第53話 危険な二人! 超勇者は止まれない‼
「【氷結手甲】」
飛び掛かってくる凍夜の右腕全体に、氷で生成された手甲が覆われる。
『青き惑星の調停者』という地球の代表ともいえる魔法使い達は、その情報が公に発信されており、真実かどうかはさておき、情報は公表されている。
例えばこの『氷室 凍夜』の使う魔法が【氷結魔法】という、氷を自在に使ってくる氷の魔法だとか。
氷魔法は派生属性と呼ばれる属性魔法に類するもので、基本七属性のように相性というモノが存在する。
氷属性に対して相性が良いのは火属性。
勇人の【精霊王に祝福されし誓約者】は、契約した精霊の属性の加護を受けて攻撃等を無効化出来るが、氷属性の精霊とは契約していない。
そして『極東の魔神』やら『千の魔術の使い手』なんて異名を付けられている勇人は当然、火属性どころか基本七属性全てを高水準で使用可能。
その為、対抗するなら火属性の魔法や魔術が効果的――――――
(――――――だが、それは雑魚の思考だ!)
勇人の右手に冷気が漂い始め、周辺の空気と水分が氷結化していく。
「【氷拳】‼」
氷属性の付与魔術を右手に発動。
勇人は振りかぶった氷に覆われた右手を、突っ込んできた凍夜目掛けて打ち放つ。
凍夜も手甲で覆われた右手で拳打を放ち、そして
――――――ゴッ‼‼‼、と。
神爪勇人と氷室凍夜。
2人の氷で覆われた打撃が激突し、轟音と共に周囲に衝撃波と冷気を撒き散らす。
目前から吹き荒れる氷片が混じった強風にエリザが顔を腕で覆い目を細める中、足元で伏している流浪が飛ばされそうになり屈んで抱きかかえる。
不意にゴチンッ‼と鈍い音が聞こえてきて、見ると気絶していた桜色の髪をした少女・・・縁寿がこの強風に煽られたのか倒れており、片目に傷跡がある黒い大型犬・・・プルートが仕方なしといった風に嘆息しながら縁寿の襟元を口で銜えてズルズルと引き摺りながらエリザの方へ歩いてきた。
倒れた拍子に出来たのか、頭に漫画みたいなデカい瘤を作っても白目を剥いて目覚めることのなく引き摺られたことによって少しボロボロになった縁寿を見てエリザは憐れんだ。
それを一部やった本人でもあるプルートは我関せずで、運び終えて襟を口から離すと「ワンッ!」と軽く一吠え。
瞬間、エリザ達の周囲を覆うように無色透明な円形の壁の様なものが展開される。
「障壁!?」
ギョッとしたエリザは、それをやったと思われるプルートを見る。
妙に太々しいとは思っていたが、魔術を使用したこの犬がただの獣畜生ではないと確信する。
衝撃波と冷気を完全に遮断した障壁を張った犬の正体が魔獣や魔物の可能性を頭を過った時、
「プルート、そのままそいつらを護ってろ」
勇人の全身の気が目に見えて練り上げられ、攻勢に移る事を感じ取り思考が中断される。
それは神爪勇人が修得している体術流派【神源流】が剛拳の技。
「木行三の型――――――【天木】‼‼」
片足で踏みしめた地面のコンクリートが罅割れ、もう片方の筋力と気が練り上げられた足で、氷室凍夜の首を蹴り上げる。
突如地から勢いよく急激に生えてきた樹木に打ち上げられるかの如く、凍夜の身体が天に舞う。
勇人は地を強く蹴り、空へと跳躍し追撃に出る。
橋の上空へと打ち上げられた凍夜はダメージを感じさせない動きで身体を回し体勢を整え、下から迫ってくる勇人に対して腕を振るった。
「【氷柱豪雨】‼‼」
凍夜の周囲に数多の氷柱が展開され、それらが豪雨の如く地上へと降り注がれる。
「【氷刃】‼‼」
勇人はその手に冷気を吹きかけて、手刀に氷の刃を形作る。
迫る氷柱の大雨を、氷の手刀で難なく捌きながらスピードを殺す事なく空へと上昇を続ける勇人を見下ろし、凍夜は舌打ちしつつも笑みを浮かべた。
「いいねぇ‼ キンッキンに冷えてきたァッ‼‼」
「テンション上がりすぎだろ・・・・・・」
氷魔法の使い手=冷静という法則がある訳ではないが、そういう偏見は持ちやすく、実際傾向にはある。
氷室凍夜の外見も一見涼し気でクールな為、どうにも性格が豹変したようにも見える。
(単にコッチが素なだけなんだろうが・・・・・・)
それでもテンションの急激な変化に勇人はちょっと引いた。
そんな勇人の心境など知る事のない凍夜は、宙を蹴り急降下。
先程魔法を使って生成した氷柱の一本をその手に握り、
「【刺突氷剣】」
氷柱の形状が変化する。
