第37話 神爪勇人の放課後~地球ギリギリ‼ ぶっちぎりのヤバい奴~
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広大な空がもうじき夕焼けから黄昏時に移ろうとする頃、鳳凰学園では二体の巨獣が激突していた。
巨獣と表現しても、それは体格ではなく存在感や戦闘力を指した比喩であるが。
片やニメートルを軽く超えた筋骨隆々なスーツ姿の教師・・・東郷伊知郎。
片や夕焼けをも反射する程の太陽の様に目映い金髪が特徴の生徒会長・・・神爪勇人。
そんな二人が、空中を縦横無尽に飛び回りながら、目にも止まらぬスピードで格闘戦を繰り広げているのだ。
魔法というものがこの世界に発現してから、武術界隈にも変化が起きた。
中国思想等に挙げられる”氣”というものが、実在するものであるとされたからだ。
肉体から発することが出来る生命エネルギーである"氣"・・・・・・別名『氣力』と呼ばれる力を使った武術が台頭してきたのだ。
洋の東西問わず多種多様出てきた、『氣力』や魔法を用いた現代の新たな格闘技。
総じて『魔戦技』と呼ばれるその武術を、東郷伊知郎と神爪勇人も身に付けていた。
そんな彼らが身に付けた『魔戦技』には、空を飛ぶ体技も存在する。
神爪勇人の流派が使う【飛翔術】。
東郷伊知郎の流派が使う【舞空の法】。
流派毎に名称や使用法、会得の修練方法等は若干の差異があるのだが、全身の『氣力』を用いて空を飛ぶのはどれも同じ。
そんな彼らは空を自在に飛び回り、超速格闘戦を数時間も続けていた。
「極限流空手――――――【白打彗星拳】‼」
「神源流柔拳体術――――――木行一の型【柳林】‼」
彗星の様に飛来する東郷伊知郎の拳撃を、神爪勇人は両手で受け止める構えを取り、そして接触する寸前で腕を動かし、飛来してきた東郷伊知郎を触れずに投げ飛ばす。
更に高い空へ投げられた東郷伊知郎は身を翻し、宙を蹴り神爪勇人目掛けて急降下。
「極限流空手――――――【隕石蹴り】‼」
「神源流剛拳体術――――――土行一の型【螺旋拳】‼」
宇宙から飛来する隕石が如く飛び蹴りを放つ東郷伊知郎。
そんな蹴りを、全身を捻り回転の力で打ち出す螺旋の拳を以て、神爪勇人が迎え撃つ。
2人の蹴りと拳が衝突し、学園の上空で轟音が響き、空気が振動し校舎や地面が軋みを上げて罅割れ始める。
激闘を面白おかしく観戦していた生徒達は周囲に被害が出始めて、避難する者と続けて観戦する者と別れた。
観戦する者達が上空でぶつかり合う2人を見て、あることに気付く。
それは衝突する2人の拳と蹴りが、接触していない事に。
激突しているはずなのに接触していない。
意味が分からなかったが、武術系の部活に所属している生徒が気付く。
2人の繰り出した拳と蹴りに、其々高密度の氣力を纏っている事に。
身体ではなく纏っている氣力同士が接触している為、拳と蹴りが触れていないのだ。
通常、密度の低い氣力が打ち破られるものだが、ぶつかり合ったままという事は拮抗しているという事。
そして空気の揺れ具合から判断するに、並ではない程の氣力が凝縮されている。
そんな2人の高密度な氣力がぶつかり合って、いつまでも鍔競り合いの様な状態を維持出来る筈もなく、凝縮された氣力が揺らぎ始める気配を感じ取った。
密度の高い氣力が周囲に飛び散ろうとしている。
それはつまり爆弾が爆発するのと同様で、氣力の密度の濃さは爆薬の量の多さと同じと言える。
そこまで思い至った武術系の運動部員達は「これヤバくね?」と顔を引き攣らせた。
早く逃げなければと思ったが、時既に遅し。
空が爆ぜた。
爆音が轟き、破裂した氣力による衝撃が周囲を襲う。
生徒達は薙ぎ飛ばされ、校舎や地面が砕き、割れだした。
悲鳴や奇声、一部では歓声も上がったりしているが、まるで突発的な災害にでも遭遇してしまったかのよう。
そしてその災害の中心点にいる2人はというと、爆発による衝撃で互いに吹き飛んでいた。
東郷伊知郎は更に上空へ、神爪勇人は地面へと落下する。
宙返りで体勢を整え難なく着地する神爪勇人は、着地後上空を見やった。
空にいる東郷伊知郎も既に全身の氣力を発して宙で姿勢を整え、地にいる神爪勇人を見下ろしていた。
災害の様な暴風や地割れは既に治まり、静寂が訪れる。
これでようやく終わりかと新入生である外部生達は安堵するが、そんな訳はないと経験豊富な内部生達は恐々としながら2人を見る。
