田島の身長
「だから!ユンは体調が悪いんです!休ませてください!」
「どう体調が悪いのか言えって言ってんだよ!答えられないってことは仮病なんじゃないか!」
体育座りの佐々木の前で田島と体育の森山が死闘を繰り広げている。男性教師である森山の前でセーリだとは言いずらく、口達者な田島も困っていた。
佐々木は、男子たちが行っているバスケの試合を横目で見た。町宮は相変わらず、試合には参加せずぼーっとどこかを眺めている。
その、端正な顔立ちに佐々木は心をときめかせた。綺麗に通った鼻筋に薄い唇、クラスの誰よりも綺麗な肌。きっと、学校中の人を夢中にさせているんだろうと思っていた佐々木だが、話を聞く限りどうもみんな気に留めていないらしい。長めの前髪は目の上ぎりぎりで、一見地味な見た目なのだから、わからないでもないがどんだけ周りを見ていないんだと佐々木は飽きれた。この顔を見ようとしないなんてもったいない。
そして、驚くことにみんなは山田のような男が好きだということ聞いた。
山田は、バスケ部所属でスタメンだ。顔も悪くはないので女子が騒ぐ理由もわかる。町宮君には負けるけど、と佐々木は心の中で付け足した。
それにしても、佐々木は町宮のことが大好きだ。どうしてなのか、佐々木が町宮に惚れたのは始業式のことだった。
「だから!!!体調が優れないんです!!!!!!!!!」
…田島の声が耳をつんざき、佐々木は現実に戻された。
「田島、どうしたの。」
「ユン!聞いてなかった?森山センセが仮病じゃないかって。」
佐々木は森山を見た。
これは、きっとバカだから、セーリってことに感づいていないんだろう。森山は、田島がここまで言い張る意味が分からないという顔をしていた。
佐々木は田島に向きなおると溜息をついた。田島は心配そうにこちらを見ている。
「森山センセ。あの私セーリなんすよ。」
「!!!悪い…。気づいてやれんかった。」
森山はバツが悪そうに下を向いた。悪意があるわけではなかったようなので佐々木もこれ以上責める気にはなれなかった。
森山がバカだという話は本当のようである。
「ユン、言っちゃっていいの?」
「まぁ、いいかな。あの状況だし。それより田島ありがとう大好き。」
そういって佐々木は田島に抱き着いた。
佐々木よりも背の低い田島はハグをすると佐々木の体に顔が埋もれる。佐々木はそこがまた可愛いと言い、頻繁に抱き着いているのだ。
佐々木よりも背の小さい可愛い田島は、しっかりしていていつも佐々木を守ってくれている。そんな彼女に甘えっぱなしの佐々木は、田島なしでは生きていけないかもと思っている
「知ってる。重い!熱い!」
佐々木は田島から離れ、体育館の隅に座った。
女子はネットを張り始め、バレーボールの準備をしだした。
体育館独特の匂い、シューズが滑る甲高い音、下窓から漏れる五月の風。青春を思わせる情景に乗せて、佐々木の恋が動き出した。