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MAGINIGHT~魔神とその環境を取り巻く者達のお話~  作者: U-1
序章 運命の出会いの日~The Wizard God AND The Funny Guys~
35/54

第35話 天使縁寿の放課後~くっ殺とオークは切っても切り離せない関係~

鳳凰学園は桜蘭町の西部に存在し、桜蘭町は四季島の東に位置する。

つまり鳳凰学園は、四季島のほぼ中央付近に位置しているということになる。

そんな鳳凰学園の正門から東側へ真っ直ぐに伸びる桜並木道を通り抜けた先にあるのが、桜蘭町商店街。

北南に大きく伸びるアーケード商店街で、その商店街の丁度中央部を横切るように通り過ぎると、そこにあるのは桜蘭町駅。

四季島の北に位置する雪華町、南に位置する向日葵町、西に位置する紅葉町と繋がっている環状線で、雪華町から日本本島に行ける電車や道路等が存在している。

四季島の名の通り、この島の特徴は四季だ。

桜蘭町は桜を始めとした春の草花が気候に関わらず年中咲いており、向日葵町は夏の草花が、紅葉町は秋の草花が咲き誇っている。

雪華町も冬の草花が咲いているのだが、本島と繋がっている町な為か、四季島の四つの町の中で一番栄えており、目立つのは自然よりもビルを始めとしたコンクリートの建造物で、他の町とは毛色が違って見える。

そんな都会に等しい雪華町に向かうことも考えたが、やはり現在住んでいる桜蘭町の活動範囲を広げることから始めた方がいいかと、桜蘭町商店街のド真ん中に縁寿は考えながら突っ立っている。

アーケードの北側は雪華町へ繋がっている。

南側は向日葵町に、このまま東に向かえば桜蘭町駅へと辿り着く。

勿論、その間には住宅やら店やら色々あるのだが、今日はあくまで食事。

下手にアッチコッチ行くと迷いかねないので、商店街内に限定するつもりなのだ。

基本的に東西南北に分かれているだけの商店街内なら、迷うことも無い。

問題は、何処に向かうかだが・・・・・・。


「何処に何があるのかもあんまり知らないのよねぇ・・・・・・」


別に急いでいる訳でもなし、適当に回ってみようかなーと思ったところで、


「ワンッ‼」


そんな鳴き声が、後ろから聞こえてきた。

振り返ると、そこには1匹の犬がいた。

大きな犬だ。

黒い体毛、左目に切り裂かれたかのような大きな傷跡が特徴的な犬。

この犬には見覚えがあった。


「確か、始業式にいた・・・・・・」

「ワンッ‼」


そう、始業式で生徒会長・・・神爪勇人が出てくる間を持った大型犬である。

身体の大きさのせいか、または傷跡のせいか、妙に威圧感と存在感を放つ黒犬。

そんな犬が近寄ってきて、縁寿の足元を回り、鼻を鳴らし匂いを嗅いでくる。

困惑気味に縁寿が犬を見ていると、犬は顔を上げて縁寿を見やり視線が交わって、


「フン」

「今、鼻で笑わなかった・・・・・・?」


縁寿は思わぬ犬のリアクションに顔を引き攣らせるが、犬は反転して顔だけ振り向いて「バウワウ、ワウゥッ」と軽く吠えて歩き出した。


「・・・・・・えー、と?」


付いて来いってことなのだろうか?