避難を続ける生徒達も当然いるが、観戦を続ける者も多い。
良くも悪くも学園における存在感が跳び抜けた教師と生徒。
2人の激闘を見続けたいという、怖いもの見たさからくる感情。
そんな期待に応えた訳ではないが、静寂を破る形で2人に動きがあった。
「【極限活性】・・・・・・‼」
「【静動合一】・・・・・・‼」
空に浮かぶ東郷伊知郎が、大地を踏みしめる神爪勇人が、互いに氣力を増幅し活性化させる。
「ハアアアアアァァァァァァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・‼‼‼‼‼」
「コオオオオオォォォォォォォォォォォォ・・・・・・・・・・・・‼‼‼‼‼」
2人の呼吸は氣力をその身から溢れ出し、大気が振動し、それはやがて大地を揺らし始めた。
再び大災害でも起こるのかと外部生達も恐々とし始めるが、内部生は違う理由で顔が引きつる。
それは2人の氣力の密度が、先程までとは比較にならない程膨れ上がっているためだ。
つまり先程以上の規模で、被害が広がる。
それがどの程度のモノかと感覚で捉えて内部生達は「あれ、もしかしてここら一帯消し飛ばねぇ?」と思い至った瞬間、全力で逃走を開始した。
そんな内部生の突然の動きに、外部生も只事じゃないと行動を同じくする。
そしてそんな彼らに見向きもせずにいる2人は、
「流派! 極限流空手が究極奥儀ぃ・・・・・・‼」
「流派! 神源流が最終奥儀ぃ・・・・・・‼」
最後の大技を放とうとしていた。
次元をも振るわせる程の氣力を、右拳を引く構えを取る東郷伊知郎はその右手に、左右の手を其々上下に構える神爪勇人は両手に集束させる。
空間を揺らしながらも2人の動きは静止するが、2人の間に訪れる静寂はその一瞬。
変化は直ぐに起こり、2人は動き出す。
「【究極――――――氣功拳】‼‼‼‼‼」
東郷伊知郎が、集束された氣力を籠める右拳を撃ち放つ。
巨大な右拳の形を取る氣力が、天から落ちてくる。
それは正に、地球を殴り壊さんと振り下ろされた巨神の鉄拳。
天上を覆う巨大な拳が、地表に存在する万物全てを圧殺せんと迫り降る。
悲鳴を上げて地球最後の日が如く恐怖に染まり逃げ惑う者達がいる中、相対する神爪勇人は好戦的な笑みを浮かべていた。
地球を殴り壊すと思わせる巨神の鉄拳の圧力を前にしても、臆する気配など皆無。
例え神を相手にしても自らの勝利を疑わずに確信する傲岸不遜な様を崩さず、神爪勇人も技を放つ。
「【神破――――――天驚拳】‼‼‼‼‼」
氣力が籠められた両手・・・その左手を空に突き出し、撃ち放つ。
放たれたのは、巨大な掌。
天から地上へ落ちてくる鉄拳と同規模の氣力の塊が、地上から天に向かって放たれる。
それは落ちてくる天を支えんとする巨神の掌か。
降ってくる巨拳を、同規模の大きさであるその巨大な掌が受け止めた。
超大な質量を持つ2つの手が、空中で激突する。
膨大なエネルギーの塊である二つの氣力の衝突により、再び災害がこの地に巻き起こる前触れかのように大地が揺れ動く。
だが、氣力は先程とは比べ物にならない程の量。
当然この程度であるはずがないと内部生は確信する。
ぶつかり合っている二つの氣力の間に、亀裂が走った。
亀裂が入ったのは何もない空中、空間が罅割れ始めたのだ。
それに伴い大気まで震え始め、宙に入った亀裂は広がっていく。
そしてついには空間がまるでガラスの様に割れ、割れた空間の向こう側が視界に入る。
視界に映るは真っ黒な世界に光り輝く星々。
――――――宇宙が広がっていた。
「そこまで‼」
突如、全身に活を入れられるかのような力強い声が発せられた。
東郷伊知郎でも、神爪勇人でもない。
第三者がこの場に割り込んできたのだ。
校庭から徐に巨大化した一つの影。
巨人が如き大きさの人影の出で立ちは、釈迦如来の化身と表現するしかない。
突然現れた巨大な如来はその両手で、亀裂が入った空間を2つの手の形をした氣力事包み込む。
「【無明尽】」
如来の掌から漏れ出てた氣力の光と波動が、徐々に静まっていく。
その両手から光と力の完全な終息を感じ取った時、世界の揺れは収まっていた。
それと同時に、巨大な釈迦如来の姿も、まるで景色に溶けるように消失する。
宙にあった空間の亀裂も消えて、静寂が世界を包む。
いったい何が起きたのか、世界の危機にマジモンのお釈迦様が降臨したとでもいうのか?
