だい3わ 「手続きつづくよ、もう少し!」
ああっ、メグミナ様! 私をどうか地球に帰してくださいませ!
なんて神頼みをする感じになって来た。うー、また少し泣きたくなってきたなあ……。
サーキュの話し方だとメグミナ様、本人(?)に魔法をかけてもらうわけじゃなさそうだけど。
まだトラベラー手続きが終わってないから、窓口のお姉さんの話を聞こうっと。
「お帰りになる方法、マスター・ビヨンド・トランスファーという魔法については、お連れさまがお詳しいようですので、私の方で出来るご説明を続けさせて頂きますね」
「「お願いします」」
ってサーキュと声がかぶっちゃった。時々あるよね、こういうの。
「では、にもと様の肉体情報などお伝えします」
ドキドキ。するほどでもないか。
「身長百五十五センチ、体重五十一キロ、スリーサイズは後ほどデータでお渡ししますね」
! サイズふせるなら体重もふせてくれんのかね! サーキュに聞かれたじゃない……。
「あら、めぐみなは理想的な体をしてるようね。まあ私にはスリーサイズも分かっちゃうんだけどね」
はあ? また余計な一言! サーキュって何様……いやいや何者なの?
「おっしゃる通り、理想的な肉体構成をされています。とても健康的で、筋肉量や体脂肪率など一般的な平均値を超えた良いバランスをお持ちのようです」
「嬉しいような……どうなのこれ? っていうかプライバシーが侵害されてる気がする」
それを聞いたお姉さんは慌てたようで
「大変申し訳ございません! 私たちの文化ではこういったやり取りは男女関係なく雑談の範囲なので、日本国の文化ではハラスメントに該当するようですね。気分を害してしましました事、深くお詫び致します」
「あ、いや、そこまでじゃないので気にしないで。……ください」
って言ったけど、理想の体重とは遠いような気がするわ……、筋肉ついちゃったのかな私? さっきの洋服屋さんの鏡に映ったスタイルは悪くなかった(自画自賛!)と思うけど。
「失礼しました。プライバシーの観点からは、この後は必要なお手続きだけ済ませ、他のデータは後からお渡しする事も出来ますが」
「あー……、大丈夫。色んな説明はチャチャっと終わらせたいしネ!」
「? かしこまりました。では、続けさせて頂きます」
「結構タフなのね、めぐみな」
サーキュがそう話しかけてきたけど、半分はサーキュのせいだからね! まったく!
「続いて、年齢のご説明に移らせて頂きます」
お姉さんは私たちのやり取りを気にしないフリをして話を続ける。
「年齢には、肉体のものと精神のものとがあります。肉体年齢はそのまま体の強靭さ、健康度に結び付きます。精神年齢は、知識、またはそれを理解する基礎になります。また、エーテル感応力にも深く関係しています」
出た! エーテル! これが分かんないのよね。ちゃんと聞いとかないと。
「はい! エーテルって何ですか?」
と手を上げて聞いてみる。ふふっ、なんか小学生みたい。
「エーテルですね、こちらはあらゆ生き物やそうでないもの、石や空気にも含まれる力を人間が使えるように加工した理力のことです」
「りりょく? 精神力とは違うの?」
「はい、精神力が高ければ、より強くエーテルを使うことが出来ます。現代では、エーテルが大昔の電力などのエネルギー資源の代わりとして広く使われています」
ふむ、よく分からん。
「サーキュはそいういうの詳しいほう?」
「ええ、私はエーテルニュートライザーだから。あ、エーテルを自然に使える人のことね」
「じゃあ、エーテルについてはサーキュに聞こうかな。あ、そうだ、年齢だったよね、じゃなくてでしたよね」
「はい、では続けさせていただきます。肉体年齢は十八才くらい、精神年齢は十二、三才くらいですね。こういった年齢は、トラベルにより退行する場合がほとんどですので、実年齢等は正確には分かりません」
そうなんだ、なーんか自分が幼稚になったような気がしてたけど、そういうことね。
「しかし、妙な点もございます。情報が故意にマスクされている部分があります」
「マスク? 隠されてるってこと?」
「はい。それに、エーテルをご存知ないのに、めぐみな様はエーテルニュートライザーでいらっしゃるようで、エーテル値は計測不能です」
