第36話 竜道寺流浪の放課後~俺の幼馴染みの胸囲が成長著しい件について~
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「あー・・・・・・」
「ちょっとはスッキリした?」
「まー・・・ちょっとはなー・・・・・・」
桜蘭町駅前のバス乗り場から本島へ向かい、四季島と繋ぐ橋の先にある港町の再開発地区の商業施設で遊んだりしていた18時前の現在。
そこの飲食エリアで竜道寺流浪と藤森花凛は一服していた。
夕飯前という時間帯故に花凛はお茶だけ注文したが、食べ盛りな流浪は夕飯まで腹を持たせるため軽食を注文し、食後は背凭れに体重を乗せてコーラをストローで飲みながらグダッている。
部活勧誘で負ったストレスを発散させるためにパンチングマシーンをぶん殴り、ヴァーチャルシュミレーションなレースゲーや格ゲー等で遊び尽くし、精神的過負荷はある程度拭い去れたと言える。
もっとも、動き回った分体力的に消耗してしまったが。
まさか部活勧誘が此処まで苛烈なものであるとは思いもせず、重い溜息が漏れてしまう。
「って、そういや部活か委員会か決めなきゃならねーのか・・・・・・」
高校に入ったらバイトしようと思っていた流浪は、鳳凰学園が学生のアルバイトが可能かどうかは調べていたが部活等の参加有無は認知していなかったので、立てていた予定が全て無くなってしまったのだ。
違う意味でまた溜息が漏れた。
「何処に入るか決めたの?」
「いや、全然。つか、入る予定なんかなかったからなぁ・・・・・・花凛は?」
「どうしよかなー・・・・・・色々あるから迷うんだよね」
「水泳部と新体操部は?」
「あそこは止めとこうかなー・・・・・・」
花凛もあの部活勧誘は流石に参ったようで、死んだ目をしながら茶を啜っていた。
花凛は中学時代には水泳部に所属しており、特に優れた選手というわけでも学校もそこまで強い部活という訳では無かったので好成績を収める選手としては期待出来ないが、何もしなければ中学の時と同じ部活に所属した可能性もあっただろうに、その可能性は今完全に潰えた様である。
自業自得だなと、流浪は勧誘時に迫ってきた水泳部を鼻で笑った。
「魔法戦競技部とかは? ほら、流浪君好きでしょ」
「まぁ、別に嫌いじゃねぇけど・・・・・・時間取られるからなぁ」
魔法を扱っている学校が少ないのもあるが、鳳凰学園は魔法を扱う競技の部活や大会に力を入れており、実際有名な選手も多い。
そんな部活に所属したら、練習漬けの毎日を送ることになるであろうと容易に推測出来る。
「バイトが出来ねぇ」
「・・・・・・そんなにお金が欲しいの? 仕送りしてもらってるんでしょ?」
「ああ。別に生活に困ってるわけでもねーんだけど・・・・・・」
「近くにお祖父さんの家もあるのに、殆んど一人暮らしだし」
「・・・・・・良いだろ別に、一人でいたい年頃なんだよ」
花凛の言葉に、流浪はそっけなく返す。
コーラを飲み干し、カップに入っている氷をガリガリと噛み砕きつつ、流浪は時計を見てそろそろ帰ろうかと考え始めた。
そんな時だった。
「・・・・・・流浪君は、さ」
「ん?」
「もう空手はやらないの?」
「・・・・・・・・・・・・」
遠慮がちに問いかける花凛に、流浪は「またその話かよ」と内心で溜息を吐く。
「空手はもう止めたって、何年も前に言っただろ」
「そうだけど、だって流浪君何も理由言わないじゃない。中一の終わり辺りまで、毎日お祖父さんの道場に通ってたのに・・・・・・」
「興味がなくなっただけだっての」
言って流浪は立ち上がった。
話はもう終わりだと言わんばかりに強引に打ち切り、トレーを返却口に持っていく。
そんな流浪の背を、花凛は寂し気に見つめていた。
◆◆◆
「そういえばさ、流浪君の魔法ってどんなものだったの?」