外部生はそう感じたが、経験豊富な内部生はその正体を把握していた。
如来が立っていたと思われる地点に、一人の人間が立っている。
ニメートル近い体躯に、着ているスーツの上からでも分かるほどにガッシリとした筋肉。
体格だけで言うなら東郷伊知郎と同じ様な表現をしてしまうが、見た目で決定的に違うのは、その男は眼鏡をかけてスキンヘッド、更に歳はかなり上と見られる。
おそらく50代と感じる顔の皴とその貫禄のある雰囲気からは、何処か修行僧を思わせる。
学校にいるのが不釣り合いに感じるその人物。
「雲海教頭先生・・・・・・」
雲海 司。
そう、彼はこの鳳凰学園の教頭である。
名を口にしながら地に降りてきた東郷伊知郎は少し気不味げに、構えを解いた神爪勇人は「あー、来ちゃったかー」と少し顔を引き攣らせていた。
そんな二人に近寄ってきた雲海教頭は、二人をジロリと見て、嘆息した。
「東郷先生・・・相手が神爪だから仕方がないのかもしれませんが、貴方まで派手に暴れてどうするんですか」
言って見やるは、派手に割れたり砕けたりしている校舎と校庭。
いったい何処の紛争地跡か自然災害跡か。
とても先程までは学生たちで賑わっていたとは思えない光景である。
「いや、面目ない。つい熱くなってしまいましてな」
背は東郷教師の方があるはずなのだが、どうにも頭上から睨みつけられているかのような威圧感を感じ、少し首を竦めてしまう。
そんな親に叱られている子供みたいな光景を、まだこの学園に入学して日が浅い生徒達は意外に感じた。
あの怪獣を思わせる戦闘力と暴れっぷりを発揮するこの教師が、こんな下手に出る態度でいることに。
内部生にとっては偶に見る光景で意外感はなく、神爪勇人と東郷教師が衝突した時点でこうなることは予想していた。
それ故にこの場に留まり、最後まで観戦していたとも言える。
「そして神爪」
「・・・・・・んだよ?」
視線を移し、ジロリと睨んでくるその視線に居心地悪そうにする神爪勇人。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハァ」
「いや何か言えよ!?」
説教の一つでも飛んでくるのかと思ったが、出てきたのは重い溜息。
そんな教頭に神爪勇人はツッコミ、いつもの強気な姿勢を崩さずにいたが、
「そろそろ保護者の方を呼んで三者面談でもした方が良いか」
「スイマセン調子ニ乗リ過ギマシタ」
一瞬にして頭を下げて「それだけはマジ勘弁してください」と下手に出る。
さっきまで俺様な態度を通していたというのにこの変わり様。
いったいどんな保護者なのか興味は尽きないが、
「まぁいい。話は後だ」
手を叩き、雲海教頭が場の空気を整えて仕切りだす。
「もう少しで下校時間だ。新入生は他に見て回りたい部がないのなら、速やかに下校するように。ここで部活紹介をしていた部は、もう今日の活動は無理だろう。お前達も片づけの後に帰れ」
言われて気付くが、空の色がもう黄昏時の朱色から、禍時の藍色に変わりつつある。
一部の運動部は未だに活動しているが、大半の部活はそろそろ下校する時間だ。
部活勧誘はまだ初日。期限は来週の月曜日。
明日もあることだし、今日一日に全力を注ぐ必要はない。
有望な新人は早めに確保しておきたいのが本音だが、この時間から本腰を入れた所で高が知れている。
今日一日で確保出来なかった部は明日に望みをかけるべく、そしてこの見た目も厳つい教頭を怒らせないように指示に従い、下校準備を進めようと行動に映る。
神爪勇人も他の場所の様子を見て回ろうと踵を返し、
