第34話 スーパーな戦闘民族でZな超戦士のバーゲンセール
ごたごたの中で逃げるように学園の敷地外へと飛び出した縁寿は、まだ委員会の仕事が残っている都古と別れてそのまま帰路を歩く。
時間はまだ午後3時。
昼過ぎに授業が終わり、ついさっきまで部活動見学で回っていたが、あの騒動でもうこんな時間が経過していたのかと縁寿は嘆息し、そして自分がまだ昼食を摂っていない事に気が付く。
入部する部活は決まっていたが、それでも入部届を出した後は他の部活の見学も回るつもりでいたのだ。
他に気に入った部活があれば掛け持ちをしようと考えていて、時間が掛かりそうなら食堂で昼食を摂ってからと計画していたのだが、完全に頭から抜け落ちていた。
それを思い出すと一気に空腹が込み上げてきて、腹が栄養を寄こせと鳴り出す。
どうしようかと悩む縁寿は、ふと振り返る。
吹きすさぶ風に舞う自身の髪と同じ色をした花弁に交じって瞳に映るは、自分が通う学び舎である鳳凰学園。
その校舎の更に向こう側に、1本の大樹が高く聳え立っている。
『世界樹』と呼ばれている大樹で、此処『四季島』の観光スポットの一つに旅行雑誌などで挙げられていて、その大樹への道行きは鳳凰学園の校舎裏から繋がっており、それは学校案内のパンフレットにも載っていたのだが、今日の学校案内で『世界樹』に案内されることはなかった。
何でだろうと頭を捻るが、その疑問は再び鳴り出す腹の虫にかき消された。
「どうしよっかなぁ・・・・・・」
まだ3時過ぎ故に夕飯には早過ぎる。時間的にはおやつだ。
それでも何処かで食べに行くには、少しばかり勇気がいる。
この町に引っ越してきてまだ日が浅い縁寿は、この町のどこに何があるのかをまだそこまで詳しく知らない。
自分が住んでいるアパート、自分が通う鳳凰学園、この町へやって来た時に利用した電車が通る駅、後はそれらの道行きにあるコンビニ程度だ。
学園だけでなく、この町についてもまだまだ分からない事だらけである。
(・・・・・・行ってみようかな)
確か駅の方に商店街があったはずと記憶を掘り起こし、知らない場所へ行く未知への不安と好奇心を抱きながら、縁寿は軽い足取りで歩を進めた。
◆◆◆
「何なんだよ、あの生徒会長・・・・・・いや、あの学校か?」
幼馴染みである気絶した花凛を抱えて爆走していた流浪は、学校から少し先にある公園で立ち止まり一息吐きつつ防護鎧衣を解除し、抱えた花凛を近くのベンチに降ろす。
寝かせた花凛の横に、流浪もどっかりと腰を下ろした。
「あー、疲れた・・・・・・」
学校そのものは午前で終わったはずなのに、既に今日一日の体力を使い果たしてしまったみたいな気怠さが全身に圧し掛かる。
それもこれも、先程の決闘のせいだ。
いや、更に言うなら部活勧誘や校舎裏に仕掛けられた罠も理由だが、最後の決闘で全ての体力やら気力やらを持っていかれた。
太陽の様な派手な金髪の生徒会長の忌々しい笑顔が脳内を過り、思わず舌打ちしてしまう。
部活勧誘の強引さといい、あの学校の生徒はあんなのばかりなのだろうか?