飲食エリアを後にして少し気マズイ雰囲気になってしまったが、花凛が空気を変える意味で話題を振った。
自分からどうする事も出来ずにいた流浪はそのことに感謝しつつ、『魔道書』をその手に具現化する。
「やっぱり火の魔法? 流浪君、小さい頃から手から火出してたし」
「ご名答」
流浪は赤色で炎の模様が表紙に描かれた『魔道書』の1ページを花凛に見せた。
そこに書かれていたのは、花凛や他の大凡の新入生と同じ身長や体重などのデータと、数値が0と位階が1のステータス。
そして、魔法だった。
【火の矢】
・任意発動型/・元素魔法/・放出系/・対人/・火属性
・火を矢の様に放つ魔法
「別に珍しくもねぇ魔法だったな」
流浪に魔法が発現したのは、4歳くらいの頃だ。
その時から、手から火の粉が飛んだりしていたから、火の類の魔法を使えるのはハッキリと分かっていた。
ただ、具体的にどんな魔法なのかはハッキリしなかった。
余程限定的な魔法か、あるいは高い魔法適性や操作能力がなければ、魔法が安定して発現しないというのは良くある事だ。
それが『存在更新』によって自身の才能や適性に基づいて調整され、安定して魔法が発現したのだ。
もっとも、流浪が発現したその魔法は【火の矢】という元素系の魔法ではいたってオーソドックスなものであり、特に強力でも珍しくもない極々ありふれた魔法でもある。
呪文や魔法陣等で魔法を魔術で再現したりなどもするが、【火の矢】は魔法の中でも比較的簡単に使える類の魔術だ。
呪文は短く、魔法陣を描くとしても複雑ではなく、なんなら現代魔法のツールであるデバイスで使用する場合は魔術を売っている専門店でデータとして安価で容易に手に入れることが出来る。
基本的な規格を持つデバイスであるのなら、ボタン一つ押せば1秒と読み込む時間も掛からずに発動出来る。
火の元素を使う魔法使いなら、よく見かけるありふれた魔法。
それが、流浪の発現した魔法である。
「花凛はどうなんだよ?」
「私も同じようなモノかな」
言って、花凛も手元に『魔道書』を具現化する。
幾何学的ともいうべき複雑な図形を描いた白色の表紙で、ページを開いて流浪に見せた。
名前:藤森 花凛
種族:人間
性別:女
年齢:15歳
身長:158cm
体重:45kg
体型:82(D)/54/85
視力:1.5/1.5
足のサイズ:22cm
「ちょっ、ストップ!?」
そこまで流浪が読んだところで、見せたページがステータス等が記されるページではなく、身体データが記されたページであることに気付いた花凛が慌ててページを捲る。
仄かに頬を赤らめる花凛を見て、流浪の視線がやや下がった。
(そうか・・・Dか・・・・・・)
制服越しに僅かに膨らむ胸部を見て意外に思う。
いつの間に成長したのか。
いや、着やせするタイプなのかと悶々とした考えが頭を過ぎる。
物心ついた時からお隣さんの幼馴染みである藤森花凛。
幼き頃に母が去り、父も忙しく海外出張が多く家に帰ってくることは稀で、花凛の両親の世話になることは多い。
小さい頃から一緒にいて、傍で共に成長してきたのだが、それがまさか中々に成長著しい。
近くにいたのに・・・いや、近くにいるからこそ気付けない事というのもあるのかもしれない。
「・・・・・・流浪君?」
神妙に唸る流浪をジトッと睨む花凛。
そんな花凛に「いや、何でもないぞ」と咳払いで誤魔化した。
気を取り直して、魔法が描かれたページを見せる花凛。
そこに書かれていたのは、確かにありふれた魔法だった。
【拒絶の盾】
・任意発動型/・防護魔法/・盾系/・自己/・無属性
・あらゆる攻撃を阻む盾を張る魔法
「・・・・・・まぁ、俺よりは使い勝手良さそうじゃね?」
「それでも盾を張る魔法っていうのは・・・・・・」
フォローの言葉を捻り出した流浪だったが、微妙な顔をする花凛の言葉も理解出来る。
