第40話 神爪勇人への依頼
日が落ち始めて、街灯程度では心許無い明るさで山の中は視界が効きにくくなってきた。
山の中にある木々を飛び越え、コンクリートで造られた車道に降り立つは7人の人影。
いずれも全身を覆い隠す様にフード付きの黒いローブを纏っており、その素性は伺えない。
その内の一人が苛立ちを隠さずに舌打ちと共にフードを取った。
「異形者が・・・中々にしぶといですねぇ」
髪の内側に篭った熱を逃がす様に頭を振り、肩まで伸びたその白髪を左右に揺らすは、アルビノと思われる白い肌に赤い目が特徴的な10代後半だと思われる男。
もうじき夜に入る山中故に周囲は暗く視界が効かないが、瞳に魔力を集中させて視力を上げている彼には、遠くを走る1人の女性の姿がハッキリと映っている。
此方に背を向けて、全速力で地を駆けて山を抜けようとする白銀髪の女の姿が。
「どうするんだ? このままだと逃げ切られてしまうが・・・・・・」
「あの島に逃げ込まれでもしたら厄介だよ。簡単には殺れなくなる」
「分かってますよ」
やや焦った様子の中年男性と若い女性2人の言葉に、白髪の男は肩を竦めながら答えるが、このままだと確かに面倒なことになる。
自分達があの島―――『四季島』に入ることが難しい為だ。
折角の獲物を仕留めきれないもどかしさはあるが、日本政府は元より地球連邦政府が治めている本島ならともかく、『異世界連合』が治めているに等しい四季島には侵入するのは骨が折れる。
仮に入ることが出来たとしても、そこから対象を抹殺する為に動くことが出来るかどうか。
「異教徒共が・・・・・・」
忌々し気に強く盛大に舌打ちするが、状況が変わるわけではない。
(・・・・・・まぁ一応逃げ切られても手が無い訳ではないですし、今は追い詰めるだけ追い詰めましょうかね)
◆◆◆
『いやぁ、中々連絡が繋がらなかったんで、もう諦めようと思ってたんですよー』
「諦めろよ、別に俺様に頼らなくてもそっちで動かせる奴くらいいんだろーが」
『いやー、実はそう簡単にはいかない事情がありましてね・・・・・・』
「『魔術協会』の事情なんぞ俺様の知ったこっちゃねーよ」
不在着信の履歴が残っていた相手・・・東雲に折り返しの電話を入れて、出てきたのは今一年齢を感じさせない男性の声。
若くも思えるし、中年にも思える。
そんな胡散臭さを感じる声の主は、勇人の「んじゃ切るぞー」との声に焦り、静止の言葉をかける。
『ちょーっと待ってくださいって!? 困るんですよ、話を引き受けてもらわないと‼』
「別に俺様は困らねーし」
『そんなこと言わないでくださいよ~・・・・・・!』
そんな顧客を獲得出来ない新人を脱した営業マンが泣きつく様な声を上げる東雲に、勇人はうんざりする様に嘆息する。
「そもそも、何で俺様? 何で魔術協会は動かない? いや、そもそもそっちで出来ないっつーなら別に俺様じゃなくてもギルドにでも依頼すりゃいいだろうが」
『あ、悠久の絆にはもう依頼を申し込んでます。受付の方に、依頼は受けるので直接勇人さんに依頼内容を説明して欲しいとのことで・・・・・・』
「あー、そうかい」
神爪勇人の知らないところで既に正式な依頼になっていたようで、勇人は仕方ないという雰囲気を隠さずに溜息交じりに依頼内容を促した。
『我々魔術協会が貴方に依頼したいのは、ある人物の保護です』
「保護?」
『ええ。かなり特殊な立ち位置におられる方なので、我々が手出しするには、その~・・・・・・』
「風聞とか体裁の問題なわけな」
『あははは・・・・・・すいませーん』
「現場で動くアンタに文句言ってもしょうがねぇか」
依頼を命じたりしたのも、東雲よりも上にいる立場にいる人物だ。
ここで東雲にグチグチ言ったところで何かが如何なる訳でもない。
(ま、東雲を直に動かせる奴も限られてっから、誰が命じたのかは大体想像つくけどな)
後でそいつに呪いでもかけようと心に決めた所で、話を進める。
「で、その特殊な立ち位置に居る奴の保護って具体的には?」
『勇人さんのデバイスに詳細を記したデータを送りますよ。もっとも、必要ないかもしれませんが』
「あーん? どういう事だ?」
『勇人さんの眼なら、視れば直ぐに分かると思います。今の彼女は、存在が異質になっていますから』
(彼女、ね・・・・・・)
それから存在が異質で自分の眼で視れば分かるという言葉の意味と、自身の能力や東雲が自分に依頼を申し込んだ意味を鑑みて、勇人は依頼の内容に凡その当たりを付けた。
そして、いくつか頭に浮かんだその推測の一つが、当たることになる。
『彼女は【鬼】の一種・・・・・・所謂、【吸血鬼】と呼ばれる存在です』




