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MAGINIGHT~魔神とその環境を取り巻く者達のお話~  作者: U-1
序章 運命の出会いの日~The Wizard God AND The Funny Guys~
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第9話 食堂騒動

鳳凰学園の食堂は、中等部校舎と高等部校舎の間の建物の一階に位置する。

一階といっても建物は天井の高い平屋建てで、外にはテラスまであり、食堂というよりはカフェといった雰囲気だ。

上下に高い硝子窓で、開放感いっぱいの食堂。

購買部や自動販売機などもあり、生徒達のくつろぎの場である。


「おーい、こっちだこっち」


目当ての人物を探していたら、その人物の声が縁寿と都古の耳に届く。

辺りを見回してみると、手を振っている神爪勇人の姿があった。

宣告通り既に席を確保しており、十人は座れる大きいテーブルを陣取っている。

勇人と一緒に席に座っているのは、都古が言っていた生徒会の皆だ。

合席する縁寿達に、にこやかに手を振っていた。

軽く会釈しつつ、二人は席に座った。


「それにしても、凄い人の数ね」


周囲をグルッと見回して、縁寿は思わず嘆息する。

今日は入学式で、午前中で学校は終わりだというのに、食堂にいる生徒は多い。

部活や委員会に所属している『内部生』や、帰る前に昼食を取る生徒がいるためだ。

中等部と高等部の生徒が集まっているから、生徒が多いのも当然だが。

それでもこの食堂は広々とした造りになっているためか、生徒数が多くても窮屈には感じない。


「昼時はいつもこんなもんだ。つーか、お前ら飯は?」


お茶を啜っている勇人にそう言われた。


「そりゃ食べるけど?」

「いや、買ってくるんなら早く行かないと時間かかるぞ」


勇人がクイッと親指を向ける先を、縁寿も見る。

するとそこには、食券の券売機の前にズラァッと長蛇の列が。


「・・・・・・多いわね」

「この時間帯はチャイムと同時に駆け出さないと混むからな・・・・・・ショートカットすれば話は別だが」


勇人のその言葉に「ショートカットってあれか!」と、縁寿は先程の出来事を思い出した。


「この学校に通ってる生徒って、みんな校舎の五階から飛び降りたりするの?」

「ああ」

「いや飛び降りないからね⁉」


縁寿の疑問に勇人は即答するが、都古がすかさず訂正の声を上げた。

生徒のみんながみんな、チャイムと同時に一斉に校舎の窓から飛び降りる。

いったい何の集団なのかと疑いたくなるような光景だ。

少なくとも学校の生徒などとは思えない。

だがやはり、そんな奇行をするのはこの生徒会長ぐらいのようで、そんな非常識な人間が複数人もいるわけがないことに縁寿は内心で安堵の息を吐いた。


「・・・・・・まぁ、ワリといるけど」


ボソリと、そう呟く都古の言葉は聞かなかったことにした。


「ま、学食は今から並ぶと時間かかるから、購買でパンでも買ったらどうだ?」


視線を変えた勇人の先を、再び縁寿は見る。

そこは購買部。

当然ながらそこにはパンやら飲み物やらが売っているのだが。


「また随分多いわね・・・・・・」


券売機前程ではないが、そこにも人が大勢いる。

基本的に開放的で広々とした食堂だが、その一部分だけが嫌に窮屈だ。

綺麗に列を作って並ぶ食券券売機前とは、決定的に違うものがそこにはある。


「どけやゴラァァァァァァァァァァ‼」「それは俺のパンだ!」「いいや俺の焼きそばパンだ‼」「カツサンドは誰にも渡さねえ‼」「アンパン・食パン・カレーパン‼」「ジャム・バター・チーズ‼」「おい誰だ俺のホットドック取った奴は⁉」「このドリアン納豆パンは俺のもんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」「「「いや誰もそんなの買わねぇから」」」「なんでみんな一斉に声を揃える⁉」


そこは、戦場だった。

購買の窓口で大勢の生徒達が争っている。

言い争いなどマシな方で、取っ組み合いの喧嘩をやっている者も。


「って、止めなくていいのアレ⁉」


殴り合いの暴力事件が目の前で勃発しているというのに、何のアクションも起こさない生徒会長に言ってやる縁寿だったが、今朝も教室で似たような状況で同じようなことを言ったような気がしてきた。


「いっつもこんな感じだからな。よほど大きな喧嘩に発展しなけりゃ、生徒会(おれさまたち)は出張らねぇよ。つーか、学校の治安維持は風紀委員会の仕事だし」


何でこんな騒動の真横で呑気に茶を啜ってる男が生徒会長なんてものをやっているのか甚だ疑問だが、もう既にツッコむ気力も無いのか、本日何度目か分からない溜息を吐く縁寿。


「・・・・・・買ってこないのか?」

「買いに行けるわけないでしょ、あんな紛争地帯に・・・・・・」


もう外のコンビニかどこかで買おうかと思考する縁寿に、都古は案を出した。


「ねぇ、勇人君?」

「あー、はいはい」


何を言おうとしているのか察した勇人は、仕方ないという風に立ち上がった。


「何が食いたい?」


首を傾げる縁寿に、勇人はそう訊ねる。

入学したての新入生に、あの激戦区は危険だ。

故に、慣れている勇人が買いに行く役目を買って出たのだ。


「ま、都古の友達(ツレ)だし、入学祝いってことで此処は俺様が奢ってやろう。何かリクエストはあるか?」

「・・・・・・じゃあ遠慮なく奢られるけど。どんなの売ってるの?」

「人気あるのはオムそばパンとかBLTサンドやカツサンドだな。マイナーで、ドリアン納豆パンや、うまい棒パン。イチゴジャムおにぎりなんてのもあるぞ。ちなみに俺様のオススメはウニサンド(プリンに醤油をかけて挟んだもの)と、三大珍味パン(キャビア・フォアグラ・トリュフ乗せ)と、スーパーベリースウィートパン(カスタード・レアチーズ・生クリームを内包させたチョコバナナメロンパン)だ」