妙に人を相手にしたような意志を感じられるが、行き先を決めていなかった縁寿は「まぁいいか」と気まぐれに犬の後を付いていく。

どうやら向かう先は南のようで、迷いなき足取りでアーケードを南下している。

犬に付いてきながら、縁寿は周囲を見渡して商店街内を観察する。

ガチャガチャとクレーンゲームが店頭に並ぶゲーセン、包丁や刀が飾られている金物屋、かなり老齢の御婆さんが鎮座する姿が見える駄菓子屋、仏頂面の店主らしき人物が客に持ち帰りの品を手渡しているのが見える和菓子屋、豪快そうな男が店員らしき人物の背を叩いているのが見える洋菓子屋、チャイナドレスを着た娘が客引きをしている中華料理屋、それに対抗するように客引きをしている向かい側の和食屋の青年等々・・・・・・。

店で働いている人は勿論、通行人も含めて賑やかな商店街なようだ。

縁寿の前を歩く犬に対して「よお、プルート」とか「あらプルートちゃん、お嬢さんの道案内かい?」とか「おぉワン公、肉食うか?」とか実にフレンドリーな対応で、この犬がこの商店街の常連だと見て取れる。

名前はどうやらプルートというらしい。


「あんた、人気なのね」

「ワフゥ」


前を歩くプルートはどこか誇らしげだ。

肉屋のおばちゃんが放り投げた生肉を頬張りながら、上機嫌に歩くプルートの足が止まる。

顔を向けて軽く吠えたプルートの鼻先に、一軒の店がある。

商店街南東辺りに位置する、一軒の木造建築。

少し古そうな外観だが、窓から見える店内の橙色の灯りは温かみのある雰囲気で、喫茶店に見えるが酒場にも見える。

建物と同じ木造の扉の上に、看板が出ている。


「CAFE&BAR『夕闇』・・・・・・喫茶店と酒場なのね」


扉横に設置されている立て看板に、おススメメニューにケーキや軽食と一緒に酒やツマミ等も書かれていた。


(入ってもいいのかな・・・・・・)


窓から店内を見るにそこそこの人影が見えており、営業しているのが分かる。

立て看板に書かれているメニューの値段も手頃で、見た感じの雰囲気も悪くない。

此処で食事にしようかと考えていたら、プルートが「バウワウ?」と吠えた。

まるで「何をモタモタしている?」とでも言わんばかりにジトッとした目を向けてくるプルートに、実は人間の言葉が分かるのではないかと本気で疑ってしまう縁寿だが、そんな縁寿の心境など知ったこっちゃねぇとプルートは扉に凭れ掛かり二足で立ち、器用に前足を使って扉を開けた。

店内に入ろうとするプルートの後に続いて、縁寿も慌てて入店する。


(・・・って、今更だけど犬入れて良かったのかな・・・・・・いや、別に私のペットじゃないけど)


なんてことを内心で言い訳しながら、縁寿は店内を見渡す。

店の外観通りというべきか、店内も木造で出来ており落ち着いた雰囲気だ。

古びた感じに見えたが掃除は行き届いており、不衛生ではなく清潔そうである。

広々とは言えないが、窮屈さを感じる程狭くもない。

四人一組のテーブル席が10台程と、奥にはカウンター席。

店にいるのはテーブル席に座る4人の人間と、カウンター席に耳の長い美青年・・・エルフが一人と、2人でテーブル席に座って飲んでいる犬の獣人、そしてカウンターでグラスを磨くウェイターが一人。

長身痩躯でウェイター服に身を包み、切れ長の細目に小さめの丸眼鏡、背中まで伸びるオールバックの茶髪をゴムで纏めている、20代にも30代にも40代にも見えるそんな年齢不詳な男性が扉を開けて入ってきた縁寿に気が付いて、人の好さそうな柔和な笑みを浮かべた。