先端が細く鋭利に伸び尖った切っ先を、下方から迫る勇人目掛けて刺し穿つ。
勇人の氷刃の手刀と、凍夜の氷柱製の刺突剣が激突。
上空で再び、衝撃波と氷片を周囲に撒き散らす。
互いに高い魔力で造り出された氷を使用している為か、容易に砕ける様子はない。
氷の鍔競り合いを続けながら、凍夜は口を開く。
「《契約に従い我が声を聴け水精霊――――――》」
(呪文詠唱・・・ああ、そういう――――――)
魔法を強化する類の呪文かとも思ったが、詠唱の内容から勇人は当たりを付けた。
魔術等を発動させる時等に使用される『呪文詠唱』は、その用途によっていくつかの種類がある。
氷室凍夜が使ったこの詠唱は、精霊の力を行使する精霊術。
そして『水精霊』は水の力を司る精霊。
それが呪文の詠唱文に入っているという事は――――――
(――――――氷魔法の効果範囲の拡張か)
鍔競り合いの状態から凍夜は勇人に蹴りを入れ、反動で距離を取り氷剣を握っていない方の手を振り翳す。
「《――――――【大噴海流】》‼‼」
「んで、当然の様に詠唱省略と」
下方に広がる海から、上空で飛行する勇人目掛けて、海水が噴き上がり巨大な海流が襲う。
「水属性だからダメージは受けないが・・・・・・!」
身を翻して空中を舞い、槍の様に伸びてくる海流を回避する。
勇人の【精霊王に祝福されし誓約者】は水属性の攻撃を無効化出来るが、水の影響を受けないわけではない。
海流に呑まれる、水に濡れる等の状態になれば、凍夜の氷魔法の効果を強く受けることは容易に推測で来た。
1本の海流を回避した所で2本目の海流が下方から襲ってきて更に回避、それが3本、4本と連続で襲撃。
それらを避けると複数の海流が同時に噴き上がり、逃げられない様に周囲を覆ってくる。
「鬱陶しいわッ‼」
身体ごと回転して繰り出した氷刃の一閃が、周囲の海流を斬り飛ばす。
空中に舞う水滴に視界を数瞬の間塞がれ、その隙に氷室凍夜の姿を見失ったが、更に上空へと飛翔したのは気配を察知していた。
勇人が見上げるのとほぼ同時に、
「直接水を当てる事は叶わなかったけど・・・・・・水気は充分満ちたね」
遥か上空に漂う凍夜は手を頭上に翳しており、その空は巨大な影が覆っていた。
◆◆◆
「・・・・・・この橋、持つのかしら」
この戦いを見ていたエリザは不安になった。
神爪勇人と氷室凍夜が上空へと戦域を移動してから、豪雨の様に氷柱が槍の如く降り注いできたり、橋の下の海が荒れて海流が幾つも空へと昇っていき、その余波で大波が起きて橋の上を襲うが、それらはプルートが張った障壁が完全に遮断しており、障壁内に影響はない。
プルートは暢気に欠伸をしつつ足で頭を掻き、流浪は死に、縁寿は気絶したままだ。
障壁内は平穏だが、自分たちがいるこの橋そのものは海流が噴き上がると共に軋み上げているように感じる。
なんなら氷柱の豪雨で橋は既にズタボロである。
元々エリザとキュリロスとの戦闘でもそれなりに破損していた所にコレだ。
障壁で攻撃を防げても、足元の橋が大破倒壊してしまっては意味がない。
(私、泳げないし!)
ついでに言うと空も飛べない。
いや、人間が生身でひょいひょいと当たり前のように空を飛んでいる事に、人外に足を踏み入れている吸血鬼として少し物申したい気持ちがあるのだが。
そんな心境で少し落ち着かずソワソワしていたら、ふと影がかかった。
夜の時間でも街灯も月明りもありそこそこ明るかったのだが、そこから少し暗くなる。
雲で月でも陰ったのかと、改めて空を見る。
「・・・・・・何、あれ」
雲ではない。
巨大な何かが空に――――――
◆◆◆
ピキピキ、パキパキと。
上空の冷え込んでいく空気の中、そんな音が静かに周囲に響く。
【大噴海流】で神爪勇人を吞み込めるのなら、それでよかった。
避けられても特に問題はない。
空へと噴き上がった海流が空中に水気を満ちさせ、避けられた事で更に天へと昇っていく海流はいずれは停止し、重力に従い落下。
つまりは雨の様に地上へと降り注ぐ・・・・・・はずだった。
しかし、未だに雨が降ってくる気配はない。
その答えは、氷室凍夜が翳した手の先にあった。
天へと延ばされた手の先にあるのは――――――氷塊。
それが周囲の水気を凍結させて、音を立てながら徐々に巨大と化していく。
巨大な氷の塊は、やがて山の様に大きくなり、空に鎮座する。
「――――――【崩れ落ちる氷河】」