というのも、盾を張る系の魔術は【火の矢】よりも習得が容易だからだ。
属性を付与せず、呪文を唱えたり魔法陣を描いたりする類の術式は余程強力なものでもない限りは必要とせず、魔力の操作のみで使用可能。
勿論、自分の魔力を操る技能を身に付けなければならないが、難易度的にはそこまで高度なものじゃないとされている。
この魔法がまだ特殊な効果を宿しているのなら、また話は変わってくるのだろうが。
「俺も含めて、今後の成長に期待ってことか」
「鍛えていけば強くなるって聞くもんね」
魔法とは、その身一つで振るえる特殊能力。
基本的に魔力というエネルギーが必要となるが、その力を発するのに必要なものは魔力を除けば自分の身一つでいい。
それ故、魔法とは身体機能の一つとされている節もあり、鍛えていけば強くなり、効果が上がるとされている。
筋繊維を酷使して、壊した後に回復して強くするのと同じだ。
(もっとも【火の矢】鍛えても、使いどころなんざかなり限られてんだろーが)
火を放つという、何かを燃やす事にしか使えなさそうな魔法。
警察や軍といった犯罪者や魔獣等との戦闘を想定している職業なら使い所もあるだろうが、戦闘を前提としていない生活では使い所はそう多くはないだろう。
近年、身に付いた魔法を活かす職種に就く事も多いが、必ずそうしなければならない訳でもない。
招来役に立たないのなら、別に無理に鍛える必要もないのでは?と、そんな学校で勉強する事の意味を問うのと同じ様に思春期相応に悩む流浪。
「ねぇ、君たち」
そんな彼らに、後ろから声をかける者が一人。
振り返って見ると、そこには160cm程の背丈をしたスーツ姿の女性が立っていた。
OLか就活の大学生か、若いということは分かるが判別はつかず、流浪達よりは年上に見える。
茶色の長髪以外はそこまで目立つ特徴のない・・・・・・いや、先程のDが頭に残っているのか、思わず流浪の目線が女性の顔から下がり、胸部に目を向けてしまう。
・・・・・・めっちゃデカイ。
先程のDよりも更に。
これはFかGか、いやそれ以上かもしれない。
特徴がないだなんてとんでもない。
これほど目立つ物が特徴ではなくて何だというのか。
「あら、どうしたのかしら?」
そんな流浪の視線に気づいたのか、女性が少し身を屈めて流浪の顔を悪戯っぽい笑みを浮かべて覗き込む。
必然的に目線が見下ろす形になる流浪の目に飛び込んでくるのは、此方の顔色を覗き込む女性の顔が。
否、その少し下。
重力に従い地に向けて少し垂れ下がる胸、その胸に押されて広がるシャツのボタンとボタンの隙間、そこから覗く黒色の下着と瑞々しい肌色が――――――――――――
「フンっ‼」
「カヒュッ!?」
――――――見えた瞬間、横にいた花凛の肘鉄砲が流浪の横っ腹を穿つ。
変な声が漏れ、悶絶する流浪。
そんな2人を見て女性は笑い、花凛はムッと睨んだ。
「それで、私たちに何か用ですか?」
「あら、御免なさい。からかい過ぎたかしら」
冷やかな視線を送る花凛だが、女性は気にした様子もない。
そんなムキになる子供を相手にする余裕な大人の態度に、花凛は更に仏頂面になっていく。
これ以上からかうと話を聞いてもらえなさそうと判断したかどうかは定かではないが、女性は本題に切り出した。
「さっきチラッと『魔道書』を出したところを見たのだけど、貴方達のその制服からして、鳳凰学園の生徒さんかしら」
「ええ、そうですけど・・・・・・」
鳳凰学園がある四季島と、本島の此処の港町は橋で繋がっている。
島外から通っている生徒が下校の寄り道に此処等一帯を制服姿でうろついているのは、別に珍しい光景ではない。
現に流浪や花凛が遊びに来ており、今の時間まで同じ制服を着た生徒達の姿を何人か見ている。
この辺りに来慣れている人なら、態々確認する事でもない。
何故そんなことを聞いてくるのか?