「いらっしゃい。プルートが連れてきたお客さんかな?」


カウンター席に促されて縁寿は席に座り、同じく隣りにプルートが席をよじ登って座って。


「って、何でアンタまで?」

「ワフゥ?」


カウンター席の隅でもある横に座るプルートは「俺がカウンター席に座ることに何か問題でも?」と言わんばかりに、ふてぶてしそうに縁寿を見やる。

いいのかコレ?と、縁寿はおそらく店長と思われる(他に店員が見当たらない為)年齢不詳の男性に目を向けるが、店長は「大丈夫大丈夫」と軽く笑った。


「コイツは此処の常連だからな。それに、うちは別にペットの同伴も断ってないからね」

「・・・・・・飲食店なのに? 衛生面とか」

「ま、普通は入れないんだろうけどな。けど、この島ではそこまで珍しくはないよ」


「ほれ」と視線を向ける店長に、縁寿も目を向ける。

そこにいるのはテーブル席に座って「ガハハッ‼」と愉快そうに酒を飲んでいる犬の獣人達。

そこで縁寿も成程と納得した。


動物(ペット)が入れないなら獣人族も入れない?」

「そういうこと。ま、それ言うと『ペットと一緒にするな!』ってキレちゃう人もいるから、口にしないようにな」


小声で忠告する店長に縁寿は頷いた。

異世界人が地球に訪れるのは、今の時代珍しくはない。

だがら観光地などにある有名な飲食店や施設では獣人の立ち入りを禁止してはいないが、特に知名度のない店では禁止している所が今でも多い。

そこが飲食店なら猶更。

獣人のその辺の差別問題等も、偶にテレビなどで流れるくらいだ。

人間から見れば、獣人は二足歩行が出来て知恵があって言葉を喋る動物の様にも見えるが、獣人からしてみれば『お前等人間は猿と同じと言われて納得するのか?』とのこと。

確かにそれはキレる。

人間を動物扱いしない癖に、獣人を動物扱いするなどと。

此処『四季島』は異世界へと通じる『界交門(クロスゲート)』が在する地である為、獣人を始めとした異種族が多数行き来し、更には移住している者もいる。

様々な価値観が蔓延る地であるが故に、四季島は日本国内に存在する島にも拘らず、ちょっとした治外法権の様な場所にもなっているのだ。

中には日本本島の法律だと許可出来ないものでも、この島でならOKというものまである。

それを考えれば、確かに犬が飲食店に入ることくらいなんてことないように感じる。


「ま、この島に引っ越してきたばかりなら、珍しがっても無理はないけどね」


店長がプルートに漫画の様な骨付き肉を皿に乗せて出したのと同時に、縁寿は「あれ?」首を傾げた。


「私、引っ越してきたなんて言いましたっけ?」

「いや、言ってないよ。けど、簡単に推測できるさ」


肉を美味そうに頬張るプルートの頭を撫でながら、店長は推測を述べる。


「さっきまでのやり取りで、君がこの町に詳しくないのは簡単に分かる。そして、その制服は鳳凰学園高等部女子のもので、リボンの色が今年の1年生を表す青色。鳳凰学園の新入生で町に詳しくないなら、島の外から引っ越してきたか、もしくは島の外から通っているかだ」


本島から四季島まで橋が架かっており、バスや鉄道を使って本島から四季島へ来る人も多い。

鳳凰学園の生徒も、人間族は本島から通っている人も大勢いる。


「とはいえ、本島から通っていても通学距離を考えれば、住んでる所は橋が繋がっている港町やその近辺が精々と考えるのが自然だ。そして港町付近は観光名所。四季島の門から来た異世界人だって訪れるし、当然ウチみたいに動物を入れる飲食店もそれなりにある。そんな場所に住んでいるのなら、この店に動物を入れることに特に疑問は抱かないだろうからね。だから、遠くからこの島に引っ越してきたんじゃないかと思ったのさ」

