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だい2わ 「手続き@窓口!」

 三十八階に着いた〜。


 エレベーターを降りたら真正面に「トラベラー総合福祉課」っていう案内が出てた。福祉(ふくし)になるんだね、トラベラーの事って。

 ドアみたいな仕切りはなくって、三十八階はまるごとトラベラー専門の階になってるみたい。

 市役所だから、事務机がずらーっと並んでるのを想像してたけど、外から見たイメージと同じでお城みたいなファンタジックな内装だった。


 サーキュが教えてくれる。


「この街はね、伝統をとても大事にしてるの。昔の偉い人がこのあたりで、誰にも手に負えなった(りゅう)を退治したのよ」


「え、龍? ドラゴン? そんなのがいるの?」


「そうよ。この辺りの宇宙はそういうモンスターが沢山いるの。それを知らないって事は、貴女は本当に遠い宇宙から来たようね」


 えっと、ドラゴンがいるのはファンタジーだから納得出来る。見てみたいって思うよ。

 でも、この辺りの宇宙って、何……? 遠い宇宙? 異世界ってそんな表現するの?


 私がそんなことを考えてボーっと上を向いてたから、サーキュが話を続けた。


「で、その龍を退治した人が建てたお城がこの市役所になったの。もう何十億年も前のことだけどね。そうそう、この市の名前、ファーレンハイトっていうのもその龍退治した人の名前から取ってあるのよ」


 な、なな、何十億年ですと⁈ 宇宙とか億年とかスケール大き過ぎてどこからツッコんだらいいか分かんない。


「ふぇ〜。スゴイ話ね、私にはスゴすぎて色々わかんにゃいわ」


「ふふ、いいのよ。貴女はトばされて来たばっかりで記憶も抜け落ちてる部分が沢山あるだろうし。あんまり気にしてたらエーテル枯渇(こか)っちゃうわよ!」


 また知らない単語が出た。エーテル。しかもなんだか「こかっちゃう」とか流行(はや)りの言葉みたいに言うし。まぁ、たぶん流行ってるんだろうけど。

 とりあえず、お城みたいじゃなくて、この建物は本当にお城なんだね。


 部屋の中は、外と同じようにレンガみたいな壁で出来てる。で、窓がいっぱいあって光が差し込んでる。外はまぶしくてしょうがなかったけど、ここの明かりはちょうどいいくらい。

 窓の合間には透けて見えるテレビが掛けてある。立体映像なのかな? 古いものと新しいものが混ざってる。SFチックね、サイエンスフィクションよりサイエンスファンタジーっていう方が似合ってるかな。


 窓口の人たちが使ってる机とか椅子とかは、らぐじゅありい? な感じでお城っぽい。パソコン……、は画面以外は壁のテレビみたいに透けた部分がある。私が(もと)いた所とは技術のレベルが違うのね、きっと。

 植物とかお花も沢山置いてあってリラックス出来る雰囲気。市役所じゃなかったらここ探検して回りたいかも!


「さ、そろそろ手続きしましょう。初回トラベル係は一番の窓口よ。ちゃんと配慮(はいりょ)してあるから奥の方にあるの。そこのボタンを押して」


 とサーキュに言われた私は、入り口にある机の上の「一番」のボタンを押した。ピピピッて音を鳴らしたと思ったら、床に光る案内用のラインが出て来た、なんて便利なの! その光を()んで歩いて行った先には、ちゃんと初回トラベル課がありました。


「こんにちは。緊張させているかもしれませんが、どうぞ気楽にご相談ください」


 と窓口の人が言う。


「お(じょう)さま(がた)のどちらがトラベラーさまですか? お二人ともでしょうか?」


「いえ、私は保護者です。こちらの、黒髪の可愛い子がトラベラーですわ」


「かしこまりました。では黒髪のお嬢さま、まずはこのパネルに手を()れて頂けますか?」


 お嬢さま! 一度は言われてみたかった! 市役所で、じゃないけど……。でも服装はメイドさんみたいな眼鏡のカッコいいお姉さまだから満足!


「うん、分かりました。あ、でもこれってなんなの? 痛かったりしない?」


「失礼しました、説明不足でしたね。こちらは貴女の生体情報を走査(そうさ)する装置になります。痛い事はありませんよ。触れれば肉体情報や精神年齢、エーテル値など様々な事が分かります」


 そうなんだ。ちょっとだけ緊張するけど、やってみよう。


 パネルに手を置くと、キュイーンって音がして私の体が光に包まれる。不思議、なんだか心地いい。


「そのまま一分ほどお待ちください」


 結構長いのね。調べるのはいいけど、何にも話さないで一分は間が持たないかも。


「この子、セレシウス通りで寝ていたんです、一週間ほど」


 と、サーキュと窓口のお姉さんの会話が始まった。ふう、よかった。


「一週間ですか。それまで誰もお声を掛けなかったのでしょうか?」


「いえ。ちょっと変わった事情があって。エーテルの壁に包まれていたんです、この子。だから、誰も近寄れなくて」


 エーテルの壁? 私が? トラベラーはみんなそう、じゃないのかな?


「なるほど、それは(みょう)ですね。睡眠時間については通常ですが……」


「うーん、私の方でも調べてみたのですが、あまりにも強固な壁でしたので」


 ふーん。サーキュはそういうの分かるんだ。


「少し噂として聞いた気がします。そういえば、『()()ざる少女』とか、新聞にも()っていましたね。トラベラー課としては十日過ぎても目覚めない方は保護に乗り出すのですが」


 そんな話を聞いてるうちに、一分くらい過ぎた。


 手を触れていたパネルから「コンプリート!」と空中に文字が飛び出して来た。びっくり!


