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MAGINIGHT~魔神とその環境を取り巻く者達のお話~  作者: U-1
序章 運命の出会いの日~The Wizard God AND The Funny Guys~
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第8話 I Can Fly

「――――――さて、まず自己紹介でもしてクラス内の交流でも深めてもらおうと思ったが・・・・・・」


爪痕を残した黒板前にある教壇に立つ山吹教師は、グルッと教室内を見まわし、


「そんな必要がないくらいに、既に交流を深めたようだな!」


床がひび割れたり天井に穴が開いたり窓が割れたり机がひしゃげたり怪我を負った生徒達を視て、やたらと無駄に爽やかな笑顔でそう言った。

さすがは友情や根性といった言葉が好きな熱血女教師。

この凄惨な教室を観ても、拳と拳を交えれば友情が芽生えるというシチュエーションの結果程度にしか思っていない。

当然、そんなことを全く考えてない生徒達は「交流なんて言わねーよコレ」と、心の中で一斉にツッコんだ。

自分の生徒達がそんなことを考えていることなど露程にも思わず、


「新たにこの学園へ進学してきた『外部生』は驚いただろうが、『内部生』にとってはこの程度の騒ぎは日常茶飯事だからな。大変だろうし戸惑うことも多いだろうが、直ぐに慣れる。てか慣れろ、でなければ身が持たんからな! 気合と根性でここの環境に適応しろ‼」


自身がこの学校に初めてやって来て今の環境に適応した経験を、拳を握り締めながら力説する。

そんな熱血教師の言葉を、新たにやって来た外部生たちは「どんな学校だ・・・・・・」と、また心の中でツッコミを入れるのであった。


◆◆◆


チャイムが鳴り響き、山吹教師は必要事項を告げて教室を後にする。

今日は始業式。

朝から騒々しい喧嘩はあったが、それを除けば今日教室でやることは学校の基本的な説明だけで、授業はない。

だから後は帰るだけだ。

それでもまだ時刻は十二時前。

遊び盛りの彼らの中に、家にそのまま真っ直ぐ帰る者など少数しかおらず、椅子の背もたれに背を預けながら伸びをする天使縁寿も、真っ直ぐ帰ることなどしない者の一人だ。


「これからどうしようか?」


縁寿の隣に座っている黄昏都古が、椅子から立ち上がって訊ねてきた。


「部活見学・・・は、明日からか」


この放課後をどう過ごすかを「うーん・・・・・・」と、唸りながら考えている縁寿のお腹から、

――――――ぐぎゅるるるるるるる・・・・・・

腹の虫が大きな音を立てて鳴り響いた。


「えーと・・・食堂で何か食べようか? もうお昼だし、お腹空いて来たし」

「ぁー・・・うん。そうね・・・・・・」


羞恥に顔を赤くする縁寿は、都古のフォローの言葉にありがたく同意する。

そんな縁寿に苦笑しつつ、都古は縁寿の後ろの席に座っている、神爪勇人が席を立つのを視界に捉えて、誘ってみる。


「勇人くんもどう? 一緒だと凄く助かるんだけど」

「別に構わねぇが、他の連中もいいか?」

「うん、いいよ」


都古の誘いを受けた勇人は、ガラガラと教室の窓を開けた。


「他の人って?」

「生徒会の皆だよ」


窓の外、神爪勇人は少し身を乗り出して下の様子を伺い、


「食堂って直ぐ人がいっぱいになるから、勇人君がいてくれるとホント助かるよ」


窓の淵に足を掛けて。


「さっきも言ってたけど、助かるっていったいどういう――――――」


意味?と、縁寿が都古に訊ねた直後。


――――――神爪勇人は窓の淵を蹴って外へと飛び出した。


「え、いや、ちょ・・・飛んだあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ⁉」


一瞬、神爪勇人が何をしたのか判断出来なかったが、すぐさま縁寿は立ち上がり、窓の下を見た。

そこには当然、重力に引かれ真っ逆さまに地面へと落下している勇人がいて、


「先に席取っとくぜー」


なんて呑気な事を言いながら悠々と手を振っている。

そんな勇人を異常と見ていないのか、都古も「うん、お願い♪」とにこやかに手を振っていた。

このまま落ちれば勇人がどうなるかなど、子供でも分かる。

地面と激突。

そして、死亡。

運が良ければ生きているのかもしれないが、それでも縁寿はそう思わない。

きっと見るも無残なことになるだろう。

グチャッと潰れたトマトのように。

そんな光景が脳内で再生された縁寿は、勇人が地面と激突する瞬間、目を手で覆った。

だが、人が落ちたような音が聞こえてこない。

恐る恐る視界を塞いでいる指を開き、下を見る。

そこには、何事も無かったかのように着地した勇人が、地面を蹴って走っている姿が。


「いや、ここ五階よね? 何で平気なの⁉」


堪らず絶叫した縁寿に、


「先生も言ってたけど、気にしたら負けだよ。直ぐ慣れるから」


都古は笑って言うのであった。

とてもじゃないが慣れる気が一切しない縁寿は、そんな親友に嘆息しつつ、少し昔を振り返ってみる。

この親友は、もっとおとなしい性格ではなかったか?

それが、こんな異常なことが目の前で起きても笑って済ますような性格に変わるとは、ここの学校生活というものは、いったいどれほどのものなのか。

自分の先行きが非常に心配になってきた縁寿であった。

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