「はぁ・・・・・・成程」


あんな短いやり取りでそこまで考えられることに感嘆の声を漏らす縁寿。


「ま、それでも長距離で通ってる可能性もあるし確証は無い、ホントにただの推測なんだけどね」

「バウワウ、ワンッ‼」

「ああ、おかわりか?」


空になった皿を前足で叩くプルートに、店長は「ちょっと待ってろ」とカウンターの奥にある厨房らしき場所へと引っ込んでった。


「なんていうか、只者じゃない感じ? あの店長」


確かにちょっと考えれば推測出来ることなのだろうが、それでも少し話して直ぐにあそこまで言葉を並べ立てることが出来る様を見るに、頭の回転が早いように感じる。

少し寂れた風に見えるBARで働く、只者じゃなさそうな感じの店長。


「裏社会の情報とか提供してそうね」


言ってて「なーんて」と内心で無いかと否定する。

いくら異世界人やらゲームの様なステータスだのが存在する現代社会といえど、流石に漫画チック過ぎる。

痛々しく考えすぎだろうと笑って否定する。

・・・・・・横にいるおかわりが運ばれてくるのを待つプルートが、今回は何の馬鹿にする様なリアクションを取らないのが少し引っかかったが。

いや、犬相手に考えすぎか、人の言葉を理解しているように見えるのも偶然が続いただけだろうと思考を余所へやったのと同じタイミングで、店の扉が音を立てて開かれた。

何となく振り返って視線を向ける縁寿。

その視線の先、店に入ってきた客であろう存在を視界に納めて、ギョッとした。

客数は4人だ。そこは別におかしくはない。

ただ、その客は異様だった。

2mを超える身長、縦にも横にも前にも後ろにも幅のある体躯、脂ぎっててデップリと出た腹、野生臭が強そうな革装備の冒険者の様な出で立ち――――――


――――――そんな二足歩行の豚が立っていた。


豚達は少しばかりキョロキョロと店内を見渡し、其方を見ていた縁寿と目が合った。

豚達はノッシノッシと重量のありそうな身体を動かしながら、唖然としている縁寿に気付かず近づいて、


「プルートサン! オ疲レ様デス‼」

「「「シャアーッス‼」」」


カウンターにぐてっと顎を乗せながら肉を待つプルートに対して頭を下げた。

・・・・・・なんだこれ?

