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MAGINIGHT~魔神とその環境を取り巻く者達のお話~  作者: U-1
序章 運命の出会いの日~The Wizard God AND The Funny Guys~
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第7話 教室騒動

「なんていうか、随分変わった生徒会長ね」


入学式が終わり、学校施設を利用するためのIDカードも兼ねる学生証入りの生徒手帳を教員から受け取って、高等部校舎の廊下をのんびりと都古と一緒に歩く縁寿は、先程勇人が壇上での挨拶を思い返していた。


「うーん、中学の時からあんな感じだったから内部生(わたしたち)はもう慣れたけど・・・・・・」


都古も先程の、生徒会長の挨拶という名の演説を思い返し、苦笑する。

どうやら神爪勇人のアレは、この学園においてはいつもの事のようである。

縁寿は「どんな学校よ・・・」と嘆息しつつ、自分達が配属された一年A組の教室の扉を開けて、教室内へと足を踏み入れた。


瞬間、ビッと、縁寿の足に何かが引っかかった。

そしてビシャァッ‼と、頭の上から水が降りかかってきた。


当然ずぶ濡れになり、唖然とすること数秒。

フルフルと震えながら、「何これ・・・・・・?」と声を絞り出す。

都古は視線を天井へと向ける。

そこには、バケツが逆さまになって、ロープで固定されていた。

ロープの後を視線で追っていくと、縁寿の足下に伸びているロープと繋がっている。

先程のロープが引っ張られると、天井に固定されていたバケツがひっくり返る仕掛けになっていたようだ。


「ちょっと誰よ、こんな小学生みたいなことするの⁉」


水も滴るいい女、などと言うはずもなく、鞄に入れていたタオルで濡れた身体を拭きながら、憤慨する縁寿。

そんな縁寿の叫びを聞いて、「ぎゃはははははっ‼」と笑い声が響く。

そいつはこのクラスの、黒髪のツンツン頭が特徴的な男子生徒。

縁寿の様を観てゲラゲラと大きな声で笑っている。


「どうだ勇人ザマァッ‼――――――って、誰だお前?」

「こっちの台詞なんだけど⁉」


水を被った者が神爪勇人ではないことに気づいてなかったのか、本気で疑問の声を上げた男子生徒に、縁寿の怒りのボルテージはますます上昇していく。


「なんてことすんだよ! 勇人のやつを引っ掛けてやろーと思ったのに‼ 引っ掛かるやつがあるかっ‼」

「何でアンタがキレてんのよ⁉ アンタ怒られる側‼」


あんまりに勝手な言い分で、一発引っ叩いてやろうかとブチキレる縁寿だったが、


「ほう? 俺様を引っ掛けるか・・・・・・」


突然背後から聞こえてきたドスの効いた声に、思わず身体がビクリと反応する。

全く気配がなく、いきなり後ろに現れたかのような。

その声の主の顔を確認しようと後ろへ振り返る縁寿だったが、そこには苦笑している都古がいるだけで、他には誰もいなかった。

あれ? と、さっき聞こえた声は幻聴かと自分の聴覚を疑っていたら、ガスッ‼と鈍い音が前方から聞こえてきた。

視線を前へ戻す。

そこには、先程まで縁寿を笑っていた男子生徒が床に倒れ伏している姿と、手を叩いている神爪勇人の姿があった。


「俺様をハメようなんざ百億年早ぇーよ」


いったい何時現れたのだろうか。

ほんの一瞬、視界を変えた瞬間に移動したのだろうか?

倒れた男子生徒は「痛ってー」と後頭部を擦りながら、ムクりと起き上がる。

神爪勇人に殴られて倒されたようだ。

だが、手加減されたのか、この男が頑丈なのか。

桜並木で人外の喧嘩を繰り広げていた男の一撃にしては、たいして怪我を負っているようには見えない。

神爪勇人が「相変わらず頑丈な奴だな」と舌打ちしているのを見ると、どうやら後者のようである。

ここにまともな一般人は自分の親友しかいないのか?と、縁寿は再び嘆息する。


「勇人がそんな子供騙しに引っ掛かる訳ねーだろ、バカか?」


その様子を机に座りながら見ていた、黒いニット帽を被った男子生徒が、ツンツン頭の男子生徒を鼻で笑った。

確かに子供騙しの悪戯だが、その子供騙しに引っ掛かった縁寿は何とも言えない、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。


「ああ? バカって何だよ、んな呼び方許可してねーよ!」

「バカだからバカっつったんだろーが、許可なんかいるかボケ」


ニット帽男子の発言にイラッときたツンツン頭がガン飛ばすと、ニット帽男子も同じくガン飛ばして、互いにメンチ切り合った。

どこのチンピラか、「ゴラァ」とか「オラァ」とか言い合っている。

今直ぐにでも、お互い殴り掛からんばかりの雰囲気に縁寿はオロオロするが、教室内にいるクラスメイト達は「お? 何だ喧嘩か?」とか「担任が来る前にケリつけろよー」等と呑気に観戦を決め込んでいる。

挙句の果てにはどちらが勝つかを賭け始めた。

誰も喧嘩を止める気配がない。

慣れているのだろう。

鳳凰学園の生徒にしてみれば、この程度の騒動は日常茶飯事だ。

縁寿と同じくオロオロしているのは、他所の中学から鳳凰学園に進学してきた新入生で、後は皆観戦したり、喧嘩に巻き込まれないように迅速に距離を取ったり、マイペースに無視を決め込んでいたりと、その行動には迷いがない。