「えっ、そうなの?」
「はい、めぐみな様の肉体的、精神的情報にはブラックボックス化している部分があるようです」
なにそれ怖っ! 私が来たところより技術とか文明が進んでても分からない部分が、私の中にあるなんて……。ファンタジーな世界に来るって思ってたよりずっと不気味なものなのね。
「すごいじゃない、めぐみな! 貴女もエーテルが使えるってことよ!」
「サーキュ、私は今複雑なの。多分、価値観? の違いだと思うけど、嬉しいって思えない」
「あ、そうようね……。ごめんなさい、舞い上がっちゃって」
「いいよ。トラベラーってそういうことなんだと思う。他の世界に行くって、想像してたのと違うもの」
そう、私は今、心細くてしょうがない。特別な力なんていらなくて、家に帰りたい。お気に入りの布団でゆっくり寝たい。
「……。これ以上長くご説明を続けるのもお体に障りそうですね」
受付のお姉さんが気を使ってくれた。ありがと。
「最後にトラベラーの皆様にお渡ししている情報端末をお受け取りください。こちらは随時めぐみな様の位置情報や健康度をモニタリングして、今後の生活をサポートするものになります。まだご説明出来ていないお話も端末から閲覧することが出来ます。腕時計型が一般的ですが、色々な種類がございます。どのような端末をご希望させますか?」
「うーん、腕時計型でいいかな。形とか色とかは選べるの?」
「はい。今回は初回の受付ですので、こちらからおすすめのタイプを数種類ご用意しております。無料レンタルになっておりますので、お気に留まるような形の端末を見つけられましたら、交換も可能になっております」
サービスいいのね。どんなのがあるんだろう。
「腕時計型だと普通の腕時計のようなものや、紋章型といった呼び出した時だけ立体映像としてあらわれるものが代表的ですが、どちらがよろしいでしょうか?」
「んー、やっぱり使い慣れてるほうがいいから、普通の腕時計で」
「承知いたしました。色はどういたしましょう」
ピンク! はないかな、私的に。白も汚れたら嫌だし、これから旅をしなくちゃいけないみたいだからね。だったら黒かな。
「じゃあ、黒で。あ、あと出来るだけ頑丈なのでお願いします」
「かしこまりました。では、こちらのお品はいかがでしょう」
うわ、いかにも強そうな時計が出て来た! スイッチがいくつか有って、未来的なデザインだね。これでいっか!
「うん、それでいいです! カッコいいのあるんだね」
「お気に召されたようで何よりです。実質的な手続き更新はこの情報端末、通称PPDD、ポータブルパーソナルデータデバイスで出来ますので、また直接ご用件のあるときに窓口にお越しくだされば大丈夫です」
「ピーピーディディ、なんか呼びにくい……」
「ピーツーディツーと呼ぶ方もいらっしゃいます」
「まあどっちでもいっか! デバイスでもいいし」
と私は締めくくった。なんかすごく疲れた気分。役所での手続きだからとっても時間が掛かるかと思ってたけど、一時間は掛かってなかったと思う。人が少なかったせいもあるんだろうけど。
それから少しだけ雑談して、私は手続きから解放された。
「それでは、良いご旅行を」
と窓口のお姉さんは決まり文句のように言った。お先はブラックな気分だけどね。
「じゃあ、私も手続きをしてくるから。多分そんなに時間は掛からないと思うけど、良かったらこの役所の中でも見て回ってて。お城、探検してみたくない?」
見透かされたようにサーキュにそう言われた。気分転換にちょうどいいかもね。
「終わったら連絡するから。あ、のども乾いたでしょ、ジュース代渡しておくわね」
「ありがと! 連絡って、デバイスに電話でも掛けるの?」
「それも出来るけど、貴女に直接話し掛けるのよ。エーテルって、そういう使い方もあるのよ」
「へえ……」
思わぬところでエーテル初体験になるのね。上手く受信出来るのかな?
「じゃあ、行ってくるわね」
サーキュは同じ課にあるトラベラー保護者窓口に行ったよ。
ふう、じゃあ少し歩き回ってみようかな! お城って初めて来たし!
これから、頑張れるかなあ? 私……。
最後までお読みいただきありがとうございます!