「中学ん時の不良グループの方が、まだ可愛げがあるな」
殴っただけで解決出来る為、分かりやすくて単純明快だ。
(にしても、部活か・・・・・・)
どうしたもんかと頭を悩ませる流浪。
鳳凰学園に入学した生徒は、みんな必ず何らかの部活、或いは委員会に加入しなければならない。
入学を決めるに当たって、授業料や偏差値と場所と通いやすさくらいしかロクに調べてなかった流浪にとっては頭の痛い話だ。
(バイトするつもりだったのによぉ・・・・・・)
既に情報誌を読んでいくつか当たりを付けていたのだが、また一から考え直さなければならない。
時間の融通が利かなさそうな委員会は論外として、幽霊部員でも問題なさそうな部活でも探そうかと決めた所で、横で寝ている花凛が呻き声を漏らしながらムクリと上体を起こす。
眠たそうに手で眼を擦り、寝ぼけ眼で流浪を見て、
「・・・・・・あれ? 山みたいにデカいケーキは?」
「『ケーキの山が』って、量じゃなかったんだな・・・・・・」
先程発した寝言に対して半眼でツッコミながら、流浪は「よっこらせ」と立ち上がる。
「起きたんなら帰るぞ、自分で歩けよ」
「え・・・あれ、学校は? 部活見学は?」
「明日にしろよ。とてもじゃねぇけど、あんな伏魔殿みたいな場所に戻れるかよ」
「・・・・・・あー」
ようやく記憶が回復してきたのか、先程までの出来事を思い出したようだ。
もっとも、気絶していた花凛は決闘騒ぎ以前の事までしか知らないのだろうが、それでも部活勧誘の凄まじさまでは覚えており、顔を引き攣らせ納得する。
「でも帰るには早過ぎない? まだ三時過ぎだし」
「・・・・・・んじゃ、どっか行くか?」
元気を持っていかれたが、このまま家に帰るというのも確かに味気ない。
寧ろ圧し掛かるこの疲労と苛立ちを何かにぶつけたいくらいだ。
「私、ハーバーに行きたい」
「そりゃ丁度いいな、まずゲーセンに行こうぜ」
「いいけど、何で?」
「今、全力でパンチングマシーンを殴りたい気分なんだよ」
肩を回して、更には拳を鳴らす流浪に、花凛は首を傾げる。
気絶していた花凛には、流浪が体験した部活勧誘の決闘騒動の苦労を知らないからだ。
流浪は花凛に気絶していた間の事を脚色無しで話したのだが「話し盛り過ぎ」と笑われ、釈然としない気持ちのまま目的地の本島へ行くためのバス乗り場へ向かうのであった。
◆◆◆
「うぃーっす」
「あら、お帰りなさい」
過激な部活勧誘という暴徒鎮圧の仕事を終えて生徒会室に戻ってきた筋肉男・・・神爪勇人や天使縁寿と同じクラスに所属している、生徒会役員の獅子尾豪気を黒髪副会長が出迎えた。
2mを超える体躯に、学生服の上からでも分かるほどに盛り上がった筋肉は見る者を圧倒する。
黒髪副会長は175㎝と女性の中では高身長だが、そんな彼女と対比してみてもまるで大人と子供だ。
そんな巨躯と筋肉と額に鉢巻の様に巻く赤いバンダナが特徴的な獅子尾豪気は、生徒会室を見渡して。
「あ? 何でお前しかいねぇんだ?」
「人手が足りないのよ、風紀委員会がコッチをせっついてくるくらいに」
「あ、なるほどね」
納得して豪気は生徒会室の窓から外を見やる。
外には雷が空へと昇っていったり、火炎と暴風が吹き荒れ、大きな氷柱や岩槍が地面から突き出たりと非常に賑やかだ。
人が風に吹かれる落ち葉のように空を舞い、悲鳴と怒声が入り雑じり、校舎裏等の敷地内にある木々が薙ぎ倒され、学園内で自然破壊が繰り広げられている。
「んだよ、他の奴等はまだ止めんの手こずってんのかよ」
「貴方の方はもう終わったのよね?」
「中国武術研究会とマーシャル・マジック・アーツ部の喧嘩な。部長同士が戦り合ってたから止めんのに苦労したぜ」
魔力や魔術を取り込んだ現代に新しく出来た人気格闘技である『マーシャル・マジック・アーツ』。
魔法・魔術を問わず、魔力を用いた武術は総じて現代ではそう呼ぶ。
対して中国武術研究会は魔法というものが現代に出てきてから、古くから伝わる【氣】というものが本当に存在するのだと確認されて積極的に文献を漁り研究開発している、歴史そのものは長い武術。
学園内で事ある毎に対立している部活で、武闘派揃いである為喧嘩を止めるのも非常に苦労する。
そんな格闘技系の部との激闘を終えたばかりだというのに、
「これ、俺が行かなきゃなんねーのか?」
「もう皆出払っちゃってるから、行ってくれる?」
「マジかよ・・・・・・」
窓の外で起こる災害にうんざりしてこの場に残ろうかとも考えたが、そもそも豪気は筋肉達磨な見た目通り頭を使ったりチマチマとした事務仕事は苦手だ。