そうこうしている内に「オラァッ‼」とニット帽男子がツンツン頭を蹴り飛ばし、蹴り飛ばされたツンツン頭の近くにいた男子生徒が巻き込まれて一緒に倒れこんでしまい、巻き込まれた男子生徒は怒って手元にあった筆箱をツンツン頭に投げつけるが、投げた筆箱は避けられて対角線上にいた女生徒に当たってしまう。

その女生徒も当然怒り、手近にある物を適当にブン投げ、その投げた物がまた標的とは違う別の誰かに直撃し、また誰かが怒り狂って誰かを攻撃する。

それが倍々ゲームのように増えていき、あっという間にクラスの殆どを巻き込んでの大喧嘩に発展してしまった。


「なんかドンドン被害が広まってるんだけど・・・・・・私のせい?」


事の発端は、縁寿がツンツン頭の悪戯に引っ掛かったこと。

もしかしてこの騒動は自分のせいなのかと思ったが、「いやー、関係ないと思うよ」と都古はそれを苦笑気味に否定する。

ではいったい誰のせいなのか?と問われれば、


「朝から元気な奴らだな」

「いや、アンタがさっきの奴殴り倒したのが原因じゃない?」

「俺様関係なくねぇか? 馬鹿共が勝手に馬鹿やりだしただけだろ」


呆れたように喧嘩を眺めるこの生徒会長だろう。

生徒の長である生徒会長のくせしてこの騒動を止める気はないのか、呑気に欠伸などしていた。

さすがにその態度はどうなのかと頭にきて、縁寿は言ってやる。


「アンタ生徒会長でしょ、止めなさいよ」

「あぁ? しょうがねぇなぁ」


やれやれと面倒くさ気に肩を竦める神爪勇人は、


「潰すか」


ぐるりと肩を回して、騒動の中へと歩いていく。


「結局アンタも暴れるんかい⁉」


と、ツッコむ縁寿の叫びを無視して神爪勇人は駆けた。

そして暴れる生徒を次々と殴り飛ばす。


「止めなくていいのアレぇ?」


止めに入るどころか、神爪勇人が介入したことにより被害はドンドン拡大していき、困惑しながら親友に訊ねるが、


「まぁ、ここじゃいつもの事だし」


笑ながらそう言う都古に、縁寿は「どんな学校よ・・・・・・」と、本日三度目の言葉を溜め息と共に吐き出した。


「相変わらず騒々しいな・・・・・・」


もはや戦場と化した教室に、スーツを着た見目麗しい女性が呆れ顔でやって来た。


「あ、先生来た」


都古のその言葉に、この女性が教師であることが分かった。


「今年も山吹先生が担任なんですね」

「ああ。お前ら、早く席に着け」


この女教師、名は山吹(やまぶき) 桔梗(ききょう)

東郷伊知郎もそうだが、この山吹桔梗も鳳凰学園の名物教師の一人だ。

スタイルはボン・キュッ・ボンという表現がピッタリなナイスバディ。

整った顔立ちに、腰元まで伸びた艶やかな長い黒髪で、大和撫子という言葉が似合う別嬪さ。

好きな言葉は、勇気・友情・努力・熱血・気合・根性と中々に熱い。

担当科目は地球史。

担当科目以外でもありとあらゆる学問に通じているのだから、教師生徒を問わずに厚い信頼を集めている。

このクラスの担任になったのも当然と言える。

なにしろ中等部の頃から、今この状況のような戦場と化したクラスを抑えることの出来る数少ない教師なのだから。

並の教師では、こんな問題児達を三日も抑える事など出来ず、胃に穴を空けてしまうだろう。

そんな問題児だらけの生徒達を平然と抑える事の出来る女傑。

それがこのクラスの担任、山吹桔梗だ。


「全員席に着けえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ‼」


東郷教師に匹敵するかのような凄まじい怒声が、教室内に炸裂する。

思わず耳を手で塞ぐ縁寿と都古。

けれど、暴れ狂っているクラスの連中は、その怒声が聞こえていないのか争いを止めることはない。

寧ろ、加速しようとしていた。


「やんのかゴラァッ!?」

「燃えてきたぜぇッ‼」

「上等ッ‼」

「うっさいのよアンタ達‼」

「腕の封印を解くか・・・・・・!」

「・・・・・・うぜぇ」


ガラが悪く大柄で筋肉質で茶髪な男子生徒の筋肉が盛り上がった。

黒髪ツンツン頭の両手から炎が噴き出した。

黒いニット帽を被った男子生徒の、指を鳴らす掌から冷気が漏れ出した。

赤髪ポニーテールの女生徒が、竹刀袋から太刀を抜刀した。

左目の眼帯と銀メッシュが特徴の、黒髪で長身痩躯の男が腕に巻いた包帯を解こうとした。

四色の頭髪が特徴の美少年が、手から風を巻き起こそうとした。

教室内で『魔法』の嵐が吹き荒れかける。

そんな生徒達に山吹教師は一つ嘆息し、タンッと黒板に手を付いた。

それを観た都古は「もう一回耳塞いでた方がいいよ」と縁寿に警告し、縁寿は「なんで?」と首を傾げながらも言われたとおりに耳を塞ぐ。

瞬間、山吹教師は黒板に置いた手の爪を立てて、力の限り引っ掻いた。


――――――ギギイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ‼


頭の底へと響く金切音に、暴れていた生徒達は耳を抑えながらのた打ち回る。

・・・・・・ちゃっかり耳を塞いでいた、神爪勇人を除いて。

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