。だが、町宮がそれを手で覆い隠す。顔を上げると町宮の顔は耳まで真っ赤に染まっていた。

「ご、めん」

 佐々木は戸惑った。そもそも自分の具合が悪いことを町宮が見ていてくれたなんて、ノートを見られそうになって顔を真っ赤に染めるなんて、自分が今町宮と顔を合わせ座っているなんて。

 冷静になって考えると片思い相手に随分思い切った行動だったと思う。特に佐々木のような恋愛経験があまりない人にとっては頑張っているのではないか。

「…これは物語を書いてるんだ。」

「物語?」

「俺、小説を書くのが好きで。その設定とか大まかなストーリーとか書いてるんだ。でもどうも行き詰ってるんだよなぁ。」

「どんなの考えてるの?」

「今は…、高3の男女の話。」

「ラブストーリー?」

「まだ思いついていない。どうなるんだろうな。」

 はにかむような笑顔に佐々木は心の中で大絶叫した。

「じゃ、じゃぁさ。こんなのはどお?」

「あ!それいいね!じゃぁ、それがこうなって、こう!」

「うあぁ!面白そう!」

 佐々木と町宮はそうやって二人で物語を作っていった。夢中になっていて気が付かなかったが、最終下校をとうに過ぎている。日も落ちかけていた。

「帰ろうか。」

「うん。」

 二人で下駄箱に向い校門を出た。

「送ってこうか。遅いし。」

「わ、悪いよ!!!」

 正直に言うと佐々木は送ってほしいと思っている。でも、そんな並んで歩いたらきっと心臓が持たないだろう。もしかしたら周りからはカップルに見えるのではないだろうか。そんな妄想が膨らみ、そんなこと起こってもいないのに佐々木の口角は上がりっぱなしだった。

 その時、目の前に見慣れたぼろい中古の軽トラが止まった。窓が開き、そこに現れたのは今一番会いたくない人ナンバーワンの顔。目つきが悪く、常に眉間にしわがある、自分とよく似た顔。

「おいちび、何やってんだよ。」

「に、兄ちゃん…!」


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