第50話 罪人裁きし審判者
「——————え」
天使縁寿の視界が赤に染まる。
突然目の前で爆ぜた赤い果実が飛び散り、果汁がビチャリと顔に掛かった。
その視界に映る膝から上がなくなった足から紅い噴水がビチャビチャと湧き出してくる。
空からゴトンと、何かが落ちてきた。
一つの塊だ。
ゴロゴロと転がってきて、紅に塗れたそれと目が合った。
――――――首から下の身体が爆散した、神爪勇人の頭部が
「きy―――「あー、ビックリした」―――ギャッッッッバァッ!?」
「・・・・・・女が上げる悲鳴じゃねぇぞ、おい」
目の前で奇声を上げた縁寿に、呆れた声を漏らす神爪勇人。
身体が頭部と膝から下を除いて爆散して血を撒き散らしていながら、神爪勇人はなんてことない風に喋っている。
「おーい、天使?」
「――――――――――――」
「もしもーし、天使縁寿さーん?」
「――――――――――――」
「意外とエロいピンキーなパンツ履いてる天使縁寿さーん?」
「――――――――――――」
「返事がない、ただのJKのようだ」
(なるほど、確かに不死身・・・・・・)
頭だけになって独りでにゴロゴロとその場を転がり回っている神爪勇人を、キュリロスは驚く様子もなく観察していた。
不死身と一言で言っても色々とパターンがあり、神爪勇人の不死身具合がどの程度かを確かめる為である。
頭部を砕けば死ぬタイプも有り、踏み砕こうかとその足を動かそうとするが、頭だけになった状態にも拘らず、神爪勇人には隙が無かった。
口が動けば呪文の詠唱も可能で、『魔神』なんて呼び名があるのなら無詠唱で魔術を放ってきてもおかしくはない。
それ故踏み出しそうになる足を下げて、キュリロスは観察を続けた。
そして神爪勇人に変化が起こる。
爆散した肉片や飛び散った血液がズルズルと、噴水の様に血を溢れ出していた膝までしかない脚の元に集っていく。
血や肉が脚に固まっていき、徐々に人の形に成っていく。
最後に血が伸びて頭部と繋がり、グチュリと嫌な音を発しながら体とくっ付いた。
まるで爆散した身体の時間が巻き戻ったかのように、神爪勇人は完全に元に戻った。
(再生・・・いや復元タイプか?)
細かい違いを除けば、不死身でよくあるタイプは以下の通り。
1:再生系
肉体や内臓が欠損しても新たに生えてきたりするタイプ。
不死身の程度によっては脳や心臓を破壊して即死させても死ぬことがない。
大体不死身の能力を持つ者はこのタイプが多い。
2:適応系
通常、人であれば心臓や脳がなければ生きる、または正常な活動が出来なくなるが、それらが欠損しても正常に生きていけるように身体がその状態に適応するタイプ。
首だけになっても生きていけるが身体が再生する訳ではないので、あくまで死なないだけ。
3:不老系
年老いることがなく寿命がないタイプ。
あくまで年老いて死ぬことがないだけで致命傷を負えば普通に死ぬ。
4:転生系
死んだ後に肉体を捨てて、違う生物に生まれ変わるタイプ。
精神や魂ごと滅ぼさなければ簡単に死なないが、肉体が違うため身体由来の能力が使えなかったりと何かしらの制限も存在することが多い。
5:残機系
命を複数所持しているタイプ。
命が一つではない為、一度殺しただけでは死ぬことがなく、複数回命を奪う必要がある。
6:復元系
身体が欠損しても、飛び散った肉や血が身体に収束していき元に戻るタイプ。
この手のタイプは欠損した肉体部分が消滅すれば元に戻ることが出来ず、脳や心臓といった生きる上で重要な器官が消滅すればそのまま死に至る場合が多い。
(それに復元タイプなら、爆散した後に血や肉に毒でも混ぜれば――――――)
「――――――ああ、それだけで死ぬかもな。俺様がただの復元タイプの不死なら」
「ッ!?」
身体の調子を確かめるように首を鳴らす神爪勇人の言葉に、キュリロスは息を吞む。
思考を読まれた。
であれば自分が何を企んでいたのかも、どんな手段を以って殺しに掛かっても全て筒抜け。
「ついでに言えば、お前のさっきの魔法。アレ、もう使えないだろ?」
「!?」
「いや、正確に言えば当分俺様には効果が無いっつー感じか。対象の負った罪に応じて裁きを下す的な能力・・・死刑が一番重い刑罰かどうかは知らねぇが、刑を執行された以上、その罪を問うことはもう出来ねぇんじゃね? それとも、不死身で生き返ったりするやつには再度使えたりすんのか?」
「・・・・・・いいえ、出来ませんね。私の魔法【罪人裁きし審判者】は、一度使えばその者が負った全ての罪を纏めて合算し、清算させるために刑を執行する。つまり一度刑を執行すれば、再度罪を負うまで効果を発揮しませんね」
思考を読めるなら隠しても無駄かと、キュリロスは観念して自信の能力を語る。
それでも不死で生き返った事そのものを罪に問えるかどうかという可能性が頭に過り、神爪勇人もそんな思考を見抜いて促すように手を向けた。
「どーぞ? 試してぇなら受けてやるぜ」
「・・・・・・いいえ、止めておきますよ」
重い溜息を吐くキュリロスは、具現化した本を光へと霧散させ消し、肩を竦めて今度こそ降参した。
「よくよく考えてみれば、不死身でさえそれなりに存在するこの現代。そんな中で態々『不死身の漢』なんて二つ名が付く貴方が、そんなシンプルな不死身とも思えませんしね」
「お、正解だ。流石にネタバレはしねぇが、まぁ敵対する上でクソメンドクセェ能力だとは言っとくぜ」
「自分で言いますか・・・・・・」
不敵な笑みで自信満々な事をほざきやがる魔神にイラっと殺意が沸き上がる神父だったが、殺しても簡単には死なない上にその気になれば簡単に殺しにもいけない事を思い出し、苛立ちを胸に込めて再度溜息として吐き出した。
「今度こそ本当に帰りますが・・・よろしいんですか?」
「だから別に構わねぇって、わざわざお前を狩る理由もねぇし」
「・・・・・・一応、私は貴方を殺したんですがねぇ」
「殺せてねぇだろ」
「・・・・・・・・・・・・」
再びイラっときたキュリロスだったが、今度は如何にか溜息を飲み込んだ。
踵を返して本島の方へ歩を進めようとしたが、ふと立ち止まる。
そして急に半反転すると駆け出し、この橋の上から海へと飛び込んでいった。
「あん?」
あまりに唐突な奇行に、勇人は思わず怪訝な声を出しつつ橋の外側に駆け寄り下を見る。
橋の下は当然海であり、波が激しく畝っているのみで、飛び降りたキュリロスの姿はなかった。
「何で急に海へダイブ?」
勇人自身、言葉にした通り特にあの神父を狙う理由などなく、おとなしく引き下がるのなら見逃すのも嘘ではない為、この様な形で逃亡される理由がまるで頭に浮かばず首を傾げるが、別段深く気にしなきゃいけない理由もない為「ま、いいか」と直ぐに興味を無くし、こちらの様子を窺っていた件の吸血鬼へと視線を向けた。
「さて、一応念の為に確認しとこうか。アンタが魔術協会が保護の依頼を出した吸血鬼・・・・・・エリザで合ってるか?」
勇人の言葉に、吸血鬼――――――エリザは視線を鋭くする。