状況が呑み込めずにいる縁寿を置いてけぼりに、豚達と犬の会話は続く。


「今日モ此方デオ食事ヲ?」

「バウワウ、バウワウワウゥッ(ノロマが、見りゃ分かんだろ的な)」

「ヘッヘッヘッ、ソウッスネ、スイヤセン」

「隣ノ人間ノオ嬢サンハドチラサンデ? ア、モシカシテ、プルートサンノコレッスカ!?(小指を立たせる)」

「ワウワウ、バウワウワウワゥン、バウワフゥ(町の新入りだ。キョロキョロと不安気にしてやがったからな、町を案内してやってんのさ的な)」

「サスガプルートサン! 男ノ中ノ男ダゼ‼」

「バウ、バウワウワン、ワフゥ(つか、いつまでもデケェ図体並べて突っ立ってんじゃねぇ、座れや的な)」

「へイ!」


言って、豚達はカウンター席に座った。


――――――――――――天使縁寿の隣に。


「いや、何で私の隣!?」

「ダッテ、プルートサン端ッコダシ、座ルンナラコッチ側シカナイダロ?」

「そうかもしれないけど‼」

「オイオイ、ナンダヨオ嬢チャン、照レテンノカ?」

「イケメンノオ兄サン達ニ囲マレテルカラナァ」

「ガッハッハッ、豚野郎ガ何言ッテヤガンダァ!?」

「オメェモ豚野郎ダロウガッ‼」

「「オイオイ、オ前等二人共豚野郎ダロウガ」」

「いや、アンタ等全員豚野郎よ・・・・・・?」


唖然としていたが、いつの間にかツッコミを入れていつも通りな空気になる縁寿はホッと息を吐く。

この豚達の雰囲気が鳳凰学園の生徒達のノリと同じ感覚なのが幸いした。

もしまだ鳳凰学園に入学していなかったら終始オロオロしていたことだろう。

縁寿は気を取り直して、横に座る豚野郎共を見やる。


「・・・・・・えーと、アンタ達は?」

「ン? 見テ分カンネェカ?」

「豚」

「オッフ‼ 何ノ疑問モ無ク真顔デ断言シヤガッタゼコノ嬢チャン・・・・・・!?」

「最近ノ人間ノ女ハ容赦ネェナ・・・・・・」

「オレ知ッテルゼ、JKッテヤツダロコノ娘」

「JKヤベェナ、JK・・・・・・」


縁寿の返答に驚愕する豚野郎共。

これだけ明らかに豚な容姿を隠しもしていないのに、何故驚かれるのか疑問でしかない。


「ヨク豚ノ獣人ト間違ラレルガ、獣人ジャネェ。俺達ハ『オーク』・・・・・・魔族ナノサ」

「魔界出身ノナ」

「冒険者ヤッテンダ」

「コノ島ニアル『迷宮(ダンジョン)』ヘ出稼ギニ来テンダゼ」


そこまで言われて、縁寿は納得した。

界交暦となった『開門現象』時に、地球に突如出現した伝説の大陸などと同じように現れた『迷宮(ダンジョン)』。

踏破した者には富と力を与えると噂される、世界中に点在するその『迷宮(ダンジョン)』の一つが、この島にあることは有名だ。

何せこの島の観光地にもなっている程であり、異世界から冒険者が『迷宮(ダンジョン)』に潜りにやって来たりもしている。

彼らもその冒険者ということだ。


「オット、名乗ルノガ遅レタナ。俺ハ『ブタ(ろう)』ダ」

「俺ハ『ブタ()』」

「俺ハ『ブタ(きち)』サ」

「俺ハ『ブタ(ひこ)』ダゼ」

「やっぱ豚じゃない?」


後、この四人の違いが分からない。

体格も容姿も恰好もどれも似たり寄ったりで、少なくとも縁寿に判別がつかない。

東洋人が西洋人の判別が付きにくかったり、逆もまた然りなのと同じようなものだろうか。

同じ魔族なら見分けられるのだろうが、おそらくこの四人を見分けるのは一般人には無理だろう。


「デ、嬢チャンハ何テ言ウンダ?」

「・・・・・・天使(あまつか)縁寿(えんじぇ)だけど」

「ソウカ! 良イ名前ダナ‼」

「そう?」

「意味ハヨク知ラネェケドナ‼」

「あ、そう」


じゃあ何で名前を褒めたのか。

いや、社交辞令だとしても”意味は知らない”は別に言わなくてもいいだろうに。

リアクションを取るのも面倒になり、何処か投げやりな態度を取ってしまう縁寿だが、そんな彼女の態度に豚――――――オーク達は特に不快な思いはすることなく興味深げに縁寿を見る。