この場に残る選択をすれば間違いなく事務仕事をやらされるため、それならまだ外で暴れてる方がいいかと諦めて、再び争いの鎮圧に赴く為に踵を返した。
「あら?」
だが、黒髪副会長の声に足を止めた。
突然音楽が鳴り始めたが、それは副会長の携帯端末機の着信音。
ディスプレイに表示される名前を確認して、副会長は電話に出る。
「もしもし? 東雲さん、どうかしました?」
なんとなしに振り返って様子を見ていた豪気だったが、電話の相手を知ると興味を失い、外に出ようと歩を進めた。
それも早足で。
電話相手を知るからこそ、面倒な予感しかしてこない。
故に豪気は足の筋肉を素早く動かすのだ。
「あ、豪気君、ストップ」
「・・・・・・んだよ?」
ここで無視すると後が怖いのは、普段の勇人とのやり取りでもよく知っている豪気はおとなしく足の筋肉を静止させて振り返る。
何時の間に用意したのか、副会長がその手に握る鞭をチラ見しながら豪気は不機嫌気味に内心舌打ちした。
・・・・・・決してビビった訳ではない。
「勇人君を探してきてほしいのよ」
「んなもん、電話とか入れりゃいいだろーが」
「繋がらないみたいだから言ってるのよ」
口振りから察するに、電話相手の東雲も最初は勇人に連絡を入れたが繋がらず、この副会長に連絡を入れた、ということなのだろう。
「急ぎか」
「みたいよ。ちょっと面倒なことになってるみたい」
「あー・・・・・・」
窓の外を見る。
気配を探る真似事をしてみるが、やはりこういう細かい事は苦手だと、豪気は気配を察知することを諦めた。
「お前、気配探ったり出来ねぇのかよ。俺より得意だろ」
「・・・・・・こうもアッチコッチで魔法をぶっ放されるとねぇ」
窓の外に見える風景は、戦場かと疑いたくなる光景だ。
地震、雷、火事、暴風に氷結、光線に闇の波動と、魔法の弾幕が張り巡らされている。
こうも魔法や魔術が一定の範囲内で嵐の様に繰り出されていると、魔法発動後のエネルギーである大気に霧散した魔力が邪魔をして、特定人物の魔力や気配を察知するという手段が取り難い。
その手の達人でもないと難しいのだ。
「まぁ、アイツの事だから一番賑やかな所にいるんじゃねーか?」
「今はどこも賑やかだから特定は出来なさそうね・・・・・・」
騒音しかないこの敷地内で、寧ろ静かな場所を探す方が難しい。
かといって、魔術によって空間が拡張されてもいるこの学園内で特定人物を探すとなると。
「放送で呼び出すとか」
「さっき放送室を不法占拠した新聞部と風紀委員会の抗争に烈ちゃんを向かわせたばかりだから、まだ終わってないでしょうね」
「チッ、だらしのねぇ姉貴だな。筋肉が足りねぇんだよ」
(筋肉関係あるのかしら・・・・・・)
同じく生徒会に所属している獅子尾 烈・・・自分の姉の筋肉を弟の豪気は嘆き、そんな訳の解らない脳筋な豪気に副会長は心の内でツッコんだ。
なんてことをしてみても、状況が変わるわけでもない。
さてどうしたものかと頭を捻る生徒会の2人。
瞬間――――――今までの騒音とは比較にならない程の爆音が轟いた。
「あ?」
何だ?と音の発生源である窓の外へと目を向けると、砂埃が巻き上がり、その中から2つの影が空へと飛び出した。
2つの影は何度もぶつかり合いながら、天高く昇っていく。
その影は、人間だ。
それもよく知っている人物である。
空を縦横無尽に飛翔する2人の拳が、蹴りが、投げ技が何度も繰り出されており、周囲で過激な部活勧誘を行い暴れていた生徒達をゴミの様にふっ飛ばす。
1人の大柄なスーツを着た男が左右に広げたその両手に、もう1人の太陽の様な金髪が遠目でも目立つ男が腰辺りに持っていった両手に、莫大なまでのエネルギーが凝縮されていく。
溜まりに溜まるエネルギーが周囲の空間までも揺らし、地響きが発せられる。
そして、限界まで溜め込んだエネルギーが解き放たれる。
「「波アアアアアアァァァァァァァァァァァァッ‼‼‼‼」」
共に前方へ手を向け、掌からエネルギーがビームの如く相手に放たれた。
激突する二つのエネルギー波は眼が眩むほどの光を発し、景色を白く塗りつぶす。
周囲の生徒は勿論、豪気と副会長も眼が眩んだが直ぐに視界が晴れる。
そして再び戦闘音が轟き始めた。
見ると、大柄なスーツを着た学園の指導員である東郷伊知郎と、太陽の様な金髪が目立つ生徒会長である神爪勇人が、どこぞのスーパーな戦闘民族でZな超戦士が如き空中格闘戦を繰り広げていた。
「いたな・・・・・・」
「いたわね、一番賑やかな所に・・・・・・」
賑やかな所というか、自分が騒ぎを起こしているというか。
何にせよ、目的の人物の所在地が判明し、豪気は嘆息しつつ生徒会室の窓から飛び出して、副会長は肩を竦めながら書類仕事に戻っていった。