「お前は待て」
ガッシリとその肩を雲海教頭に捕まれる。
万力で締め付けられる・・・否、まるで空間固定の魔術でも使われたかのようにピクリとも身体を動かせず、メンドクサ気に神爪勇人は首だけ動かした。
「何だよ、俺様だって他の場所見回る仕事くらいあんだぜ?」
「もう勧誘活動もどこも終わる時間だろう、他の役員に任せておけ。お前は他にやることがあるだろう」
「あん? 何かあったか?」
言って、クイッと雲海教頭が指を向けるは、アッチコッチに壊された跡のある校舎に校庭。
それらを指差し、神爪勇人を見つつ雲海教頭は真顔で言った。
「直せ」
「・・・・・・いや、待て、何で俺様?」
「壊したのはお前だろう?」
「ちょっと待て、それは語弊がある。壊したのはクソゴリラとのバトルの結果だ、ならあのゴリラにだって責任はあるだろ」
「東郷先生なら既に他の場所にいる生徒達に下校の呼びかけに行ったが」
「あのクソゴリラ逃げやがったな・・・・・・!」
サラッとこの場の責任を神爪勇人に押し付けるという教師にあるまじき行為に憤慨する神爪勇人だが、自業自得の面が強すぎる日頃の行いを知っている在校生達は誰も問題視しない。
そんな周囲の反応に「解せぬ」とボヤキながらも、神爪勇人は言い逃れを続ける。
「いや待て、別に俺様が直さなくても勝手に直るだろ。自己修復の術式があちこちに刻まれてんだから」
「それでもこの規模だと明日まで掛かるだろうが。お前なら直ぐだろう、今日中に直しておけ」
言って、雲海教頭も何処かへ去って行った。
おそらく東郷教師と同じく生徒の下校の呼びかけにでも向かったのだろう。
バックレようかとも考えたが「たぶん”眼”で見てんだろーなぁ」と、無駄な考えを捨てた。
面倒だがちゃっちゃと終わらせるかと準備運動がてら肩を回した時、
「おう、終わったのか?」
筋肉が話しかけてきた。
違った、同じ生徒会のメンバーである巨体の筋肉男――――――獅子尾豪気である。
先程まで此方の様子を見ていたのか、神爪勇人が一人になったところで出てきた。
「どうした、何かあったか?」
「東雲から連絡あったみてぇだぜ? お前に連絡つかねぇからってアイツの方にかかってきたんだよ。で、俺が呼びに来たわけだな」
「あー・・・クソゴリラと戦りあってたからなぁ」
言って、ズボンのポケットにある液晶端末型デバイスを取り出して画面を操作する。
そこには確かに『東雲』と表示された着信履歴があった。
「お前呼び来たっつってたけどよ、何時から居たんだ?」
「3時間くらい前だっけか・・・・・・それがどうしたんだ?」
「どうしたじゃねぇよ、何で声かけねぇんだよ」
着信履歴が15時程で表示されている。
それからしばらくしてコイツが来たのなら、呼びかければよかったではないか。
そんな説明を態々したのだが、獅子尾豪気にも言い分はあった。
「お前と鉄人の決闘なんざ、流石の俺の筋肉でも受け止めきれねぇぜ」
「だから普通に声かけりゃいいだろうが」
「決闘の邪魔をする程無粋じゃねぇぜ」
ニヒルに笑うが、神爪勇人としては不本意な理由で始まった決闘が故に邪魔して欲しかったところである。
「だからその間筋トレして待ってたんだぜ」とどこか得意げに語る筋肉馬鹿を放置し、神爪勇人は着信履歴から折り返しの電話を入れる。
「もしもーし、俺様だが――――――」
どこぞの詐欺師の様な言葉を神爪勇人はデバイス越しにかけ、ふと空を見上げる。
日はもうほぼ落ちかけの暗めの藍色空。
なんとなく、逢魔時という言葉が頭を掠め、面倒な予感がした。