「実は私、こういう者なんだけど」
怪訝な顔をする花凛と咽る状態から回復した流浪に、女性は一枚の名刺を手渡す。
別にどこもおかしなところはない。
名刺というものをあまり見慣れない流浪達から見ても、いたって普通な名刺である。
この女性の名前であろう、川野麻沙美の文字。
ただ、そこに書いてある所属を記している一文に眉を顰める。
「魔法差別撤廃運動団・・・・・・」
『魔法差別撤廃運動団』
それは簡単に言ってしまえば”魔法を使う者の差別を無くしましょう”という活動をしている民間団体。
ニュースにも度々報じられている為、流浪や花凛も勿論知っている。
魔法や異世界というものが地球に出てきて以来、魔法を使う者や異世界人に対する差別が起きている。
そういった差別を無くすための活動なのだから、一見すると非常に善行に勤しむ団体に思えるが、正義と良心を抱く者ばかりという訳ではない。
というのも”魔法を使う者の差別を無くす”という言葉を、どう捉えているかに違いがある為だ。
単純に”異世界人や魔法を使う人たちも自分たちと何も変わらない人だから差別は止めましょう”という考えの人もいれば、”異世界や魔法なんてものは元々この世界にはないものなんだから、異世界や魔法を使う人たちをこの世界から無くしましょう”という対極の考えを持つ人もいる。
同じ団体に所属していながら、対極の考えを持つ者同士で過激な争いをすることもある。
海外だと未だに魔女狩りじみた行為が横行することもあるそうで、そういった差別による事件は『界交暦』となって20年経過した今でも、最低でも月一でニュースに流れる程。
そんな子供でも知っていそうな団体に所属しているこの川野麻沙美という女性は、いったいどちらの所属なのか。
場合によっては通り魔に遭遇するよりも面倒なことになる。
そんな考えが顔に出たのか、彼等を見て川野麻沙美は優しく微笑む。
「そんなに警戒しなくてもいいのよ? 怪しい者じゃないから」
「・・・・・・怪しい人は皆そう言うんですよ」
「あら、なら怪しくない人は何て言うのかしら?」
「怪しい人って言いますよ」
「いや花凛、早く話し打ち切りたいからって雑になってんぞ」
良くも悪くも話題に上がる団体に所属していることが判明して、不審者を見るような目を隠そうともしない花凛。
これではゆっくりと落ち着いた話は出来ないかと川野麻沙美は肩を竦め、ポケットから取り出した携帯端末型デバイスを操作して、目の前の何もない宙に魔法陣が出現させる。
その魔法陣から出てきた、一枚のA4サイズ程のプリントを手渡した。
これはデバイス内に物を格納する魔術【道具保管庫】。
デバイスの魔術による保存領域内に物を入れる時間系と空間系の複合魔術。
大抵の一般販売されているデバイスに基本的に内蔵されている魔術で、この魔術により現代では物の持ち運びに鞄等を使うことはあまり無い。
ファッションとして持ち歩いたり、或いはデバイスの保存領域に収まらない物を運んだりする時等、何かしらの理由がなければ現代の地球人は物を持たないのだ。
そんな現代的格納法から取り出されたプリントには、何処かの場所を示している住所と地図、それと魔法や異世界人の差別問題に関する文章が短く書かれている。
「近い内に、地球で覚醒した魔法使いに対する差別問題の話し合いがあるの。もし興味があったら、気軽に来てね」
言って、川野麻沙美は踵を返し去っていく。
随分あっさりと去って行ったことに少し呆気に取られたが、変な勧誘などされずに済み少しばかりホッと胸を撫で下ろす2人。
既に人込みに紛れて姿が見えなくなった彼女の去った方角を見やり、流浪はプリントに視線を落とす。
魔法使いや異世界人に対する差別問題。
「・・・・・・どう考えても気軽に行くような所じゃねぇよなぁ」
「だよねぇ・・・・・・」
折角ストレス解消に身体を動かしそれなりにスッキリしたというのに、妙な出会いをしてしまい精神的疲労がまた溜まってしまった。
思わず深い溜息を吐き、夕焼け空を仰ぐ流浪であった。




