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Traveler (トラベラー)

「んぅ」


 まぶしい。


「もう少し寝かせてよぉ」


 さっき寝たばっかりじゃなかったっけ? もう朝なの?


 光が容赦(ようしゃ)なく私を照りつける。


 ――まぶしいぃっ‼


「……ああ、もう! 起きればいいんでしょ!」


 そう言って布団を投げた、つもりだったけど。


「わっ!」


 たしかにベッドで寝ていたはず、お気に入りのふかふかの布団(ふとん)を掛けて。


 その、あるはずの布団が無い。無いから布団を投げようとした私の腕は、思いっきりブンっと空気をなぐった。


「い、ったーい……」


 仰向けに寝たままだったから、振り上げた左手を地面に叩きつけちゃった。


「うー、なんなのよもう。あ、あれ? ここはどこ……?」


 自分の部屋じゃないなぁ、待って、その前にここ外じゃない!


「はっ、え、ええーー⁇」


 見たことのない景色が広がってる! とりあえず、街みたい……。


 あ、ああそっか! コレって夢の中なんだ、うん、そうだよね、寝たばっかりだし。うん、大丈夫!


「ああ、びっくりした。こんなにリアルな夢なんて見たことないからわかんなかったよ」


 とひとりごとを言っいてると、通行人の一人から


「姉ちゃん大丈夫か? ずっと起きないから心配してたぜ」


 なんて話しかけられた。


 よく見てみると、大勢の人だかりが私の周りに出来ている。な、なんで?


「えっ、あ、うん、大丈夫!」


「そうか、まぁそうだよな。一週間くらいは平気だよな」


「? 一週間って、私そんなにここに寝てたの?」


 いやいや。一週間()()()平気って何? そんなの普通じゃないと思うんですけど。


「今日は三連陽(トリプルサン)だ。おおかた、まぶしくて寝てられなかったんだろう?」


 トリプルサン? なにそれ聞いたことないんだけど。


「姉ちゃん腹減ってるだろ、メシくらいおごってやるよ。そうだ、名前は?」


 いきなりなんなの、この人! 私でもそこまで無警戒(むけいかい)じゃないし!


「い、いえ、大丈夫、です。あ、えっと、な、名前ですか?」


 えーと、ん? 私の名前なんだっけ?


 人差し指をこめかみに当ててクルクル回しながら思い出そうとする。

 そのまま数十秒が過ぎる。周りの人達のざわめきが大きくなっていた。


「なんだ、やっぱりトラベラーか。最近多いんだぜ、姉ちゃんみたいなの」


「とらべらー? 私旅行者じゃないんだけど……」


「違う違う、そうやって名前を忘れてどこか違う世界からトんで来る奴のことをトラベラーって言うんだ」


 はあーん、よく出来た夢だなあ。こういうのマンガかなんかでよく見るよ、異世界っていうの?

 だってこの人ネズミみたいな見た目してるし。二足歩行(にそくほこう)だし。


「まぁ俺に任せなって姉ちゃん、不安ならそこで買い物してる嫁さんも呼んでくるぜ?」


 うーん、どうしたものかな。夢なら早く覚めて欲しいわ……。


「あっ、おーい、サーキュ! こっちだ、やっぱりこの()トラベラーだよ」


 ネズミの外見をした男は、買い物袋を下げて歩いてくる普通のヒトの姿をした女性に大声で話しかけた。


「え? あなたまたなの? ほんとよくトラベラーさんに出くわす人ねぇ」


 てくてくと歩いて来た女性が話しかけてくる。


「まあ貴女(あなた)寝間着(パジャマ)じゃない! とりあえず着替えなきゃ」


「は、はあ。でも私よくわからなくて。ここ、どこなの?」


「いいからいいから。トラベラーさんはみんなそんな感じなのよ。そこに服屋さんがあるから買いに行きましょう、お金も持ってないだろうし。その後、役所にトラベル届けを出しに行かないといけないわよ」


 強引な人たちだなあ。私の話ぜんぜん聞いてくれないよ……。


「そ、そうなんだ……。でも多分私夢を見てるだけだから」


「うんうん、トラベラーはみんなそう言う。ここは俺の嫁に任せろって。説明したいが長くなるからな」


 うーん、めんどくさい……。まぁ夢ならいっか。軽く行こー、かるく!


「あ、じゃあ、すみませんが、オネガイシマス」


 はいはい、と返事した女性に連れられて服を買いに行くことになった。ネズミの男は

「そこで一服しとっから」

 と言ってタバコをくわえた。




「ずいぶん現実的な服!」


 すぐ近くにあった服屋、そこには量販店にあるようなTシャツやスカートが並んでいた。


 異世界? のくせになってないなあ。雰囲気壊れるじゃん。


「どれにする? 貴女の文化に合いそうな店を選んだけど。だいたい千五百円くらいで買えるから遠慮はいらないわよ」


 円⁉︎ そのレベルでピンポイントなのかい!


「あ……、じゃあこのシャツとジーパンで」


 気温は暖かいし、いざ(変なとこ連れてかりとか)となったら動きやすい服でっと。


「本当にいいの? お金払ってもらって」


「ええ。役所に届けを出すって言ったでしょ? ちゃんとあとからトラベラー保護給付金がもらえるからね。結構な額なのよ、だからみんな貴女の周りに集まってたの」


 へ、へぇ。しっかりされてるのね。

 買い物をすまし、店の試着室で服を着替える。けっこう立派な買い物袋をもらったよ。


「さっきのパジャマは袋に入れて大切に持っておくのよ。またトばされたり元の世界に戻る時に必要だから。貴女と元の世界をつなぐものだからね、絶対、()くさないように!」


 サーキュ、と呼ばれた女性は親切そうだった。信用、とかまでいかないけど、お金がもらえるから保護したって話は現実味があるね。


「ありがとう、助かるわ(多分ね)」


「いいのよ。さ、ラジィの所に戻りましょう。あ、私の旦那のことね」


 あゝ、私ったら変なことに巻き込まれちゃったかしら⁉︎  (かしらなんて語尾初めて使ったワ……)


 とりあえず目が覚めるか、(本当に)異世界に来てるなら帰れるまでここでナントカしないと。


 が、頑張れ、ワタシ!

最後までお読みいただきありがとうございます!

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