「シカシ、オ嬢チャンハ珍シイナ。俺ラヲ見テモ驚カネェトハ」

「いや、驚いてはいるけど?」

「アー・・・イヤ、驚クッツーカ、怖ガルダナ」

「ソウソウ、大抵ノ女ハ俺ラヲ見ルト怯エルモンダガ・・・・・・」

「地球人デハ珍シイヨナ」

「・・・・・・まぁ、確かに魔物(モンスター)みたいな見た目してるけど」


魔族と魔物は、見た目に違いがない程によく似ている。

何せ違いが『言語を操り、一定の知性があるかどうか』という点のみ。

それ故、魔物と間違われてトラブルになることもあるとか。

だから怖がらないことが珍しいのかと思えば「イヤ、ソウジャナクテナ」とオークの一人は否定する。


「ダイタイ人間ノ女ッテヤツハヨォ、俺ラヲ見ルト悲鳴ヲ上ゲヤガンノサ」

「コノ間、『迷宮(ダンジョン)』デ会ッタ女モソウダッタヨナ」

「アア、アノ女騎士ナ」

「そんなに怯えてたの?」


迷宮(ダンジョン)』に潜るのは冒険者だけではない。

富と力を求めるのは冒険者だけではなく、国の軍隊や異世界の騎士等、様々な人々が『迷宮(ダンジョン)』に潜る。

だから騎士が居ても別に不自然なことではない。

寧ろ騎士なんて役職の人なら魔族も魔物も慣れている気がするのだが。


「何デカ知ラネェケドヨォ、女騎士ッテヤツハドイツモコイツモ、俺ラヲ見ルト決マッテコウ言イヤガルンダ――――――」


『やめて! 私に乱暴する気でしょ!? エロドージンみたいに! エロドージンみたいに‼』


「――――――ッテナ」

「・・・・・・えーと」

「アア、後『くっ、殺せ‼』トカモヨク聞クナ」

「『くっ(ころ)』トモ言ッテンナ」

「・・・・・・ツーカ、『エロドージン』ッテ何ナンダ?」

「ソリャオ(メェ)、アレダヨ。『エロドー人』ッテ人種ダロ」

「昔ソノ『エロドー人』ニ酷イ目ニアワサレタンジャネェカ?」

「マジカヨ、ドンナ酷イ奴ナンダ『エロドー人』」

「どっからツッコんだらいいのコレ・・・・・・」


頭を抱える縁寿がどう言葉を捻ろうかと考えていると、奥の厨房から店長が出てきた。

プルートのおかわりである骨付き肉と、何か定食の様なモノを盆に乗せて。


「ああ、やっぱお前等だったか」

「オオ、店長(マスター)!」

「邪魔シテルゼェ」

「邪魔してるなら帰ってくれ」

「ハーイ!ッテ、オォイ‼」


そんな関西人の様なノリツッコミをする彼らを措いて、縁寿はある一点に視線を向けていた。

店長が持ってきたお盆の上に乗っている、今彼らに出している定食だ。

丼ぶりとスープの簡素な定食、別に珍しくもないメニューなのだが・・・・・・。


「あの、コレ・・・・・・」

「ああ、コレはこいつ等の好物でな。いつもうちに来ると、決まってこれを頼むんだよ」

「ソウソウ、早イ安イ美味イッテナ」

「注文シテネェノニ、店長分カッテルネェ!」

「プルートの肉用意してたらお前らの声が聞こえてきたからな、追加で用意してたんだよ」

「流石店長、付キ合イガ長イダケアルゼ」

「マァ、確カニ店ニ来テモ『イツモノ』トシカ言ワネェカラナ」


これが楽しみなのだと言わんばかりに、オーク達は実に美味そうに丼ぶりにがっつき、或いはスープを啜っている。

縁寿は堪らず問いかけた。


「美味しい?」

「オウヨ、超美味ェゼ‼」

「コノ一杯ノタメニ生キテルッテヤツダナ‼」

「・・・・・・ああ、そう」


縁寿はツッコむのを諦めた。

これは知らないのか、それとも知った上でのことなのか。

思わず店長を見る。

店長は縁寿の視線の意味に気付き、「()」っと人差し指を自身の口に当てた。

言わないでねとの意味であることは容易に察せられ、そして彼らは知らないのだということも理解した。


「シッカシ、コノ肉本当ニ美味ェナ‼」

「コッチノスープモ出汁ガ染ミテ美味イゼ‼」

「アア、本当ニ――――――」


「「「「――――――コノ『カツ丼』と『トン汁』ッテ料理ハマジ美味ェナァッ‼‼」」」」


(共食いじゃん・・・・・・)


思わず口に出そうになるツッコミの衝動を何とか抑える縁寿。

反対側に座るプルートも、何処か哀れな者を見るようにオーク達に視線を向ける。

そんな1人と1匹の視線に気づかず、オーク達はふと首を傾げる。


「「「「トコロデコレ、何ノ肉ナンダ????」」」」


「・・・・・・アンタ達が知らなくても生きていけるものよ」

「ワフゥ・・・・・・」


視線を逸らして言葉を捻る縁寿とプルートに更に首を傾げながらも、オーク達はその料理の味に舌鼓を打つのであった。

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