第51話 突然の襲撃
「あー・・・・・・つか、言葉通じてるか? その状態から元の姿に戻れんのか?」
橋に来る前に確認した姿とはまるで異なる異形の姿で、正気かどうかも疑わしい見た目のために確認する勇人。
そんな彼の疑念を晴らす意味も込めて、若干渋った反応を見せながら吸血鬼エリザは化け物染みた姿から徐々に人の姿へと変化していった。
異形の姿に変身した際に、元々ボロボロだったドレスがさらにズタボロに引き千切れてしまい、陶器のような白い肌が大胆に露になっているが、当の本人は気にした様子はなく険しい視線を神爪勇人に向けている。
そんなエリザの反応に、勇人は「おや?」と首を傾げた。
「あー、と? 俺様はお前を保護しに来ただけで、別に狩ろうとかって意思はねぇぞ」
その言葉でさらに敵意を高める吸血鬼に、勇人は怪訝な反応をする。
「何が不満だ? この島に逃げ込もうとしてたように見えたんだが、保護されに来たんじゃねーのか?」
「・・・・・・確かに四季島に逃げ込もうとしたけど」
警戒心が強いエリザに勇人はどうしたもんかと思考し、「ああ」とこの吸血鬼が敵意を向けてくる理由を察した。
「もしかしてお前、魔術協会から逃げてる口か? 協会からはお前の保護を依頼されたんだが、そもそもお前が何で逃げてるのかは聞かされてねぇな」
『魔術協会』とは。
大昔から存在しており、地球の国籍、ジャンルを超えて魔術師達が立ち上げた組織であり、魔法使いや魔術結社の最大互助団体。
元は魔法使い同士の勢力争いなどを避けるために出来た組織で、現在は主に魔術を管理し、隠匿し、その発展を使命とする。
魔術(世界的な宗教組織的に言えば奇跡)を主や信徒以外の者が使用する事を強く敵視する聖神教会、魔術を一般社会の犯罪行為に使用する魔術師や魔術団体、悪霊や妖怪等の人間に害を与える存在怪異や怪奇現象に対抗するための武力と、魔術の更なる発展のための学術研究機関を持つ。
魔術犯罪の防止、魔術に関する法律を敷き、罪を犯した魔法使いへの制裁・消去を行う制裁機関でもある。
地球の魔法的組織の中でも最大規模の組織。
・・・・・・要するに歴史の古い魔法的な巨大組織である。
「お前が逃げてる細けぇ理由は知らねーよ。大凡の察しは付くが・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・ま、そこは特に詮索しねーよ」
そんな勇人の一言に、エリザは首を傾げた。
「訳アリなんだろ? この島に逃げ込んでくる奴には珍しくもねーよ。ま、最低限事情の説明はしてもらうが」
「・・・・・・協会から保護の依頼を受けてるって言ってたけど」
「ああ、”保護”の依頼な。ただ引き渡しに関しちゃ何も言われてねーからな。お前が望むんなら協会連中には渡さねーから、島に居ればいい」
「・・・・・・いいの?」
「依頼に含まれてねーことは俺様の知ったこっちゃねーな」
もし力づくで訴えてきたら、それこそ力で捻じ伏せればいい。
そんな事を宣う勇人の言葉は、魔法使いの一般常識で言えば無謀だが、異名である”極東の魔神”の意味を知るエリザは決してハッタリの類ではない事を理解していた。
「分かった。一先ず、貴方を信じさせてもらう」
「OK。で、アンタの事情を聴く前にちょっと聞いときてーんだが・・・・・・」
勇人はさっきから微妙に気になっていた、エリザの足元に目を向ける。
「そいつ、記憶違いじゃねーんなら学園の生徒なんだが、何で死んでんだ?」
「・・・・・・こっちの事情に巻き込んじゃって」
「あー・・・・・・あの神父か」
傷口から感じる力の残滓と状況から確信する。
エリザとキュリロスの立場や素性、所属している組織や現場の状況等から、死んでいる生徒――――――『竜道寺 流浪』が日本の法律に則って、殺害した神父から殺人罪等で訴えたり裁いたりが出来るかは現状不明だ。
まだ魔法や異世界に関する法整備が完全じゃないというのもあるが、
(場所がメンドくさすぎんな・・・・・・)
この四季島と本島を繋ぐ大橋の上で、勇人は嘆息する。
「・・・・・・ま、死ななきゃどうにでもなるか」
言って勇人は、屈んで遺体を抱くエリザに歩み寄り、その遺体に手を翳す。
「何するの?」
「まだ身体が死んだだけで、精神も魂も留まったままだからな。この状態なら俺様が蘇生出来る」
「死神もいねーしな」と呟く勇人はハタと気付く。
「あーん? 何だ、コイツの心臓・・・・・・」
「ああ、それは――――――」
違和感を抱いた勇人は怪訝な顔をし、エリザがそれに関する説明をしようとしたところで。
――――――突然、強烈な威圧感が2人を襲った。
◆◆◆
それは、音速を超えたスピードで本島の方向から飛来した。
周囲を圧し潰さんばかりの凄まじい威圧感を隠すこともなく、凍てつく様な殺気を発しながら。
そんな一人の人間が空気を裂きながら、無防備な背中を晒すエリザへと殴り掛かった。
だが、気配に気付いた勇人が逸早く前に出る。
――――――ゴッ‼‼‼‼、と。
宙から突進してきた相手の肘打ちに対して、勇人も肘打ちで迎え撃つ。
互いの打撃が衝突し、周囲に衝撃波を撒き散らす。
振るえる空気に橋が軋み上げる。
そんな中、襲撃者は凍り付くような殺意を抑えもせずに笑った。
「やあ、初めまして。ご機嫌如何かな?」
「どうも、初めまして。随分な礼儀知らずだなオイ」