「普通のサンドイッチとかでいいから!」

「・・・・・・そりゃ残念だ。都古は?」

「私も普通の食べ物なら何でもいいよ」

「・・・・・・そうかー」


オススメを断られて若干残念な気持ちになりながらも、勇人は戦場へと赴く。

購買の窓口までは人だかりで埋められており、まさに肉の壁だ。

食券券売機のようにちゃんとした列があるわけもなく、かといってこの人混みの中に割り込めるスペースなど無い。

だが、猛者というものはどこにでもいるわけで。


「さて・・・通らせてもらおう、か!」


勇人の姿が人混みの中へ消えていく。

他の生徒達の群れの中に紛れて、その姿は完全に見えなくなった。

だが、次の瞬間、目に映るその光景を疑い、縁寿は遠い目をしながら現実逃避した。

何が映ったかと言えば、それはなんとも信じられない光景であり、つい先ほど教室で観た光景。

・・・・・・人が、宙を舞った。

一人だけではない。

まるで風が塵を巻き上げるかのように、人間が次々に宙を舞っていく。

何故こうなった?

それは人間が宙を舞い、人混みが薄れていき確認できた。

神爪勇人が生徒達を投げ飛ばしているのだ。


「フハハハハハハハハッ‼ 貧弱貧弱貧弱うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ‼‼」


などと高笑いしながら、生徒達を薙ぎ払い、勇人は着実に購買窓口へと前進する。


「・・・・・・なんかもう、滅茶苦茶ね」


早くも神爪勇人という男のやることに慣れた(諦めた?)縁寿は、どうにか言葉を捻りだした。

桜並木で東郷教師と喧嘩する光景しか観ていなかった縁寿は、その少し前に勇人が多数の生徒を、今のように殴り飛ばしていたことを知らない。

その時の光景を目撃していれば、もう少し違った感想が出たかもしれないが。


「チィッ、生徒会長が来やがったぞ!」「来るか、学園最強(フォルテッシモ)」「奴を殺せえェェェェェェェェ‼」「やらせるか‼」「出てこなければ、やられなかったのに‼」「落ちろ蚊トンボ‼」「相手が生徒会長なら! 人間じゃないんだ、僕だって」「ええい、鳳凰学園の生徒会長は化け物かっ⁉」「お、俺だって、俺だってぇ~」「この、化け物があぁ! 墜ちろ、墜ちろおぉ‼」


「当たらなければどうということはない。ま、当たっても平気だがな‼」


向ってくる有象無象の魔法攻撃を避け、あるいは素手で砕き、相手を薙ぎ倒して進んでいく神爪勇人。

一番前にいる生徒達の間に割り込みをかけ、窓口まで到着した。


「おばちゃーん、サンドイッチとか普通の食い物、まだ残ってるかー?」

「まだ沢山残ってるよー」


やはり慣れた光景なのか、目の前で一人の学生が他の生徒を投げ飛ばしたりヘッドロックで締め上げたりしている光景を観ても、購買のおばちゃん達は特に驚いた様子も見せていない。


「んじゃ、サンドイッチのセット二つ。後、お茶も二つくれ」

「はいよ。お会計は八百円だ」


支払いを現金ではなくデータで済ませようと、勇人はポケットから電子決済する為のデバイスを取り出そうとする。

だが、チャリンと、勇人の目の前にある窓口のカウンターに、小銭八百円が不意に置かれた。


「ん?」


一瞬、理解出来ずに首を傾げる勇人だが、


「はい、まいど」


おばちゃんはそのお金を受け取り、勇人に商品を手渡した。

当然だが、勇人はまだお金を出していない。

ということは、誰かが商品を買って支払おうとお金を置いて、それをおばちゃんが間違えて取った、ということだ。

つまり今、金を置いた生徒は、金を払ったにもかかわらず商品が買えていないという事で。


「え・・・あれ⁉」


その証拠に、隣にいる女生徒が素っ頓狂な声を上げる。

勇人は直ぐにでも購買のおばちゃんに説明し、お金を隣の女生徒に返すなり、渡された商品を返すか、お金を払うべきだ。

しかし、勇人は隣の女生徒を視界に捉えた瞬間、その考えを棄てた。

まるで燃え猛る灼熱の炎のように、赤と橙が混じったような煌びやかな短髪に、強気な性格が見て判るツリ目。

勇人にとってその特徴的な容姿は非常に見覚えがあり、それは昨日商店街で一戦やりあった女。

おばちゃんの過失とはいえ、商品を間違えて受け取ってしまって少しばかり罪悪感があったのだが、その女生徒の姿を見た瞬間、全てがどうでもよくなった。


「ま、いっか」


何も視ず、何も起こらなかったと言わんばかりに、勇人は踵を返し、昼食を待っている縁寿と都古の元へと戦利品を持ち直し足を戻す。


「『ま、いっか』――――――じゃねぇだろ、待てやゴラアァァァァァァァァァァァァァァァ‼」

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