「終わったようですね。では、貴女の情報をお伝えしたいと思いますが、心の準備はよろしいですか? お連れさまにお伝えして、(のち)ほどご説明されてもよろしいですが」


 どうしよ、私は別にいいかな。


「どうする?」


 サーキュに聞かれたけど、私は


「んーん、今聞いてみる。ありがとね、サーキュ」


 と言って窓口のお姉さんの方を向いた。


「じゃあ、お願いします」


「分かりました。まずは、貴女の出身地域からお伝えします。えー、長くなるので中略してお伝えします。現地名ラニアケア超銀河団の天の川銀河、太陽系第三惑星地球。国名は日本(ひもと)、とお読みすればよろしいでしょうか」


 ひもと? なんだろ、なんか違う気がする。えっと、ひ、じゃなくて、い、ち、り、に! にもと! 多分それだ!


「あ、ひもとじゃなくて日本(にもと)だと思います!」


「そうですか、では日本(にもと)出身ということで登録しておきますね。次にお名前なのですが、これはご自身で思い出されるのを待つか、仮のお名前を考えられるかになります」


 そっか、名前までは分からないですよね。


「一般的に、トラベラーの方は苗字(みょうじ)をご自身の出身国名にされる場合が多いです」


「じゃあ私は、にもとさんってワケね!」


「そうですね。お名前はどういたしましょうか?」


「ねえサーキュ、いいアイデアとかある?」


「名前ね。あっ! 私の信仰してる神様の名前でよかったら合いそうなのあるわよ」


「神様? なんだか壮大だね、どんな名前なの?」


「メグミナ様よ。みんなに幸運を恵む神様」


「いい響き! 苗字と合いそうだし。でも神様の名前って使っていいの?」


「あら、結構普通のことよ。サーキュって名前も神様の名前なの」


「じゃあ私の名前は、にもと=めぐみなで決まりね!」


 窓口のお姉さんが笑顔でうなずいた。


「では、にもと=めぐみなさまとして登録いたします」


「お願いします」


 と私が言った後で、サーキュが余計なことを言った。


「メグミナ樣は男の神様だけどね」


 先に言えよっ!


 って思ったそばから

「登録が終わりました」

 の一言。


 わお! 取り返しつかないじゃん! まあ、いっか……。


「ありがとうございます。あ、そう言えばサーキュ、トラベラーって普通はどうやって生活してるの?」


「宇宙船で帰れる人は補助金を受け取って()めたり、働いて(かせ)いで船に乗るわね。その間にまたトラベルしちゃう事もあるけど。トばされた人はトびやすくなってしまうのよ」


 気になってたけど、トラベルって飛ぶ、じゃなくて()ぶっていう発音なんだね。


「そうなんだ、じゃあトばされても帰れるんだ!」


 ってあれ、ということは私も帰れる? 何だ、そんな大ごとじゃないじゃない! 


「今思ったんだけど、どこから来たのか分かるんならすぐに帰れる手段とかあるんじゃないの?」


 と疑問に思った私はサーキュとお姉さんを交互に見る。サーキュはそうね、って言ったけどお姉さんは何だかしぶい顔。


「はい、可能ではあります。近い星域でしたらトランスファー、つまり転移魔法か生体保護ワープ、またはおっしゃる通り宇宙船でお帰りになるトラベラーさまもいらっしゃいます」


 ですが、とお姉さんが続ける。


「料金がかかりまして……例えばここから一番近い惑星でしたら三十万円ほどでご帰還出来ます。その程度でしたらトラベラー救済基金(きゅうさいききん)で全額負担させて頂くのですが……」


 うーん、悪い予感しかしない。


「天の川銀河となると、ここからの距離はおよそ二百十億光年ほどになります。これを料金に換算(かんざん)しますと、一光年につき三十万円ですので——ワープには六千三百兆円ほどかかりますね」


 ろくせん兆円……? 絶句。ぜっくです。絶望というより、たまげたって感じ。そんな金額聞いたことないよ、わたしゃあ。


「ワープは金額的に難しいようですね。しかも」


 まだあるの? もーいいよぉ。


「現在、当該(とうがい)惑星の地球は禁足地(きんそくち)となっております。つまり、お金が有ってもワープが禁止されています」


 はあー? なんだそりゃ。それじゃ帰れないじゃん。これが夢じゃなけりゃもうお手上げね。


「方法はあるわ」


 ってサーキュが割って入った。


「さっき、転移魔法(トランスファー)って言われたでしょ?」


「ああ、そういえば。え、魔法で帰れるの?」


「この距離は普通の人間には無理ね。でも、神様にお願いしたら何とかしてくれるかも」


「神頼み? それこそ無理だよ、勉強出来ますようにってお願いだって(かな)えてくれないのに」


「いいえ。この世界には神様がちゃんと実在しているの。メグミナ様だって、ちゃんと会いに行けるのよ」


「ふーん、それで、神様は何をしてくれるの?」


「トランスファーよ。究極の転移魔法、マスター・ビヨンド・トランスファー。この宇宙のどこへでも送ってくれるわ」


 今度はお姉さんが入って来た。


「そうですね、その方法なら禁足地へもトぶことが出来ます。神様のお許しがあれば法律は飛び越えられます」


「あの、何だか簡単に言ってるみたいだけど、神様に直接お願いするなんて普通に出来るの、サーキュ?」


「メグミナ様なら意外と聞いてくれるわよ。女の子に弱いから。でも究極転移魔法(マスター・ビヨンド・トランスファー)が使えるほどの神様となると、並大抵(なみたいてい)のことじゃないわね」


 ううう、難しい言葉がいっぱい出て来た。がーんばるんだ、ワタシ!

最後までお読みいただきありがとうございます!

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